2004年、それまでの画像セキュリティ技術の開発に加え、新たに複数の開発テーマが立ち上がりました。レンズの収差補正(*1)、長時間露光ノイズリダクション(*2)、そして斜め補正というデジタルカメラ向けの画像処理技術です。斜め補正とは、四角形の被写体を斜め方向から撮影した場合に生じる歪みを補正するものです。前の2つはデジタルカメラの事業部(パーソナルマルチメディアカンパニー:PMMC)からの依頼でしたが、3つめの斜め補正は私たちR&D部門が提案した機能でした。PMMCにデモを見せたところ「これは面白い、ぜひカメラに搭載しよう」と言われ、商品化に向けた開発がスタートしました。
*1 レンズの収差補正:画像の中心部と周辺部での結像倍率が異なるために生じる幾何学的歪を歪曲収差、光軸に対する入射光角度の相違によって生ずるレンズ周辺部の照度低下を周辺減光収差という。光学設計上で抑えきれないこれらの収差を画像処理技術で補正することが可能である。
*2 長時間露光ノイズリダクション:長時間露光において、撮像素子(CCD)の発する信号が画像ノイズとなって顕現化する。これを除去する画像処理技術を長時間露光ノイズリダクションという。
収差補正技術の開発で、私は初めてテーマリーダーを任されました。与えられた技術課題に取り組むというそれまでの立場と違って、開発目標の達成に向けてヒト、モノ、カネという要素を勘案しながら計画し、それを推進していく役割を担うことになったのです。商品開発経験が少なかった私にとってこれはとても責任の重い仕事でしたが、上司やメンバーにも恵まれ、商品化へと持っていくことができました。
一方、斜め補正では、主に斜め形状補正アルゴリズムとソフトウェア開発を担当しました。前述の収差補正も同様ですが、デジタルカメラは使用できるCPUやメモリのリソース(*3)が限られています。その中でいかに高速かつ円滑な処理を実現するか、開発者の腕の見せどころとなります。とは言え、開発は決して一人で行えるものではありません。開発グループのメンバーや関連部門の人たちと連携しながらひとつずつ障壁を突破していきました。この技術はCaplio R3(2005年11月発売)に搭載され、今なおリコーのデジタルカメラに搭載され続けています。
*3 リソース:一般にデジタルカメラに搭載されたCPU能力はパソコンの約1/100、メモリ容量は約1/1000という環境だ。 |