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Science January 3, 1997, Vol.275


宇宙の謎の放射(Enigmatic emissions in space)

衛星に搭載された機器類は、紫外(UV)およびX線の波長域において、天文学上 の観測範囲と感度を広げてきた。そして、いくつかの観測は、乙女座(Virgo) および髪の毛座(Coma) 銀河団からの過剰な軟X線のように、当惑させるものであっ たし、また、あるものは、百武彗星からのX線の発生のように、予期せぬもの であった。ここにある2つの論文にある程度の理論的解釈が与えれれている。 X線に関する研究は、銀河団内部の物質は非常に高温のガス(絶対 温度2千万度)を含んでいる可能性があることを示している。また、最近の極 紫外線の研究により、冷たい成分(絶対温度50万度〜100万度)が存在する ことが明らかとなった。このことは、非常に速い冷却率が必要であるようにみ える。Fabian (p.48) は、この問題に対するひとつのモデルを与えている。こ れによると、ガスの混合がその解答として示唆されている---少量の非常に高 温のガス(絶対温度 一億度(10^8)) が、より冷たいガス(絶対温度 一万度(10^4)) と乱流混合されれば、絶対温度百万度のガスを生成するであろう。そして、こ のガスは、過剰な放射を説明するであろう。 Binghamたち (p. 49) は、また、あるモデルを与えている。これは、太陽風 と彗星のプラズマとの相互作用が、どのようにして、数keVまで達するエ ネルギーの電子を生成するかを示している。そしてこの電子により、原子か らX線を生成することが可能となる。逆に、このようなX線の発生は、太陽 風の組成データを得ることができ、その状況を推測することに用いることが できるであろう。(Wt,Nk)

計算における危機管理(Risk management in computing)

多くの計算の困難な問題(いくつかの与えられた都市を訪問する最短の経路問題 のようなもの)は、穏当な範囲の時間で正確に解くことはできない。これは、発 見的なアルゴリズムで攻めるべきものであり、しばしば試行錯誤的方法が用いら れる。解答のがどの程度正しいかを確認するためには、通常、非常に長い計算時間をかけ るが、それでもある程度のリスクを伴う。 Hubermanたち(p.51; Seife によるニュース解説を参照のこと) は、このリスクは、個々のアルゴリズムがある範囲のパフォーマンス上の特徴を持ったものを、並行的に実行 させ、各々のプログラムの「計算の信頼性に関する明細表」を構成することに より管理できることを示している(つまり計算途中で信頼性を評価)。 ある例題(グラフ彩色問題)において、彼らは、 パフォーマンスを大幅に向上して(およそ30倍)、解を見出せないというリスク を減少しうることを示した。(Wt,Ej)

過度に興奮(励起)して (Overly excited)

ロドプシンのシス−トランス異性化のような、分子の光励起における多くの 鍵となる現象は、数百 f sec 1 f sec = 10^(-15) sec) のタイムスケールで 起こる。光励起の伝統的な見解は、高エネルギーにある励起状態が形成され たならば、それらは最低の励起状態に崩壊するであろうと仮定されてきた。 この最低励起状態は、今度は光化学を制御することとなる。Damrauer たち (p. 54) は、光化学の研究においてしばしば用いられてきた分子である、 [Ru(bpy)3] 2+ では、長寿命の励起状態が形成される前の、光励起後の最初 の 300 f sec の間に、スペクトルは複雑に進展することを示している。こ のような複雑なダイナミックスが存在することは、人工的な光合成や光起電 力の応用にとって、それらを理解しまたデザインする上で、重要なものとな りうる。(Wt)

はしかの流行モデル(Measles epidemic model)

まだワクチンが利用されるようになる以前のイングランドとウェールズの60都 市におけるはしか発生率の状況は、集団生態学のもっとも完全なデータセットの 1つである。KeelingとGrenfell(p.65)は、これらのデータを使って沢山の疫学的 問題の中心問題である「コミュニティーにおいて、病気の流行が収まる限界の人 口は何に支配されているか?」を提起した。この問題に関する以前のモデルでは、 下限の人口を1ー2桁も過大評価していたが、著者たちのモデルでは、ウイルス の潜伏期間や感染期間を生物学的に妥当な仮定をおくことによって、流行の確率 論的消滅を正確に予測している。(Ej,Kj)

花の再配列(Floral rearrangements)

茎の回りの花の配置や、花が出現してくるタイミングは遺伝子的・環境的影響に よって制御されている。Bradleyたち(p.80;および表紙)はシロイヌナズナ( Arabidopsis)(カラシナのなかま)とキンギョソウ(Antirrhium, snapdragon)に ついて、スズラン(lily of the valley)のように成長点が無作為に花を分離し続 けるのであるか、或は、キンポーゲのように終端の花で止まるのか、を決定して いる両者の遺伝子を比較した。両者の遺伝子の類似性から、花の決定機構は長い 進化の距離に渡って保存されてきたことをうかがわせる。シロイヌマズナの遺伝 子は、成長点が植物の成長相から開花相へ変化する時期にも影響を与えている。( Ej,Kj)

まずASK1から(ASK1 first)

MAP(マイトジェンで活性化されたタンパク質)リン酸化酵素の情報伝達経路は、 多くの生物学的プロセスを制御している。これら経路には、最終的にMAPリン酸化 酵素ファミリーメンバー(MAPキナーゼ、ストレスによって活性化されるタンパク 質リン酸化酵素(SAPK)、あるいは p38)の1つを活性化する3つの径時的に活性 化されるタンパク質リン酸化酵素が含まれている。Ichijoたち(p.90)は、MAPキナー ゼキナーゼキナーゼ(3つのキナーゼ中の最初のもの)の機能を有し、SAPKと p38の両方を活性化するASK1と呼ばれるタンパク質リン酸化酵素について記述し、 その性状を決定した。ASK1の活性化によってミンクの肺の上皮細胞にアポトーシ ス(細胞死)を起こし、ASK1は、腫瘍壊死因子によってアポトーシスを誘導する ために必 要なように見える。(Ej,Kj)

ビタミン活性化(Vitamin activation)

ビタミンは、いくつかの酵素が種々の困難な反応を遂行するのを助ける可変性分 子である。ビタミンB1として摂取されるチアミン二リン酸は、基質カルボニル の炭素に作用させるためのカルボアニオンの原料として利用される。チアミンを 含む酵素がどのようにして脱プロトン化されたチアゾリウムC2炭素を形成する かについて、いくつかの提案がある。Kernたち(P.67)は、核磁気共鳴を使って、 決定的なステップは酵素に誘発された水素イオン抽出の加速にあることの証拠を 提供した。(Ej,Kj)

化学的分離に混合自己組織化単分子層の利用(Mixed self-assembled monolayers in chemical separation)

多くの生物分子や薬剤の化学的分離は、分離材料の表面との靜電相互作用によっ て限界がある。8面体およびメチル鎖の混合した自己組織化単分子層は、クロマ トグラフの珪酸の表面上において、酸分離を弱める方向に、高密度の2次元的に 交差するネットワークを形成する。Wirthたち(p.44)によると、分子モデルによれ ば、純粋なメチルシロキサンにおいて2次元状の交差結合を形成することは空間 配置上可能であり、シリコン29の核磁気共鳴測定によれば、主にメチルシロキサ ンから成る混合単分子層において交差結合が多くを占めている。クロマトグラフ の測定によれば、この単分子層が、主にメチルシロキサンから成るものであれば、 靜電相互作用が減少していることを示している。高電荷のタンパク質であるサイ トクロムcの遺伝子的異形のクロマトグラフによる分離実験において、生物分子 の分離に自己組織化単分子層が形成されることは確実と思われる。(Ej)
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