Main content

製品・取り組み

ペットボトルの「完全ラベルレス」で循環型社会に貢献。リコーがレーザー技術で目指す未来とは?

目次

プラスチックごみによる海洋汚染などの環境問題が、世界的に深刻化している。その解決策のひとつが、ペットボトルなどの素材のリサイクルによる、再資源化だ。

しかし、ペットボトルのリサイクルにおいては、多くの人がラベルと本体との分別を手間に感じている。かといって、ラベルをなくしてしまっては法律上必要な情報をペットボトルに記載することができない。

リコーは、それらの問題を解決するソリューションとして、透明樹脂へのレーザーマーキング技術を開発している。ペットボトルへのレーザー印刷という技術開発がプロジェクト化した背景や、この技術が見据える未来について、リコー 先端技術研究所 樹脂マーキングPTの林善紀リーダーと、同PT所属の小川聡氏に話を聞いた。

「ラベルごみのない世界」ショートムービー

リコーが目指す「ラベルのない世界」とは?

リコーが印刷の分野で培ったコア技術を活かし開発したのが、透明樹脂へのレーザーマーキングで「ラベルレスペットボトル」を実現するソリューションだ。ペットボトルの表面にレーザーでわずかな加工を施すことで、ラベルやインクを使わずに、必要な情報を記載することができる。

この技術が社会に与える最大の価値は、シュリンクラベルの削減だ。ペットボトルをリサイクルするためには、ポリエチレンテレフタレー(PET)素材の本体から、PET以外のプラスチックでできているシュリンクラベルを剥がす必要がある。

ラベルレスペットボトルなら、ユーザーがラベルを剥がさずにリサイクルに適した状態で廃棄ができるため、リサイクル率がアップする。さらに、シュリンクラベル自体が不要になれば、ラベル用素材の省資源にもつながる。

樹脂マーキングPTの小川聡氏は、「ラベルを剥がす手間をなくせることが最大のメリット」と話す。ペットボトルを手に取るユーザーの利便性とリサイクル率の上昇は、協業しているメーカーも評価するポイントだ。小川氏は、レーザー印刷によるボトルのデザイン性が上がることで、リサイクルだけではなく、捨てずにボトルを再利用するリユースも進むと期待する。

社員のアイディアから始まった社会課題解決プロジェクト

ラベルレスペットボトルの技術開発の出発点は、レーザープリンター技術の応用に関する社員からの意見だった。複数のアイディアの中から、世界的なプラスチックごみの課題に寄与できるソリューションとして、ペットボトルへのレーザー描画が、会社をあげたプロジェクトとしてスタートした。

これまでも、ラベルのないペットボトルは飲料メーカー各社が開発してきた。しかし、ペットボトルには、食品表示法などで規定される情報を記載する必要がある。また、高品質なリサイクルのため、PETボトルリサイクル推進協議会のガイドラインでは、インクで本体に直接印刷することも禁止されている。飲料メーカーがラベルレスペットボトルを採用しても、必要な情報を、タックシールや紙などに印字して付属しているのが現状だ。

レーザーでペットボトルに極く微細な傷を付け、文字を表現

リコーのレーザーマーキング技術を使えば、必要な情報を、ペットボトルに直接書き込める。それまでもペットボトルにレーザーで書き込む技術は使われていたが、太いドットによる荒い印字のため、表記できるのは製造年月日などのみだった。しかし、高精細なリコーのレーザー技術では、飲料の商品名や原材料、問い合わせ先、イラストなどの細かな内容を再現できる。

レーザーで削る部分の深さは髪の毛の太さの数分の1程度以下の傷だ。レーザーマーキングされた部分は光の散乱によって白く見えるため、文字や絵として読める。「ペットボトルへのレーザー印刷には、ドットで印刷するレーザープリンターの技術を応用しています。ペットボトルの強度を損なわず、可視性を確保できる微細な傷をレーザーでつけています」(小川氏)。

2021年11月、リコーとアサヒ飲料は、レーザーマーキング技術を採用した食品業界初の完全ラベルレス商品「『アサヒ 十六茶』PET630ml ダイレクトマーキングボトル」を発表。12月から、インターネットで限定販売した。1,200箱は完売し、ラベルを剥がす手間やゴミの削減効果を実感したユーザーから、高い評価を得た。

本技術を採用した「『アサヒ 十六茶』PET630ml ダイレクトマーキングボトル」が、2022日本パッケージングコンテスト(主催:日本包装技術協会)で 飲料包装部門賞、2022年度グッドデザイン賞(主催:公益財団法人日本デザイン振興会)、アジアスター2022(主催:アジア包装連盟)でアジアスター賞(ECO PACKAGE)、ワールドスター2023(主催:世界梱包機構)でワールドスター賞、第47回木下賞(主催:日本包装技術協会)の新規創出部門を受賞しました。

食品容器からトイレタリーまで。広がるラベルレスの可能性

樹脂マーキングPTの林善紀リーダーは、レーザー技術を応用した新規事業のマネジメントを行う前は、プリンターのレーザー書き込み技術の開発に携わってきた。その経験から、リコーのコア技術が循環型社会の実現に寄与すると確信している。

「価値ある新規事業の条件は、市場のニーズと、会社の強みであるシーズが合致していること。この技術はまさにふたつがマッチングした、世界を変えられるプロジェクトです」(林リーダー)。プロジェクトリーダーとして、さらなる普及を進めていきたいと意気込む。

リコー 先端技術研究所 樹脂マーキングPT 林善紀リーダー

リコーのレーザーマーキング技術は、飲料のペットボトルだけでなく、食品用の容器や医療用品、トイレタリー容器など、さまざまなプラスチック容器に対応が可能だ。リコーは現在、多数の企業と、実用化に向けてレーザーマーキング容器のサンプル制作や、技術開発を進めている。

1本1本に文字やデザインをプリントするレーザーマーキングの技術は、イベント向けのグッズやノベルティなど、小ロットのボトル生産でも活用が見込める。

「1000個限定オリジナルボトルといったニーズにも、レーザーマーキングならスピーディに対応できます。飲料の製造日や賞味期限の印字も、デザインに埋め込めば日付を変えるだけですぐに最新情報を印刷できるので、そのオンデマンド性も、メーカーさんに評価いただいています」(小川氏)

より多くの人に届けるために、チャレンジは続く

テスト販売した「『アサヒ 十六茶』PET630ml ダイレクトマーキングボトル」のラベルレスボトルに対する高い評価を、プロジェクトチームは、社会からの責任とも受け取っている。ペットボトルを使うユーザーの利便性を上げるため、ラベルレスペットボトルをより多くの人に手に取ってもらうことが今の課題だ。

「私はこれまで印刷技術に関するプロジェクトマネージャーを経験してきて、初期導入コストや保守体制、ランニングコストのバランスをとって、メーカーとリコーにとってWin-Winのビジネスモデルを構築してきました。こうした経験からも、このレーザーマーキング技術を、メーカー、リコー、ユーザーの三者にともにメリットがある形で、ビジネスとして軌道に乗せたいと思っています」(小川氏)

リコー 先端技術研究所 樹脂マーキングPT 小川聡氏

より広い実用化に向けて求められるのは、ラベルレスペットボトルの生産性向上だ。1分間に1000本というペットボトルの一般的な生産スピードに、リコーのレーザー技術はまだ追いついていない。スピードがカギとなるペットボトルの量産へ向けて、プロジェクトチームは日々研究を重ねている。

ラベルレスペットボトルを使ったユーザーからのフィードバックも、技術開発に役立つ。より多くの意見を得るためにも、本格販売は急務だ。「コストや技術の面での課題はまだ多いですが、まずは量産体制を整えて、高品質なラベルレスペットボトルを実用化していくことが、我々が今、やるべきことと認識しています」(林リーダー)。

ラベルレスペットボトルは、容器や包装に対する価値観から、世界を変えられると林リーダーは期待する。「情報などが過剰な容器や包装がシンプルになれば、SDGsの社会課題解決にもつながる。リコーのラベルレス技術をきっかけに、大きく社会が変わればいいと思っています」(林リーダー)。循環型社会への寄与へ向けて、リコーのラベルレス化へのチャレンジは続く。

※本技術は、2022年10月1日放送のNHK「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」で紹介されました。

技術情報

透明樹脂へのレーザーマーキング

ニュースリリース

ペットボトルへの直接レーザーマーキング技術が、「アサヒ 十六茶」に採用

お問い合わせ

ラベルレスペットボトルお問い合わせ

関連記事