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Science October 31, 1997, Vol.278


有間接的な影響(Responding indirectly)

地球規模の気候変化が陸生へ与える影響に関する従来の研究は主に 二酸化炭素や温度変化など直接的効果に焦点が当てられていた。 これら、殆ど即効性の影響は、例えば、温度上昇が光合成や呼吸に 与えるものがある。しかしながら、実験生態学者たちは、土壌の 水分貯蔵や栄養分循環などからのフィードバックのような間接的な 効果の方がより重要だと繰り返し示唆していた。Braswellたちは (p.870、p.802のWilliamsのニュース解説も参照)、地球規模の、 直接的効果対間接的効果の比較を示し、間接的効果の重要性につ いて実証した。この結果は、異なる生物系毎の、これら間接的効果 の示す方向性と影響の強さの主要な差異についての証拠も提供して いる。地球規模の生態系に対する大規模な変更は気候変化に対する 生物圏の影響を変える可能性がある。(Na)

サイトカインとNF-KB(Cytokines and NF-KB)

転写制御因子NF-kappaBが免疫系細胞における遺伝子転写の制御に 決定的な役割を果たしてる。2つの報告では、腫瘍壊死因子-αや インターロイキン-1のようなサイトカインに応答するNF-kappaBの 活性を制御する調節経路の新しい成分の同定を議論している。 (Maniatisによる展望参考, p. 818)NF-kappaBがタンパク質IkappaB によって、不活性な状態に保たれており、2つのタンパク質の相互作用 がIkappaBのリン酸化によって制御されている。最近この制御に関与し ているタンパク質リン酸化酵素(IkappaBリン酸化酵素IKK-1)が記述 されている。Mercurioたち(p. 860)とWoroniczたち(p. 866)は、 第2のIKKファミリメンバー(IKK-2)を単離し、特徴づけたことを報告 している。大きなタンパク質複合体において、2つのIKKが相互作用し、 NIKというもうひとつのタンパク質リン酸化酵素と相互作用している。 (An)

核における鉄の形(The shape of iron in the core) (Fos and Jun in Drosophila development)

地球の内部は、鉄を豊富に含む液体からなる外側の核と内側の 固体核からなっており、その良く知られた特質のおかげで、 我々は地球発電機としての地球ややマントル対流を理解しやすく なっている。しかし、内核における鉄の相の構造を決定すること ができれば、結果的に惑星表面にまで影響を及ぼすことになる、 地球内核が関与する動的な機構について、理解がさらに深まる ことになるだろう。Andrautたち(p.831)は、第3世代の ヨーロッパ・シンクロトロン照射施設によって作られた従来より 高エネルギーかつ高分解能のX線ビームを活用して、圧力が30 ないし100ギガパスカル、温度が2350ケルビンにもなる状態で 直接、その鉄についての角度分散的なX線回折測定を行なった。 鉄は高温高圧のもとで相転換をおこし、鉄の格子のベース平面に 沿った転位によって斜方晶系の構造をとるに到るのである (Anderson による展望記事参照p.821)。(KF)

鋭敏なシリコンセンサー(Sensitive silicon sensors)

エレクトロルミネッセンスを示すことで良く知られている多孔性 シリコンは、バイオセンサーとしても使われている。Linたち (p.840)は、この多孔性シリコンによる光干渉計を作り、この薄膜が、 小さな有機分子や、小さなDNAオリゴヌクレオチド、あるいはタンパ ク質を結合するような誘導体にした。結合によって半導体シリコンの 屈折率を変化させ、反射可視光のFabry-Perot干渉縞の波長をシフト させる。この効果は極めて鋭敏で、ピコ、あるいはフェムトモルの 濃度の試料でも検知可能である。(Ej,hE)

簡略化された電子移動(Electron transfer simplified)

光励起による強度の発熱性電子移動反応は、既存の理論で比較的良く 解明されているが、暗部で生じる弱い発熱性反応の速度係数は、これら 既存の理論的枠組みの中で再現することは困難であった;たとえトンネル 効果によって、実験と理論の一致が良くなったとしても。Nelsenたち (p.846)は、電子移動が生じる断熱性エネルギー表面に比較的小さな変化 を生じさせることによって、トンネル効果項を使うような状況を作ること なく有機化合物の分子内エネルギー移動率を正確に計算することが出来た。 (Ej)

HIV-1キャプシド二量体化の構造的研究 (Structural studies of HIV-1 capsid dimerization)

ヒト免疫不全ウイルス−1型(HIV-1)のキャプシドタンパク質は ウイルス構造の1部を形成するだけでなく、ウイルス侵入、脱コート、 複製にとっても不可欠である。Gambleたち(p.849)は、二量体化に 必須で、かつ主要相同領域(MHR)を含むキャプシドのカルボキシ末端 領域の結晶構造を示した。この領域は、すべての既知のオンコ(原癌性) ウイルス、あるいはレンチウイルス中に保存されている20のアミノ酸 からなる領域である。MHR領域は二量体インターフェースの部分領域 ではなく、アミノ末端側に伸長した鎖を2つの螺旋と連結する込み 入った水素結合ネットワークの形成を助長する。このタンデム構造に 基づいて、キャプシドタンパク質全体のモデルが、以前に決定された アミノ末端領域の構造と共に示されている。(Ej,hE)

微小管の微細な動き(Nanomoves of microtubules) (A molecular basis for ethanol sensitivity)

最近の技術的な進歩によって物理学者が、例えば、運動性タンパク質 キネシンや構造性タンパク質タイチンのような生物性巨大分子の動的 特性を調べはじめることが可能になった。DogteromとYorke(p.856)は、 巨大分子の構成物の1つである微小管(microtubule)に注目し、 チューブリン・モノマーを加えることによって生じる管の成長速度を 計測した。この成長速度は加えられる反対向きの外力に依存し、外力が ゼロのときの1.2μm/minから、外力が3−4ピコニュートンのときの 0.2μm/minに減少する。この速度の減少は減衰ポテンシャルモデルに よく合うが、減衰率は理論的予想より速かった。(Ej,hE)

鎌形赤血球貧血のマウスモデル(Mouse models for sickle_cell anemia)

ヒトの疾病の動物モデルが、疾病の理解と有効治療の設計のために 役立つ。2つの研究グループ、Pasztyたち(p. 876)とRyanたち (p. 873)は、鎌形赤血球貧血のマウスモデルに成功した戦略を開発 した(Barinagaによる記事参考p. 803)。ヒトの鎌状ヘモグロビンを 持つマウスを作成し、マウスのαとβグロビンが削除されたマウスと 交配した。そして、ヒトのヘモグロビンのみを発現し、ヒトの疾病の 特徴である赤血球の鎌状と貧血と器官病理学を示したマウス子孫を 同定した。(An)

中間細孔を持つ金属薄膜(Mesoporous metal films)

ナノメーター単位の微細孔を持つ中間細孔材料は最近非常に強い 関心を集めている。これらの材料のほとんどは酸化セラミック から作られている。Attardたちは(p.838)、液晶性のメッキ 混合物の金属を電着して中間細孔白金の薄膜を合成した、と 報告した。これらの材料は触媒、蓄電池、燃料電池やセンサー などに利用できる。(Na)

急な温暖化(Suddenly warmer)

ヤンガー・ドリアス期(Younger Dryas)末期と完新世境界には 温暖な気候への急激な遷移(約40年)があった。 この遷移は、地球上の気候の影響の受けやすさ(sensitivity) の情報を与えてくれることから、これまで綿密に調べられてきた。 Taylorたち(826ページ参照)は、毎年の気候の変化を教えて くれるGISP2グリーンランドのアイスコアを分析し、5年以下の 期間継続する遷移が繰り返して起きていることを示した。また、 北極圏での気候の変化は、より低緯度で起こった気候の変化に わずかに引き継がれているというデータもある。(TO,Og)

地震を再び作り出す(Re-creating an earthquake)

Mojave砂漠での1992年のLanders地震は、最近では最も特性が 明らかにされた事象である。即ち,その砂漠での表面変形を直ちに 測定し、マグニチュード7.3のこの地震の前後で地震活動度 (seismicity)を記録することができた。Olsenたち(p. 834参照) は,地震データをインバージョン法によって導いた断層のずれと応力 の分布(the slip and stress distribution)を用いて、地震が起こ る以前のこの領域での応力の初期分布を作り出し、そして3次元での 破断(rupture)の進行をモデル化した。これらの破断モデルは地震の 記録から調べた地盤の動きの一般的なパターンと一致するとともに、 破断が地表面に近づく時の破断速度の増加が含まれた複雑な過程を 示している。そしてこれは、より単純なキネマティックインバージョン 法(kinematicinversions)からは予測されていなかった。(TO,Og)

非線形光学における準周期現象 (Quasi-periodicity in nonlinear optics)

結晶のように有理数に基づいて繰り返すのではなく、無理数比に 基づいて繰り返す構造を準周期的と言う。Zhuたち(p.843) は、 非線形光学材料であるリチウムタンタレートの層を、準周期的 数列(フィボナッチ数列)に基づいて作成すると、レーザー光の 3次高調波を発生する上で有用であることを示している。この ような格子内部でより多くの波動ベクトルを利用することにより、 周波数逓倍と周波数加算の二つのプロセスを結合することが可能 となる。これから、通常は微弱な3次高調波を効率的に生成する ことができるようになる。(Wt)

細胞中の銅の付き添い人(Copper chaperone in the cell)

哺乳類の細胞中のある種の酵素は、共同因子として銅などの金属を 必要とする。しかし、遊離状態の銅は、細胞にとって毒性をもちう るし、脂質やタンパク質、核酸の自動酸化を広めてしまうこともあ る。Pufahlたちは、Atx1と呼ばれる銅シャペロン(付き添い人) タンパク質の機能を記述している (p.853参照;またValentineとGrallaによる展望記事p.817参照)。 Atx1とは、膜の取り込みタンパク質から銅を受け取り、次にそれを 普通でない3配位の状態、Cu(I)として固定するものである。Atx1 タンパク質は、続いてその銅を、Atx1が小胞のタンパク質Ccc2と 相互作用する目的地まで運んでいく。Cu(I)イオンはCcc2に渡され、 そして究極的には、高親和性鉄取り込みシステム中の必須酵素で ある多銅酸化酵素Fet3に渡される。このシステムによって、細胞は、 細胞質中に直接銅イオンを解放することなく、重要な酵素に銅を供給 することができるのである。(KF)

エアロゾルとスモッグの産生(Aerosols and smog production)

光化学スモッグは、地表レベルでのオゾン濃度と窒素酸化物の濃度が 高いことを特徴とするが、太陽の紫外線の照射にも依存している。 大気中のエアロゾルは、紫外線を散乱したり吸収したりするが、これが スモッグの形成に与える影響の定量的分析は、今まで行なわれていな かった。Dickersonたちによる、エアロゾルの観察結果や照射、さらに 光化学に関する数量的モデリングによれば、スモッグの産生は紫外線を 散乱するエアロゾルによって促進され、紫外線を吸収するエアロゾルに よって抑制されることが示されている(p.827参照)。
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