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Science June 27, 1997, Vol.276


ダイアモンド中の単一の欠陥を見る(Seeing single defects in diamonds)

単一の分子、単一の励起子、単一の微小結晶を分光することにより、アンサンブル平 均の根底にある個々の成分の挙動に対して重要な洞察が得られてきた。Gruber たち (p.2012)は、ダイアモンド中の単一の欠陥中心に対する結果を与えている。 共焦点顕微鏡と磁気共鳴測定とを組み合わせることにより、かれらは、ダイアモンド 中の窒素の空格子点中心は、非常に光学的に安定であることを示している。応力変形 によって異なる対称性の欠陥が発生する。この欠陥はそれらの磁気的応答により区別 することができる。これらの結果は、潜在的には、ナノメートルサイズの光源として 利用できる可能性がある。(Wt)

材料を走査する(Scanning materials)

二つのレポートでは、技術的に重要な材料の構造を特徴づけるための走査プローブによる方法について焦点を当てている。磁気抵抗効果を有する材料は、磁場の存在下ではその導電性が変化し、潜在的には磁気記録へ応用可能である。Q. Lu たち(p.2006) は、低温磁力顕微鏡を用いて、カルシウムをドーピングした LaMnO3 の膜 の磁区のイメージングを行った。膜が、強磁性から常磁性へ変化する温度領域(およそ 245K)まで暖めるにつ れて、磁区は次第に不安定になり、その大きさが小さくなるにつれて融合あるいは分割した。異なる分極領域を持つ強誘電性材料は、非線形光学や音響学への応用が考えられるため、関心を持たれてきた。しかし、ドメイン構造のマッピングは通常エッチングや光学的なイメージングが要求される。 Y. Lu たち(p.2004) は、非接 触モードで走査チップを用いるマイクロ波近傍電磁界顕微鏡を開発した。あるイットリウムをドーピングした LiNbO3 の試料の誘電率や強誘電性ドメインの境界の変化を、サブミクロンの分解能でマッピングした。(Wt)

色を重ねる(Staking colors)

有機発光素子(Organic light-emitting devices: OLEDs)はフラットパネルディスプ レイ として使用できる可能性がある。Shenたちは(p.2009参照)で透明電極の長所を活か し、 赤、緑、青のOLED層を垂直に重ねることで、ディスプレイ全面のパターンを単純化し た多 層の素子を作成した。各色の発光強度は独立に変えることができる。(Na)

応力下の組み立て(Assembly under stress)

分子が表面層に吸着すると、分子間の力によってその下にある基板の中に応力を発生する。このような応力の測定により、分子層の成長のメカニズムや分子と表面との間の相互作用を洞察することが可能となる。Berger たち(p.2021) は、表面の応力を測定するセンサーを開発し、金の上のアルカンチオールの自己組織化に対する 彼らの方法を図示している。自己組織化により、圧縮性の表面応力が発生し、その応力は長いアルキル鎖ほど大き くなる。(Wt)

装備完了(Armed and ready)

感受性植物は特定の病原体に病の症状で反応する可能性があっても、 他の植物種にはその病原体が病を起せない可能性もある。 しかし、後者の植物は、非宿主の防御応答システムによって 微生物の存在を認識している。 Ligterinkたちは(p. 2054)、非宿主防御応答の中心要素の一つを同定した。 イオンチャネルによる初期反応後、誘発物応答性、分裂促進因子活性化 タンパク質(MAP)リン酸化酵素が活性化される。 活性化後、細胞核に移行し、そこで植物の防御装備の他の要素をコードする遺伝子 と 転写制御因子との相互作用に影響する可能性がある。 (An)

質より量?(Quantity, not quality?)

感染症から宿主を守る抗体の能力について最もうまく定義できるパラメーターは何だ ろうか?Bachmannたち(p. 2024)は、試験管内のウイルスの中和と生体内での感染症 に対する防御とを比べるために、共通のウイルス性抗原(水疱性口内炎ウイルスの糖 蛋白質)に対するモノクローナル抗体の集団を利用した。驚いたことに抗体が最小結 合活性閾値より上で最小濃度閾値よりも上である限り、全体の動物の感染症に対して 抗体には防御の効果がある。結合活性、中和率定数そして試験管内中和活性のような 試験管内の中和とたいへん良く相関しているパラメーターは生体内の防御と相関を 示さなかった。これらの結果はウイルス性感染症と戦うための抗体治療法をデザ インする際に有力な根拠となるだろう。(Ht)

細菌の妨害(Bacterial blocking)

複数の菌種が、宿主を感染すると、これらは協力せずに互いに妨害する。 この効果は発育阻止から生ずると考えられていたが、Jiたちは(p. 2027)、 黄色ブドウ球菌において、ひとつの系統のagr部位に関連している 病原因子と他の細胞外タンパク質が別系統におけるagr発現を抑制し、 その感染力を制限すると思われることを示した。これら2つの系統の ペプチドと受容体の配列は大きく異なっているため、高頻度可変性を 生成する機構のあることを示唆する。 (An)

LTPの起源(LTP origins)

学習と記憶の細胞モデルである長期増強(LTP)は、 神経可塑性について、よく研究されたモデルであるが、 その分子的メカニズムについては、よく分かってなかった。 Barriaたち(p.2042;およびLismanによる展望記事参照、p .2001) は、海馬におけるCA1領域のシナプス後応答の長期にわたる増加 は、カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼII(CaM-KII)による 触媒作用を受けたAMPA型グルタミン酸受容体のThr286の、持 続的 リン酸化によるものであることを示した。これらの 結果から、細胞中のLTPの経路を完全に解明した;即ち、神経伝達 物質であるグルタミン酸はNメチルDアスパラギン酸受容体に 結合し、 これは、シナプス後細胞が脱分極化されるとカルシウムの流入を 招き、CaM-KIIを活性化させる。次に、CaM-KIIはAMPA受 容体を リン酸化することが出来、細胞は、より大きな応答を示すようになる。 (Ej,hE,Kj)

いっしょにクリープ(Creeping along)

1989年の ロマ・プリエタ( Loma Prieta) 地震は1906年のサンフランシスコ大地震以来のカリフォル ニアでサンアンドレアス断層を引き裂く地震としては最大のものだった。地震は 平行して走って入るヘイワード断層を横切って応力(ストレス)とずり動き(クリー プ)を一時的ではあるが減少させた。Lienkaemperたちは、ヘイワード断層の南の部 分がクリープ率を今また増加させているのを示した。クリープの変化は約1バールの ストレスの変化と対応しているとの知見も得られた。(Ht)

引っ張られたポリマー(Polymers under strain)

溶液中のポリマーの鎖は、場所による溶液の流れの速さの違いなどによって引っ 張りの力がかかった場合、どうなるのだろう。理論によれば、ポリマーは、速さ の変化率が臨界に達するまでは螺旋状のままで、それを越えると伸びた状態に移 行するとされてきた。しかし、実験によってそのような流れの条件下にある個々 のポリマーを実際に見るのは、難しいとされてきた。Perkinsたちは、 ラムダ・ファージDNAを蛍光標識することで伸びた、引っ張り力の 下にある何百もの個々の分子の像を捉え、それらが多様な形態を示すことを明らか にした。同じ長さの、同じ引っ張り条件のもとにある分子でもいろいろな形態を示 したのである。(de Gennes による展望記事参照)(KF)

連結した葉緑体(Connected chloroplasts)

葉緑体は、そしておそらく他の色素体も、独立している細胞下細胞小器官であり、 多分真核生物細胞の進化における古代の内部共生的イベントから 由来したと長い間考えられてきた。 Koehlerたちは、少なくとも、いくつかの色素体が細管によって 相互接続していることを発見した。 葉緑体内に緑色蛍光性タンパク質を発現するように遺伝子操作された植物において、 葉緑体が細管とともに発光されている。 相互接続した葉緑体のどちらかを光退色することによって、葉緑体の中身が細管を通して 交換されることを示している。 以前の知見技術では、この細管の存在を示唆していたが、 この脆弱、動的な相互接続の存在を確認できなかった。 (An,SO)

EBウイルスの感染モデル(EBV infection model)

エプスタイン・バー・ウイルス(EBウイルス=EBV)は、ヒトの 感染性単核球症を 起こすlymphocryptovirus(リンパ球潜伏性ウイルス)で、更に、B細胞リンパ腫、上咽頭癌、お よびある種のホジキン病に 関連している。今までのところ、ヒトのEBV感染サイクルの主要な特徴を 再現した動物モデルはなかった。Maghaddamたちは、EBVに類似のアカゲザルの lymphocryptovirusもまた、経口伝染し、類似の免疫応答を誘発し、リンパ節 で病気をひきおこし、リンパ球の異常増殖の原因となり、 末梢血に潜伏感染し、咽頭の下部に持続的に分泌されることを発見した。 このモデルシステムは、ウイルスの持続性や 潜伏性のメカニズムの研究、さらに、EBV関連の病気に対するワクチンや 薬物療法の開発に役立つであろう。(Ej,hE,Kj,SO)

酸素の追加供給(Extra oxygen)

筋肉や脳が激しく働くと、血液の流れが増大し、組織が必要とする追加の酸素を供給する 。Stamlerたちは、この制御は酸素キャリアであるヘモグロビンの一つの形態のS-ニトロ ソヘモグロビン(SNO-HB)のアロステリックな特性により達成されていることを示唆した 。低酸素環境では、SNO-Hbは血管の弛緩を生じさせ、血液の流れを増加させる。タンパク 質モデルによる研究で、低酸素環境で酸素がSNO-Hbから解離すると、結果としての構造変 化により一酸化窒素もSNO-Hbのチオールより遊離する。この一酸化窒素が局所的な血管の 弛緩を起こし、血液の流れを増大させる。(Na)

内部を見る(Inside views )

現在の医療画像技術によれば、人体の組織を非侵襲的に100マイクロメートルから1 ミリメートルの解像度で可視化することが可能である。これらの技術は、一般に、 癌やアテローム性動脈硬化症などの病気と関連する初期段階での組織の異常を検出で きるほどには感度が高くない。これらの検出にはマイクロメートル・レベルの解像 度が必要なのである。Tearneyたちは光学コヒーレンス・トモグラフィ(OCT)を採用 し、カテーテル内視鏡によって、生きている動物の組織を可視化することを試みた。 彼らは、”光学的生検法”と呼ぶこの新しい方法を用いて、ウサギの胃腸と呼吸器官 の管部の断面を10マイクロメートルの解像度で可視化した。(表紙参照)(KF)

T細胞の生存条件(Requirements for T-cell survival)

T細胞は、感染から護る役目を持っている。もし、T細胞が特異的受容体を 作るべき抗原に出会ったことがない場合、「処女」あるいは「ナイーブ」な 細胞と呼ばれる。抗原に触れて活性化された後、これらは、「記憶」細胞 と呼ばれるもう1つの発達段階に入る。このナイーブや記憶CD8+T細胞にとって、 生き残る事はどれほど容易なのか、あるいは、困難なのか?Tanchotたちは このナイーブ細胞が増殖できるために必要な最も厳密な条件「適正な主要 組織適合複合体(MHC)クラス1分子と適正な抗原」を決定した。 適正なMHCが存在するときのみナイーブ細胞は生存できるが、個体数は拡大 しない。記憶細胞は、適正なMHCの存在下で増殖するが、生存するためには 非特異的なクラス1相互作用のみが必要である。 このように、ワクチン接種と追加免疫によって 保護が付与されると考えられている記憶細胞は、より緩やかな条件を持っており、 そのことから、より素早い応答性が説明できる。もし、これらの条件が 他のT細胞系列に一般化できるなら、より良いワクチンや免疫戦略の開発が 可能であろう(BenoistとMathisによる展望記事参照)。(Ej,hE,Kj)

家族性パーキンソン氏病に関連する遺伝子(Gene association with familial Parkinson's disease)

パーキンソン氏病による退行性の障害は、手足のふるえや筋肉のこわばりから、完 全な機能不全や死へと進行する。多くの症例は突発的なものだが、幾つかの症例は 家族によって遺伝的に受け継がれるかに見える。Polymeropoulosたちは、あるイタリ アの一族とギリシャ出身の無関係の3家族におけるパーキンソン氏病の遺伝が、 α-synuclein をコードする遺伝子における突然変異と結び付いていることを発 見した。この遺伝的に保存された遺伝子は脳で発現し、ニューロンの可塑性に 関わっている可能性がある。この遺伝子をさらに研究することで、パーキンソン氏病 を導く分子の機構に関する洞察を与えてくれる可能性がある。(KF)

カンナビノイドの効果(Effects of cannabinoids)

マリファナの活性化成分であるカンナビノイドの脳における効果について 2つの報告が焦点を当てている。コルチコトロピン(副腎皮質刺激ホルモン)放出因子(CRF)は アルコール、コカイン、オピエートと言った薬物乱用を止める ことによるストレスと、負情動性の結果によって媒介されると考えられてきた。 De Fonsecaたちは、脳のCRF システムを研究し、カンナビノイドもこのリストに加えるべきものである ことを示した。強力な合成カンナビノイド(HU-210)をマウスに2週間、 毎日処置した。カンナビノイド拮抗物質で退薬を誘発すると、脳のCRFを増加 させ、退薬に特徴的な脳のパターン(Fos活性化)を生じた。 この結果から、長期間のカンナビノイドへの被曝は、退薬の期間中、脳の 中心の扁桃体様核(amydaloid nuclei)の活性化のみならず、 脳の中心の扁桃体での CRFの放出を増強する神経の適応的変化を生じさせることが推測される。 薬物による脳の報酬(および快楽経験)の鍵となるシステムは、側坐核に終結し、 ドーパミンを神経伝達物質として利用する中脳辺縁系のドーパミン経路で ある。Tandaたちは、マリファナの主成分であるカンナビノイドが、核心 ではなくて、側坐核(shell)の外縁部においてドーパミンの放出を引き起こす ことを示した。この効果は、より強力な薬物乱用を起こす、ヘロインや ニコチンと似た作用を持っており、大麻の中毒性の証拠が追加された (Wickelgrenによるニュースストーリも参照)。(Ej,hE,Kj,SO)

画像形成技術特集(Imaging News)

1) New Eyes on Hidden World
T. Appenzeller, C. Norman

2)Atomic Imaging;Candid Cameras for the Nanoworld
I. Amato

3) Radar Imaging; Monitoring a Killer Volcano Through Couds and Ice
D. Clery

4) Molecular Movies; Fast-Action Flicks Draw Chemists' Rave Reviews
R.F.Service

5) Microelectronics; Catching Speeding Electrone in a Circuit City
A. Hellemans

6) Multiphoton Imaging; Biologiest Get Up Close and Personal With Live Cells
T. Gura

7) Medicine; Spectral Technique Paints Cells in Vivid New Colors
G. Taubes

8) Biomedicine; Firely Gene Lights Up Lab Animals From Inside Out
G. Taubes

9) Astronomy; Rethinking the Telescope for a Sharper View of the Stars
A. Watson

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