AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 13, 2000, Vol.290


炭素サイクルを混乱させる(Messing with the Carbon Cycle)

人間の諸活動は、大部分は化石燃料の燃焼による炭酸ガスの放出により、炭素サイクルを 変化させてきた。氷期と間氷期サイクルも大規模な炭酸ガス濃度の変化を記録している 、しかし、現在と将来の状況は過去42万年間のサンプルから得られた数値の範囲外にある 。Falkowskiたちは(p. 291)、炭素サイクルについて知られていることと、他の栄養分の サイクルとの関連について研究し、生物地球化学と気候プロセスの間の相互作用を調べた 。彼らは、自然界の様々なプロセスにより大気中のCO2増加速度を緩める可能 性はあるが、21世紀中に生産される人為的なCO2の全てを吸収するような自然 の救世主は存在しない、と結論づけた。(Na)

あざやかに光る青い抗体(Bright Blue Antibodies)

光合成や感光性の反応といった例外はあるが、タンパク質と低分子の反応の殆どは(例え ば酵素と基質の反応のように)、基底状態の反応という風に考えられている。Simeonovた ち(p.307;Braumanによる展望参照)は、結合した抗原の(このケースではトランス ースチルベンの類似体)励起状態の挙動を変える単クローン抗体の反応を示している。溶 液中で、この分子は急速に異性体化して何ら螢光を示さないが、抗原‐抗体複合体のいく つかは強い青色の螢光を発光した--たとえ基底状態にあるこの分子に対して抗体が誘導さ れるものであったとしても。構造的、及び分光学的研究により、螢光の変化は励起会合体 状態の形成に起因された。そこでは励起分子が結合ポケットの中でトリプトファントと相 互作用している。(KU)

ナノサイズの量子ドット結晶によるレーザー(Nanocrystal Quantum Dot Lasers)

ナノサイズ結晶で作られた量子ドット中の電子は、しばしば、「箱の中の粒子」として扱 うことが可能であるため、エネルギーレベル間の分離は、半導体ナノ結晶のサイズを変え ることで変化させることができる。以前の研究によれば、ドット内部の励起の物理特性は 、その半導体固有の性質によって、ナノ結晶の特性を十分発揮させることが不可能であろ うと推察されていた。Klimovたち(p. 314) は、ナノ結晶による量子ドットの細密充填系 は、この困難を迂回することが可能であること、また、ドットサイズによって決定される 光収率と励起発光が得られることを実証した。この結果によって、広い範囲で同調可能な 、温度的に安定な新タイプの半導体レーザーが開発されることが期待される。(Ej,hE)

ナノチューブセンターを持つ多面体グラファイト(Polyhedral Graphite from a Nanotube Center)

異常な形のカーボンが、他の物質の合成プロセス残滓の中で発見されている。例えば、ナ ノチューブはフラーレン合成の廃すすの中で見い出された。Gogotsiたち(p.317)は似 たような残遺物の発見を報告している。その発見とは、水熱条件下で成長した市販のガラ ス状カーボン試料の孔中で、棒状、環状、樽型、両端にピラミッド形状を持つものなど 、多様な形状を示す多面体グラファイトである。電子顕微鏡により、カーボンナノチュ ーブが幾つか放射状に結合した、きわめて規則的なグラファイト結晶成長の種となってお り、半径方向に成長した高対称性を持つ結晶であることが分かる。例えば、7回,9回 、あるいはそれ以上の回転対称軸を持っている。このような結晶は直径1μmまでであり 、その面は驚く程均一である。それらは、また、高い導電性と機械的強さ、及び化学的安 定性をも示している。(KU,Ok)

Tagish湖へ落下した隕石(The Fall of Tagish Lake)

2000年1月18日の夜明け、Yukon Territoryやアラスカとブリティッシュコロンビアの一部 で南から南東方面に飛ぶ火の玉が目撃された。1月25日と26日に、この火の玉からの隕石 様物体の一部が凍結したTagish湖で発見され、これらは汚染されないように冷凍庫中に保 管された。さらにいくつかの破片が数ヶ月後、発見され、それらの位置的分布について慎 重に地図に記録された。これらの観察結果、現地調査及びいくつかの研究所により行われ た化学的な分析から、Brownたちは(p. 320、表紙とGrossmanによる展望も参照) 、Tagish湖の隕石は、外側小惑星帯に起源を持つ原始的なコンドライトである、と結論づ けた。この隕石は大量の太陽系形成以前に出来た粒子(ナノサイズのダイアモンドと炭化 ケイ素など)を含み、有意な水質変成を経験している。その化学組成は他の原始的コンド ライトと異なっている、また、それが地球環境による汚染の心配のないような幸運な保存 方法をされたため、様々な研究が可能となるだろう。(Na,Tk,Nk)

安楽な南(Southern Comforts)

ヤンガードライアスは、約13000年前に北半球の多くの場所で千年以上にわたって最後の 退氷を中断させた寒冷化の事象である。ヤンガードライアスが南半球の気候に影響を与え たのかどうかは、まだその原因が理解されていない中心的課題である。Bennettたち (p.325;Rodbellによる展望記事参照)はチリの湖から堆積物の掘削コアを採取し、花粉を 分析することでヤンガードライアスクロノゾーンの間、その地域での温度が安定していた ことを結論付けた。これらの結果は、ヤンガードライアスが北半球にとどまる現象であっ たこと、そして南東太平洋ではその期間に寒冷化しなかったという事実を強めている 。(TO)

性の理由を調べる(Examining Reasons for Sex)

性の進化は、依然として進化生物学に対する大きな課題の1つである。Keight leyと Eyre-Walker(p.331)は、変異決定仮説(mutational deterministic (MD) hypothesis)の直 接検証を実施してきた。それはゲノムワイドな有害変異率U(deleteriousmutation rate)が世代ごとに1を超えることを求めている解釈である。彼らは、脊椎動物と無脊椎動 物の範囲でUを推定し、数多くの必須有性生殖生物(obligate sexual organisms)において 、Uが1よりかなり低いことを見つけた。そしてまた、Uは世代時間に対して線形な関係で あること、そしてこのことは低いU値は短い世代時間を持った生物の特性であることを示 唆している。彼らは、有性生殖は有害変異の除去するために維持されているのではないと 結論付けた。(TO)

位置が肝心(Location, Location, Location)

多様な幹細胞は、数が少なく、普通は静止状態であるため、特に研究がむずかしい。ショ ウジョウバエにおいて、遺伝手術を用い、XieとSpradling(p. 328) は、卵巣の卵巣小管 から生殖系列の幹細胞を取り除いたとき、周囲の体細胞がどのようにその復旧を補助する かを観察することができた。卵巣小管の体細胞の3種類は、隙間を作り、そこに補充細胞 が幹細胞になるように再プログラムされる。(An)

信号を注目(Watching the Signals)

情報伝達の分子がどのように機能するかというのは、時間の問題だけではなく、場所の問 題でもある。Kraynovたち(p 333)は、Rac1という小さなグアノシン三リン酸結合タンパク 質の活性化が生細胞においてリアルタイムで可視化できることを実証している。Rac1の活 性化は、アクチンに基づく形態変化を誘発することが知られているが、アクチン重合の部 位に制限されている。これはRacが全体としては、細胞内に分布しているのとは異なって いる。このように、活性化Rac1の特異的分布によって、細胞が特定の行動を起こすことが できる。(An)

核の運動?(Nuclear Motors?)

アクチンとアクチンに関連したタンパク質の核における役割は依然として議論の的である が、多分、クロマチンの構造変化とRNAスプライシングには関わっていると思われる。 Pestic-Dragovichたち(p. 337)は、アクチン依存性の運動性ミオシンIβはRNAポリメラ ーゼIIと核内で複合体を形成し、このアクチンに基づく運動は試験管内でのRNA合成を制 御しているように見えると報告している。これらの観察事実から、運動とポリメラーゼが いっしょになって転写を起こしている可能性を示唆している。(Ej,hE)

分離された状態で同一性を保持している(Creating a Separate Identity)

発芽酵母中の細胞膜タンパク質の分布を制御するには、Takazawaたち(p. 341)の報告にあ るように、アクトミオシン-駆動のプロセスによる、成長芽へのメッセンジャーRNAの局在 化と、膜タンパク質が拡散して母細胞に侵入することを防止するセプチンフィラメントの リングから成る膜拡散障壁の両方を組み合わせて作用させる必要がある。このため、より 高度な真核生物細胞のように、拡散の障壁によって、隔離された膜の個室が形成され、タ ンパク質の非対称性分布を作っている。(Ej,hE)

ビデオゲームの心理的残効(Video Game Aftereffects)

睡眠と記憶との関係は、未だ十分にわかっていない。Stickgoldたち(p. 350;Helmuthによ る新聞記事参照)は、入眠時の心像を解析した。つまり、この心像は、コンピュータ ゲ ームの“テトリス”を長時間した後、寝入る寸前に経験する視覚的な像のタイプのことで ある。彼らは、“健忘症患者”と、“ゲームを以前全く経験していない健常者である志願 者(初心者)”と、そして“かなりのテトリス経験を持つ競技者(熟練者)”とを比較し た。全てこれら3グループの人々は、同様な当たり前の像を報告した。健忘症患者は同じ ような経験を述べたという理由で、この知見は、陳述記憶過程は、その効果の基礎とはな っていないことを示している。むしろ、その像は、健忘症患者にとって全く障害のない機 能である知覚的過程の準備刺激にずっと似通っているように思える。(hk)

ヘアピンの挿入(Inserting a Hairpin)

ダニは、リケッチア(Rickettsia)と呼ばれる、切り詰められたゲノムを有する興味深い内 部共生細菌を内部に住まわせているが、この細菌はミトコンドリアの生きた親戚であるら しい。ダニが血液を摂食すると、バクテリアの複製が始まり、これが次に宿主の脊椎動物 に注入され、迷惑なことにそこに棲みつくことになるのである。Ogataたちは 、Rickettsia conoriiが、自分自身のゲノムに、ヘアピンRNAをコードする特有の反復性 挿入をもっていることを示している(p. 347)。この挿入は、いくつかの保存タンパク質を コードするオープンリーディングフレーム(open reading frames)に寄生するらしく、新 しいタンパク質構造の進化をもたらす可能性がある。最低限のゲノムしかもたない生物体 にとって、非常にうまいやり方である。(KF)

開花を強いる(Forcing Flowers)

広く分布している植物では、開花の時期を調整して春にすることで、その植物の集団が涼 しさと暖かさのどちらの効果をも利用することができるようになる。ある種の植物では 、春化、すなわち一定の期間冷たさに曝されることが、開花を制御するのに必要である 。Johansonたちは、シロイヌナズナにおける春化の必要性にもっとも強く関係する遺伝子 をクローン化した(p. 344)。この遺伝子FRIGIDAにおける自然な変異によって、シロイヌ ナズナのさまざまなエコタイプの間の開花時期のばらつきが説明できる。(KF,Ok)

細菌性毒素によって加えられるダメージ(Damage Inflicted by a Bacterial Toxin)

細菌性の病原体はしばしば、自分の宿主を害する毒素を分泌する。食物中毒を引き起こす 細菌、カンピロバクター(Campylobacter jejuni)は、細胞致死性膨張性(cytolethal distending)毒素として知られる多サブユニット毒素を分泌する。Lara-TejeroとGalanは 、この毒素の特徴を調べ、DNA分解酵素として作用し、標的細胞にミクロ注入されると細 胞周期の静止とそれ自身の細胞質膨張とを引き起こすサブユニットを1つ発見した(p. 354; また、CoburnとLeongによる展望記事参照のこと)。(KF)
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