AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 31, 2000, Vol.287


多層での反射(Upon Several Layers of Reflection)

多層での反射(Upon Several Layers of Reflection) 鏡は通常反射金属を基板にコーティングして作られる。しかし、先進的なものでは 高い反射率や波長選択性を持たせるために複数の誘電体の透明層をコーティングさ れることがある。これら多層の鏡には通常、垂直偏向光に対して非常に高い反射率 を示すが、斜めからは急速に反射率が低下する、というブリュースターの法則と呼 ばれる、アキレス腱を持つ。Weberたちは(p. 2451、表紙とServiceによるニュース 解説も参照)、復屈折層と光学的に等方性の高分子の層を交互に重ねた多層の鏡は (ある場合はサブミクロンの厚さの層を数百重ねた)広帯域で、全ての入射角で高い 反射率を示すだけでなく反射型の偏光子としても働くことを示している。(Na,Nk)

太陽の対流(Solar Convection)

太陽は熱い中心核、放射層、対流層、光球、と非常に熱い大気層、に分けられる 。放射層と対流層の間の薄い境界はtachoclineと呼ばれ、強力な磁場を生みだす 「ずれ回転」により太陽のダイナモ作用の原因となっていると考えられている 。Howeたちは(p. 2456、Goughの展望も参照)、4年間分のGlobal Oscillation Network Group(GONG)の地上の観測台を結んだネットワークで観測した振動モードデ ータと太陽圏観測衛星(SOHO:Solar Heliospheric Obeservatory spacecfaft)に 搭載されたMichelsonドップラーイメージング観測機(MDI: Michelson Doppler Imager) のデータを組み合わせ、tachoclineの回転速度の変化を検出し た。tachocline近傍の太陽の回転は 低緯度においては1.3年周期で変化しており、放射層と対流層間を動的な相互作用が あるようだ。(Na,Nk)

近接の水和(Minimal Hydration)

イオンの水和を研究している科学者たちは、気相において数個の水分子がイオ ンと気相で相互作用しているのかを研究して報告している。理論研究と関連づ けると、このアプローチ方法は液相における水和殻の構造と相互作用に関する 洞察を与えるものである。Weberたち(p.2461:ScolesとLehmannによる展望参照) はクラスター分光学とアビニシオ理論を用いて、スーパオキシド陰イオン O2-を取り囲む水和殻の詳細な構造を立証した。最小 の水和殻はちょうど4個の水分子を含んでおり、その各々はスーパーオキシド イオンと水素結合で結合している。(KU,Nk,Ok)

作用する様子を捉える(Caught in the Act)

遺伝子がどのように制御されているかをより良く理解するためには、転写を司るか らくりを理解することが重要である(DNAの鋳型がRNAになるメカニズム)が、これ を確かめるためには、従来、バルクによる実験に頼っており、そのため平均化され た結果しか得られなかった。従って、これらの分析によって、伸長していいく複合 体が何回にも渡って遭遇する多様な段階を詳しく解明するのは容易ではなかった 。Davenportたち(p. 2497; Bucによる展望記事参照) は、顕微鏡によるビデオ画像 解析によって、被写体の軌跡を追跡する光学的補足法を利用して、大腸菌RNAポリメ ラーゼ単分子の実時間での転写段階、および、転写スピードを測定した。それによ ると、一時停止状態とは、転写の伸長と静止の間にある動力学的状態であることが 示された。転写可能状態とするためのスイッチが遺伝子制御の標的を形成している のであろう。(Ej,hE)

陸地あるいは海洋によるのか(By Land or by Sea)

化石燃料の燃焼は、現在毎年60億トンの二酸化炭素を大気に放出している。その半 分は海洋や陸地の生物圏に受け入れられるが、それらシンクのどちらにどれだけの 量の二酸化炭素が吸収されているのだろうか?この問いに対して、Battleたち (p.2467)は、大気中のO2/N2の変化の計測と大気中 CO2の炭素同位体の組成の計測するという2つの手法を組み合わせて、陸 上生物圏(terrestrial biosphere)に流れ込んだり流れ出たりするCO2の 量を決定した。彼らが見つけた、1991年から1997年の間で陸地生物圏に対する、変 動の大きなCO2の流れは、それが1980年代に安定的であった振る舞いと は、はっきりとした差異を示している。(TO)

チベットは暑くてドライ(Hot and Dry in Tibet)

捕獲岩(Xenoliths)は、親岩石(host rocks)とは異なる組織や組成を持つ、岩石の異 質な断片である。捕獲岩は、火山噴火で地表に急激に運ばれてきた地殻下部あるい はマントルのサンプルと見なされている。Hackerたち(p.2463)は、チベット溶岩層 で見つかった苦鉄質(mafic)岩石と変成堆積岩からなる1組の捕獲岩を研究し、これ らの捕獲岩は無水条件下で高温 (約800℃から1000℃)であったことを明らかにした 。これらの結果は、変成堆積岩の捕獲岩から、より深い溶解マントルからきた苦鉄 質(mafic)捕獲岩を含む、水分に乏しく高温の下部地殻の状態が判ることを示してい る。こうしたモデルは、ヒマラヤ下の地殻下部中に、マントルの対流の減少 (convective thinning)により形成された、過剰に水分を含んだ溶解ゾーンが存在す る可能性について異議を唱えている。 (TO,Nk)

有害昆虫をコントロールする(Controlling Insect Pests)

昆虫不妊技術(Sterile Insect Technique ;SIT)は、有害昆虫と病原媒介昆虫を減 らす(制御する)良く知られた方法である。すなわち、たくさんの生殖不能の雄が 育てられ、野生の雄と雌を争うために放たれ、結果として、次世代の昆虫の数を減 らすのである。しかしながら、必要とされる数の昆虫を育てることは、しばしば経 費がかかり、かつ問題が多い。Thomasたち(p. 2474)は、遺伝子組換えショウジョウ バエ・システムを用いるSITへの主な改善について述べている。つまりそのシステム を用いると、効率的な雌雄鑑別と、必要とされる雌だけを死滅させることができる 。この新技術が他のシステムに転用されると、有害昆虫に対して使用される重要な 兵器になりそうである。(hk)

使わないと駄目になる(Use It or Lose It)

単眼欠損の研究によって、出生後の初期の発達段階では、視神経が柔軟な期間が存 在すること、即ち、より早い時期に、より拡散した段階から精密な活性-依存性のニ ューロン結合が生じていることが確認されている。このような結合が一度確立する と、生きている間保持されていると考えられている。しかしながら 、Chapmann(p.2479)はレチナール活性を遮断すると、ケナゲイタチの外側膝状核に おける既存の片目優位の構造が壊されることを示している。このような結果は、視 覚系において活性-依存的競合が特異的結合の確立だけでなく、その保持に対しても 必要であることを示唆している。(KU)

分割に伴う劣化(A Deterioration of Division)

年を取ると細胞内で何が起きるのだろうか?若年、中年、老年それぞれのヒトの 6000個以上の遺伝子のメッセンジャーRNAの高密度オリゴヌクレオチドアレー分析に よると、線維芽細胞(fibroblast)の分割に伴って変化する多様な遺伝子群が存在す ることが分かった。Ly たち(p. 2486; および、Marx によるニュース解説)は、発現 が変化した遺伝子の多くは細胞周期のG2-M期に含まれていると報告して いる。著者たちは、加齢に伴って複製が正常に行われなくなり、その結果体細胞の 変異の割合が増加し、結果的に加齢表現型に寄与する特異な遺伝子表現に影響を及 ぼしているのであろうと示唆している。(Ej,hE)

駐在しはじめる(Taking Up Residence)

ブルセラ症において、ブルセラ(Brucella abortus)という病原性細菌が宿主哺乳類 細胞に浸潤し、持続的相互作用を確立する。マメ科の植物において、根粒菌 (Rhizobiummeliloti)という共生生物が根粒細胞に浸潤し、駐在しはじめる 。LeVierたち(p2492)は、この2つの極めて異なっている宿主と細菌との関係の両方 にbacA遺伝子にコードされた推定上の膜輸送体が必要であることを報告している 。BacAタンパク質は、浸潤している細菌が宿主細胞の防衛機構を回避することを補 助するのかもしれない。(An)

サウンド オブ サイレンス(The Sound of Silence)

二本鎖RNAは、配列特異的転写後干渉(RNAi)によって、遺伝子発現を制御することが できる。Grishokたち(p 2494;SharpとZamoreによる展望記事参照)は、線虫 (Caenorhabditis)において、このRNAi現象が次世代に伝達できることを示し、関与 している遺伝子を同定している。彼らの結果は、小さなRNA(20から23ヌクレオチド の長さ)である配列特異的サイレンシング因子の存在を示唆し、また、rde-1と rde-4という遺伝子が形成に関与することを示唆している。(An)

自己認識の危機(Identity Crisis)

ほとんどの場合、自分自身のタンパク質は免疫系からは認識されないようになって いる。自己免疫応答とは、この自己寛容性が破れたときに生じる。B細胞が寛容され ずに活性化された場合、抗体を産生する。Kouskoff たち (p. 2501)は、B細胞によ って認識されるエピトープ(ただし、これらB細胞に認識される自己抗原とは配列が 類似してない)を持つバクテリオファージがマウスに導入されるまでは、B細胞が自 己に対して寛容であるような免疫系をみつけた。このような、以前は寛容であった B細胞がT細胞とは独立して活性化することから、B細胞は通常どのようにして自己抗 原を、T細胞とは独立した外来抗原から識別しているのだろうか、との疑問を提示し ている。(Ej,hE)

内核中の液体ディスク(Liquid Disks in the Inner Core)

地球の核の推定構造(液体の外層によって取り囲まれた固体の内核、このどちらも主 に鉄でできている)は、核をサンプリングする地震波の特性に基づくものである。よ り多くの地震のデータが集積されるにつれて、そのデータにフィットさせるのに求 められる構造はいっそう複雑になってきている。Singh たち(p.2471) は、特別の一 組の地震データ、すなわち、圧縮および剪断波の速さおよび減衰と圧縮波の異方性 のデータに比較的単純な実効媒質モデルをフィットさせた。地球の赤道面に沿って 整列した体積にして3から10%の平らな液体ディスクを鉄の固体内核に加えるこ とにより、彼らはその地震データにフィットすることができた。そして、内核にお ける剪断波の未知の非等方性は大きいかもしれないと評価することができた。この ようにして、著者たちは、内核に小体積の液体の鉄が存在することを証明している 。これは、核の進化と地球ダイナモにたいする一般的な示唆を含んでいる。(Wt,Nk)

謎めいたHunchback遺伝子の制御(Cryptic Control of Hunchback)

ハエであれヒトであれ、高度な有機体の発生につながる一連の命令は、最高のコン ピュータの工学的な仕様よりも何倍も複雑である。Wimmerたちは、一つの例を説明 に用いて、この組み立て問題に光を当てている(p. 2476)。Bicoid (Bcd)は、ショウ ジョウバエの体形を指定する母方由来のモルフォゲンであり、これは、進化的によ り古いモルフォゲンであるHunchback(Hb)の発現の調節も行なって、胸部節を形成に 関与している。hbの2つのプロモータのうち第2のものを除くと、Bcdへの感受性が失 われることになるが、そのとき母方由来のHbが接合的hbの発現を制御するようにな り、胸部節の形成が導かれることになる。このように、Bcd感受性のある第2のプロ モータは、進化の過程で後から付け加わることで、より古くからあったhbの制御に 取って代わって、Bcdがhbを制御できるようにしたわけであるが、このことは、第 2のプロモータを除去することでhbの調節性部分の一部を人工的に脱進化させて初め て明らかになったのである。(KF)

うまくやるための準備(Priming the Machine)

DNAポリメラーゼ(重合酵素)は、DNA鋳型鎖にハイブリダイズしたオリゴヌクレオ チドを伸長させるが、一本鎖のDNAの複製を引き起こすことはできない。複製の開始 には、複製のプライミング(準備刺激)を行なうRNAポリメラーゼ(プライマーゼ)に よるRNAプライマーの合成が必要である。Keckたちは(p. 2482)、大腸菌プライマ ーゼDnaGのポリメラーゼ領域の構造を決定した(von HippelとJingによる展望記事参 照のこと)。コア構造の活性部位のアーキテクチャは、他のDNAないしRNAポリメラ ーゼとは無関係であるが、種々の金属-結合ホスホトランスファー(リン酸基転移触 媒性)タンパク質に見られる"toprim"折り畳みと関連している。このポリメラーゼ領 域は一本鎖のDNAと結合すると思しい不変の残基で裏打ちされた溝を含んでいて、合 成されたDNA-RNAハイブリッドは浅いくぼみにとどめられるが、そこでは相互作用の せいでプライマーのサイズには限りがあるらしい。著者たちは、ポリメラーゼはヘ リカーゼから直接一本鎖のDNAを受容できるような場所に位置するのだという考えを 提唱している。(KF)

中新世中期のヒト上科の起源(Middle Miocene Hominoid Origins)

ケニア北中部のTugen Hillsで見つかった化石資料をもとに、Wardたちは、新しい中 新世中期のヒト上科の属、Equatoriusを同定した(8月27日号の報告)。これは、以前 はKenyapithecus africanusに帰されていたすべての資料を織り込んだ考えであり 、類人猿とヒトに共通の重要な祖先の起源に関して新しい光を投げかけるものであ る。Begunは、Equatoriusに帰するとされているサンプルはEurasian属の Griphopithecusとは確実には区別できないし、また化石記録の生物地理学的なパタ ーンからは、「アフリカの中新世中期のヒト上科は、ユーラシアから広まった形態 が逐次放散したことを示している」と論じている。Kelleyたちは、Equatoriusと Griphopithecusとは歯の 形態におけるいくつかの主要な部分が異なっていると応じ、Begunの「ユーラシア由 来仮説」については、不正確な化石年代とユーラシアには中新世初期の狭鼻系統が 存在しないことをもとに疑問を呈している。BenefitとMcCrossinは、それぞれ 、WardたちがEquatoriusの仮説に二つの属、Nacholapithecus kerioi とK. africanusとを含めていると示唆している。この二つは、形態においても、適応行動 においても、また他のヒト上科との関係においても異なったものである。Wardたち によって分析されたサンプルは、新しいヒト上科の属を代表するものではなく 、KenyapithecusとNacholapithecusの組み合わせである、とBenefitとMcCrossinは 結論付けている。Kelleyたちは、N. kerioiは分類学的には別のものだと認めたが 、「Nacholapithecusにこのたび分類されることになった資料は、Equatoriusの形式 的な診断には寄与していない」ことを強調している。つまり、彼らは、「N. kerioiとK. africanusとの違いは」、後者の特徴を明確にするのには役立つにして も、Equatoriusの有効性には何の影響も及ぼさない、と論じているのである。これ らコメントの全文は、
www.sciencemag.org/cgi/content/full/287/5462/2375a で読むことができる。(KF)
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