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Science December 7 2012, Vol.338


血小板は寄生虫に毒を与える(Platelets Poison Parasites)

かつては、マラリア寄生虫に感染した赤血球と結びついた活性化血小板は、病理発生の原因になると考えられていたが、最近になって、この血小板は防御効果を持つことが分かってきた。McMorranたち (p. 1348;EngwerdaとGoodによる展望記事参照)はこの発見をさらに拡張して、血小板の活性化によりケモカイン (Chemokine) PF4 を含んだ細胞内顆粒が放出され、それが熱帯熱マラリア寄生原虫に感染した赤血球に取り込まれることを示した。その結果、細胞内で成熟した寄生虫は死ぬことになる。赤血球のDuffy式血液型因子は PF4 のようなケモカインに対して非特異性レセプタとして振る舞い、これはマラリア寄生原虫の他の種による細胞侵入に対しても同様であることが知られている。Duffy 抗原が抗体療法によってブロックされる時、血小板とPF4が熱帯熱マラリア寄生原虫を死滅させる能力は低下する。(TO,nk)
Platelet Factor 4 and Duffy Antigen Required for Platelet Killing of Plasmodium falciparum

珍しいパルス(Exotic Pulsations)

2008年のフェルミガンマ線宇宙望遠鏡の打ち上げは、多くのパルサーの検出を可能にした。ミリ秒周期で回転する中性子星であるミリ秒パルサーを、ガンマ線データから検出することは、一段と困難である。計算法上の離れ業により、Pletsch たちは(p. 1314,10月25日号電子版)、フェルミ大面積望遠鏡の2番目の線源カタログにおいて、以前は未同定であったガンマ線源から、ガンマ線の脈動を検出した。その脈動する中性子星は、知られている他の同様な中性子星のどれよりも高速で連星の周りを回っている。その系は、中性子星がその伴星をどんどん破壊しているという珍しい種類の連星系に属しているのかもしれない。(Sk,nk)
Binary Millisecond Pulsar Discovery via Gamma-Ray Pulsations

溶液から原子層を創る(Atomic Layers from Solution)

平坦な薄膜成長において、丘やピラミッド状の塊の形成に悩まされることが多い。これを回避するために、原子層堆積(蒸着)法(ALD)が用いられる。そのため(層ごとに)交互に繰り返す自己終端反応により層成長が抑えられている。電気化学的手法を用いたALDにおいては、膜成長を遅らせるために表面合金が用いられるが、膜汚染につながる。Yihua Liu等は(p.1327;Switzerの展望記事参照)白金薄膜形成において、表面ポテンシャルを制御することによって水素を表面に吸着させることができ、一原子層形成後の膜の成長を停止できるだけでなく、溶液中の白金化合物を更なる還元反応に利用可能であることを報告している。印加ポテンシャルを高速で変化させて水素を酸化し、膜汚染がなく、かつ効率的な原子層の成長 が可能となる。(NK,KU,ok,nk)
Self-Terminating Growth of Platinum Films by Electrochemical Deposition

安定した還元(Robust Reduction)

人工的な光合成触媒を設計する上での主要な課題は、反応条件下での不安定性であった。植物や他の無機栄養生物においては、生化学的組織を絶えず再生産することでこの問題に対処している。今回、Han たちは(p. 1321,11月8日号電子版)水中での光還元で水素を発生させる彼らのシステムが連続して数週間劣化せずに働き続けることを実証した。光を吸収するための半導体ナノ粒子が、触媒としての化学作用を行う溶解性のニッケル錯体と併用された。現在のところ、このシステムには電子供与物質を投入し続ける必要があるが、その安定性は、将来の酸化触媒との組み合わせが有望であることを示している。(Sk,nk)
Robust Photogeneration of H2 in Water Using Semiconductor Nanocrystals and a Nickel Catalyst

フルオロホルムからのCF3(CF3 from Fluoroform)

フルオロホルム(CF3H)は、例えば非粘着表面処理や冷蔵庫の冷媒等で用いられるフッ化炭素化合物を製造する際の副産物である。大気中に蓄積され続けていることから、温暖化ガスとしてのフルオロホルムの強さに関心が高まりつつある。これに関連して、Prakashたちは(p.1324;Haufeによる展望記事参照)、CF3(トリフルオロメチル基)を含むような医薬品や農薬品の分子構造の開発を行う際に、フルオロホルムを用いてCF3をシリコンやイオウ、炭素中心に置換して利用可能なことを示している。(Uc)
Taming of Fluoroform: Direct Nucleophilic Trifluoromethylation of Si, B, S, and C Centers

高圧力下の惑星内部(Planetary Interiors Under Pressure)

地球、および、他の岩石質の惑星の内部は、一般的にいくつかの普通の鉱物からなっている。これらの鉱物の分布と相対的な存在量は、惑星の大きさに大きく依存して変化している。たとえば、MgO は、地球や地球様の大きな惑星のマントル中に豊富にあるが、木星では核に存在している。MgO の特性もまた、温度と圧力の関数として惑星の大きさとともに変わっている。McWilliams たち (p.1330, 11月22日付電子版) は、地球の内核よりも3倍以上の圧力に達するレーザー衝撃波実験を行った。その結果、MgO は二つの相変態を受けた。最初は、変形結晶構造を有する固体になり、続いて、導電性の液体になった。地球質量の8倍以上の地球型惑星では、マントル中の MgO は、惑星コア中では一般的に見出されているような磁場を発生させるダイナモを生み出すことが可能であろう。(Wt,tk,nk)
Phase Transformations and Metallization of Magnesium Oxide at High Pressure and Temperature

カルシウム遊離-活性化カルシウム(CRAC)チャネルの構築 (Architecture of a CRAC)

カルシウム遊離-活性化カルシウム(CRAC)チャネルは、小胞体からのカルシウムの枯渇に応じて細胞内のカルシウムシグナルを発生する。Houたち(p.1308,11月22日号電子版)は、キイロショウジョウバエ由来のCRACチャネルのポアであるOraiの高分解能の結晶構造に関して報告している。6個のOraiサブユニットがサイトゾル中に伸びている中心のポアを取り囲んでいる。このポアは閉構造をとり、細胞の内側近傍の塩基性領域に結合するアニオンにより安定化されている。細胞の外側にあるグルタミン酸のリングが選択性フィルターを形成している。このチャネル構築により、細胞にカルシウム負荷をかけ過ぎないようにその流れを制御しながら、カルシウムの浸透が可能になる。(KU,ok)
Crystal Structure of the Calcium Release?Activated Calcium Channel Orai

プラスミドの分配(Plasmid Partitioning)

細菌のプラスミドは娘細胞に忠実に分配される必要がある。構造データと進歩した顕微法を結びつけて、Gayathrたち(p. 1334,10月25日号電子版:表紙参照)は、大腸菌の二つの細胞極(極性であるにもかかわらず、二つの異なる末端を持っている)への低コピー数のプラスミドの忠実な分離を行うために、アクチン様ParMフィラメントが双極性紡錘体をどのように形成しているかを述べている。ParMフィラメントは小さなアダプタータンパク質ParRによって伸ばされ、プラスミド上のセントロメア様領域にそのフィラメント末端を物理的に結合する。逆平行のフィラメントの束形成と移動により、一方向に伸びるフィラメントからなる双極性紡錘体が作られ、結果としてプラスミドのすべてが一つの大きな束になって分離する。(KU)
A Bipolar Spindle of Antiparallel ParM Filaments Drives Bacterial Plasmid Segregation

ギャップに注意( Mind the Gap)

近接場顕微法はサブ波近接場プラズモンプローブの恩恵を受けており、このプローブはギャップの近接場集中特性を利用するしている。これらのブローブは、チップ-基板のギャップモードにおいてのみ最大の増強効果を発揮し、これが大きな近接場シグナルを生成するが、しかしそれは金属性基板に対してと、かつチップ-基板の非常に狭いギャップ距離に対してだけ効果がある。Baoら(p. 1317)は、遠視野と近接場の電磁エネルギーを双方向的にカップリングさせて広帯域な場の増強と閉じ込めを結びつけたプローブを設計した。これらのチップは、第一にチップ自身の内部ギャップモードに依存し、それによって非金属サンプルを画像化することができる。(hk,KU)
Mapping Local Charge Recombination Heterogeneity by Multidimensional Nanospectroscopic Imaging

Wetのシグナル伝達を調べる(Dissecting Wnt Signaling)

Wetのシグナル伝達経路は、発生から癌に至る広範囲の機能の制御においてキーとなる役割を果たしている。しかし、Wntタンパク質がその受容体(Frizzled proteins)を通してどのように作用しているかに関する正確な理解は曖昧であった。培養細胞において、その系のコア反応に絞り込み、そして反応解析を行うことで、Hernandezたち(p. 1337,11月8日号電子版)は、何等の従来の仮説に依存することなく、Wntの作用メカニズムを推定することができた。質量バランスに関するこのような定量的解析は、他の複雑なシグナル伝達系における本質的な制御ポイントを同定する方法を提供し、結果として治療介入におけるターゲットを明瞭にするのに役立つものである。(KU)
Kinetic Responses of β-Catenin Specify the Sites of Wnt Control

炎症の良き側面(The Good Side of Inflammation)

ゼブラフィッシュの脳は、外傷後の回復という面でヒトの脳よりはるかに巧妙である。Kyritsisたち(p. 1353,11月8日号電子版;Stellaによる展望記事参照)は、ゼブラフィッシュの脳において再生を支えている細胞事象を調べた。炎症は双方の設定における再生応答の重要な一部ではあるが、ゼブラフィッシュの脳では置換ニューロンの増殖をし続ける。ニューロンを損傷することなく炎症を刺激すると、放射状のグリア細胞が神経発生を促進することができた。(KU,ok)
Acute Inflammation Initiates the Regenerative Response in the Adult Zebrafish Brain

アンドロゲンによる隔離(Androgen-Driven Sequestration)

雄と雌のマウスでは、乳腺をもたらす神経細胞のパターンに差異がある。Yin Liuたち (p. 1357)は、性腺ホルモンが、どのようにした異なる雄と雌の感覚性神経支配の発生を行っているかを記述している。雄と雌の乳腺の双方とも初期の胚形成の段階では類似した感覚性の神経支配を発生しているが、いったんアンドロゲンが影響をおよぼすと、その発生の軌跡は分岐する。出生の際に、雌に存在する豊富な感覚ニューロンのネットワークは雄には存在しない。アンドロゲンは、全長のニューロロフィン受容体TrkBの発現からその切断型のTakB.T1へと切り換えるが、その双方ともニューロン上に発現する。雄において、切断型のTarkB.T1は、脳-由来の神経栄養因子(BDNF)をさらなる活性化から隔離し、一方雌において、全長のTrkBはBDNFに結合し、そして神経細胞の発生を支えている。(KU)
Sexually Dimorphic BDNF Signaling Directs Sensory Innervation of the Mammary Gland

ヒトからマウスへ、マウスからヒトへ(From Man to Mouse)

ヒトのゲノム全体にわたっての関連研究によって、癌などのよくある病気を発生させる個人のリスクを増す複数の一塩基多型(SNP)が同定されてきた。そうしたSNPのほとんどは、そこそこのリスク効果しかもたず、多くはゲノムの非翻訳領域にマップされる。Surたちはマウスモデルを用いて、ヒト染色体8q24上のMYC癌遺伝子の300キロ塩基上流にあり、ヒトの発癌リスクに結び付けられている特定のSNPのもたらす機能上のインパクトを研究した(p. 1360,11月1日号電子版; またLewisとTomlinsonによる展望記事参照)。腸腫瘍を発生させるように予め罹患させたマウスにおいて、このSNPを包囲する配列が除去されると、マウスはコントロール群のものに比較して、ずっと少ない腫瘍しか示さなかった。このSNPは、つまり、おそらくはMYCの制御を変えることで、ヒトの癌において原因となる役割を果たしている。(KF)
Mice Lacking a Myc Enhancer That Includes Human SNP rs6983267 Are Resistant to Intestinal Tumors

光を見る(Seeing the Light)

ロドプシンは広い範囲の電磁放射に応答することで、動物における広い波長域での視覚認知を可能にし、微生物における光によって駆動されるイオン輸送や走光性を促進している。すべてのロドプシンは埋め込まれたレチナール発色団を含み、吸光度はそのタンパク質環境によって制御されている。そのタンパク質がどのようにして吸光度を調整しているかに関する洞察を得るために、Wangたちは、さらに小さな可溶性タンパク質である細胞性レチノール結合タンパク質Ⅱに注目した(p. 1340; またSakmarによる展望記事参照)。彼らはそのタンパク質を操作して、シッフ塩基としてオールトランスレチナール(all-trans-retinal)を完全にカプセルに閉じ込め、そして共有結合的に結合させた。この出発点から、彼らは合理的な変異原性を用いて、タンパク質結合ポケットの静電気的環境を変化させることによって、吸収極大を200ナノメートルを越える範囲に渡って変化させたのである。(KF,KU)
Tuning the Electronic Absorption of Protein-Embedded All-trans-Retinal

DNA修復の綻びを綴じる(Sewing Up DNA Repair)

すべての細胞は、大腸菌におけるストレス誘発性のDNA破壊の修復など、ゲノムの維持と安定性を保証する一連のDNA修復経路をもっている。変異原性でもありうる同様の経路は、酵母やヒトの細胞でも知られていて、進化を促進する潜在的可能性をもっている。大腸菌におけるその経路には16個のタンパク質が必要なことが知られている。 Al Mamunたちは、大腸菌のその経路を分析して、その経路へのタンパク質寄与のすべての補体を決定した(p. 1344)。93個の遺伝子が、ストレスによって誘発されたDNA破壊の修復に必要である事が発見された。そのネットワーク中で同定されたタンパク質の3分の1は、電子移動、酸化的リン酸化、そして、ネットワーク中での決定的なハブであることを表すσsストレス応答経路を介する作用に関与していた。(KF)
Identity and Function of a Large Gene Network Underlying Mutagenic Repair of DNA Breaks

ライフサイクルを明らかに(Awakening a Life Cycle)

睡眠病は、サハラ砂漠以南のアフリカの人たちを苦しめ続けてきたが、過去100年については、ブルセイトリパノソーマ原虫に関する研究は、昆虫のベクター段階が現代の研究手段で利用できなかったため、阻害され続けてきた。Kolevたちは、あるRNA結合タンパク質(RBP6)を主要な制御因子として同定したが、この因子がトリパノソーマすべてのライフサイクル段階を通じてのその発生プログラム全体を制御している(p. 1352)。試験管内でのこの形質転換を行うことで、寄生虫が分裂性の非感染型から感染性の非分裂性の抗原可変型へと変化する際の、多くの生化学的な変化、形態変化の研究が可能になる。(KF,KU)
Developmental Progression to Infectivity in Trypanosoma brucei Triggered by an RNA-Binding Protein

組換えタンパク質の取り替え(Swapping Recombination Proteins)

染色体交差(クロスオーバー)とは、生物体が、遺伝子の複合体を混ぜ合わせることを通して遺伝的多様性を生み出す一つの手段である。出芽酵母やマウス、線形動物、植物における一次減数分裂のクロスオーバー経路には、Msh4-Msh5ヘテロ二量体が必要だが、これはブルーム症候群ヘリカーゼの抗クロスオーバー活性をブロックすることでクロスオーバーを促進するものである。しかしながら、ショウジョウバエ族のメンバーなどのある種のハエは、Msh4-Msh5を失っている。Kohlたちはこのたび、ショウジョウバエがミニ染色体維持(MCM)様タンパク質を進化させていて、mei-MCMと呼ばれるそれがMsh4-Msh5と同じ機能を果たしていることを明らかにした(p. 1363)。さらに、それら遺伝子はポジティブ選択のもとで進化してきたらしく、おそらくはこの新規な機能へと用途を変えてきた結果だと考えられる。(KF)
Evolution of an MCM Complex in Flies That Promotes Meiotic Crossovers by Blocking BLM Helicase
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