AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 20, 1998, Vol.279


論理的な発生(Logical development)

生物体の発生過程における遺伝子発現の割合は、遺伝子の プロモータ領域における結合タンパク質およびDNAの配列 からなる複雑な調節性ネットワークによって調整される。 こうした調節に関わる要素は、それぞれ異なったモジュー ルに組織化されることもあるが、生物体の形と機能を決定 するそれらの組織化と相互作用が不明確であることもまま ある。Yuhたちは、発生過程におけるウニにおけるある遺 伝子Endo16の発現の制御の問題を解決するため、いくつ かの実験を行なった(p. 1896;Wrayによる注釈 p. 1871 参照のこと)。モジュールAという基部に近い(proximal) 要素がその他の6つのモジュールの影響を制御、統合して いるらしい。計算機モデルによれば、この調節は、この基 部に近い要素がシステムへのすべての入力を調節している 一種のアナログ計算機と考えられることがわかる。(KF)

早く現れた鳥(An early bird)

鳥の起源は不明確なままである。主要な仮説の一つは、 鳥が獣脚亜目(theropod)恐竜から進化したというもの である。Forsterたちは、マダガスカルの白亜紀後期の 岩から復元された、大がらすほどの大きさの小さな鳥類 の化石について記述している(p 1915;Gibbonsによる ニュース記事 p 1851参照のこと)。その検体は、原始的 な鳥類と獣脚亜目(theropod)恐竜に見られる特徴を混合 してもっており、とくに足の指の一つには大きな鎌のよ うな形の鉤爪がある。(KF)

フラーレンと高分子とを溶媒和にする (Solvating fullerenes with polymers)

柔軟なコイルに結合した剛直なロッドからなる共重合体は、 二つのブロックからなる異なる相の挙動のため、いくつかの 異常な形態を示すことが知られている。JenekheとChen (p.1903) は、ポリ(フェニルキノリン)-ブロック-ポリスチ レン共重合体は、溶液中で内部に大きな空洞を持つ直径10 μmに至る非常に大きな集合体を形作ることが可能であるこ とを示している。これらの空洞は、C60やC70のようなフラ ーレンをカプセル状に包むことができ、そして普通はほとんど 可溶性でない溶媒の中にそれらを溶かすことができる。(Wt)

表面上のスピン(Spinning on surfaces)

一般的に分子はその表面にエネルギーの最低な特異的な部分 を持っており、その分子の好ましい結合部位となっている。 もし、十分なエネルギーが分子に与えられたら、その分子は 回旋や他の近接する表面部位への移動など開始することがあ る。Stipeたち(p.1907)は、走査トン ネル効果顕微鏡を用い、 回旋事象の回旋率を多数測定することで白金表面で酸素分子 が回旋するエネルギーバリヤー研究した。電子と核の運動間 のカップリングを示す結果が得られた。(Na)

宇宙空間の水素イオン(Hydrogen ions in space)

宇宙空間におけるH3+イオンの反応は、中性の原子や分子を 作るために基本的かつ効率的な貢献をしていると考えられて いる。最近、H3+の存在が高密度の分子雲において観察され たが、これによって星間化学におけるその量の多さと重 要性が確認されることとなった。McCallたちは、このたび 白鳥座12番星(Cygnus OB2 No. 12)という星の方向にある 拡散性の星間物質(ISM)にH3+が含まれることを観測し、H3+ がおそらく星間空間のどこにでも存在するということを示し た(p. 1910)。このH3+の同定によって、天文学者は拡散性の あるいは高密度のISMの物理的および化学的特性を推定できる ようになる。彼らの観察に基づけば、地球とCygnus OB2 No. 12の間にあるISMは、いくつかの拡散性の雲を含む。 それらの雲の温度はおよそ絶対温度で27度であり、存在する H3+は、H2と平衡状態にある。(KF,Ym,SO)

洞窟の年代測定(Cave dating)

洞窟の形成には、地質学や気候、水文学の 相互作用を点典型的に反映するが、それが形成された時期を 推定するのは困難であった。Polyakたちは、カールスバット 大洞窟およびそれと関連した合衆国の南部にある洞窟の形成 に関するアルゴン-40-アルゴン-39による年代測定データを、 洞窟の壁に含まれる粘土の無機質が変化することによってで きるカリウムを含む無機質であるミョウバン石から得た (p. 1919; Sasowskyによる注釈 p. 1874参照のこと)。この 年代が示すのは、洞窟が形成されたのは1千百万年前から4百 万年前の間で、以前考えられていたよりもずっと早期であった ということ、またその地域が地殻変動運動によって持ち上げら れるにつれ、より高い標高の洞窟が最初に形成されたというこ とである。(KF,g)

ステロイドホルモンの相手(Steroid hormone partner)

ステロイド受容体活性化補助因子-1(SRC-1)の生物学的 役割を研究するために、Xuたち(p.1922)は、SRC-1遺伝 子を不活性化したマウスを用意した。ステロイドホルモン (たとえば、性行動や生殖機能を制御する性ステロイド) の受容体は、そのリガンドに結合しているとき、活性化補 助因子や一般の転写因子と結合して活性化複合体を作るこ とによって、特定の遺伝子の転写を活性化させる。活性化 補助因子のSRC-1を欠如するマウスは、明らかな表現型が ない。しかしながら、内在性ステロイドが適切な腺の切除 によって取り除かれると、投与されたプロゲステロン、エ ストロゲン、あるいはテストステロンの効果に対して抵抗 を示す。SRC-1の欠如に対して、関連するタンパク質の TIF2の発現を増強することによって部分的に補償されるよ うであるが、その結果は、生体内のステロイドホルモンの 生物学的活動をフルに発揮するためにはSRC-1が必要であ ることを示している。(Ej,hE)

RNAの構造におけるフォールディングの手がかり (Folding clues to RNA structure)

タンパク質やRNAの機能を十分理解するためには、これら 分子の構造を解明することが必要である。大きな触媒性の RNA(リボザイム)であるテトラヒメナ・グループIイント ロンの構造が、RNAの畳み込み機構を調べることによって、 どのように決定されるかを2つの報告が議論している。ま ず、Sclaviたち(p.1940)は、シンクロトロンX線ビーム を利用して高速に(10ミリ秒)水酸化フットプリント法に よってリボザイムの天然のコンフォメーションの階層的折 り畳み経路を調べた。この動力学的解析によってリボザイ ム内部の色々なドメインの折り畳みの時間と順番を計測し た。Treiberたちによって(p.1943),更にグループIイント ロンの解析が進められ、リボザイム折り畳みへの動力学的 障壁が調べられた。折り畳み障壁は、多くの場合誤って折 り畳まれた中間体で表されるようなものであるが、天然の 3次構造の相互作用によって安定化された折り畳み中間体 が確認された。(Ej,hE)

遺伝子制御における集中 (Concentrating on gene regulation)

B細胞の分化時、ある遺伝子が協調的に活性化したり、不活 性化したりされる。Wallinたち(p. 1961)は、転写制御因子 BSAP(サイトカインによって制御されている)の濃度によって、 BSAPが転写のリプレッサになるか活性化因子になるかが決 まることを示している。BSAPによって陽性に制御された 遺伝子が高親和性結合部位をもち、陰性に制御された遺伝子 が低親和性部位をもっているのに、この相関で濃度依存を説 明しきれない。正常状態では低親和性部位をもっているリプ レッサプロモータに高親和性モチーフを挿入したら、遺伝子 がまだリプレッサ部位をもつように作用したが、高親和性も 保持した。従って、哺乳類におけるこの濃度依存的な遺伝子 制御の例は、結合部位の親和性によって説明されていなく、 プロモータの前後関係によって説明されている。(An)

転写制御因子と聴力損失 (Transcription factors and hearing loss)

まれな家族関連性聴力障害の研究から、多数の人、特に65歳 以上の人、に発症している聴力損失の分子レベルでの理解が 得られるかもしれない。一族における聴覚障害と関連している 染色体5の領域の同定と、マウスにおける相同的な領域にある Pou4f3遺伝子が完全聴覚障害を引き起こすこととのため、 Vahavaたち(p 1950;Steelによる注解参考p 1870)は、関連 遺伝子についての予測ができた。著者は、このヒトの転写制御 因子は、8-塩基対のが欠失しており、胎性蝸牛に正常に発現さ れることを示している。(An)

酵素の切り合わせ(ダウンサイジング) (Cutting enzymes down to size)

多数の酵素が二量体として機能し、それぞれの単量体が2つの 活性部位に構造上のエレメントとなる。MacBeathたち (p. 1958;Stokstadによる記事参考p 1852)は、構造に基づく デザインと指向性進化(directed evolution)との組み合わせを 用い、二量体のコリスミ酸ムターゼ (CM)を同程度の活性をもつ 単量体に転換した。このCMは、チロシンとフェニルアラニン経 路において、コリスミ酸をプレフェン酸に転換する。好熱菌由来 のより安定したCMでは、ある残基に変異を起こして、二量体化 の傾向が減少されたが、活性保持に決定的なターンの導入に必要 な残基はライブラリスクリーニングによって同定された。ターン 配列のごくわずかな部分(0.05%以下)が活性な単量体の酵素に なった。(An)

光サイクルへの一瞥(A glimpse into the photocycle)

時間分解可能なX線結晶学の最近の発展により、生体分子 の過渡的な状態の実時間キャラクタリゼーションが可能になって きている。このアプローチは、光異性化のような光のエネルギー の化学的な信号への変換に関与する、タンパク質の研究において 特別関心のあるものである。Perman たち(p.1946) は、真正細 菌の光受容器であるキサントプシンの光サイクルの中間状態を研 究した。彼らは、光異性化はこの状態で完結しており、それらは 照射後1ナノ秒以内に形成されること、およびこの中間状態に対 する構造上のモデルを与えることを示している。(Wt)

心臓を持った死の受容体(Death receptor with a heart)

FasLや腫瘍壊死因子(TNF)と言ったリガンドから外部の 死のシグナルを伝達するある種の「死の受容体」は、死 の情報伝達経路を惹起するためにFADDと呼ばれる分子 を必要とする。Yehたち(p.1954)は、遺伝的にFADDを 欠くマウスを作り、FasやTNF受容体情報伝達にFADDが 必要であること、しかし、DR4死受容体による情報伝達 や、c-mycによって惹起されるアポトーシスには必要な いことを確認した。驚いたことに、FasやTNF受容体の 欠乏と異なり、FADD欠乏は致死的となった。FADDは正 常な心臓の発生に必要なことから、細胞死は心臓発生に 必須であること、あるいは、FADDは心臓発生を促進する 経路に使われていることが推測出来る。(Ej,hE)

ディールズ・アルダー反応の抗体触媒作用 (Antibodies catalysis of Diels-Alder reactions)

有機化学者はディールズ・アルダー反応を広範に利用するが、 これは隣接する2つの二重結合を持つ分子であるジエンと、 求ジエン体の二重結合とを反応させて環を作る。この反応を 触媒する酵素はほとんどないように見えるが、これを可能に する抗体が作られた。このような抗体に関する結晶学的研究 によって、その構成とメカニズムについての2つの報告がな された。Romesbergたち(p.1929)は、ディールズ・アルダ ー触媒性抗体と、その生殖系列の前駆物質と比較し、たった 1つの体細胞の変異によって触媒の親和性や活性を増加させ ることを示した。Heineたち(p.1934)は、通常は歓迎されな い生成分子であるエキソ・コンフォメーションを産生する極 めて特異的なトランスフォーメーションをする抗体について 述べている。阻害剤複合体の研究が示すところによれば、い かに特定の残基が求ジエン体を活性化し、いかに水素結合の ネットワークが立体特異性に影響しているかが分かる。 (Ej,hE)

触媒の設計(Catalyst design)

不均質な触媒作用は化学合成や自動車の触媒式コンバータ (排ガス浄化装置)など広範囲なアプリケーションに重要で ある。伝統的な触媒のプロセスの詳細な理解はモデル表面 の研究から得られていたが、もっと複雑な応用システムに 研究結果を直接結びつけることは多くの場合困難だった、 また、表面科学は触媒開発の方向性を与える研究するとい うより、産業的な触媒の機能についての説明を試みること を目的とすることが多かった。Besenbacherたち(p.1913) は、どのようにして、金-ニッケル表面合金の触媒作用特性 の実験と理論的な結論から得られた見識により水と炭化水素 から水素と一酸化炭素、すなわち水性ガス(syn gas)に変 換する、水蒸気改質のための触媒設計を導いたかを示した。 (Na,SO)
訳注;syn gas:リーダース英和辞典によれば「合成ガス」。 これはひと昔前まで使われていた都市ガスで、水蒸気を石炭 に吹き付けて作られるもので、主成分は水素と一酸化炭素。

十分接近するだけ(Just close enough)

不溶性の基質を認識する可溶性酵素は、基質へ接近する一方で 活性を何とか保持しなければならない。Linたち(p.1925)は、 ある種のリン脂質を加水分解する酵素であるホスホリパーゼA2 が、2層のリン脂質からなる生物膜にどのように接近するかを 調べた。電子スピン共鳴を用いて、膜と接触する酵素の部分は 活性部位とは異なっていることを見いだし、また正確に配置し たスピン標識レポーター基を用いて、酵素の残りの部分は2重 層に近づくがこれを貫通しないことを見いだした。(hE)

細菌におけるゲノム構成のパターン (Patterns of Genome Organization in Bacteria)

F. R. Blattnerたち(1997年9月5日,p.1453の大腸菌の完全 配列に関する記事)によると、大腸菌(Escherichia coli) では、ゲノムの”GCスキュー(skew)”[注:GCスキューと は、任意の10kbの長さにおける平均の(G-C)/(G+C)量]の全 体的統計的傾向の分布がDNA複製の方向性と相関する。 J. R. Lobry(1996年5月3日,p.745のテクニカルコメント)に よると、GCスキューは、大腸菌、インフルエンザ菌 (Haemophilus influenza)、枯草菌(Bacillus subtilis)及び マイコプラズマ(Mycoplasma genitalium)の複製開始点、並 びにインフルエンザ菌の複製終点におけるサインを変更する。 J. M. Freemanたちは、DNA鎖中の塩基組成の微分関数であ るGCスキューとは対照的に、塩基組成とコーディング配列(CDS) の方向性の積分された関数を用いると、これと同じ特徴及びそ の他の特徴が得られるというデータを提出している。この関数 は”原核生物の全ゲノム解析の強力な方法”となりうる。 DNA鎖中のプリンの累積和からピリミジンの累積和を引いた ”プリン過剰”が、6つの既知の全ゲノム複製開始点で最小と なっており、3つの既知の複製終点で最大となっていることを 示す。GT("ケト")過剰は9つのゲノムのうちの4つで同じ特徴 を示す。CDS方向性の過剰とプリン過剰との間の強い相関性 (特に、古細菌の場合で詳細に検討されている)は、(1) DNAとRNAポリメラーゼとの”正面衝突”の回避、及び (2)転写関連の修復、の結果であるらしい。種々の原核生物 のグラフによって、Synechocystis(外来DNAを取り込むこと で知られている藍藻)におけるプリン過剰の顕著な不連続性や、 インフルエンザ菌においてファージ(μ)挿入部位の目立つこと、 などの特徴が明らかとなった。CDS方向性の過剰と、プリン過剰、 又はケト過剰、又はこれら両方との間の相関度が、染色体領域の コドン使用と遺伝子密度を反映している。全文及びこのコメントは
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/279/5358/1827a に記載されている。(hE)
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