AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 9, 2001, Vol.291


アト秒(Attosecond)光学に向かって

ほんの2、3周期分の光の場からなるフェムト秒領域の光パルスを作り出すことは、直接 原子と分子の動力学を観測する糸口となっている。しかしながら、いくつかのいっそう短 い時間領域で進行している他のプロセスが存在する。それは電子緩和とイオン化である 。これらのプロセスの動力学を観測するためには、もっと短いパルスの開発とそれらを計 測する能力が必要となる。Drescher たち(p. 1923; Reidによる展望記事参照)は、2.5フ ェムト秒パルス幅のエックス線パルス列を発生させ、この計測に関する技術について述べ ている。このパルス幅は、このエックス線パルス列の発生に用いられているキャリア場 (carrier field)より短いのである。(hk)

マイクロメカトロニスクスの量子力学(The Quantum Mechanics of Micromechanics)

真空は、古典力学ではとても退屈な場所であるが、量子力学では非常に活気のあるところ である。電磁場の量子的揺らぎによって、仮想的な光子が生まれ、そして一瞬で消滅する 。この事象が二枚の帯電していない板のあいだの空間で起こるならば、その両方の板を押 す圧力に差が出て引力が生じる---すなわち、Casimir効果である。大きなスケールで離れ ていると、これらの事象はほとんど重要ではないが、マイクロエレトクロメカニカルシス テムのように、長さが短くなるにつれてその効果は大きくなる可能性がある。Chan たち (p.1941) は、間隔がナノメートルスケールまで小さくなると、量子的揺らぎの役割は重 要になり、このようなミクロサイズに組み立てられたデバイスの作用を記述する際には考 慮する必要があることを示している。(Wt)

酸素の損失(Losing Oxygen)

地球大気からO+が極地イオンフラックスとして流出しており、30億年間で 、現在の酸素含有量の18%に相当する酸素量が失われたことを示唆している。Sekiたち (p.1939;Lundinによる展望記事参照)は、磁気圏における4つの放出メカニズムによって O+の総量を推定した。その結果実際には、酸素の2%が、この期間にそれら4つ の放出経路で失われたことが示された。酸素は磁気圏においてリサイクルされて電離圏に 戻されているのか、あるいはまだ知られざる放出メカニズムが潜んでいるかのどちらかで ある。(TO)

宇宙塵にある絶滅の証拠(Extinction Clues in Space Dust)

惑星間の塵粒子(IDP:Interplanetary dust particles)は、地球の岩石サンプルに比べて 、3Heの含有量が高いが、その理由はの元素が太陽風によって注入されたから である。もし、小さなIDPが、地球に突入する際に地球の大気との摩擦によってはなはだ しく熱せられないならば、この塵は堆積して地上鉱物の表面を3Heに富んだも のとするであろう。その結果、地球上の堆積岩における4Heに対する 3Heの割合を計ると、IDPフラックスの量を推定することができる 。Mukhopadhyayたち(p.1952)は、白亜紀-第三紀(K-T)境界の近辺にある粘土を調べて 、IDPフラックスは、この時期一定であったことを見つけた。爆発火球(bolide)衝突によ って加えられたヘリウムはない。そのことは爆発火球は殆ど蒸発するという解釈と一意す る。彼らはまた、K-T境界粘土層の堆積期間を11000年と推定した。これは、K-T絶滅の出 来事が急速であったことを示していた。(TO,Nk)

酸化物ナノベルト(Oxide Nanobelts)

ナノチュープやナノワイア形状は、多くの材料に対して知られている。Pan たち (p. 1947) は、いくつかの金属酸化物(亜鉛、錫、インジウム、ガリウムなどを含む)は、高温 でバルク酸化物を熱的に蒸発させ、低温でアルミニウム酸化物の表面にその蒸気を堆積さ せると、"ナノベルト"形状に形成できることを見出した。そのナノベルトは、30 から 300 nm の幅であり、厚さに対する幅の比率は、5 から 10 である。そして、数 mm に延 ばすことができる。これらの酸化物半導体は、センシングやエレクトロニクスにいくつか の応用がある。この大きな面積形状により、これらの特徴が際立つことになる。(Wt)

乗り換えてさらにその先へ(Switching Sides to Get Ahead)

発生途中の脊椎動物胚の神経系が構築されるにつれて、ガイダンス分子であるnetrinによ り伸展する軸索の成長円錐が胚の正中に誘引される。しかしながら、成長円錐が正中と交 差するとすぐに、その従う対象をスイッチし、netrinを無視してそのかわりにSlitに反応 し、Slitは成長円錐を正中から遠ざける。2つの論文が、競合するシグナルを介して成長 円錐がどのように進んでいくのかについて取り組んでいる(Dicksonによる展望記事を参 照)。SteinとTessier-Lavigne(p. 1928-;表紙を参照)は、このスイッチが、Slit受容 体であるRoboの細胞質ドメインがnetrin受容体であるDCCの細胞質ドメインと結合する結 果であることを示す。このように、成長円錐に対するnetrinの効果がだんだんと減少する のは、Slitの忌避効果に対する成長円錐の反応性が徐々に増加することと直接的に結びつ いている。このような連動した休止化メカニズムにより、成長円錐は2種の相対するガイ ドライン分子の誘引活性と忌避活性との間の綱引きにとらわれることがなくなる 。Steinたち(p. 1976)は、netrinがその作用を発揮するメカニズムについて報告する 。netrinがアデノシンA2B受容体を介して機能しているという最近の示唆とは対照的に 、彼らはnetrinがDCCタンパク質に直接的に結合し、そして軸索の伸展またはニューロン の誘引に対するnetrinの作用に対してA2Bの活性化は必要とされないことを示している 。したがって、DCCはnetrin作用の要因となる主要な受容体である。(NF)

チェック・バランスを無視して(Bypassing Checks and Balances)

C型肝炎ウィルスのRNAは、宿主のメッセンジャーRNAには付加されていて、そして開始 のために通常は欠くことができないとされる5'CAP構造を欠損しているにもかかわらず 、C型肝炎ウィルスは宿主のリボソームをだまして、そのRNAの翻訳について認識させそ してそれを開始させる。C型肝炎ウィルスは、そのようなことを、そのRNAのタンパク質 コード領域のすぐ上流に存在する、内部リボソーム侵入配列(IRES)を利用して行う 。Spahnたち(p. 1959)は、電子顕微鏡を使用して、IRESが哺乳動物リボソームのデコ ード・サブユニットに結合することを見出した。結合することにより、隣接するタンパ ク質コード領域をデコード部位に引き込むような立体構造的変化を引き起こし、そして 翻訳およびタンパク質合成を開始する準備として適所に固定化する。(NF)

不思議な薬剤耐性を解明(Mysterious Resistance Revealed)

抗生物質のペニシリンファミリに対する耐性は、臨床的に重要なブドウ球菌のほとんどの 系統に広がっている。ペニシリンが細菌の表面におけるセンサーに結合すると、細胞膜を 貫通するように信号が伝達されることによって、DNAリプレッサタンパク質を除去させ 、βラクタマーゼか、低親和性ペニシリン結合タンパク質代替物を発現するための多様な 調節遺伝子の転写を許容する。Zhangたち(p. 1962;ArcherとBosilevacによる展望記事参 照)は、ペニシリンがセンサーに結合することが自己タンパク分解を引き起こすことを示 している。その後、切断生成物は、中間体によってまたは直接的に、DNA結合リプレッサ タンパク質に結合する。DNA結合タンパク質が遊離され、抗生物質耐性遺伝子の転写が開 始するタンパク分解の第2段階で、抑制が解除される。(An)

ターンシグナル(Turn Signals))

伸展している神経突起の先端にある成長円錐は、細胞外の合図を細胞内信号に翻訳するこ とによって、軸索のガイダンスを決定する。その信号は、適切な曲る方向を決定する。 Gomezたち(p 1983)は、局在化カルシウム過渡応答は、成長円錐から伸展する糸状仮足に おいて発生することを報告している。このカルシウム過渡応答の頻度と大きさは、細胞外 基質に依存するので、軸索伸展の方向決定の過程の制御にインテグリンが関与することを 示唆する。また、このカルシウム過渡応答は、成長円錐まで逆に伝搬し、全体的なカルシ ウム動力学に影響するようである。(An)

エボラウイルスの再生(Recovering Ebola Virus)

 エボラウイルスとその同類のマールブルグ(Marburg)ウイルスは非分節のマイナス鎖 RNAウイルスであり、そしてフィロウイルス科(Filoviridae)の仲間である。このような ウイルスは致命的な出血病をもたらすが、今のところその発生の殆どが西アフリカや中 央アフリカといったかなり限られた地域である。このウイルスの「自然宿主」は現在のと ころ不明である。分子的ツールがその治療法開発に対して、そしてこの種の、あるいは 何か新たなフィロウイルスの突発的出現に対して適切な対応をするために必要である 。Volchkovたち(P.1965)はクローン化DNAからエボラウイルスを再生する逆遺伝子シス テムを確立し、そして鍵となる非構造的糖タンパク質の転写編集を不能にする変異体を つくった。このウイルス変異体はより多くのエンベロープ糖タンパク質を発現しており 、そしてより細胞障害性であった。更なる研究はこのようなウイルスの複製や病原性に 関しての理解に導くものである。(KU)

私に聞こえることがあなたにも聞こえますか?(Do You Hear What I Hear?)

音程(ピッチ)を認識するプロセスは2段階から成っている。まず、耳は楽音を集め、次 に脳による懸命の処理によってピッチを認識する。このピッチを知覚する能力を獲得する 遺伝的、かつ、環境的要因を明らかにするために、Draynaたち(p. 1969; Holdenによるニ ュース記事参照)は分散型調音テスト (Distorted Tunes Test (DTT)) を一卵性双生児と 、二卵性双生児284人に実施した。このDTTの課題はポピュラーな単旋律中の間違ったピッ チの音符を見つけることである。その結果、一卵性双生児には、二卵生双生児に比べて DTTスコアーに顕著な相関性が存在することが分かった。従って、ピッチの知覚には遺伝 的要素が強いことがわかる。(Ej,hE)

伝達物質遊離を促進する(Boosting Transmitter Release)

脊椎動物においては、シプナス前神経伝達物質受容体は伝達物質の遊離を抑制すると一般 的に考えられている。しかし、Schmitzたち(p. 1972)は、海馬の苔状線維組織における高 親和性シナプス前カイニン酸受容体の活性化によって、シプナス末端からのグルタミン酸 の遊離を促進することを示した。このメカニズムは、訓練刺激中に苔状線維シプナスにお ける異常に高頻度な促進に部分的に寄与している。(Ej,hE)

断片化した海嶺下の板状溶融帯(Sheets of Melt Beneath a Segmented Ridge)

海洋中央の海嶺はプレート間の境界を示している、又、海嶺中心線下のマグマ溜まりから 新しい海洋地殻が作られている場所でもある。Dunnたちは(p. 1955)、太平洋東部隆起沿 いのプレートがオーバーラップしている中央部の上部マントル(OSC: overlapping spreading center)のP波の速度構成を画像化した。彼らはOCSの下に連続たマグマ溜まり が存在する証拠を発見した。海嶺の断片化は、マグマの不連続な供給によるものでなく 、プレートの伝播速度の変化に由来することを示唆している。これらの発見は、上部マン トルの板状で上昇してくるという仮説と合致し、プレート間の相互作用の運動力学に対す るヒントを与えるだろう。(Na,Nk)

フラーレンの組織化(Fullerenes Get Organized)

水に対するフラーレン分子の低溶解性が克服されると、その潜在的応用が拡大する。最近 、化学修飾によるC60フラーレン、Ph5C60陰イオン (Phはフェニル基)が溶解プロセスを繰り返し行った後でカリウム塩となって水に溶解する ことが示された。Zhouたち(P.1944)はレーザー光散乱の研究により、この可溶性のフラ ーレン化合物がイオン二重層から形成された球状の幅17nmの小胞体として存在しているこ とを示している。(KU)

冷たさと折り合っていく(Keeping Up in the Cold)

低温というのは生命過程の大部分をゆっくりとさせるものだが、極地の水の中のあまりに 冷たい状況になると、それは無脊椎動物にとって、発生の面で、また最終的な生態の面で 、重大な問題をもたらすことになる。Marshたちは、南極区にいるウニが、温帯にいるウ ニと同等のタンパク質およびRNAの合成を、より低い代謝率でおこなえる代償性の機構に よって、零度以下の温度で生存するハンディキャップを克服している、ということを発見 した(p. 1950)。これは、メッセンジャーRNAの細胞中の濃度を高く維持するためにRNA合 成率を高めること、またタンパク質代謝のエネルギー・コストを今まであらゆる生物で見 出されていた値の25分の1まで極小化すること、などによってなされている。このような 代償を許す生化学的適応の仕組みは、まだ発見されていないが、興味深い生物工学的可能 性をもつものと期待される。(KF)

結びつきを作る(Making Connections)

T細胞は抗原に対して複数の信号を介して反応するが、その多くは細胞膜に結びついてい るタンパク質によって引き起こされる。SLP-76は、内在性膜タンパク質LATによって補充 される一次情報伝達分子であり、それと一緒になっていくつかの情報伝達経路を起動する 。Yoderたちは、小さなアダプタ・タンパク質であるGADSが、この関係を仲介するのに必 須であり、結果としてT細胞発生に大きな影響を与えることになる、ということを示して いる(p. 1987)。GADSの発現を欠くマウスの胸腺細胞には、ポジティブ選択またネガティ ブ選択においてだけでなく、細胞増殖においても欠陥を示したのである。SLP-76とLATを 結びつけることで、GADSは、T細胞発生のいくつかの段階で、重要なSLP-76依存の信号を 促進するのである。(KF)

ベニザケにおける生殖性単離の証拠を検証する(Examining Evidence for Reproductive Isolation in Sockeye Salmon)

Hendryたちは、分岐選択後ほんの13世代を経ただけのサケの集団同士が、有意な生殖性単 離を示している証拠を提供した(2000年10月20日号の報告, p. 516)。Howardたちは、コメ ントを寄せ、遺伝的分化に関する測定法を見る限りでは、サケの集団がほんとうに遺伝的 に分化しているとは確定していないし、その研究における移出入の推定値は、不十分にし か支持されないし、またHendryたちは「遺伝的根拠をもつ表現型の差異を観察した証拠を 何も提示しておらず」、生殖性単離以外の遺伝的分化の説明は試みられていない、と論じ ている。Hendryたちは、集団が分かれてからごく短期間であったという条件のもとでは 、「大きな遺伝的差異は、そもそも期待できないし、また自分たちの結論にとって本質的 でもない」と応じている。彼らはまた、移出入の推定値に関する異議に対して、観察され た表現型の差異が「少なくとも部分的には遺伝子によるものであった」という間接的な証 拠を提供し、さらにいくつかの代替仮説についても批判的に検討している。「われわれは 確かに、研究すべきことはたくさん残っているという点でHowardたちに同意する」と彼ら は結論づけている。これらコメントの全文は、
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/291/5510/1853a で読むことができる。(KF)
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