Skip to main content Skip to first level navigation
Breadcrumbs

Share

Main content

ニュースリリース

IJP法によるPZT薄膜のアクチュエータ開発と鉛フリーのピエゾ材料開発
リコー、2つの技術開発に同時に成功

2012年5月21日
株式会社リコー

 株式会社リコー(社長執行役員:近藤史朗)は、PZT(ジルコン酸チタン酸鉛)(*1)を2ミクロンの膜厚に任意のパターン形状で作製できる独自のインクジェットによる印刷技術(IJP)の開発に成功し、本工法により作製したアクチュエータ(*2)でその機能性を実証しました。また、同時にシリコン基板上でPZT材料並みの変形特性を有する鉛フリーの材料を開発しました。これらはいずれも世界で初めて成功したものです。両技術を組み合わせることで、将来的にはシリコン基板上にIJP法でPZTと同等の機能性のある鉛フリーのピエゾ素子(*3)を低コスト、低環境負荷で製造できることになります。

 電子デバイスの製造プロセスにインクジェットの印刷技術を用いるIJP法は、従来の半導体製造プロセスに比べ、材料の高い利用効率、少ない工数、製造時の環境負荷低減、製造コストの大幅な低減、多品種少量生産への対応力など多くのメリットがあり、近年大いに注目を集めています。

 今回リコーは、圧電素子材料として多用されているPZT材料を独自技術によりインク化して、通常のIJP法による成膜の約50倍である2ミクロンの膜厚でアクチュエータとして機械的変形特性を発揮するピエゾ薄膜パターンを形成することに成功しました。これは、正確なパターンを描くためのインクの吐出制御技術と基板表面の親水-疎水性を制御する技術(*4)、さらには不要物を排除しながら厚膜を焼く焼成技術等の集積があって可能となったものです。また、膜厚を均一に形成するため、溶剤の種類や乾燥速度などに独自の工夫を行っています。

[写真]1.2

 PZTは優れた圧電特性(*5)、強誘電特性をもち、センサーやアクチュエータなどとして、カーナビゲーションシステムや高精度位置決め装置などさまざまな製品に使用されています。PZTはRoHS指令(*6)の規制物質とされている鉛を含んでいるにも関わらず、代替できる特性をもつ材料がないために、同指令の適用除外となっており、代替材料の実用化開発が望まれています。このため、鉛フリーの材料開発が各方面で進んでいますが、実用レベルには至っていないのが現状です。

 リコーは今回、PZTに代わるピエゾ材料として、鉛フリーのチタン酸バリウムにスズを添加した材料系(BSnT材料)で、PZT並みの変形特性(電圧を加えたときの変形量)をもつ材料を開発しました。この材料は、良質の膜を形成する際に高温度で焼く必要がありますが、リコーは、基板の下地層(ピエゾ材料の下層に設ける電極層)の耐熱性を上げることで、シリコン基板上でも実用レベルのBSnTの成膜を可能としました。これにより、MEMS化やモジュール化なども可能となり、応用範囲が格段に広がりました。さらに、粉体から作製する従来方法とは異なり、リコーはBSnTの原材料に液体を用いる方法を採用しており、ピエゾ薄膜を形成する際にコスト面/環境面で有利なIJP法を適用可能としています。

[写真3]焼成温度によるBSnT膜の組織の違い

焼成温度によるBSnT膜の組織の違い
(結晶粒径の大きいほうが良質の膜で、高温で焼いたほう(右)が良質であることがわかる)

 ピエゾ材料はもともと非常に広範囲に利用されていますが、この2つの技術を組み合わせることで、従来のPZTの圧電素子を材料面(鉛フリーの材料)と製造プロセス面(IJP法)の両面、すなわち環境面とコスト面から代替できる可能性があると考えています。リコーはアクチュエータのプロトタイプを製作する予定で、その後、製品化に向けた技術課題の対応を図っていきます。

 なお、リコーは両技術を5月23日~26日に京都で開催される、強誘電体関連では国内最大の会議である「第29回強誘電体応用会議(FMA29)」で発表します。

  • *1 PZT(ジルコン酸チタン酸鉛): ジルコン酸鉛とチタン酸鉛の固溶体セラミックスで、家庭用ガス器具の圧電着火素子、超音波振動子、圧電ブザーなどに使用される。 現在最も汎用性が高い圧電材料である。
  • *2 アクチュエータ:入力されたエネルギーを物理的な運動へと変換する機構のこと。一般的にアクチュエータといえば、電気エネルギーを運動に変換する装置を指す。家電や航空機産業、人工筋肉の研究などに広く用いられている。
  • *3 ピエゾ(圧電)素子:電圧をかけることによって伸縮する素子を指し、圧電素子とも呼ばれる。また、電圧をかけると変形し、外力を加えると帯電する現象をピエゾ効果や圧電効果と呼ぶこともあり、ITや工業製品分野以外でも、地震などの解析でも用いられる。インクジェットプリンターの中には、このピエゾ素子の伸縮を利用してインクを噴射させるピエゾ方式が採用されているものもある。また、ピエゾ素子を利用して電気信号を音圧に変換する圧電スピーカや、スキャナなどのさまざまな精密機器で利用されている。
  • *4 親水-疎水性制御:親水性(溶液が濡れ易い性質)の領域と疎水性(溶液が濡れ難い性質)の領域を意図的に作製して、親水性領域のみに目的の機能性層を形成する技術。
  • *5 圧電特性:その材料に電圧を加えた時に電圧方向に材料が変形する特性のこと。
  • *6 RoHS指令: 「EU電気電子機器危険物質使用制限指令」で、電子機器類への特定の化学物質(鉛、カドミウム、六価クロム等)の使用を制限するEU指令。