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プリンティング技術が、製造業に革命をもたらす 再生医療の未来を刷新する — ヒト組織のバイオプリンティングへ

この記事は、Newsweekで制作、2019年1月に同誌およびWEBサイトに掲載されました。

メール、報告書、計算書、マップ、さらには本まるごと一冊まで ― 私たちは絶え間なく情報を送り出し続けるディスプレイに囲まれて暮らしています。IT技術の進展によってお金のあり方も変化を遂げ、現金や小切手、クレジットカードさえ不要となった現在、印刷物を作ることに意味はあるのでしょうか? 画素数さえ増やしていけば良いのでしょうか? それとも、印刷はもう「死んでしまった」のでしょうか?

いいえ。現実は、まったく正反対の方向に進んでいます。 印刷の世界はもう、インクと紙の世界の遥か先まで広がっているのです。想像される限りのあらゆるものを具現化したり、デザイン、健康、環境の分野に新たなソリューションをもたらす様な、新たなテクノロジーやコンセプトの数々を秘めています。リコーは印刷業界における革新者として、オンデマンド印刷、環境に優しい印刷、プリント建材、食品への印刷、さらにはヒト組織のバイオプリンティングといった新たな技術やコンセプトを駆使しながら、国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に貢献しています。

将来、印刷はどのような役割を果たすべきなのか ― この問いに応えるため、リコーでは革新的な印刷技術を日々の生活のなかに自然に溶け込ませ、一人一人に合わせてカスタマイズしながら、製造工程によって起こる悪影響を低減させることに努めています。「印刷技術によって製造革命の火付け役となる」べく、商品ディスプレイなど見慣れたグラフィックスをさらに鮮やかなものに変え、普段の生活を彩り豊かにする最先端の印刷技術や、再生医療の分野における応用印刷など、主要領域に重点的に取り組んでいます。

「表示する印刷」の分野では、デジタル印刷によってオンデマンド印刷のコスト効率向上を実現しており、短いリードタイムでの少数印刷に法外なコストがかかることもなくなっています。アパレル業界では、リードタイムの長い衣料品を大量生産するという時代遅れの手法に頼るのをやめて、ファストファッションの在庫ローテーションを行うなどして、トレンドの目まぐるしい変化に追いつく力をつけています。同じように、装飾品や壁紙、床材など建材の生産を行う企業も、オンデマンド印刷によって実際に使うものだけを生産し、廃棄物を削減できるようになりました。

衣類に用いられる布地(テキスタイル)の染色の際に発生する数十億トンもの廃水は、水質汚染や土壌汚染の原因となっています。また、壁紙や床材についても、流行の変化にともない、大量の材料が埋め立て廃棄されています。必要な量だけの生産を可能にするオンデマンド印刷を実現するには、プロセスのデジタル化が不可欠です。けれども、リコーが行った調査では、繊維・建材市場の製造プロセスにおけるデジタル化率は10%にさえ満たないという結果が出ています。オンデマンド印刷を推進することで、在庫管理の効率化に加え、廃棄される余剰在庫の削減にもつながります。リコーが開発した特殊インクは、廃水の原因となるテキスタイルの洗浄プロセスを不要とすることで、環境汚染の問題にも貢献するものとなっています。

オンデマンド印刷は、環境や収益の面だけでなく、クリエイティビティについてもプラスとなります。少ないロットでも製造することが可能なため、メーカーとしてもさほどの負担を感じることなく、無理のないコストで他にはないデザインの商品を製造できるようになるでしょう。

印刷技術を応用した「機能する印刷」の分野では、3Dプリンティング技術の活用によって、細胞組織、骨、電子部品を始めとする画期的な用途も生まれています。3Dプリンティングによって、これらのリードタイムとコストは劇的に短縮されました。こうした進歩はバイオメディカル分野においてもめざましい進展を見せており、リコーによって大きく塗り替えられた再生医療の未来像は、SFの世界の出来事から、リアルなものへと変化を遂げています。

想像してみてください。患者のケガをヒト組織で治療することを、あるいは、傷ついた心臓を、完璧に複製された心臓に取り換えることを ― しかも、こうした組織や心臓は、オフィスのインクジェットプリンターと同じ技術でプリントできるのです。リコーでは、自社の技術で必要な機能を備えた移植可能な3D臓器の生成に貢献できると考え、その実現に向けて力を注いでいます。生きたヒト細胞を層状にプリントする技術はすでに開発されており、リコーでは大阪大学との協力により、拍動する3D心臓組織の生成に成功しています。

リコーのインクジェットプリンターに採用されているコア技術の一つは、高精細画像を出力できるように調整された、高精度の液滴噴射システム、インクジェットヘッドです。この技術を細胞に応用すれば、レンガを積み上げて家を建てるように機能性組織を出力する、3Dバイオプリンターの開発も夢ではありません。

「リコーが開発したインクジェットヘッドなら、高精度で細胞を組み上げて実際に機能する組織を生み出せる、という自信があります。(リコー未来技術研究所の瀬尾学氏)」

生きた組織を印刷しようと思えば、当然、難題がつきものです。特殊な条件をクリアし、インクと同様に細胞を層状にプリントするためには、汎用インクジェットヘッドの改造が必要でした。さらに、熱など細胞にダメージを与える可能性のある方法を使わずに、インクジェットヘッドから細胞を噴射し、なおかつ細胞を層状に配置する必要がありました。リコーはこれらのコア技術を開発し、機能的細胞に応用することに成功しました。現在、完全に機能する器官をいつの日か実現することに向け、細胞分注機構の精度向上に取り組んでいます。

「バイオプリンティングというコンセプトは、当初、非常に難しいものに思われました。ですが、3Dプリンティング全体の急速な進歩を見れば、細胞をプリントすることも、今なら実現可能なアイデアと言えるでしょう。(組織工学の専門家林 和花氏)」

「人を想う」、その想いは人と人の間でアイデアになり、社会とつながって新しい価値になる。私たちリコーは、そんなしあわせの連鎖をデジタルで支え、持続可能な社会に貢献していきます。EMPOWERING DIGITAL WORKPLACES

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