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Front Runner
研究テーマ、「人を楽しませる商品作り」。関 海克(工学博士)
技術の価値はお客様が下す

学生時代の専攻は非球面形状計測技術の研究でした。また修士課程ではホログラフィーの研究をしていました。そうして培った画像処理技術の知識を活かせるところはどこかと考え、リコーを選択。光学分野でも長年の実績を背景に高い技術力を有している点も魅力的でした。

入社後、最初に携わったテーマは、「紙のセキュリティ技術」。プリント時に情報を隠蔽した地紋を文書の背景に重ねて印刷することで紙文書をセキュリティ上の脅威から守るものです。コンピュータやネットワークでのセキュリティについてはさまざまなメーカーが取り組んでいますが、出力した紙のセキュリティまで考えるというのは“紙と電子情報の融合”を謳うリコーならではの発想だと思います。

この仕事を通して私は、世の中の人々に役に立つ技術を開発することの意義を体感しました。紙のセキュリティ技術は2003年に発売されたデジタル複合機(MFP)imagio Neo 602/752に「不正コピーガード機能」として搭載されたのです。研究者はともすれば技術の追究にのみ傾注し、それが社会にどう影響を及ぼすかということまでは考えないことも少なくありません。しかし、メーカーのR&Dは研究のための研究ではなく、商品化し、さらに市場、お客様に評価されなければ意味がありません。

商品化提案ができるR&D

かん・かいこくの写真2004年、それまでの画像セキュリティ技術の開発に加え、新たに複数の開発テーマが立ち上がりました。レンズの収差補正(*1)、長時間露光ノイズリダクション(*2)、そして斜め補正というデジタルカメラ向けの画像処理技術です。斜め補正とは、四角形の被写体を斜め方向から撮影した場合に生じる歪みを補正するものです。前の2つはデジタルカメラの事業部(パーソナルマルチメディアカンパニー:PMMC)からの依頼でしたが、3つめの斜め補正は私たちR&D部門が提案した機能でした。PMMCにデモを見せたところ「これは面白い、ぜひカメラに搭載しよう」と言われ、商品化に向けた開発がスタートしました。

*1 レンズの収差補正:画像の中心部と周辺部での結像倍率が異なるために生じる幾何学的歪を歪曲収差、光軸に対する入射光角度の相違によって生ずるレンズ周辺部の照度低下を周辺減光収差という。光学設計上で抑えきれないこれらの収差を画像処理技術で補正することが可能である。
*2 長時間露光ノイズリダクション:長時間露光において、撮像素子(CCD)の発する信号が画像ノイズとなって顕現化する。これを除去する画像処理技術を長時間露光ノイズリダクションという。

収差補正技術の開発で、私は初めてテーマリーダーを任されました。与えられた技術課題に取り組むというそれまでの立場と違って、開発目標の達成に向けてヒト、モノ、カネという要素を勘案しながら計画し、それを推進していく役割を担うことになったのです。商品開発経験が少なかった私にとってこれはとても責任の重い仕事でしたが、上司やメンバーにも恵まれ、商品化へと持っていくことができました。

一方、斜め補正では、主に斜め形状補正アルゴリズムとソフトウェア開発を担当しました。前述の収差補正も同様ですが、デジタルカメラは使用できるCPUやメモリのリソース(*3)が限られています。その中でいかに高速かつ円滑な処理を実現するか、開発者の腕の見せどころとなります。とは言え、開発は決して一人で行えるものではありません。開発グループのメンバーや関連部門の人たちと連携しながらひとつずつ障壁を突破していきました。この技術はCaplio R3(2005年11月発売)に搭載され、今なおリコーのデジタルカメラに搭載され続けています。

*3 リソース:一般にデジタルカメラに搭載されたCPU能力はパソコンの約1/100、メモリ容量は約1/1000という環境だ。

商品事業部と北京研究所のインターフェース役

共に商品化に挑戦したSRBCのメンバーその後、デジタルカメラの画像処理技術開発が私の仕事の中心になっていきました。そんな中、 Ricoh Software Research Center Beijing (SRCB) 設立に向けた動きがスタートしました。成長著しく、優秀な人材も豊富な中国で最先端の技術開発を進めるための拠点です。私はその立ち上げのサポートから、その後のデジタルカメラ画像処理開発チームの取りまとめまで幅広く受け持つことになりました。SRCBのメンバーは全員工学博士でしたが、商品開発の経験はまったくない人ばかり。研究室での試作機作りとお客様に購入してもらう商品の開発との違いを理解してもらうところからスタートしました。

このSRCBで最初に取り組むことになったテーマが、顔検知技術の開発です。今でこそさまざまなメーカーのデジタルカメラに搭載されている機能ですが、リコーは業界で3番手でした。一番乗りでなかったことが悔しく、なんとしてでも早期に追いつこうという気持ちで開発に着手しました。

PMMCのメンバーとユーザーニーズをいかにして仕様に落とし込んでいくかを検討する一方、SRCBのメンバーとは課題を抽出しながら具体的にどう技術開発していくか、その道筋を一緒に探しだしていきました。商品化経験のないSRCBのメンバーを牽引していく上で私が心がけたのは、常に目標を明確にすることでした。それによって、迷いやつまずきが生じた時、何を最優先すべきかが見えてくるからです。

文字通りゼロからの出発でしたが、日本と中国双方のメンバーが持てる能力を存分に発揮しあえた結果、1年後の2007年3月、顔検知機能を無事商品(Caplio R6)に搭載することができました。PMMCやSRCBのメンバー、そして私自身にとってもすばらしい経験を積むことができたと思っています。

ダイレクトに届くユーザーの声

かん・かいこくの写真顔検知はキャッチアップ技術でしたが、その次に取り組んだテーマは、まだどのメーカーもやっていない技術でした。具体的にはマルチパターン・オートホワイトバランス、ダイナミックレンジ拡大、そしてマルチターゲット・オートフォーカスという機能です。その時PMMCとSRCB、そして私の所属するR&D部門の連携で挑戦していきました。GRシリーズやCaplioシリーズの相次ぐヒットでリコーはデジタルカメラ分野への取り組みを拡充し、私もすでに100%その技術開発にシフトするという状況になっていました。

未踏の新技術搭載に先立って、私たちは市場調査を実施しました。どんな機能があれば便利か、撮影が楽しくなるかを徹底的に調べて回りました。そして搭載すべき機能を絞り込んでいきました。冒頭、技術の価値はお客様が決めると述べましたが、コンシューマ向け商品の場合はダイレクトに評価が伝わってくるだけに緊張感もあります。さらに、開発途上でのユーザー評価(*4)にもこれまで以上に力を入れました。今回もすべてが初めての試みばかりでしたが、まだどこも実現していない機能をどこよりも早く自分たちの手で実現するんだという熱意が、いくつもの困難を乗り越えさせてくれました。

*4 開発途上でのユーザー評価:例えばマルチターゲット・オートフォーカスは当初、撮影者が合焦点を選択する方法も検討された。しかし、試作品(プロトタイプ)を使ってユーザー評価していく中で、利便性の観点から、カメラが自動的に合焦点を選び出してくれる方法を採用することになった。リコーの新たな技術はこうした仮説と検証のプロセスを通して誕生したのだ。

こうして誕生した新技術は2009年2月発売のCX1に搭載され、市場で高い評価を獲得しました。あるユーザーが自分のブログに『これまで日陰のポートレイトがうまく撮れなかったが、今度のマルチパターン・オートホワイトバランスですばらしい写真が撮れるようになった』と書かれていたのを目にした時の感動は今でも忘れられません。

リコーだからこそ描ける夢がある

デジタルカメラの技術はまだまだ発展途上にあります。撮影者の狙い通り、思い通りの写真や動画をもっと簡単に撮れるようにしていかなければなりません。同時に、写真はただ撮ってそれで「おしまい」というものではありません。撮影したものをどう楽しむか、今後はそれも重要なテーマになってくると私は考えています。デジタルカメラの普及に伴い個人が所有する画像はますます増大する一方です。その中からベストショットを選び出すのに苦労した経験はないでしょうか。ジャストアイデアですが、例えば特定の条件やテーマに添った画像だけを自動的に抽出しスライドショーで再生してくれる機能があったら楽しいと思いませんか。

リコーはやりたいテーマがあればそれを提案し、自ら取り組むことを歓迎する社風があります。また、先取りの精神が旺盛で、新しい技術に積極的に挑んでいくことができます。自分の意欲次第で可能性はいくらでも広げられるのです。私は今、ユーザーの意のままに撮影し、さらにその画像をさまざまな方法で楽しむための共通プラットフォームを構築できないかと考えています。商品単体では難しいことも、さまざまなデバイス、システムを有機的につなげることで実現できるのではないか、と。これは、画像機器やそれを活かすためのソリューションを有するリコーだからこそ描ける構想だと思います。

かん・かいこくの写真 かん・かいこく(工学博士)
Haike Guan


総合理工学研究科 物理情報工学専攻。博士課程修了。工学博士。2001年入社。画像セキュリティ技術及びデジタルカメラ画像処理技術の研究開発に取り組む一方、SRCBでのR&D推進など幅広く活躍。趣味は野球観戦。休日は水泳、テニスを楽しむ。
(2009年12月)

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