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Science July 22 2011, Vol.333


ダイヤモンドは(ほとんど)永遠に(Diamonds Are (Almost) Forever)

地球の歴史全体にわたり、プレートテクトニクス的過程により大陸が分散し、そして再集合するにつれ、海盆はなんども開いたり閉じたりしてきた。この循環がいつ始まったかは不明であるが、地球の進化モデルに対してその開始は直接的な影響を有している。Shirey と Richardson (p. 434; Van Kranendonk による展望記事を参照のこと) は、数十億年前マントルの中にあった、ダイヤモンド内部の数千の小さな鉱物の含有物の化学データを収集した。そのダイヤモンドは、30-32 億年前に著しい組成変化があったことを示唆している。それは、強いマントル性の兆候を有する岩石から、滑り込み領域でマントルと混合する地殻の兆候を抱く岩石への変化である。後者は、プレートテクトニクスと海盆の循環の存在に太鼓判を与えるものである。(Wt,nk)
Start of the Wilson Cycle at 3 Ga Shown by Diamonds from Subcontinental Mantle
p. 434-436.

サンゴ礁が生き延びるための期待(Hope for Coral Reefs)

気候温暖化と海洋の酸性化によって、向こう数十年間にサンゴ礁は不可逆的に減退してしまうと予想されている。Pandolfi たち(p. 418)は、古生物学的および現状のデータを再評価し、海洋温度や pH 値の地球規模での変化に対するサンゴ礁の応答において、種、個体数、地理領域の間に変動の危機があることを示唆した。サンゴ礁は極めて強く脅かされてはいるが、近い将来、回避不能な崩壊が生じると言う予測は緩和されるべきである。すなわち、環境変化がサンゴ礁の消滅に寄与している一方で、地域的な種や環境の変化により回復や適応によって、これに取って代る別のシナリオの可能性も考えられる。しかし、人類活動による局所的な衝撃が賦課する強い選択効果を低減し、地球規模での環境変化への順応を制限する条件を弱めるためには、地域毎の局所的な脅威からの保護が不可欠である。(Ej,nk)
Projecting Coral Reef Futures Under Global Warming and Ocean Acidification
p. 418-422.

共存する量子状態の結合(Coupling of Coexisting Quantum States)

高温超伝導体における擬ギャップ状態は超伝導状態での温度を超える温度で進展する。それらの電子秩序は複雑であり、ネマティック と スメクチック液晶の電子秩序に似ている。Mesarosたち((p. 426)は、トンネル効果顕微法を用いてBi2Sr2CaCu2O8+δの不足状態にドープされたスメクチック相について研究し、スメクチックとネマチック秩序の構成を分離することができた。Ginzburg-Landau 自由エネルギーダイアグラムによってスメクチックとネマティック秩序の結合が良く説明できていた。(hk,Ej)
Topological Defects Coupling Smectic Modulations to Intra-Unit-Cell Nematicity in Cuprates
p. 426-430.

絶滅の因果関係(Extinction Links)

約2億年前に発生した三畳紀末期の大絶滅は、パンゲア大陸の分裂期間中の火山活動が原因とされており、それは大気への大量の二酸化炭素の放出や気候温暖化を引き起こしていた。この因果関係を確かめるため、Ruhlたち(p.430)は、陸生植物の油脂から得られた化合物レベルの炭素同位体記録を示す。約2万年より少ない期間、炭素が環境に放出され続けて、そして少なくとも1万2000ギガトンの同位体が減耗した炭素がメタンとして大気に加えられた。さらに、並行して起きた植生の変化は、強い温暖化と水循環(hydrological cycle)の活発化を反映している。(TO,Ej,nk)
Atmospheric Carbon Injection Linked to End-Triassic Mass Extinction
p. 430-434.

非金属結晶ケージ(Metal-Free Crystal Cages)

多様な金属有機フレームワーク構造の合成は大きな進歩を遂げており、多機能の有機リガンドと金属イオンノードを架橋させることにより、非常に多孔質の結晶格子が生み出されている。Liu たちは(p.436; Lauher による展望記事参照)、結晶性のケージ集合体において、水素結合で金属リガンドの配位を置換することにより、補足的な取り組みを行った。グアニジウムの水素結合ドナーが、幾何学的に対応するベンゼンスルホン酸アクセプタと溶液中で結合した時、明瞭な切頂八面体(truncated octahedral)の細孔を有する固体の結晶化が観察された。(Sk)
Supramolecular Archimedean Cages Assembled with 72 Hydrogen Bonds
p. 436-440.

恐竜はクールであった(Cool Dinosaurs)

竜脚類恐竜は、地球の歴史上もっとも大きな陸生動物である。恐竜は当初、冷血であったと思われていたが、最近の証拠は温血であったかもしれないことを示唆している。しかしながら、これは最大の恐竜が高い体温をもっていたであろうことを暗に示している。化石の歯の同位元素ベースの古代温度測定に基づく新規技術を用いて、Eagle たちは (p. 443, 6月23日 オンライン出版) 、竜脚類が、36°C から38°C の体温をもっていたことを示した。この範囲は現代の哺乳類や鳥類に匹敵し、大きな恐竜は代謝率を落とすか、あるいは、熱を散逸させるような適応を遂げて、オーバーヒートを避けたに違いないことを示唆している。(Sk,nk)
Dinosaur Body Temperatures Determined from Isotopic (13C-18O) Ordering in Fossil Biominerals
p. 443-445.

4つの原子のために(All Four Atoms)

たとえば酵素の活性サイト中の変化など多数の原子を伴う反応メカニズムを理論モデルを構築し解明することはある程度可能である。しかし、段階的な振動状態と角軌道の変化を捉えるといった高次の量子力学的詳細の分析は3つの原子からなる非常に単純な系に限られている。Xiaoらは(p.440)OHとHDとが反応して水と重水素になる4原子系の状態選択反応確率の理論的予測について報告している。(NK)
Experimental and Theoretical Differential Cross Sections for a Four-Atom Reaction: HD + OH → H2O + D
p. 440-442.

使用した後は捨てろ(Use It, Then Lose It)

病原菌は、RhoやRab GTP分解酵素のような宿主因子を標的としてAMPylateする(共有結合的にアデノシン1リン酸に付着する)ようなエフェクタータンパク質をコードする。AMPylateすることは下流のシグナルイベントを妨害することで、微生物の感染を促進させる。宿主因子の制御が感染の間、どのように行われているか、その過程が逆行可能かどうかは不明であった。Neunuebel たち(p. 453, 6月16日電子出版参照)は、レジオネラ・ニューモフィアが AMPylation 酵素を分泌することに加えて、宿主細胞中に de-AMPylase である SidD を転座させることを見出した。このようにして、SidD が感染期間中のレジオネラを含む空胞の初期 Rab1 蓄積と、引き続く Rab1 除去プロセスの間のこれまで不明だった箇所をつなぐことが判った。(Ej,nk)
De-AMPylation of the Small GTPase Rab1 by the Pathogen Legionella pneumophila
p. 453-456.

ビートを保持して(Keeping the Beat)

真核生物において繊毛配列は周期的な脈動を保持し、組織の表面に流体を流動させることができる。この配列はダイニンモーターが2つの微小管に結合した軸糸から構成されており、互いにスライドさせる。このダイニンの運動がどのようにして軸糸の自己保持性脈動を制御し、その結果、繊毛配列を協調して脈動しているかは、不明であった。Sanchez たち(p. 456)は、微小管と交差結合する分子モーターのキネシンの影響下で、微小管束が自発的に脈動し、同期することを示した。このような最小のシステムは、生物学的なナノマシンの周期的変動を駆動する機構の洞察を与えてくれる。(Ej)
Cilia-Like Beating of Active Microtubule Bundles
p. 456-459.

酵素の開発(Enzyme Exploitation)

II型トポイソメラーゼは、複製や転写、染色体凝縮などのプロセスにおいて形態を変化させる際に、一過性でDNAを切断する。ある種の抗生物質や抗がん剤は、切断複合体を安定化させることによって作用し、細胞傷害性DNA損傷の形成を促進している。Wuたちは、DNAと抗がん剤エトポシドとの複合体中におけるヒトのトポイソメラーゼ 2β のDNA結合および切断の核の高分解能での構造を提示している(p. 459)。この構造は、既知の薬剤の構造と活性の関係についての基礎的情報を提供するものであり、アイソフォームに特異的な薬剤の開発にとって有用な情報を提供するものである。(KF)
Structural Basis of Type II Topoisomerase Inhibition by the Anticancer Drug Etoposide
p. 459-462.

侵襲用に仕立てられ(Built to Invade)

アピコンプレクサ寄生虫はマラリアやトキソプラズマ症などの病気の原因となる。侵襲の鍵となるのは、寄生虫と宿主の細胞膜を結び付ける接合部(MJ: moving junction)複合体である。この複合体において鍵となる2つのタンパク質は、双方とも寄生虫によって供給される。それらは、受容体RON2---これは、宿主の細胞膜に組み込まれる---、とそのリガンド、頂端膜抗原1(apical membrane antigen 1= AMA1)である。Tonkinたちは、AMA1に結合したRON2の結晶構造を決定した(p. 463; またBaumとCowmanによる展望記事参照のこと)。この複合体は埋められた広い表面領域を有していて、おそらくこの領域が宿主細胞への侵襲の際の機械的な力にこのMJ複合体が抗することを可能にしているのである。(KF)
Host Cell Invasion by Apicomplexan Parasites: Insights from the Co-Structure of AMA1 with a RON2 Peptide
p. 463-467.

粋なtigerはずる(cheater)を許さない(Dicty Tiger Nixes Cheaters)

社会性アメーバである細胞性粘菌 (Dictyostelium discoideum) の集合体中の細胞は、種々の株(遺伝子型)から胞子混合物を含む子実体を形成するように分化する。子実体の柄(stalk)を形成する過程で細胞は死滅する。この cheater とよばれる細胞は社会的な発生システムにおいて自らを優先的に胞子に分化させ、ほかの細胞を柄に分化させることにより利己的な利益を得て次世代により多くの個体を残そうとするのであるが、では、なぜいくつかの株では死滅性の柄となることで細胞を犠牲にすることなく、cheater 化をストップしているのであろうか? Hirose たち(6月23日付け電子版、p. 467)は、tigerと呼ばれる配列多型遺伝子をもつアメーバを研究した。tiger は自己認識、シグナル伝達および発生の制御を仲介する。一連の欠失、置換実験では、tiger 対立遺伝子の相補対が子実体から cheater を排除するのに十分であった。(hE,KF)
訳者注:Hiroseたちによる本論文の翻訳を参照のこと。(社会性アメーバの自己と非自己の認識はtgrB1-tgrC1遺伝子座の配列多型に依存する) http://first.lifesciencedb.jp/archives/3177
Self-Recognition in Social Amoebae Is Mediated by Allelic Pairs of Tiger Genes
p. 467-470.

型と機能(Form and Function)

真核生物細胞でも原核生物細胞でも、生物学的経路の構造と空間的組織化によって、必須の反応を頑健かつ効率よく行うことが保証される。Delebecque たち(6月23日付け電子版、p. 470;表紙参照;Thodey および Smolkeによる展望記事参照)は、生体内(in vivo)での多酵素経路で新たに空間的組織化を達成するためのプラットフォームについて記載している。RNAは一次元および二次元の組立体を別個に構築するようにプログラム化されており、これによってin vivoでタンパク質を空間的に組織化できる結合部位を提示する。この戦略を用いて、細菌の水素生合成は骨格構築の機能を微調整し増加することができた。(hE,KF)
Organization of Intracellular Reactions with Rationally Designed RNA Assemblies
p. 470-474.

幼児の知恵(Toddler Wisdom)

子どもは、人生初期の数年で、印象的なほど多くの認知スキルを学習する。Perner たちは、(標準的な偽-信念課題によって)「心の理論」と同一性の言明(たとえば、同じモノや人物に違う名前で言及できるということ)の理解について、3歳から6歳の子どもで、評価を行なった(p. 474)。子どもは、この両方の能力を、3歳から4歳の間に獲得した。この知見は、人物の行動についての子どもによる理由のある予測は、心的状態の理解という孤立した領域で発展するのではなく、必要となる概念化能力を共有する、他の理解領域と歩調を合わせて発展するということを示唆している。(KF,Ej)
訳注:標準的な誤信念概念の課題(false-belief task)の利用:言語を通じて被験者の信じているところを観察する手段であるが、詳細については http://en.wikipedia.org/wiki/Theory_of_mind を参照。
Identity: Key to Children’s Understanding of Belief
p. 474-477.

クールな寄生種(Cool Parasites)

生態学における代謝の理論は、種の存在量の変動を、身体サイズと体温というスケール(尺度)によって説明するものであり、あらゆる組織のレベルでのすべての生物学的過程の検証の鍵となると考えられている。たとえば、身体の小さい生物体は、身体の大きな生物に比べて、単位質量あたりの代謝率がより高い傾向がある。しかし、世界の生物多様性の少なくとも半分に責任がある寄生虫ではどうだろうか? 寄生虫は、その宿主よりは小さい傾向があり、代謝のスケーリングの理論では、寄生虫種の存在量が完全には説明できない。栄養段階間のエネルギーの流れを計算に入れることで、Hechingerたちは、3つの河口域の食物網から収集されたデータを用いることで、期待されたスケーリング指数(平均して、質量当たり代謝率が身体サイズに3/4乗に比例)が、まだ適用可能だということを明らかにした(p. 445)。(KF,nk)
A Common Scaling Rule for Abundance, Energetics, and Production of Parasitic and Free-Living Species
p. 445-448.

森のために木を見る(Seeing the Trees for the Forest)

異なる種の間の系統的関係に関する知識は、分類群(taxa)の比較研究のために重要であるが、複合した分類群の複合した性質を調べるときには、分析はすぐに計算量的に膨大になってしまう。Sandersonたち(p. 448,6月22日オンライン公開、KubatkoとPearlによる展望記事参照)は、同一の値を持つツリーによって構成される系統的空間内に、"テラス"(terraces)を見つけることによって、この問題への対処に役立てる。これらの"テラス"を見つけることで、研究者が調べなければならないツリーの数を減らすことができ、さらにより早くデータセット内のベストな関係を見つけることができる。(TO)
Terraces in Phylogenetic Tree Space
p. 448-450.

黒海の再現(Black Sea Reconstruction)

堆積物の記録にある化石や化学的シグニチャから、ウィルス粒子化石の識別することさえでき、プランクトン共同体を再現することができる。 しかしこの記録は、物理化学的条件によって保存が妨げられて、切り詰められたり、ギャップを含んでいる。Coolen (p. 451)は、不完全な化石記録にもかかわらず、黒海から採取された堆積物コアから7000年間のDNA記録を追跡した。広く存在する植物プランクトン、円石藻(Emiliania huxleyi)、そして過去1000年間に円石藻を攻撃(assault)していたウィルスを分析した。数世紀にわたって存在した安定した植物プランクトン-ウィルス共同体は、気候シフト期間に増加する河川放水の結果、水循環的や栄養的レジーム(regimes)の変化によって生じた突然のシフトによって時折り中断されている。(TO)
7000 Years of Emiliania huxleyi Viruses in the Black Sea
p. 451-452.

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