Science November 3 2017, Vol.358

アルコール摂取はコカイン依存を呼び込む (Alcohol use primes cocaine addiction)

アルコール摂取は他の種類の薬物依存の入り口として働くことがあると、ずっと思われてきた。 Griffin たちは、げっ歯類のモデルにおいて、アルコール消費がどのようにして、その後のコカイン摂取への行動的および神経的な応答を高めるのかを研究した。 前もってのアルコール消費は、嫌悪すべき結果に直面してさえも、コカインの自己服用がより長く続く結果をもたらした。 長期にわたるアルコール摂取は、報酬系の記憶に関係する脳領域の線条体におけるヒストン脱アセチル化酵素の活性を下げることで、コカインが誘発する遺伝子発現を許す後成的な環境を作り出した。(MY,nk,kh)

【訳注】
  • ヒストン脱アセチル化酵素:ヒストン・タンパク質のアミノ基がアセチル化すると,その部分でのDNAの巻き付き力が弱まり,このDNA領域の遺伝子発現が活性化する。 脱アセチル化酵素は,これを抑制する機能を持つと考えられている。
Sci. Adv. 10.1126/sciadv.1701682 (2017).

超高速プラズモン変調 (Ultrafast plasmonic modulation)

プラズモン技術は、光を、伝播する電気信号に変換する。 この手法により、光学部品をナノメートル規模に縮小することが可能になりうる。 これは、通常の光学系で一般にあてがわれる波長の百分の一よりはるかに小さい。 Ayata たちは、基板にはよらない製造過程を用いて、金の単層からプラズモン変調器を作製した。 彼らは、人の毛髪の断面積よりも小さな所要面積で、かつ 100 GHz を超える変調速度の素子を作り出した。 それは、将来の超高速プラズモン技術に、融通のきく基盤技術を提供するかもしれない。(Sk,ok,kj,kh)

Science, this issue p. 630

位相幾何学的レーザー発振 (Topological lasing)

光を閉じ込める共振空洞は、レーザーの重要な構成要素である。 一般に、これらの空洞は、可能な限り最高の出力が得られるように、高性能に設計される。 しかしながら、それが、レーザーのフォトニック素子と光回路への組み込みを制限することがある。 Bahari たちは、ハイブリッド・フォトニック結晶構造中に、任意形状の共振空洞を作製した。 位相幾何学的に保護された末端形状への光の閉じ込めが、通信波長でのレーザー発振をもたらした。 共振空洞設計基準の緩和は、フォトニック素子の設計に役立つであろう。(Sk,nk,kh)

Science, this issue p. 636

正確なキラル・コロイドの組み立て (Precise chiral colloidal assembly)

微粒子集合体の課題は、制御されかつ均一な方法で、さまざまなコロイド粒子をくっつけることであり、これは格子構造をつくることより難しい。 Ben Zion らは、DNA 折り紙を用いてコロイド粒子をパターン化し、それらを制御されたキラリティと組成を持つ集団にした。 複数の付着部位を持つDNA ベルトは、コロイドの一粒子上に、コロイドの表面曲率に沿って L 字形でぴったり巻かれた。これは、特定の相補 DNA ベルトを備えている他の非キラルな異なる複数のコロイド粒子が、DNA ベルトの付着部位で、DNA ベルトとの相補関係で、ある配向状態にしか付着できないことを示していた。(ST,MY,ok,kj,kh)

Science, this issue p. 633

ハエ脳の体性感覚地図 (A somatosensory map in the fly brain)

感覚器官と感覚脳中枢からなる組織は、多くの感覚種類に対して、昆虫と哺乳類の間においてさえ、進化的に保存された原理を示す。 Tsubouchi たちは、ショウジョウバエにおける体性感覚回路を系統的に地図化した。 この結果は、昆虫の腹神経索と脳における、局所解剖学的かつ感覚種類特有な力学的感覚の描像を明らかにした。 著者たちは,ショウジョウバエがとまっている場合のみに起こる、羽と足の動きに対する優先応答と、向かい風行動を制御することへの寄与について詳細に調べた。(MY,nk,kj,kh)

Science, this issue p. 615

利己的な遺伝子はどうやって思い通りにするのか (How selfish genes get their way)

メンデル遺伝学の核心に、配偶子は、ある遺伝子について両親の複製のどちらをも同程度に保有しそうだという概念がある。 しかしながら、利己的遺伝因子は、このメンデル型分離を覆すことにより、ごまかして配偶子中の自己の表現を増やすことができる。 Akera たちは、卵母細胞の減数分裂に内在する非対称性が、どのようにして染色体を分離する紡錘装置内部の非対称性へと、変換されるのかを示している(McNallyによる展望記事参照)。 マウス卵における実験によって、非対称性が利己的遺伝因子にどのように利用されて、卵への利己的遺伝因子の伝達を増やすのかを明らにした。(MY,nk,kh)

【訳注】
  • 卵母細胞の非対称減数分裂:卵母細胞の減数分裂は卵および極体を作る。 極体側に分配された染色体は分解され、卵側に分配された染色体のみが次世代へ伝達される。
Science, this issue p. 668; see also p. 594

初期ヒト集団はどのように組織されたのか (How early human groups were organized)

古代ヒト族の遺骨に対する塩基配列決定は、ヒト個々の血縁性を知る上での理解を深めてきた。 しかしながら、幾つかの現生人類の文化で一般的であるように、古代人類が近親間で交配したのかについては明らかでない。 Sikora たちは、約 34,000 年前の西方ロシアで、寄り添って埋められた 4 体の初期人類からのゲノム塩基配列について報告している(Bergström と Tyler-Smith による展望記事参照)。 この個体群は遺伝的な観点から見て同じ群に属し、小規模集団由来であるが、血縁性が大変高いわけではなかった。 このため、これらの人たちは、現代の狩猟採集民と類似する、より大きな交雑網の一部をなす単一社会集団を代表している可能性がある。 血縁間の同系交配がないことは、現生人類に属する社会集団の生存優位性を説明する助けになるかもしれない。(MY,nk,kj,kh)

Science, this issue p. 659; see also p. 586

コンデンシンは高速に進行するDNA用モーターだ (Condensin is a highly processive DNA motor)

コンデンシンはDNAループを作り出すことで、ゲノム構造を調節すると考えられている。 Terakawa たちは、単一分子画像化法を用いて、酵母のコンデンシンが、DNAに沿って移動できる高速進行のメカノケミカル・モーターであることを示した(Nasmyth による展望記事参照)。 彼らの発見は、ATPの加水分解に依存する高速コンデンシン・モーターの活動が、ループ押出し機構を通して、どのようにして染色体の三次元的な組織化と凝縮を支えるのに必要な推進力を提供するのかについて明らかにしている。(MY,kj,kh)

Science, this issue p. 672; see also p. 589

樹状細胞の遊走におけるリソソーム・カルシウム (Lysosomal calcium in dendritic cell migration)

細菌感知のような刺激による樹状細胞(DC)の活性化はDCの成熟を促進する。 未成熟DCの無秩序な遊走パターンとは対照的に、成熟DCは連続的かつ方向性のある遊走をする。 Bretouらは、成熟DCの遊走制御におけるリソソームの役割を調べた。 リソソーム・カルシウムの放出は、DCの活性化と方向性遊走とを結びつける。 リソソーム・カルシウム・チャネルの欠失は、方向性のあるDC遊走とリンパ節への走化性を損なった。 このようにリソソーム・カルシウムの放出は、刺激感知をDC遊走と関連づける。(Sh)

【訳注】
  • リソソーム:真核細胞の中の膜性の小胞で、多くの加水分解酵素を含み,消化作用を行う細胞小器官。
  • 走化性:細胞や細菌などの周囲に存在する特定の化学物質の濃度勾配に対し、方向性を持った行動を起こす現象。
Sci. Immunol. 2, eaak9573 (2017).

リボソーム病の背後にある分子機序 (Molecular mechanisms behind ribosomopathies)

リボソーム病は、リボソーム・タンパク質またはリボソーム生合成因子の突然変異に起因する組織特異的な障害である。 このような障害には、ダイヤモンド・ブラックファン貧血、先天性単独無脾症、そしてトリーチャー・コリンズ症候群が含まれる。 Millsと Green は、これら障害および関連する障害における組織特異的欠陥の根底にある機序を概説している。 リボソームはすべての細胞の生命にとって中心的なものであるため、なぜリボソームの構成要素の突然変異が特定組織にだけ不相応に影響を及ぼすのか不思議である。 著者らは、翻訳機構の構成要素においてはリボソームの恒常性が、特定の細胞と組織型の突然変異に対する感受性を支配する、包括的で単純な原理であることを示唆している。(Sh,nk,kj,kh)

【訳注】
  • ダイヤモンド・ブラックファン貧血:骨髄で赤血球がうまく造血されない先天性の造血不全症。
  • 先天性単独無脾症:他臓器の奇形を伴わず生まれつき脾臓がない先天奇形。
  • トリーチャー・コリンズ症候群:頬骨や下顎の形成不全により、顎が小さく、目の外側が下垂し、耳介の変形などがみられる先天性疾患。
Science, this issue p. eaan2755

プロテアーゼに一段ずつ供給する (Feeding a protease step by step)

損傷したりまたは誤って折り畳まれたミトコンドリア・タンパク質を分解するタンパク質は、ミトコンドリアの機能にとって必須である。 重要な役割を果たすのは六量体プロテアーゼ YME1 で、その各構成単位は、らせん部によってミトコンドリア内膜に固定され、ミトコンドリアの内膜と外膜の間腔に、アデノシン・トリホスファターゼ(ATPase)ドメインとプロテアーゼ・ドメインを持つ。 Puchades らは、ATPase ドメイン群が平面的なプロテアーゼ環の上に積み重なる非対称らせん階段を形成することを示す高分解能構造を報告している。 らせん階段の中心孔に存在する進化的に保存されたチロシン残基群は、基質であるペプチドと相互作用する。 YME1 による ATP 加水分解サイクルは、逐次的で、プロテアーゼの中心孔への基質の段階的な移動をもたらすチロシン残基の位置変化とよく調整されている。(Sh,MY,kj,kh)

Science, this issue p. eaao0464

この都市にようこそ (Welcome to the city)

人々が一挙に都市になだれ込んできており、そのことが都市化領域の数と面積の急速な増大を導いている。 このような変化は多数の生物種の減少の原因となっていることは良く知られているが、その一方で、生物種によっては適応可能な、新しい選択圧として働く可能性がある。 JohnsonとMunshi-South は、都市環境が及ぼす選択圧、生物種の適応する(もしくは適応しない)対応、そしてこのような適応進化事象が自然過程と人間集団に与えるより大きな影響について概説している。 このような都市における生物の進化様式を理解することは、都市化に直面している生物種の存続を助長し、また、適応がもたらす可能性がある例えば疾病のような幾つかの問題を軽減する我々の能力を向上させるであろう。(Uc,MY,nk,kj,kh)

Science, this issue p. eaam8327

新皮質の基本的構成要素 (The basic modules of the neocortex)

新皮質における興奮性および抑制性のニューロンの基本的な組織化は、未だほとんど理解されていない。 新皮質の層 5 における主要な興奮性細胞型である皮質下投射ニューロンは、微小カラムと呼ばれる小さな細胞塊を形成する。 Maruokaたちはマウス脳の層 5 の大きな領域を調べ、数千個のこれらの微小カラムが規則的な格子状の空間的配置を有する六方格子を作ることを観察した。 他の主要な層 5 の興奮性細胞クラスである皮質投射ニューロンもまた、皮質下投射ニューロンのそれと互いに絡み合うような微小カラム群を形成する。 微小カラムは共通のシナプス前入力を受け取り、多くの皮質領域で同期した活動を示した。 これらの微小カラムは、細胞型特異的なギャップ結合によって結合される非姉妹ニューロンから発生し、このことは、これらの発生が細胞系統に依存しないで局所的な電気的伝達によって誘導されることを示唆している。(KU,nk,kj,kh)

【訳注】
  • 参考として:理研の本論文の著者たちによる「大脳新皮質第5層微小カラム」に関する研究成果の概要を参照のこと
Science, this issue p. 610

ナノ粒子のレーザー成型 (Laser-shaping nanoparticles)

金属粒子のプラズモン共鳴の多くの用途では、狭い共鳴線を持つことが必要とされる。 しかしながら、ナノ粒子を合成するたいていの方法では、共鳴線を広げることになる粒子の大きさと形状に分布が生じてしまう。 González-Rubio たちは、界面活性剤の水溶液中に分散させた金のナノ・ロッドを、慎重にパルス幅などを調整した超高速(フェムト秒)レーザー・パルスで焼きなましした。 この手法は、ナノ粒子を再成形し、単一のナノ・ロッドとほぼ同じくらい鋭い共鳴線を有する、ほぼ均一な分布を作り出した。(Sk,ok,kj,kh)

Science, this issue p. 640

正しい接触を作る (Making the right contacts)

小胞体(ER)とミトコンドリアの間の接触は、Ca2+ の交換と脂質生合成のような、重要な生理的過程を媒介する。 酵母では、ER とミトコンドリアは 4 つのタンパク質からなる ERMES と呼ばれる複合体により繋ぎとめられている。 しかしながら、ERMES 複合体を構成するこれらのタンパク質の機能的オーソログは、全く後生動物では特定されていない。 Hirabayashi たちは PDZD8 を、酵母 ERMES を構成するタンパク質 MMM1 の構造的および機能的オーソログとして特定した(Lombardi と Elrod による展望記事参照)。 PDZD8 は、ER とミトコンドリアの接触場所で見つかり、哺乳類細胞における ER とミトコンドリアの繋なぎとめに必要だった。神経細胞の樹状突起では、PDZD8 はシナプスが引き起こす Ca2+ の動力学を調節した。 このことは、細胞生理において、細胞内小器官の間の膜接触の重要性を明確に示している。(MY,kh)

【訳注】
  • 小胞体:細胞質内に網目状に連なる膜状構造の細胞小器官。 膜タンパク質や細胞外へ分泌するタンパク質の合成や、ステロイド合成、解毒、薬物の代謝などの機能を持つ。
  • 後生動物:細胞が分化して形成された種々の器官を持つ、通常見られる多細胞動物のこと。
  • オーソログ:異なる種に存在し、種分岐によって共通の祖先遺伝子から生じた類似の遺伝子やタンパク質。
Science, this issue p. 623; see also p. 591

風変わりな状態がグラフェン二重層中に出現する (Exotic states pop up in bilayer graphene)

風変わりな (Exotic) 量子統計を有する粒子は、量子計算(QC)の特に魅力的な特色 (トポロジカルQC)を後押しすることができると期待されている。 半導体 GaAs における特定の分数量子ホール状態は、長い間、これらの好適な特性を有する励起を持つと思われてきたが、今までその証明は微妙であった。 GaAs の代わりにグラフェン二重層を用いることで、Li たちは、その要求される量子統計を持つ状態の理論的記述と一致すると思われる、四つの状態を発見した。 研究者たちは、電場を加えることで云わば調節つまみを付け加え、これらの状態の特性を調整することを可能にした。(Sk,nk,kj,kh)

Science, this issue p. 648

運転周期による分子冷却 (Cooling molecules in the spin cycle)

氷の塊は固く、不動に見えるかもしれないが、その内部の分子は激しく揺れ動いている。 実験室で分子をぎりぎりまで減速させることで、その量子的挙動を研究して適用するための魅力的な見通しが得られる。 しかしながら、高密度試料を 1 ケルビン以下の必要な温度に冷却する方法は、比較的特殊な二原子物質に限定されがちであった。 Wu たちは、メタノール、フルオロメタン、およびアンモニアのような広範囲のありふれた極性分子にあてはまる一般的な冷却技術を提示している。 彼らの装置は、緩衝ガス中での予備的冷却行程を電場を用いて分子を低回転させる遠心分離機と組み合わせている。(KU,nk,kh)

Science, this issue p. 645

Vindija ネアンデルタール人のゲノムからの新事実 (Revelations from a Vindija Neandertal genome)

ネアンデルタール人は、明らかに、非アフリカ系の現代人の先祖と交配していたが、我々に最も近縁なこの親戚については多くの疑問が残っている。 Prufer たちは、クロアチアの Vindija で発見された 50,000 年から 65,000 年前のネアンデルタール人女性の標本のゲノム配列を、30 重の被覆率で与えている。 そして、この配列を アルタイ山脈で発見されたネアンデルタール人、デニソワ人、古代人および現代人から得られたゲノムと比較した(Bergström と Tyler-Smith による展望記事参照)。 ネアンデルタール人は、おそらく、小グループで生活し、現代人よりも遺伝子的多様性が低かった。 この結果は、現代人の中で同定されたネアンデルタール由来の変異体の数を増加させるものである。 そして、それらは、ネアンデルタール人の系統が有していた多く表現型変異体および病気関連変異体が、以前考えられていたよりも多く、現代の欧亜混血遺伝子プールに残っていることを示唆している。(Wt,MY,nk,kj,kh)

【訳注】
  • デニソワ人:アルタイ地方のデニソワ洞窟で約 41,000 年前の化石が発見された現生人類に近い絶滅したヒト属。
Science, this issue p. 655; see also p. 586

古代の DNA が人類の出現を押し戻す (Ancient DNA pushes human emergence back)

解剖学的には現代人はアフリカで進化したが、それがいつなのかを正確に定めるのは困難であった。 Schlebusch たちは、石器時代に属するおよそ 2000 年前の 3 つの古代アフリカ人のゲノムについて、また、鉄器時代に属する 300 ~ 500 年前の 4 つのゲノムについて、配列決定した。 13 重の被覆率で配列決定された最も古い標本の一つは、現在の サン人の集団からの個体に最も近いように見える。 しかし、この個体は、遊牧民や農民を含め、他の現代のアフリカ個体群からの遺伝子的な寄与はないように思われ、一方、現代のサン人ではこの寄与が認められた。 したがって、人類集団の最も初期の拡散は、35 万年から 26 万年前に起こった可能性がある。(Wt,MY,kh)

【訳注】
  • サン人:南部アフリカのカラハリ砂漠に住む狩猟採集民族。
Science, this issue p. 652

クラス II 膜融合の正体を明らかにする (Unmasking class II membrane fusion)

リフトバレー熱ウィルス(RVFV)は、蚊によって伝染し、受容体仲介エンドサイトーシスによって細胞に入る。 感染プロセスには、疎水性の融合ループを細胞膜に挿入し、次に再び折り畳む、クラス II 膜融合タンパク質を必要とする。 Guardado-Calvo たちは、ホスファチジルコリンと複合体形成した融合後の形態における RVFV クラス II 膜融合タンパク質 Gc の高分解能の結晶構造を報告している。 彼らは、Gc が挿入後に融合ループを再構築しないことを見いだしている。 むしろ、Gc はグリセロ・リン脂質頭部基を収容し、次いで挿入部位にコレステロールを濃縮することによって膜再編成を開始する統合システムを使用する。 他のウイルス科のクラス II 融合タンパク質との比較から、将来の抗ウイルス療法に対する標的を提供するかもしれない共通の機構が示唆される。(KU,nk,kh)

Science, this issue p. 663

アメリカへの海岸沿いの経路 (A coastal route to the Americas)

考古学者たちは長年、アメリカに到着した最初の人間はクローヴィス人であり、せいぜい 13,500 年前に、ベーリング陸橋上の無氷の回廊を経由してやってきたと考えていた。 2000 年初頭から、より古い人間の遺跡の証拠が蓄積されてきた。 展望記事において、Braje たちは、これらのより初期の人々は、アジアとアメリカの太平洋沿岸の「ケルプ街道」を経由してやってきたという、最近の提案に光を当てている。 しかしながら、たいていの海岸沿いの前クローヴィス人の遺跡は、今日の海面上昇により水没しているようで、この経路の直接的証拠を見出すのは困難であろう。(Sk)

【訳注】
  • ベーリング陸橋:氷河期にアラスカとシベリアの間に存在した陸地
  • ケルプ:コンブ科に属する大きな海藻類
Science, this issue p. 592

判断基準の洗練 (Refining the gold standard)

CD34 陽性細胞は、幹細胞治療および幹細胞の豊富な移植片移植のための判断基準的標的造血細胞である。 しかしながら、この集団内の細胞のほとんどは、生着に寄与しない。 Radtke たちは丈夫な非ヒト霊長類の移植モデルを用いて、生着に専ら寄与する CD34 陽性細胞の幹細胞に富む亜集団を同定した。 この亜集団の細胞線量は、好中球と血小板の回復と相関し、確実に移植成功を予測した。 重要なことに、著者たちは、これらの細胞と高い生着能と再増殖能を持つヒト造血細胞との間の表現型とトランスクリプトームの類似性を観察した。(KU,kj,kh)

【訳注】
  • トランスクリプトーム:特定の状況で細胞中に存在する全ての転写産物(全 RNA )のこと
Sci. Transl. Med. 9, eaan1145 (2017).

細胞骨格の変化をマークする (MARKing a change in the cytoskeleton)

MARK ファミリーのキナーゼは、細胞の極性を特定することに関与する。 Sandi たちは、MARK3 による、細胞骨格関連タンパク質 ARHGEF2 中の Ser151 のリン酸化が、ARHGEF2 を微小管から解離させ、RhoA を活性化させることを見出した。 結果として、培養細胞におけるアクチン細胞骨格は、三次元構造を形成するために再構築された。したがって、ARHGEF2 の Ser151 のリン酸化状態は、それがチューブリン細胞骨格によって押収されるか、またはアクチン細胞骨格を再構築して細胞極性を調節するために放出されるかどうかを決定する。(KU)

【訳注】
  • RhoA(Ras homolog family member A):低分子の GTP 結合タンパク質の仲間で細胞内シグナル伝達系として機能する。
Sci. Signal. 10, eaan3286 (2017).