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Science November 18 2011, Vol.334 


大きなリボソームのサブユニット構造(Large Ribosomal Subunit Structure)

細菌のリボゾームの構造は詳しく決定されてるが、ずっと大きくて複雑な真核生物のリボソームは未確定な部分が多い。Klingeたち(p. 941, 11月3日号電子版参照)は、真核生物翻訳開始因子6(eIF6)と複合体を作っている大きなリボゾーム(60S)のサブユニットの結晶構造について報告している。この構造から、真核生物に特異的なリボソームタンパク質とリボソームのRNA拡大セグメントの間の相互作用のネットワークが明らかになり、活性部位の安定化に真核生物のリボソームタンパク質エレメントの果たす役割が明らかになった。同時に、タンパク質合成とリボゾーム成熟に関わっているelF6との相互作用についての分子基盤を解明するものである。(Ej,KU)
Crystal Structure of the Eukaryotic 60S Ribosomal Subunit in Complex with Initiation Factor 6
pp. 941-948

豪華な銀河(Gorgeous Galaxies)

銀河は、それらの周りからの降着するガスによって、また、それらのガスを星に転換することによって成長する。実際、ガスの補充源がなければ、われわれの銀河は現在の恒星の生成率を維持することはできないであろうと、長い間考えられてきた。3つの報告は、Hubble Space Telescope に搭載された Cosmic Origins Spectrograph と Space Telescope Imaging Spectrograph によって得られたデータについて記述している。Lehner と Howk (p.955, 8月25日電子版) は、われわれの銀河内のサンプリングされた28個の恒星に対して、高速で移動するイオン化したガス雲を観測している。これにより、ガス雲までの距離を決定することが可能となる。ガス雲の一部は、われわれの銀河内部にあり、われわれの銀河の現在の恒星の生成率を維持するのに十分な質量を有している。恒星が進化するにつれ、恒星風や爆発は、物質を銀河からそのごく隣接した周囲に排出する。Tripp たち (p.952) は、最近の爆発的な恒星形成を経験した銀河の周囲のガスを調べ、大きな質量と空間的な広がりを持ったイオン化したガスの流出を観測した。Tumlinson たち (p.948) は、イオン化したガスの流出と42個の銀河の標本との関連を調査した。ほとんど、あるいは、まったく恒星形成のない銀河と比較して、現在なお恒星を形成している銀河は、それらのまわりにイオン化した酸素のハローを有していることが確実のようである。(Wt)
The Large, Oxygen-Rich Halos of Star-Forming Galaxies Are a Major Reservoir of Galactic Metals
p. 948-952
The Hidden Mass and Large Spatial Extent of a Post-Starburst Galaxy Outflow
pp. 952-955
A Reservoir of Ionized Gas in the Galactic Halo to Sustain Star Formation in the Milky Way
pp. 955-958

金属のベール(Metal Veil)

高い機械的強度と絶縁性を有するシリカエアロゾルのような超低密度の素材を作る方法はたくさんある。これら素材は凍った煙のようにみえるが、わずか2グラムのサンプルで2.5キログラムの煉瓦を支えることができる。Schaedlerらは(p.962)超低密度金属格子骨格を造る手法を開発した。液状のフォトモノマーにフォトマスクパターンを通して平行紫外線を照射し3次元格子材料を得た後、ニッケル-リン薄膜がコーティングされる。その後ポリマーをエッチングすることで、ニッケル-リン中空支柱からなる三次元格子構造を得ている。(NK,nk)
Ultralight Metallic Microlattices
pp. 962-965

それほど熱硬化性ではない(Not So Thermoset)

合成樹脂は、大きくは次の二つのカテゴリーに分類される。繰り返し加熱したり加工したりして異なる形にできる熱可塑性と、液状にした後、化学的または光学的に架橋させる熱硬化性である。一旦硬化すると、たいていの熱硬化性材料は、それ以上加工したり成形することがほとんど出来ない。Montarnal たちは(p. 965)、温度を上げて繰り返し加工できる熱硬化性ライクの材料を設計した。そして、それは元の材料の機械特性を保持したまま、粉砕して新たな形状にリサイクルすることさえ出来る。(Sk)
Silica-Like Malleable Materials from Permanent Organic Networks
pp. 965-968

強誘電性ドメインの動態を観察する(Observing Ferroelectric Domain Dynamics)

強誘電性物質は、電界の印加で切り替え可能な自発的電気分極を有している。この性質はメモリーチップやRFID(radio-frequency identification)タグを作るのに有用である。Nelson たちは(p.968)高分解能の透過型電子顕微鏡を用いて、 BiFeO3 フィルムのスイッチングの動態を調べ、そして電極-酸化物界面での局所的な核形成現象、点欠陥に固定されるドメイン壁、酸化物-酸化物界面に局在化した準安定な強誘電状態の形成を観察した。(Sk)
Domain Dynamics During Ferroelectric Switching
pp. 968-971

性的拮抗作用(Sexual Antagonism)

オスにとって有利な形質は、メスにとって有害でありうる。たとえば、テストステロン(代表的な雄性ホルモンの一つ)が高レベルで攻撃性があると、支配を助長することでオスにはメリットがあるが、メスの場合には繁殖力の減少によって有害である。つまり、高度に優位なオスは繁殖力の低いメスの子孫を産み、逆もまた真である。しかし、それでは、適応度の異なりに関与する形質の変異は、どのように維持されるのだろうか? Mokonnenたちは、規則的な個体数ゆらぎと乱交雑交配系をもつドテハタネズミ(bank vole)で、この疑問に取組む大規模実験を行なった(p. 972)。優位なオス(繁殖力の低い娘が多い)は、一般的条件下で好まれたが、オスが少ないときは、劣位のオス(繁殖力の高い娘が多くいる)が、集団の個体数にかなりの貢献をしていた。このデータから導かれたモデルは、性的な拮抗作用と頻度依存の選択の組み合わせが、性的拮抗作用だけでは不可能な、遺伝的変異を維持していることを示唆している。(KF,KU)
Negative Frequency-Dependent Selection of Sexually Antagonistic Alleles in Myodes glareolus
pp. 972-974

マイクロメカニカル系の驚異(Micromechanical Marvels)

マイクロエレクトロメカニカル(微小電子機械)系、つまりMEMSとは、機械系要素と電気機械系要素の双方の微小化要素をマイクロ加工の手段を利用して単一プラットフォーム上に結合するものである。MEMSを上手に作るためには、十分に強靭であり、そしてエレクトロメカニカルな応答を示し、かつ適応可能な方法で製作出来る材料が必要である。Baek たち(p. 958) は、Si基板上に強誘電性薄膜Pb(Mg1/3Nb2/3)O3-PbTiO3のエピタキシャル成長に関して報告している。この薄膜は巨大な圧電性能を示し、低駆動電圧で操作可能な微小カンチレバー(片持ち梁)の作成に利用できる。(hk,Ej,KU)
Giant Piezoelectricity on Si for Hyperactive MEMS
pp. 958-961

ボルバキアがその適所を見つける(Wolbachia Finds Its Niche)

幾つかの感染症に対する戦いにおいて、細胞内細菌であるボルバキアは蚊の集団の制御に役立つため使用されつつある。しかしながら、ボルバキア伝播の原因であるその細胞メカニズムに関しては殆ど知られていない。Fastたち(p. 990,10月20日号電子版)は、宿主の昆虫において、ボルバキアの母系伝播に影響を与える二つの細胞事象に関して記述している。ショウジョウバエがボルバキアに感染すると、有糸分裂の活性化が生殖系列の幹細胞で上昇し、そしてプログラム細胞死が発生中の卵チャンバー(生殖腺)で減少した。この二つは感染した昆虫の生殖成功を増加するらしい。(KU)
Wolbachia Enhance Drosophila Stem Cell Proliferation and Target the Germline Stem Cell Niche
pp. 990-992

鎌状細胞の介入(Sickle Cell Intervention)

鎌状赤血球症(成人において発現するヘモグロビンの或る型をコードしている遺伝子の点変異により引き起こされる)の有害な影響は、胎児発生中に発現するヘモグロビンのその型の再導入によって小さくすることが出来る。不幸なことに、胎児のグロビン遺伝子は、通常発生が進むにつれ停止される。内在性のマウスのグロビン遺伝子と遺伝子導入ヒトグロビン遺伝子の双方を持つマウスを用いて、Xuたち(p. 993,10月13日号電子版)は、リプレッサーBCL11a(これは胎児のグロビン遺伝子の発現をサイレンスする)の作用を調べた。BCL11aが無いと、胎児のグロビン遺伝子の発現はその発生の順相を超えて持続した。しかしながら、殆どの患者は胎児のグロビン発現の発生停止後に確認されている。グロビン発現の発生上のシフトが既に起こっている成体マウスにおいて、BCL11aの誘導性の抑制により、胎児グロビンの発現の復活が可能となり、そして病の苦しみを和らげた。(KU,ok)
Correction of Sickle Cell Disease in Adult Mice by Interference with Fetal Hemoglobin Silencing
pp. 993-996

停止と耐性(Arrest and Tolerate)

食糧を絶つことでバクテリアが自らの成長を止めるとき、彼らはすべてのクラスの抗生物質による殺作用に対して抵抗できる。食糧を断つこと(Starvation)は、多くの慢性感染症で見出されるバクテリア群衆構造であるバイオフィルム中における薬物耐性の主な原因の1つでもあるNguyenたち(p. 982; BelenkyとCollinsによる展望記事参照)は、このような抗生物質耐性が起こることは、抗生物質の標的が成長停止の間では不活性になるからではなく、飢餓を感知するメカニズムが防御反応を作り出すからであると示している。栄養制限を検知できないバクテリア変異体は、抗生物質暴露に対して桁違いに感受性が高く、感染症の形成が出来づらくなり、そして抗生物質に耐性のある変異体を産成することができなかった。(TO,KU)
Active Starvation Responses Mediate Antibiotic Tolerance in Biofilms and Nutrient-Limited Bacteria
pp. 982-986

赤ん坊の歩み(Baby Steps)

新生児は不規則なぎくしゃくした歩くような動きをすることはあるが、それがちゃんとした歩みになっていくには、何ヶ月もかかり、また何度もの転倒が必要である。二足歩行で歩くよちよち歩きでも、成人の様には歩けない。Dominiciたちは、発達につれてヒトの歩きのパターンがいかに変化していくかを分析した(p. 997; またGrillnerによる展望記事参照のこと)。分析の結果、歩行が神経筋のいくつかの要素の集合へと分類されることがわかった。新生児もそれら要素のいくつかをもっていて、それは他の哺乳類における歩行パターンに類似している。よちよち歩きには、この基本的セットに、更に2つの要素が加わる。そして成人は、最適な歩行のために、それら要素を洗練させてきたのである。(KF,KU,nk)
Locomotor Primitives in Newborn Babies and Their Development
pp. 997-999

少ないほうがよいのはどんなとき?(When Is Less More?)

多過ぎる情報のために、意思決定の能力が妨害されて、最適ではない選択をする結果になることがときどきある。FreidinとKacelnikは、この「少ないほうがよい(less is more)」効果をムクドリで探求し、文脈情報がムクドリの「最適な」エサを選択する能力を妨害していることを確認した(p. 1000; またGiraldeauによる展望記事参照のこと)。しかし、このことはトリが同時に複数の選択肢を提示されたときだけ、正しかった。それとは対照的に、トリがエサの選択肢を順番に提示された場合には、そのエサ発見の文脈を知っていることは、最適な選択をする助けになったのである。自然界では、ムクドリは無脊椎動物をあさっていて、同時に多くのエサにでくわすことはありそうにない。つまり、意思決定というものは、選択肢が同時に与えられたら失敗するにもかかわらず、文脈情報を選択決定に用いるよう進化してきたのである。(KF)
Rational Choice, Context Dependence, and the Value of Information in European Starlings (Sturnus vulgaris)
pp. 1000-1002

ニトロゲナーゼがその解決の秘密を与える(Nitrogenase Yields Its Secrets)

ニトロゲナーゼは窒素のアンモニアへの還元を触媒するが、これには窒素の最も強い化学結合である三重結合の活性化を必要とする。同じ反応を行なう工業的なプロセスであるハーバー・ボッシュプロセスは、世界全体のエネルギー消費の1%を超え、それ故に化学者たちは長年に渡ってニトロゲナーゼの触媒作用のメカニズムを理解しようとしてきた。ニトロゲナーゼの活性部位における鉄モリブデン(FeMo)補助因子の結晶中で観測される軽元素の正体が不明であった(Ramaswamyによる展望記事参照)。Spatzalたち(p. 940)、及びLancasterたち(p. 974)は、構造モデル、精緻な分光法及びコンピューターシミュレーション研究を用いて、この侵入型リガンドがほぼ間違いなく炭素であるという証拠を提供している。(KU,ok)
Evidence for Interstitial Carbon in Nitrogenase FeMo Cofactor
p. 940
X-ray Emission Spectroscopy Evidences a Central Carbon in the Nitrogenase Iron-Molybdenum Cofactor
pp. 974-977

静かにさせておく(Keeping It Quiet)

真核生物では、遺伝子サイレンシングが細胞運命を制御するのに必須である。よく研究された事例は、酵母において接合型を制御しているサイレント情報制御因子(SIR) 複合体である。Armacheたちは、ヌクレオソームのコアに結合したこの複合体のキーとなるタンパク質Sir3の結晶構造を提示している(p. 977)。この広範な分子接触の観察結果から、Sir3とヒストンにおける既知の変異がいかにしてサイレンシングに影響しているか、また、2つのヒストンの共有結合的修飾がいかにしてヌクレオソームへのSir3結合を制御しているかを説明できる。結晶のパッキングの特色は、観察されたSir3とヌクレオソームのインターフェースがいかにしてより大きな構造に統合され、染色質の長い領域をコンパクトにし、サイレンシングしているかのヒントを与えてくれる。(KF)
Structural Basis of Silencing: Sir3 BAH Domain in Complex with a Nucleosome at 3.0 A Resolution
pp. 977-982

細菌の保護(Bacterial Protection)

ほとんどの細菌は硫化水素の産生が可能で、そのために3つ組の酵素を利用している。古典的には、この気体はイオウ代謝の副産物であると考えられてきたが、一酸化窒素が酸化ストレスからグラム陽性菌を保護していることが知られ、Shatalinたちは、H2Sもおそらく同様なことをしていることを発見した(p. 986; またBelenkyとCollinsによる展望記事参照のこと)。H2S生成酵素が不活性化されると、細菌はH2Sの源からの供給がない限り、抗生物質に対する感受性がより高まってしまったのである。(KF)
H2S: A Universal Defense Against Antibiotics in Bacteria
pp. 986-990

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