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コピー機やカメラの技術を活かし、トンネルの安全を守る
菊地 太郎 / 稲場 大樹 / 畑崎 壮哉 / 渡辺 真史

デジタルビジネス事業本部(菊地・稲場・渡辺)/
イノベーション本部(畑崎)

菊地 太郎 / 稲場 大樹 / 畑崎 壮哉 / 渡辺 真史

トンネルをスキャンし、社会課題解決に挑む

日本国内にある約1万本のトンネル。数十年前につくられたものも多く、定期的な点検が欠かせない。しかし、高所作業車を利用し、目視で確認を行う従来の点検作業は手間がかかり、安全面でも課題を抱えていた。走行型の専用車両もあるが、コストの面で課題が残る。加えて、点検を行う作業員の数も減少しており、このままではいずれ安全管理がままならなくなる可能性も考えられる。

こうした社会課題を解決するため、リコーではカメラやコピー機で培った撮影・画像解析の技術を生かした「トンネルモニタリングシステム」事業に取り組んでいる。2020年9月からはシステムの一部が実際の点検現場で導入され、インフラ整備にイノベーションを起こす第一歩を踏み出した。

菊地:日本のトンネルは5年に1度、定期点検が行われています。われわれはこれをなるべく効率的に、かつ、高い精度で行うために、カメラと画像解析技術を用いた「トンネル内を時速40km程度で走行しながら壁面の画像を撮影し、高精度の展開画像を作成する」技術を開発しました。現状では、目視による確認、トンカチでトンネルを叩いて点検するといったアナログな作業も残っていますが、ゆくゆくは撮影機材を搭載した一般車両がトンネル内を一往復するだけで点検が完結するようなシステムを目指しています。

開発チームリーダー 菊地太郎(2005年入社)

こう語るのは、デジタルビジネス事業本部の菊地太郎。プロジェクト発足時からのメンバーで、現在は開発チームリーダーとして現場の指揮をとっている。当初は、撮影した画像をクラウド上で自動解析し、点検レポートの自動作成を行うところまで実装したうえでサービスを提供する予定だったが、現場からの要請に応じ、撮影をして画像化するまでの機能を先んじて提供することになったという。

菊地:事業化に先立ち、実際に点検を行う事業者にシステムを使っていただいたところ、高い評価をいただきました。年間100本以上のトンネルを点検されている方からは「専用車両と比べても、これまで見てきた画像のなかで一番画質が良かった」というお声もいただいています。これなら十分に実用化できる、早く使いたいというご要望を受けて、まずは一部のサービスの提供を開始することになったんです。

ラインセンサー型計測システムを載せた車両がトンネル内を往復し、トンネル覆工面(壁)を撮影する
トンネル覆工面の形状に応じた画像処理を行うことで、高精度な展開画像を自動で作成。ひび割れやねじのゆるみも確認できる

新たな価値をつくるべく、「物」から「デジタルサービス」へシフト

しかし、「コピー機の会社」のイメージが強いリコーが、なぜ「社会インフラの整備」に乗り出したのか? テーマ自体が発足したのは2015年。当時、菊地が所属していた研究部門では、様々な特色を持つカメラの開発を行っていた。その一つが、現在のトンネルモニタリングシステムでも使われている被写界深度拡大カメラだった。

菊地:被写界深度拡大カメラは、解像度と明るさを犠牲にせずに被写界深度(ピントの合う範囲)を拡大でき、被写体を鮮明に写せるもので、もともと工場の検品作業を行うために開発されました。しかし、用途としてはニッチなため、大量に売れるようなものではありませんでした。そこで、カメラ自体を売るのではなく、このカメラを使ったサービスを提供し、お客さまに新たな価値を提供できないかと考えたんです。

(左)従来カメラの撮影結果 (右)被写界深度拡大カメラの撮影結果。QRコードがくっきり認識できる
被写界深度拡大カメラが組み込まれたトンネルモニタリングの実機

その後、土木業界のお客さまから「トンネル内部の様子」を明瞭に記録できるカメラについて相談を受けたことをきっかけに、トンネルモニタリングシステムの開発がスタートする。だが、もととなる技術があったとはいえ、トンネルの点検用カメラは菊地にとっても会社にとっても未知の領域。カメラの技術だけでなく、光学や画像処理、そのほか様々な分野の知見が必要だった。

そこで、研究所内の専門家に相談し、ときには部長レベルに要望して人材を集めた。所属していた研究開発の部署は一つのテーマに専任するのではなく複数のプロジェクトを掛け持ちすることを推奨していたため、協力を仰ぎやすかったという。

立ちはだかる課題も、周囲のプロフェッショナルが助けてくれた

画像処理のソフトウェア開発を担う稲場大樹、光学設計のハードウェア開発を担う畑崎壮哉も、菊地の求めに応じてプロジェクトに加わったメンバーだ。稲場はもともと同じ研究所内の別部署でロボットの開発に、畑崎はカメラの設計に携わっていた。ロボットに使われる画像処理技術の知見を買われて登用された稲場は、当時のことをこう振り返る。

稲場:このテーマに異動したのは3年前です。このテーマは自分の技術領域だけでなく、組み込みや光学、メカなど、様々な専門家と仕事をします。これまでの研究開発とはまるで勝手が違い、最初は戸惑いもありました。例えば、画像を3D空間上で処理する際にカメラとレーザーセンサーを同期するシステムを開発する必要があり、レーザーセンサーの部分は私が担当していました。当然、カメラの組み込み開発チームとは専門性が異なりますので、しっかり意思疎通を図らないとお互いに勘違いしたまま開発が進んでしまいかねません。実際に、不具合が発生した際に、原因の特定までに時間がかかってしまったこともありました。

ソフトウェア開発(画像処理) 稲場大樹(2013年入社)

その反省を踏まえ、以降は互いの認識にズレが生じないよう密に連携。不具合が発生した場合は、まず開発担当者それぞれの開発領域に問題がないか徹底的に調べあげ、それでも原因が特定できないときには連携部分に目を向けるフローをとった。結果、スムーズに課題を潰せるようになったという。一方、畑崎もまた、当初は課題に直面した。

畑崎:入社1年目はカメラの設計を担当していたのですが、2年目にトンネルテーマの照明にチャレンジさせていただくことになりました。カメラは光を取り込む技術で、照明は逆に光を出す技術。正反対のことを求められるようになったので、最初はとても苦労しましたね。

ハードウェア開発(光学設計) 畑崎壮哉(2018年入社)

リコーには同じ研究所内に各分野の専門家がおり、若手社員のチャレンジを支えてくれる。技術的な壁が立ちはだかるたび、その道のプロフェッショナルに指導を仰いだ。

畑崎:研究所にはカメラや、リコーの超短焦点プロジェクターなど様々な分野のベテランがいて、いろんなことを勉強させてもらいました。自分でソフトウェアが使えるようになってからも、今回のトンネル撮影の照明で求められる明るさを実現するにはどうすればいいかなど、課題が出るたびに相談させてもらいましたね。多種多様なプロフェッショナルが身近にいる環境は、とても心強かったです。

創業時の理念に込められた、社会課題の解決への想い

若手技術者の成長もあり、プロジェクトは着々と前進していく。しかし、技術面の課題はクリアできても、実際にサービスとして事業化するには法務や品質保証など、様々なハードルを越える必要があった。それらを含めた事業デザインの設計を担ったのが、プロジェクトマネージャーの渡辺真史だ。

渡辺:とくに苦労したのは事業立ち上げのタイミング。リコーがこうした社会インフラに携わるのは初めてだったため、「答え」を知っている人が社内に誰もいないという状況でした。また、物を売るのではなく、サービスを提供するという点においても、事業をデザインできる人がなかなかいません。そのため、つねに模索しながら進めていきました。法務や品質保証の面など、社内で解決できない場合は外部専門家の知見も仰ぐなどして、本当に一歩ずつという感じでしたね。

プロジェクトマネージャー 渡辺真史(2009年入社)

そうまでしてこのプロジェクトに取り組む背景には、リコーが創業時から掲げるこんな理念がある。

渡辺:リコーはコピー機の会社というイメージが強いと思いますが、じつは創業時から社会課題に対する思いを抱いていました。それは「人を愛し、国を愛し、勤めを愛す」という創業の精神にも現れています。自分たちの儲けに走るのではなく、はたらく人を助け、国の繁栄を願い事業をしていこうという思いが「三愛精神」に込められているんです。社会的に意義がある営みによって、結果的に利益を得る。そんなDNAがあるからこそ、社会インフラというまったく畑違いの事業にも、迷いなく挑戦できるのだと思います。

こうした理念は現場にも浸透。当初は思いがけずプロジェクトに関わることになった畑崎も、いまでは社会課題を解決する仕事に大きなやりがいを感じている。

畑崎:私はリコーがそんなテーマに取り組んでいるとは知らずに入社したため、まさか自分が社会インフラに携わることになるとは想像していませんでした。最初は驚きましたが、たしかに日本には古いトンネルが多いと感じますし、祖父母の家の近くにも地元の人が使うトンネルがたくさんあります。それらを手間なく点検できるようになるのは意義深いこと。自分の仕事が社会の役に立つことを想像できるのは、大きなモチベーションになりますね。

神奈川県にあるトンネルにて

新たな成長の柱を。会社を挙げて新規事業を推進

こうした社会課題に対する思いに加え、近年では新規事業への社内のバックアップ体制も強化されている。既存事業に依存するのではなく、新たな成長の柱をつくる。そのためにリコーでは、社員が新しいことにチャレンジできる環境を整えてきた。その変化について、菊地はこう振り返る。

菊地:私が入社したのは2005年ですが、リーマンショック後の2008年頃から新規事業をつくる方向に大きく舵を切った印象があります。ちなみに、私自身も当初はコピー機の開発に携わっていましたが、新しいものをつくりたくなって2012年から研究所へ異動したんです。

こうした社員の思いをスムーズに進める仕組みや制度も整備されている。例えば、新規事業の立ち上げに際しては、「探索」「可能性検証」「実用化」「商品化」という4つのステージに分かれ、次のステップに上がるための課題が明確に示される。

菊地:商品化までの道のりがわかりやすいですし、つねに課題を意識しながら取り組むことができます。また、最近では副業的に様々なテーマに取り組める制度(『社内副業制度』)が設けられたり、社内外からアイデアを持つ人を募り、新規ビジネス創出を支援するアクセラレータープログラム「TRIBUS」という仕組みもできたりしました。

実際に事業化に至るまでの壁は厚いが、最初の一歩を踏み出すハードルはあえて低くする。それにより、多様なテーマの「事業の芽」が次々と生まれているのだ。実際、畑崎はトンネルモニタリングシステムにジョインしつつ、別の新規プロジェクトにも携わっている。

畑崎:私自身はまだ事業提案をしたことはありませんが、ちょうどいま、新しくテーマを立ち上げようとしているチームに副業的に入っています。隙間時間をうまく使い、本業8割、副業2割程度の力配分で動いていますね。私以外の研究所のメンバーも、一つのテーマだけに特化している人はあまりいなくて、複数のテーマを掛け持ちしている人が多い。それでも忙しくなりすぎることはないですし、やりがいを保てるいいバランスで取り組めているように感じます。

また、現在はトンネルモニタリングシステムに全力投球している稲場も、「その先」まで見据えている。

稲場:トンネルモニタリングシステムだけでも課題が山積みですので、まずはそこに注力したいと思っています。ただ、現状の技術課題にはしっかり向き合いつつも、その先にどんな価値があるのかは常に考えていきたいですね。例えば、トンネルの内部をスキャンする技術を応用すれば、ゆくゆくは街全体をスキャンして自動運転用の地図を構築できるようになる可能性もあります。あるいは、河川や法面など、あらゆるインフラ構造物の点検にも活かせるはずです。トンネルモニタリングシステムの開発事業で培った技術は、ほかの社会課題の解決にも必ず役立つのではないでしょうか。

目指すはさらなる進化。そして、世界進出へ

9月からサービスの提供が始まったとはいえ、プロジェクトはまだ道半ば。開発チームリーダーの菊地は、システムをさらに進化させていくことを誓う。

菊地:撮影や画像解析の精度を上げていくのはもちろんですが、今後はAIを活用するなどして、使えば使うほど、画像を集めれば集めるほど自動的に進化していくようなシステムにしていかなければいけないと考えています。いまはトンネルを点検する作業員さんが高齢化していたり、担い手が減っていたりします。人の手に頼っているところをなるべく自動化できれば、これから先もずっと安全なインフラを維持することができるのではないでしょうか。そのためにもさらに技術を高め、お客さまや社会に提供できる価値を広げていきたいと思います。

また、事業化を推進する渡辺も大きな目標を掲げる。当面は日本全国にこのシステムを広めること。そして、その先に見据えるのは世界進出だ。

渡辺:トンネルモニタリングはサービスインしたとはいえ、まだ一部の機能しか提供できていません。まずは点検をより簡単かつ正確に行えるよう、技術を高めていくことが重要です。そのうえで、今後は日本全国のトンネルに私たちの技術を使っていただけるよう働きかけていくこと、いずれは国内だけでなく世界に広げていくことを目指していきたいですね。

※インタビュー内容や社員の所属は取材当時(2020年11月)のものです。

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