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リライタブルレーザシステム

リコーは通い箱を使って配送される物流のラベルを、通い箱に貼ったまま非接触で高速に約1,000回書き換えられる技術を確立しました。屋外の過酷な条件下でも5年以上繰り返し使え、環境負荷とコスト削減に大きく貢献します。

本リライタブルレーザシステムは、日本画像学会より平成24年度技術賞を受賞しました。

開発の背景

リライタブル記録技術は、その利便性や環境負荷低減の点から注目度の高い技術分野として従来より各種方式が提案されてきました。特に、熱を利用したサーマルリライタブル記録媒体はいち早く実用化され、サーマルヘッドによる記録方式によってポイントカード、ICカードなどに数字や期限を表示するカード表示用途に広く使われてきました。さらに、このリライタブル記録技術をFAや物流などの産業用途にも応用する検討がなされてきました。産業用途の中で、定期的な配送をする物流分野では、荷物を確実に届けるため、配送先や内容物を示すバーコードや文字情報をプリンタでラベルに印刷し、配送先毎に通い箱に毎回貼付けています。このラベルは通い箱が戻ってくると剥がして廃棄し、新たな感熱ラベルを貼り付けるということが繰り返されています。

この毎回廃棄されるラベルをリライタブル記録媒体にできれば、ゴミの削減およびCO2排出量低減などの環境負荷低減が可能になります。さらにラベルを貼りかえる作業にかかる人件費の削減、および剥がし残りなどによる物流システムトラブルにつながるリスクを低減できるようになり、大幅な業務効率化を図ることができます。しかし、接触記録方式のサーマルヘッド記録では長期間の使用により変形した通い箱上の媒体には印字しづらく、また従来のカード用リライタブル記録媒体は物流用途で要求される屋外での直射日光に対する高い耐光性性能を達成することができません。

リコーは、屋外での過酷な条件化下で利用する際のこれらの課題を独自技術で解決し、リライタブル記録技術を物流用途にも適用可能にしました。

システムの基本構成と特長

リコーが開発したレーザによる非接触書き換えシステム「リライタブルレーザシステム」は、光分布の均一化により繰り返し耐久性を向上できるリライタブルレーザ印字・消去機、および耐光性を向上させたリライタブルレーザメディアから構成されています(図1参照)。


図1: リコーリライタブルレーザシステムの構成要素と
ベルトコンベアの上を流れる通い箱に添付された記録媒体を非接触で書き換える運用例


リライタブルレーザ印字・消去機の装置構成と特長

図2はリライタブルレーザマーカの光学系概略図です。半導体レーザ(LD)から光ファイバを通り出射されたレーザ光(最大出力125W)は、光学レンズを通り90度異なる向きに配置された2つのガルバノスキャナを介して円形ビームスポットを作り、リライタブルレーザメディアを180℃以上に加熱しメディア上に幅約0.25mmの線を描きます。ガルバノスキャナはレーザ光の角度を変化させる装置で、レーザ光をペンで描くようになぞるベクタースキャン方式で文字を印字します。


図2:リライタブルレーザ印字・消去機の基本構成

リライタブルレーザメディア上の画像は、発色温度より低い130~170℃に加熱されることで消去されます。メディア全面をこの温度範囲内に均一かつ高速に加熱するために、消去時はビーム径を大きくして円形ビームを2次元走査する加熱方法を採用しています。ビーム径は光学レンズ(Zモジュール)でデフォーカスすることで制御しています。消去時間を短縮するために、走査時のジャンプが少ない「往復走査」を採用し、さらに、折り返し部の過剰加熱を回避するために、「往復ジグザグ走査」とすることで短時間・繰返し耐久性向上の両立を実現しています。


図3:光学レンズ(Zモジュール)におけるデフォーカス制御(左)と走査方法の比較(右)

また、物流用途での実用性を高めるため、異なるサイズの通い箱や箱の変形に対応するために、距離調整機構、およびレーザ光走査速度調整機構を設けています。さらに媒体温度検知によるレーザエネルギー制御機構を独自に開発、導入しています。


一般のレーザマーカはプラスチックや金属などさまざまな材料へ非接触で印字できる装置で、製品へ番号や日付を印字するために生産工場で広く利用されています。しかし、レーザマーカのレーザ光は鋭い山形の光分布(ガウス分布)を有しており、リライタブルメディアに印字すると印字した線の中央部に過剰な熱が加って、印字・消去を繰り返すことによりメディアが劣化し、消え残りが発生するという課題がありました。


リコーのレーザマーカでは、光学系を工夫することにより、中央部と周辺部の光強度が均一な光分布(トップハット)を実現しました。その結果、印字する線を均一に加熱することができ、印字線の中心部に過剰なエネルギーを加えず、メディアを劣化させることなく高速印字を可能としました。


メディアへの視認性の高い印字

レーザマーカによるレーザ光をペンで描くようになぞるベクタースキャン印字方式は、サーマルヘッドのような画素単位で加熱をON/OFFさせるラスタースキャン方式に比べて滑らかな文字画像を形成することができ、視認性の高い印字が可能です。市場の要求に応えるべく、リライタブルレーザマーカでは図4に示すようにさまざまな印字画像が形成できます。図4(a)は物流分野で使用される画像例で、管理上必要なバーコードや文字、数字などの画像が鮮明に印字できています。サーマルヘッド印字では横バーのバーコード品質が低下するのに対して、本システムで使用しているベクタースキャン方式では図4(d)にあるように、縦横とも同等の高い印字品質が確保できています。


図4:リライタブルレーザシステムで印字できる各種印字画像
※QRコードは、(株)デンソーウェーブ​の登録商標です。

   

メディアの耐光性向上技術

天候や気温の変化にさらされる屋外での物流用途では直射日光にも耐える高い耐光性がメディアに要求されます。従来のサーマルヘッド(TPH)用リライタブルメディアは、直射日光にさらされると画像濃度の低下や地肌の着色、さらに画像消去後の消え残りが発生するという問題がありました。これら性能低下の原因は、紫外光と酸素による記録層中のロイコ染料の分解によるものです。リコーの開発した半導体レーザによる記録では、記録層上に近赤外レーザ光を透過する厚い層の形成が可能である特長を活かし、図5に示すように記録層上に400nm未満の紫外領域を遮断し可視光を透過させる紫外線吸収剤を新規に合成した紫外線遮断層を形成しました。さらに、記録層を挟むように酸素を遮断する酸素遮断層を形成することにより高い耐光性を有するリライタブルレーザメディアが誕生しました。


図5:リライタブルレーザメディアの基本構成 (製品での層構成とは異なります)

図6(a)はリライタブルレーザメディアとTPH用リライタブルメディアの耐光性の試験結果サンプル、図6(b)は画像濃度と消去濃度の変化を示しています。耐光性試験はキセノン光照射による加速試験で実施しており、キセノン光照射256時間が屋外での物流用途5年に相当します。TPH用リライタブルメディアは耐光性試験後は画像が薄くなり地肌は黄変しコントラストが極端に低下しています。これに対して、リライタブルレーザメディアは試験前後での画像の変化はあまり見られません。これは図6(b)の濃度測定結果グラフからも明らかです。

また、バーコード特性においても、TPH用リライタブルメディアは耐光性試験後Fグレード(バーコードスキャナで読み取りができないレベル)に対して、リライタブルレーザメディアは物流用途で要求されるCグレードを維持できており、屋外での物流用途で5年以上使用可能であることがわかります。

(a)5年相当の耐光性試験結果

(b)耐光性試験による画像濃度と消去濃度の変化

図6:リライタブルレーザメディアとTPH用リラタブルメディアの耐光性の違い

メディアの繰り返し耐久性向上技術

レーザマーカによるレーザ光をペンで描くようになぞるベクタースキャン印字方式は、多数のドットで文字を表現するラスタースキャンに比べ、短時間で描画が行えること、また文字の輪郭を滑らかに表現できる利点があるため、FA用途などで広く利用されています。しかし、リライタブルレーザシステムで通常のレーザマーカの文字データをそのまま描画に利用すると、図7に示すように交点部や折り返し部が複数回加熱されてしまいます。これにより、その部分に過剰な熱が加わることになり材料の分解温度に達してメディアが劣化し、消え残りが発生するという繰り返し耐久性の課題がありました。

重複を除去できれば過度の温度上昇の問題は解決できます。フォント自体を前もって作成して重複を除去する対策が考えられますが、文字の大きさ、線幅は、装置設定により変化するので、過不足なく重複部を除去したフォントを作成するには膨大な手間がかかります。しかも、線幅・文字サイズを想定して、重複がないようにフォントを作成した場合に、図8のように文字の拡大率によって重複が残ったり、隙間が空いたりして品質が低下してしまう課題がありました。そこで、リコーは、文字の大きさや線幅に応じて文字データの重複部を自動的に除去する文字描画データ生成ソフトウエアを開発することにより、過度の温度上昇なしに品質の高い文字を描画することができるレーザ光走査制御技術を確立しました。本技術を搭載したリライタブルレーザマーカを用いると、文字を異なるサイズで描画しても図9に示すように隙間はなく、かつ重複も除去されるため、視認性の向上に加え繰り返し耐久性の向上が実現しました。

図7: 交点や折り返し部の複数加熱の例

図8:フォントを前もって作成して重複を除去し、
文字サイズを変えた例

図9:文字の大きさに応じて
自動的に重複部を除去した画像

図10(a)は文字データの重複部を自動的に除去する文字描画データ生成ソフトウエアを組み込んだリライタブルレーザマーカを用いて、リライタブルレーザメディアに1,000回印字・消去を繰り返した結果を示しています。図10(b)は重複除去を行わないで印字・消去を行った結果です。重複除去を行わない場合は、交点や折り返し部が黒い斑点状に残っていますが、重複除去を行うと1,000回繰り返した後でも均一に消去可能であり、メディアが本来持つ耐久性性能が発揮できています。

(a)重複除去を行い印字・消去した場合

(b)重複除去を行わずに印字・消去した場合

図10:重複除去の繰り返し耐久性向上の効果

導入の効果

本技術により、リライタブル記録がより広い分野で環境保護や業務効率化に貢献することが可能となります。物流分野への展開では、現在は通い箱への表示方法として感熱ラベルをオートラベラーで印字、貼り付けを行い、通い箱が戻ってきたときにラベルを剥がし、新たなラベルに印字、貼り付けを行う運用方式を用いているためゴミが排出されます。本技術を搭載したリライタブルレーザシステムでは約1,000回の書き換えが可能になります。通い箱の寿命とほとんど同じ期間(数年間)貼り替えなしで使用できるようになるため、使用期間のラベルゴミはゼロとなり(図11)、CO2排出量も約10分の1(図12)。環境負荷削減に大きく貢献できます。本システムを現在国内で通い箱を運用している物流用途全体に展開することができれば、感熱紙ラベルの物量として、年間約4,800tの削減が可能と試算できます。

図11: 中規模物流センタの5年間のラベルゴミ廃棄量の比較

図12: 中規模物流センタの5年間のCO2排出量の比較

さらに従来の感熱ラベルでは通常ラベルの剥がしを人手で行うため、その人件費が必要になります。また人が介在するための剥がし忘れや剥がし残りが発生し、剥がし残った前のバーコードなどが読み取られることにより物流の仕分けシステムのトラブルにつながるなどの課題がありました。リライタブルレーザシステムを活用することにより、ラベル剥がしの人件費を削減でき、剥がし残りによるシステムトラブルをなくすことができることで、物流業務の大幅効率化を実現しています。

参考文献

  1. 論文
  2. 学会発表
    • 1) 川原、石見、堀田:リライタブル熱記録媒体へのレーザ記録 (1) レーザ光強度分布制御による繰返し耐久性の向上、Proceeding of Imaging Conference JAPAN 2007, 51 (2007)
    • 2) T. Ishimi, S. Kawahara, T. Asai, Y. Hotta: Laser Recording on Thermal Rewritable Media (2) Simulation of Thermal Distribution and Control of Intensity distribution Using the Optical Lens, Proceeding of Pan-Pacific Imaging Conference 2008, 390 (2008).
    • 3) 淺井、川原、石見、堀田:リライタブル熱記録媒体へのレーザ記録 (3) 半導体レーザ記録による耐光性の向上、Proceeding of Imaging Conference JAPAN 2010, 223 (2010).
    • 4) 古川、 長谷川、 土屋、 山本、 淺井、 石見、 堀田:リライタブル熱記録媒体へのレーザ記録 (4)半導体レーザ光走査制御による繰り返し耐久性の向上、Proceeding of Imaging Conference JAPAN 2012, 255 (2012).
    • 5) 土屋、 長谷川、古川、 山本、 淺井、 石見、 堀田:リライタブル熱記録媒体へのレーザ記録 (5)半導体レーザ光走査制御によるバーコード,2次元コード作像技術、Proceeding of Imaging Conference JAPAN 2013, 283 (2013).
    • 6) Y. Hotta, T. Furukawa, K. Yamamoto, T. Ishimi, S. Kawahara: Development of Rewritable Laser System, Digital Fabrication and Digital Printing, NIP30 Technical Program and Proceedings, 292(2014)