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製品・取り組み

リコー独自の素材加工技術が実現した、植物と空気から生まれた「PLAiR」。安心して使えることがあたりまえの未来を目指して

目次

廃プラによる環境汚染対策や、CO2排出量削減という社会課題解決のため、化石由来プラスチックに代わる素材の開発が今、世界で積極的に取り組まれている。そんな中、脱炭素・循環型社会の実現を使命として取り組んできたリコーが開発したのが、植物由来の樹脂であるPLA(ポリ乳酸)を発泡させた新素材「PLAiR(プレアー)」だ。PLAiR開発のきっかけや製品の特長、そして、その普及によって実現したい世界の未来像について、リコーフューチャーズ・PLAiR事業センターでマーケティングを担当する門田拓也氏と、技術開発を担当する宮越亮氏に話を聞いた。

代替素材への移行が進まないプラスチックの課題

環境汚染の原因となる化石由来プラスチックに代わる素材の開発は今、世界的な課題だ。化石由来プラスチックが要因で環境中に残るマイクロプラスチックや、焼却によって排出されるCO2は、地球環境を汚染する要因として問題視されている。

プラスチックの社会課題に取り組む世界の現状を、PLAiRのマーケティングを担当する門田氏はこう語る。「全世界で容器や袋に使われている化石由来プラスチックの約7割は、埋め立てられたり流出したりしていて、地球環境に悪影響を与えています。焼却処理で排出されるCO2の増加も課題です。プラスチックの使用に関する規制が進む国も多く、植物由来のバイオプラスチックの開発や、紙製品への置き換えといった対策が行われています」。

リコーフューチャーズ BU PLAiR事業センター セールス&マーケティング室 門田 拓也さん

一方、他の国と比べて比較的分別回収の進む日本では強制的な規制もなく、コスト面の課題もあり代替素材への置き換えが進んでいないという現状もある。
そんなプラスチックの課題解決に寄与するのが、リコーが開発した発泡PLAシート「PLAiR」だ。

1人の技術者の発想からスタートしたPLAiRの開発

リコーは早くから、環境に優しい素材として植物由来の樹脂「PLA」に着目。2005年、業界内でも先駆けて複合機にバイオマス度50%の内部部品を採用するなど、バイオマスプラスチックの研究開発に取り組んできた。

「リコーは1990年代のはじめに、自社製品の素材開発やリサイクルから、循環型社会の実現を目指す取り組みを始めました」と門田氏。PLAiRに使われている超臨界CO2を利用して発泡PLAシートを作る技術は、もとはリコーのトナー用素材向けに開発されたという。そこに携わる技術者のひとりが、発泡PLAシートを外部向けに製品化できないかと考えたのが、PLAiR事業のスタートだ。

PLAiRの研究開発を手がける宮越氏は、実用化に至るまでの経緯をこう語る。「2018年頃にごく少数のメンバーで開発をスタートして、現在の発泡PLAシートのテーマを正式に開始したのが2020年の春ごろです。事業展開のめどが立ったため、2021年4月に、社会問題を解決する新規事業を手がける社内カンパニー『リコーフューチャーズ』の1事業として、PLAiRは本格始動しました」。

リコーフューチャーズ BU PLAiR事業センター 設計開発グループ 宮越 亮リーダー

主原料は植物由来。プラスチックの利便性もかなえるPLAiR

PLAiRの最大の特徴は高いバイオマス度を持つ素材であること。主原料のPLAは植物由来のでんぷん・糖からつくられている。例えば焼却処理をした場合、焼却時にCO2を排出するが、原料の植物は育つ過程でCO2を吸収するため、環境負荷の少ない循環を生み出す。*1さらに、一定の環境下で水と二酸化炭素に分解されるコンポスタブル*2という特性も持つ。

*1 カーボンニュートラルの特性の説明として「焼却しても大気中に二酸化炭素を増やさない」としていましたが、この表現では焼却した場合に二酸化炭素を排出しないという事実と異なる解釈を生む懸念があると判断し、変更しました。また、「環境にやさしい」や「植物由来プラスチック」といった表現も、適切な表現に変更しております。(2023年7月28日)

*2 JIS K6953-2に準ずる、58℃・好気性微生物存在下で実証済。

「発泡素材のため、断熱性や緩衝性を有し、食品の容器などに使用できます。従来のプラスチックと同様の利便性を持ちつつも、PLAのためリサイクルしやすく、焼却されても環境に負荷をかけません。使用後に、世界各地域のどのような方法で処理されても環境に優しいのが、PLAiRの特徴です」(門田氏)

「PLAiRは99%が自然由来の素材です。食品メーカーさんや外食企業さんが持ち帰り容器にバイオマス素材を一部含むプラスチックを使う取り組みをされていますから、この素材面の特徴が最大の魅力だと思っていますね」(宮越氏)

PLAiRは、発泡倍率や厚み薄さの調整によって、用途に応じた容器の成型ができる。耐熱性を備えているため、トレーのまま電子レンジで加熱する弁当や冷凍食品、お湯を注ぐカップラーメンの容器など、従来のプラスチック容器と同様の幅広い用途が可能だ。使い勝手が良く、環境にも配慮した容器で商品を提供したいと考える食品メーカーを中心に、PLAiRは高い関心を集めている。

実用化が難しいPLAの発泡シートを開発したリコーの独自技術とは

しかしPLAiRの実用化までには、多くの時間と労力を費やした。その主な理由は、PLAという素材の特性にある。

「PLAは、強度と耐熱性の確保に必要な結晶化に時間を要するため、生産コストがかかるという課題がありました。また従来の樹脂と比べて発泡しにくく、発泡製品としての活用が難しいという特性も持っています」と宮越氏。しかし、リコーが培ってきた材料配合技術と、「CO2微細発泡技術」等のプロセス技術の利用および製造工程の合理化によって、十分な強度を確保した発泡PLA製品の生産が実現した。

「耐熱性・断熱性の確保や、プラスチックの使用量削減のためにも、高発泡性の実現は不可欠です。発泡量がわずかだったところからプロセスや材料を改善して、発泡シートをきれいに、高発泡で作り上げるまで、非常に苦労しました。容器の形にするための熱成形プロセスでは柔らかい状態でないといけませんが、完成した製品には安全に使える強度と耐熱性を持たせなければいけないので、製造工程での結晶性の制御も大きな課題でしたね」(宮越氏)

協業も視野に、PLAiRの広い普及を実現したい

現在、食品メーカー等への提案や、顧客からのヒアリングを受けた製品の改善を実施中。成型用シート製品のリリースは、2023年度の早い段階を予定している。「導入に向けた検討が進むにつれて、お客様がより具体的なリクエストをくださるので、その課題を技術開発が解決し、製品を改善していくという良いサイクルができあがっています」と門田氏は言う。

PLAiR事業に携わるまでは製品開発を担当し、技術者としてのキャリアを歩んできたという門田氏は、顧客とのコミュニケーションから受ける刺激が大きいと語る。「これまでに得た技術者としての知識を生かしながら、お客様への提案やヒアリングをしています。PLAiRをお客様にお見せすると、皆さんとても興味を持ってくださるので、とてもやりがいがありますね」。

製品の改善を重ねた今、リリースへの手応えを強く感じている。「以前は結晶化の制御がうまくいかず、成形上の課題などがありました。現在は結晶化や発泡の技術が改善され、強くしなやかで、発泡倍率や厚みを変えたさまざまな形状の容器を作れるようになり、積極的に導入を検討されるお客様が増えています」(門田氏)。

事業としての今後の目標は、PLAiRを広く普及させることだ。また、原料使用量を減らしつつ高品質な製品を作れる発泡技術は、さまざまな素材の削減にも寄与する。他素材への活用も含めて、PLAiR のCO2微細発泡技術を広く展開することも見込んでいる。

「PLAiRを全世界に安定して供給していくためにも、リコーだけでは難しく、他社との協業は不可欠。軽量の発泡シートを加工先に納品すると輸送コストがかかるので、成形加工会社の近辺工場内で発泡シートを生産していただくことも検討しています。外部の方々とも協力して、幅広く技術の利活用を進めたいですね」(門田氏)

リコーの「あたりまえ」を社外に広げ、社会課題の解決に寄与していく

PLAiRを普及させる上での課題は、コスト面と性能の改善とふたりは語る。「バイオマスプラスチックの製造には、従来のプラスチックよりもコストがかかります。材料の配合や加工を合理化して、お客様にメリットを感じていただける価格を実現するのが今の課題です」と宮越氏。99%を超えるバイオマス度を100%に近づけながら、さらなる性能アップも実現したいと宮越氏は意気込む。

「これまでのキャリアでは材料合成や材料の加工技術を専門に仕事をしてきたのですが、PLAiRはまさに材料合成と加工技術の複合によって完成した製品です。私が今まで培ってきたものと非常にマッチしているので、個人的にも、PLAiRをさらに発展させて、広く普及させたいと思っています。プラスチックは環境に負荷をかけるという側面もありますが、その利便性は非常に高いです。お客様の利便性を確保しつつ、環境に優しく、安心・安全に使える素材を提供していきたいという思いが強いですね」(宮越氏)

社会課題へ取り組むリコーの姿勢について、門田氏はこう語る。「リコーは1998年に『環境経営』を提唱するなど、長らく脱炭素社会・循環型社会への取り組みを積極的に行ってきたので、社内では環境への配慮は当然のことだととらえられています。そのリコーの『あたりまえ』を事業として社外に広げていく組織が『リコーフューチャーズ』です。今後も、さまざまな社会課題に関わる新規事業を提案型で展開して、ひとつでも多くの世界の課題の解決に寄与していきたいです」。ビジネスを通じて持続可能かつ人々が快適に暮らせる社会を実現するという、リコーの挑戦は続く。

関連情報

発泡PLAシート「PLAiR」(ブランドサイト)

植物と空気から出来た新素材「PLAiR」(技術情報)

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