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Science September 23 2011, Vol.333


乱交雑な娘たち(Promiscuous Sisters)

比較的数少ない個体によって創始された集団においては、スタート時の遺伝子の種類が少いというボトルネック効果により遺伝的多様性の低下と同系交配がもたらされる。メスが有害な近親交配の影響を避ける一つの方法は、より多くのオスとの交配により彼らの子孫に遺伝的多様性を増やすことである。Michalczykたち(p. 1739)は、ボトルネック後の単一のオスと交配したカブトムシ(red flour beetles)と複数のオスと交配したカブトムシの適応度を調べ、そしてより多くのオスと交配したメスのほうが単一のオスと交配したメスよりもより高い適応度を示すことを見出した。更に、10匹のオスに近づけさせた時に、近交系のメスの方が非-近交系のメスより多くのオスと交配し、そして交尾により多くの時間を費やした。このように殆どの種において、近親交配によりメスの乱交雑が促進されると説明できるであろう。 (KU,nk)
Inbreeding Promotes Female Promiscuity
p. 1739

タンゴを踊るには2人いる(It Usually Takes Two to Tango)

1992年に、二つ惑星系がミリ秒のパルサー(毎秒数百回ほど回転する中性子星である)周辺で観測された。それ以来、数百の惑星が普通の星の周りで観測されていたが、それはミリ秒パルサーの周辺ではなかった。Bailesたち(p. 1717,8月25日号電子出版;Rasioによる展望記事参照)は、ミリ秒パルサーPSR J1719-1438の周辺で木星に似た質量を持つ惑星を観測したことについて報告している。この惑星は木星より比重が高く、炭素と酸素からできているようだ。殆どのミリ秒パルサー星が他の星との連星系なのに、何故あるミリ秒パルサー星は単独星なのかの説明に、この観測が役立つであろう。(hk,KU,Ej,nk)
Transformation of a Star into a Planet in a Millisecond Pulsar Binary
p. 1717

干渉状態の空間的限界(Spatial Bounds on Coherent States)

画像技術は、しばしば時間と空間の分解能でトレードオフを生じる。例えば、超高速レーザーパルスを用いる方法は、しばしば回折の限界により制限される。Aeschlimann たちは(p.1723, 8月11日号電子版)、金属試料中のコヒーレントな電子状態の画像取得に際し、画像形成に光電子を用いることで、回折限界を克服した。4光波コヒーレント混合により、ナノ構造の銀フィルム上で異なる空間的特徴をもつコヒーレント状態の観測が可能になった。(Sk,KU,nk)
Coherent Two-Dimensional Nanoscopy
p. 1723

ポンとはじけて開く(Popping Open)

植物の種子のさやは、湿度といった環境因子に応じて形を変える。例えば、水の吸収によりさやの組織の不均一な膨潤をもたらす。この膨潤により応力が蓄積して種子のさやが捩れて、突然破裂して開いてしまう。Armonたち(p. 1726;Forterre and Dumaisによる展望記事参照)は、この捩れの挙動がさやの材料特質によるのか、あるいはさやの組立構築様式によるのかどうかを調べた。ラテックス片を一軸方向に延伸して、次に片同士を接着した時に、二つの層の配向の差に依存して、「ひじょうに面白い」挙動が捩れ構造中で観察された。この捩れ構造は、異なる方向に曲がろうとする二層各々の特性により引き起こされた。(KU,ok)
Geometry and Mechanics in the Opening of Chiral Seed Pods
p. 1726

しなやかさから脆さへ(From Ductile to Brittle)

ある種のしなやかな(延性のある)金属がある種の液体金属に触れると、脆くなることがある。Luo たちは(p.1730) 収差補正走査透過型電子顕微を用いて、ビスマス原子によるニッケルの液相侵食を調べた。ビスマス原子は、ニッケルの粒界に沿って浸透し、境界の両側に単層の複合体を形成した。その時、ビスマス原子はビスマス原子同士よりもずっと強くニッケルと結合し、その結果ニッケルは脆くなった。(Sk)
The Role of a Bilayer Interfacial Phase on Liquid Metal Embrittlement
p. 1730

水素の遊離(Hydrogen Liberation)

時において、太陽は雲に隠れ、そして風は止んでしまう。太陽や風力による電気の発生には、このような日が翳った時や風の吹かない日でも使用できるためのエネルギーを貯える二次的手段が必要となる。一般的に促進されたスケーラブルな提案の一つは、電気化学的に合成された水素分子にそのエネルギを溜めることである。しかしながら、次いで、水素自身を貯蔵する必要がある。Boddienたち(p. 1733;Ottによる展望記事参照)は、この目的に対して蟻酸を用いることの見通しを述べている。鉄触媒により、環境に優しい条件下で蟻酸からの水素遊離を促進することが出来た。(KU)
Efficient Dehydrogenation of Formic Acid Using an Iron Catalyst
p. 1733

巨大な足跡(Big Footprints)

巨大都市は多様な種類の大気汚染の源となっている。その中の窒素酸化物(NOx)は、大気の質、市民の健康、対流圏の化学作用、そして気候に対して影響を及ぼすため、最も重要なものとなっている。しかしながら、とりわけ地上観測所が限られている新興国において、その巨大な都市圏の殆どの場合において、どの物質がどれだけ排出されているかを総覧するのは困難と考えられている。Beirleたちは(p.1737)衛星に搭載された機器を用いて、NO2濃度の風下のパターンを解析することにより、NOx排出量と持続時間の双方を計測する手法を報告している。これにより、どの物質がどれだけ排出されているかを総覧するのは困難と考えられている。よく研究された都市についてのみ可能であったタイプの計測を、従来手法では上手く決められなかったタイプにまで拡張することができるようになろう。(Uc,nk)
Megacity Emissions and Lifetimes of Nitrogen Oxides Probed from Space
p. 1737

ミツバチとランの相利共生(Orchid Bees and Their Orchids)

多くの植物-昆虫の相互作用は高度の特殊性を示している。Ramirezたち(p. 1742)は、分子系統発生学、化石の年代、及びミツバチに付着したランの花粉を収集し、どのミツバチがどの花に受粉しているかを解析することで、新熱帯区のランと彼らの花粉媒介者であるオイグロシン・ミツバチ(euglossine bees)の間の関係を調べた。ランの多様化はミツバチの多様化の跡を追っているが、一方ミツバチの進化はランにほとんどど依存していない。(KU,nk)
Asynchronous Diversification in a Specialized Plant-Pollinator Mutualism
p. 1742

押さえて遊離する(Hold and Release)

C型肝炎ウイルスはRNAへリカーぜであるNS3をコードしているが、これはウイルスのRNA複製にとって必須のものであり、そして非-六量体へリカーゼの大きなファミリーのモデルである。Chengたち(p. 1746)は光ピンセットを用いて、NS3によるRNAヘアピンの巻き戻しを一個のヌクレオチド分解能で研究した。以前のモデルと一致して、アデノシン三リン酸の結合が一個の塩基対の切断を触媒していた。しかしながら、このヘリカーゼは新生の単一のRNA鎖のいずれかに由来するヌクレオチドを隔離しているらしく、ヌクレオチドの遊離は、塩基対の開裂とは結合していない。その結果得られたモデルは今回とは全く別の種類の以前の実験結果とも一致しており、そしてヘリカーゼが核酸に沿っての移動速度を調整しているというメカニズムを与えている。(KU,ok,nk)
Single-Base Pair Unwinding and Asynchronous RNA Release by the Hepatitis C Virus NS3 Helicase
p. 1746

結局のところそれほど競合的ではない(Not So Competive After All)

野生の草食動物とウシは、食料を競い合うため共存できないということが、昔から信じられているが、これはウシにより広いスペースが必要となるにつれて、野生種にはより狭いスペースを、ということを意味していた。Odadiたち(p. 1753;du Toitによる展望記事参照)はこの仮説に挑戦した。乾季において、競合によりウシのパフォーマンスは減退したが、一方雨季において、野生の草食動物によりウシの体重が実際に増加した。更に、雨季の間に生じた体重促進は、乾季の間での競合による体重減少をほぼ補っていた。野生の草食動物は、ウシにとって余り口に合わない植物を食べているようで、結果としてより「ウシにフレンドリー(cattle-frienndly)」な植物の入手が容易になる。このように、家畜と野生動物の共存は、恐らく有利でさえある。(KU,nk)
African Wild Ungulates Compete with or Facilitate Cattle Depending on Season
p. 1753

ヌクレオソームの配列(Arranging Nucleosomes)

ヌクレオソーム(染色質のコア成分)は、転写される遺伝子に関してステレオタイプの整列を示している。特異的なDNA配列がこのパターンの確立に寄与していると提案されてきたが、in vitroにおいてDNA上に組み立てられた精製されたヒストンは、in vivoでのパターンをごく一部分のみを再現するだけであった。Gkikopoulosたち(p. 1758)は、3つのクロマチンリモデリング酵素グループのいずれか一つの損失は、比較的マイナーな影響しかないことを示した。しかしながら、3つ総ての酵素の除去は、遺伝子の転写開始点と翻訳領域に関して劇的なヌクレオソームの組織化の損失をもたらした。これはまた、ヌクレオソーム配列の規則的な空間配置における全体的な減少と染色質コンパクションの損失をも伴っていた。(KU,nk)
A Role for Snf2-Related Nucleosome-Spacing Enzymes in Genome-Wide Nucleosome Organization
p. 1758

精子と卵子の結合(Sperm-Egg Binding)

ヒトの受精は、精子が、透明帯として知られる卵子の外側の覆いに結合すると開始される。シアリル-ルイス(Sialyl-Lewisx)はセレクチンにとって普遍的な炭水化物リガンドであるが、このセレクチンは、刺激された内皮への免疫細胞と炎症細胞の結合を仲介する細胞接着タンパク質のファーミリーである。Pangたちは、未受精のヒト卵母細胞を単離し、超高感度の質量分析を用いて、ヒトの透明帯に付着した化学物質を同定した(p. 1761、8月18日号電子版; またWassarmanによる展望記事参照のこと) 。シアリル-ルイスxが透明帯上に豊富に発現し、精子の卵への結合を仲介していた。(KF,KU)
Human Sperm Binding Is Mediated by the Sialyl-Lewisx Oligosaccharide on the Zona Pellucida
p. 1761

移動性の抵抗前線(Mobile Resistance Fronts)

我々は抗生物質耐性の進化についてかなり多くのことを理解したが、その仕組みについては、相対的にはあまり分かっていない。Zhangたちは、マイクロフルイディクチップを設計したが、それは、土壌や動物の体内など多様なニッチにおいて微生物が体験することになる、抗生物質のさまざまな濃度勾配の影響をテストするものであった(p. 1764; またFrischとRosenbergによる展望記事参照のこと)。シプロフロキサシンの濃度勾配中において、そこに数時間さらされることによって、その抗生物質に抵抗性のある運動性大腸菌が選別された。細菌を流れのない培養条件で成長させると、そうした抵抗性は見られなかった。耐性菌のゲノム配列決定を行なうと、細菌のジャイレース(gyrase:DNAのトポロジー異性体間の相互転換を触媒する酵素)とリボース輸送体成分、そして薬剤流出ポンプのマスター制御因子の中に、4つの一塩基多型が存在していることが繰り返し明らかになった。(KF,KU)
Acceleration of Emergence of Bacterial Antibiotic Resistance in Connected Microenvironments
p. 1764

オープンな心(Open Minds)

他者の信念には順応性があると信じられる気質は、対人での対立という状況においても、交渉による決着を達成することに役立つことがある。グループにおいても同様の気質は存在するのだろうか、もし存在するなら、それは交渉しようという意向に影響するのだろうか? Halperinたちは、中東における対立という文脈でこの可能性を探求し、500人のイスラエルのユダヤ人を調査することによって、順応性の存在を信じることと、妥協への意向との間に、相関があることを発見した(p. 1767,8月25日号電子版)。イスラエルのユダヤ人とパレスチナ人の双方についての実験研究において、信念には順応性があると考える立場と、変わらないとする立場の間で比較がなされ、交渉で決着をつけようとすることへの大きな支持が、順応性があるとする側において測定されたのである。(KF)
Promoting the Middle East Peace Process by Changing Beliefs About Group Malleability
p. 1767

非線形のプラズモン(Nonlinear Plasmons)

表面プラズモンは、金属の表面に強く閉じ込められた光誘導電子励起である。表面プラズモンに関する研究の多くは、導波管のような受動的なプラズモンデバイスの実証と共に、線形の系に集中していた。Caiたち(p. 1720)は、非線形の媒質で満たされたプラズモンのナノキャビティからの光の第2高調波発生器を作り、調整できることを実証している。波長以下の閉じ込めと電気的な、かつ光学的な二つの機能を非線形効果と結びつけることで、能動的なオプトエレクトロニクス回路とネットワークの応用面で有用となるであろう。(KU)
Electrically Controlled Nonlinear Generation of Light with Plasmonics
p. 1720

こぶを乗り越えて(Getting Over the Hump)

一次生産性は植物種の豊かさを決める主要な因子で、こぶ状の単峰性関係を形成すると考えられてきた。しかし文献のメタ分析によれば、データにはいささか矛盾があることが示唆される。Adlerたちは、地球上に分布している研究ネットワークからのデータを用いて、この議論にさらなる光を投げかけた(p. 1750; またWilligによる展望記事参照のこと)。生態学者の国際的コンソーシアムである栄養ネットワーク(The Nutrient Network)は、メタ分析を超えて、その代わりに、5大陸の47の草地のサイトで実施された標準化されたサンプリングに頼ることにした。生産性と種の豊かさの間には、サイト内でも、地域間でも地球全体でも、一貫した関連性はなかった。この経験的結果は、生態学者が多様性を理解する際に、より機構的なアプローチを使うよう、刺激することになるに違いない。(KF,nk)
Productivity Is a Poor Predictor of Plant Species Richness
p. 1750

変動を評価すると...(Assessing Variation)

自然界でもっとも著しいパターンの一つは、局地的な生態学的コミュニティーが、緯度と高度の上昇につれて減少していくというものである。生態学者は長い間、この知見を理解する手段として、β多様性(コミュニティー間の組成の差の測定値)に注目してきた。しかしながら、β多様性は、局地的な生態学的プロセスと種のプールのサイズ(γ多様性)の差の双方の変動によって、影響を受けることがあった。Kraftたちは、より正確に局地的な生態学的プロセスの強さの変動を反映する測定値を導入し、それを、緯度で100度以上も異なる範囲の197箇所にもおよぶ森林の目録データセットに適用し、それに加えて、エクアドルの高度2250メートルまでに及ぶ勾配の範囲での小さなデータセットにも適用した(p. 1755; また表紙参照のこと)。このデータセットは、初回ざっと見では、β多様性の値が増加するのは熱帯でしかも低地であるという、広く報じられていた多くの生物のパターンを示すものだった。しかしながら、この傾向はひとたびγ多様性の差による補正を加えると消滅し、緯度や高度による体系的な傾向はないということになった。つまり、生物地理学的あるいは地域的なプロセスの変動は、種のプールのサイズを設定するらしく、局地的なプロセスの組み合わさった影響は、そうした勾配を超えて、地球全体に観察される種の代謝回転のパターンを生み出すよう一貫して作用しているのである。(KF,nk)
Disentangling the Drivers of β Diversity Along Latitudinal and Elevational Gradients
p. 1755

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