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Science June 15 2012, Vol.336


環境的決定論?(Environmental Determinism?)

地球上の何百万もの生物種は、元素循環や生態系の安定性、またそれらが産み出す物やサービスなど、広範囲の環境プロセスに影響を与えている。Naeemたちは、生物多様性および生態系機能という新しく進化中の分野における最近の進歩をレビューし、その分野が予測可能な科学になりつつある程度を明らかにし、種の絶滅の速度が上昇している中で、環境の持続可能性を達成するための世界的な努力を助けるために、分野がどうあるべきかを示している(p. 1401)。(KF,ok,nk)
The Functions of Biological Diversity in an Age of Extinction

洞窟壁画の年代測定(Dating Cave Paintings)

ヨーロッパのいくつかの洞窟には、美しい古代の壁画が見られる。ほとんどの壁画は、新しくやってきた現生人類によって、最終氷期に描かれたものであると考えられてきた。しかし、壁画は放射性炭素年代測定に必要最小限の炭素しか含んでおらず、壁画の年代測定には問題があった。Pike たちは(p.1409; 表紙参照; Hellstrom による展望記事参照)、今回、スペイン北西部の11の洞窟の壁画を覆っている方解石の皮殻について、ウラニウム系列法による年代測定結果を得た。そのうち三つの洞窟のものの年代は 35,000 年以上前であり、一つはほぼ 41,000 年前の年代を示した。最初期の壁画は主に赤色が用いられており、形はあまりはっきりしていない;動物の描写はもっと後に現われる。この年代は現生人類がやってきた時代に近く、ネアンデルタール人も同時に存在していたため、これらの壁画の作者を特定することは難しくなってしまった。(Sk,bb)
U-Series Dating of Paleolithic Art in 11 Caves in Spain

動的な応答(Dynamic Responses)

腫瘍抑制因子p53の発現は細胞ストレスに応じて活性化される。p53の活性化の挙動はストレス因子に依存して変化し、パルス状になるか、あるいは一定のp53レベルのいずれかに落ち着く。しかし、このような異なった挙動のその機能的影響は良く解ってない。Purvis たち(p. 1440)は、ヒト細胞においてp53の挙動を制御する方法を開発した。パルス状のp53は、細胞周期停止とDNA修復に関連する遺伝子を選択的に活性化し、DNA損傷の回復を可能にする。これとは対照的に、一定に維持されたp53は、細胞老化に導く終末期の遺伝子の誘導を促進させた。このように、タンパク質の挙動は細胞の運命決定に影響を及ぼす。(Ej,KU,ogs,nk)
p53 Dynamics Control Cell Fate

次元が低下する?(Dropping a Dimension?)

ほとんどの磁性材料では、交換相互作用により結晶格子の隣接する部位でスピンの整列が生じる。交換相互作用の存在しない状態では、向きに大きく依存する双極子相互作用もまた、磁性を引き起こすことが可能であると期待される。Kraemer たちは(p.1416)、双極子結合した材料、LiErF4 において反強磁性の証拠を提示した。三次元の系であるにもかかわらず、その臨界挙動は、二次元の材料を思わせるようなものであった。(Sk,nk)
Dipolar Antiferromagnetism and Quantum Criticality in LiErF4

ホウ素-ホウ素の三重結合(B-B Bond)

アルキンは炭素-炭素三重結合を含み、様々のクラスの有機化合物の元となっている。原理的には、原子価のルールからB-B三重結合をもつアルキンのホウ素類似体が、2-電子供与体を各ホウ素原子に付加することで作れるはずであると示唆される。Braunschweigたち(p. 1420; Frenking とHolzmannによる展望記事参照)は、末端置換基としてN-複素環のカルベンをもつ固体で三重結合のジボリン(diboryne)の合成と単離、及び結晶化につい報告しており、予期されたような直線型の結合構造を含んでいる。(hk,KU)
Ambient-Temperature Isolation of a Compound with a Boron-Boron Triple Bond

多孔性のブロック(Porous Blocks)

多孔性物質は、分離や触媒など多用途に利用されている。Seo と Hillmyer (p. 1422)は、 領域へと自然に分離するブロック共重合体を利用して、連続した多孔質のネットワークを形成した。連鎖移動剤を用いて、in situで2つの物質の共重合を行い、ポアサイズ数nm(ナノメートル)の、そして重合体の性質や架橋の程度に関して調整可能な浸透性の多孔質構造を生成した。(Ej,KU,ok)
Reticulated Nanoporous Polymers by Controlled Polymerization-Induced Microphase Separation

月に衝突した岩石(The Rocks That Hit the Moon)

クレーターで覆われている月の表面は、月が受けたおびただしい衝突の証拠である。これらの衝突の化学的な記録は、間接的にしか検出されてこなかった。Joy たち (p.1426, 5月17日付け電子版; Rubin による展望記事を参照のこと) は、アポロ16 が着陸した場所から得られた古い時代の月の表土の角礫岩中に保存されていた隕石の断片を検出し、その物質科学的特長を明らかしにしたことを報告している。これらの隕石の断片は、およそ34億年前の内部太陽系を飛行する小天体群の直接的な試料である。この34億年前とは、月のベースン(巨大盆地)が形成されたのと同時期か、その直後にあたる。(Wt,tk)
Direct Detection of Projectile Relics from the End of the Lunar Basin-Forming Epoch

古くからの親しき結びつき(Ancient Associations)

海底の海草群生地は漁業や海岸線の保護に重要であり、ジュゴンやウミガメ等の多くの絶滅の危機に瀕した種への食べ物の場所を与え、またサンゴ礁に棲む魚たちの育児所として役立っている。海草生態系の持続性と維持は謎めいており、その理由は海床における有機物の蓄積により堆積層においては毒性の硫黄濃度が急激に高まるはずだからである。メタ解析とフィールド実験を用いて、van der Heideたち(p. 1432)は、1億年にわたる海草の繁茂を3段階の共生の結果とした。世界中の海草の繁殖地は高密度の小さな二枚貝を有しており、その鰓の中に硫黄酸化細菌を持っている。この結びつきにより海草に対する何らかの硫化物のストレスが軽減され、一方二枚貝とその共生菌は分解性の有機物質の蓄積と海草の根より放出される酸素から利益を受けている。(KU,ogs,nk)
A Three-Stage Symbiosis Forms the Foundation of Seagrass Ecosystems

ヒト集団の住んだ範囲(Population Limits)

コロンブスのアメリカ大陸発見前に、森林の伐採と開墾によって明らかなように、広範なヒト集団が中央、および東アマゾン流域に住んでいた。McMichaelたち(p. 1429)は、どれだけ離れた奥地までこのような活動が拡がっていたかを、河崖領域(下流地帯では多くの人が住み着いていた)を含め、西アマゾンにまたがって土壌をサンプリングして調べた。木炭層(これは火の使用を示唆するであろう)と植物オパール(これはローカルな植物の痕跡であり、そして穀類の存在を示唆するであろう)の調査から、広範囲にわたってのヒトによる攪乱の証拠はほとんど見いだされなかった。更に、陶器や道具類も見出されていない。かくして、コロンブスのアメリカ大陸発見前に、ヒト集団は西アマゾンにはまばらに存在していたらしい。(KU,nk)
Sparse Pre-Columbian Human Habitation in Western Amazonia

コートタンパク質の被膜(COPy Coat)

COP1-被 膜小胞は、ゴルジ内輸送およびゴルジ-小胞体間輸送という細胞内小胞輸送に携わっている。低温電子断層撮影のデータを平均化するサブ断層撮影を適用することで、Fainiたち(p. 1451,5月24日号電子版)は、無細胞の膜-発芽反応において産生されたCOP1-被膜の小胞に関する完全な三次元構造を解明した。複数の個々の小胞の構造から、その組み立ての原理がクラスリン-被膜の小胞の構造とは異なり、明らかに不規則な相互作用に基づいたものである。基本的なサブユニットは大きな構造変化を受け、そして異なる化学量論でもって組み立てている。この可変性により、膜の湾曲と小胞サイズの制御が可能となる。更に、発芽した小胞を作るのに、完全に閉じた被膜の形成は必要はなかった。(KU,ogs)
The Structures of COPI-Coated Vesicles Reveal Alternate Coatomer Conformations and Interactions

恐怖それ自体が(Fear Itself)

直接的な結びつきが、地上のコミュニティーと地下の土壌微生物叢の間で存在する:土壌微生物は地上からのデトリタス(有機物粒子)を分解する。一般的に、この関係は土壌のコミュニティーとほとんどの生態系においてデトリタスの大部分を構成する未消費の植物物質のその質によって大きく促進されている。しかしながら、Hawlenaたち(p. 1434)は、クモによる捕食の恐怖に曝されたバッタが炭素と窒素の比が変化していることを見出した。これらのバッタの死骸は、次に植物の落ち葉と一緒になり、バッタ自身の分解速度は変わらないが、落ち葉の分解速度を大きく低下させた。このように、捕食動物の単なる存在が、そして彼らが付与するストレスがカスケード的に栄養性に影響を与え、さらには生態系のプロセスに影響を与えている。(KU,nk)
Fear of Predation Slows Plant-Litter Decomposition

木の葉占い(Reading the Leaves)

栄養の供給過多、すなわち富栄養化として知られる型の汚染が、河川における生物多様性と水質を脅かしている。Woodwardたちは、キーとなる一つの生態系プロセスである青葉−落葉−枯葉が、ヨーロッパの100もの河川における大きな栄養汚染勾配における富栄養化に、いかに対応しているかを調べた(p. 1438; またPalmerとFebriaによる展望記事参照のこと)。葉の分解は、栄養濃度が低いあるいは中程度のところでは促進されていたが、栄養負荷が高い比率のところでは、抑制されていたのである。(KF,ok,ogs)
Continental-Scale Effects of Nutrient Pollution on Stream Ecosystem Functioning

空間的記憶の動揺(Spatial Memory Perturbation)

海馬は学習と記憶にとって重要である。しかしながら、海馬におけるどんな神経活動パターンが、特定の記憶増進機能を支えているかは、はっきりしていない。Jadhavたちは、学習中の海馬の神経回路網イベント、sharp-wave ripples(鋭波とさざ波)を選択的に検出、妨害できるリアルタイムの解析システムを開発した(p. 1454,5月3日号電子版)。覚醒している動物では、sharp-wave ripplesとそれに関連する記憶再生活動が失われると、空間的作業記憶に特異的な学習欠陥を引き起こしたが、参照記憶に影響はなかった。この学習の欠陥は、場所-場の表現が保存され、休憩中の再生活動があるにもかかわらず生じたのである。(KF,nk)
Awake Hippocampal Sharp-Wave Ripples Support Spatial Memory

サイレンシングするか否か(To Silence or Not to Silence)

遺伝子は、DNAのメチル化や、共有結合性のヒストン修飾(サイレントなクロマチンに付随)、小さな干渉性(si)RNAなどによって発現を抑制される。これら3つの特色すべては、遺伝子サイレンシングシステムの要素である(JacobとMartienssenによる展望記事参照のこと)。顕花植物における遺伝子サイレンシングシステムのDNAメチル化の要素のスクリーニングにおいて、Moissiardたちは、マウスのMicrorchidia1遺伝子の相同物である遺伝子AtMoRC1とAtMORC6を同定した(p. 1448,5月3日号電子版)。AtMoRC1とAtMORC6は、転位因子とDNAメチル化座位に対応する遺伝子のサイレンシングに関与しているが、どちらの遺伝子もDNAメチル化の維持には必要とされない。その代わり、AtMoRC1とAtMORC6とは、クロマチンの高次構造の再構築に関連していて、メチル化されたサイレントな染色質の高次コンパクションを介して、遺伝子サイレンシングを制御しているらしい。Qianたちは、高度に相同遺伝子を含む、反復と多重遺伝子族に富んだ座位でのDNAメチル化の制御に関与する、Arabidopsis(シロイヌナズナ)の遺伝子、IDM1 (increased DNA methylation 1)を同定した(p. 1445)。IDM1は、DNAサイレンシングから標的遺伝子を保護し、標的座位においてヒストンH3とメチル化DNAの双方を認識し、ヒストンH3をアセチル化することができるのである。(KF,ogs)
A Histone Acetyltransferase Regulates Active DNA Demethylation in Arabidopsis
MORC Family ATPases Required for Heterochromatin Condensation and Gene Silencing

軸索の制御(Controlling the Axon)

脳におけるγ振動に関与する細胞性機構と回路は、完全には理解されていない。Dugladzeたちは、脳切片を用いて、γ振動の際の、海馬錐体神経細胞の細胞体と軸索とにおいて、同時にパッチクランプ記録を行なった(p. 1458)。その条件下では、錐体細胞が2つの起電性区画に分けられて、細胞体は低頻度で発火する一方、軸索では異所性の活動電位がより高頻度で産生された。この機能分離は高活性の軸索間介在ニューロンによって維持されていた。これら軸索間細胞による、軸索開始セグメントの強力な抑止によって、異所性活動電位の細胞体樹状突起区画へのバックプロパゲーションは妨げられている。しかしながら、錐体細胞への全体的な興奮性駆動が高いときには、正常な順行性活動電位が産み出された。(KF)
Segregation of Axonal and Somatic Activity During Fast Network Oscillations
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