AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約

Science November 30 2018, Vol.362

文化的流行を作り出すハエ (Trendsetting flies)

文化は、かつては人間に限られると考えられていたが、現在ではクジラからオウムにいたるまで、さまざまな動物種において実証されている。 そのような動物のほとんどは高水準の認識力を有するが、伝承および模倣の基礎は、それほど認識力が進歩していない種でも容易に生じやすい。 Danchin たちは、ショウジョウバエにおいて配偶者選択の文化が伝播性を有することを示し、これが起こる過程をモデル化している(Whitenによる展望記事参照)。 彼らの結果は、文化と模倣が、これまで信じられていたよりも、動物界全体にはるかに広く行き渡っているかもしれないことを示唆している。(Sk,kj,kh,nk)

Science, this issue p. 1025; see also p. 998

旧石器時代のチベットの居住 (Paleolithic occupation of Tibet)

高地チベット高原に人類が定着したのは、完新世のなかでもここ数千年内であると一般に考えられてきた。 Zhang たちは、旧石器時代の居住時期が約4万年から3万年前である、中央チベットにある海抜4600mの Nwya Devu(尼阿底)遺跡についての調査結果を報告している(Zhang とDennell による展望記事参照)。 この遺跡では、さまざまな石器が発掘されており、「世界の屋根」の厳しい環境への初期現代人の適応能力を示している。 この結果はまた、チベット出身とシベリア出身の人々がこの時期に影響しあった可能性を示唆している。(Uc,MY,ok,kj,kh,nk)

Science, this issue p. 1049; see also p. 992

多数を一つにする (Turning many into one)

単結晶金属箔は、グラフェンのような材料の合成を可能にする表面特性を持つため、役に立つ。 Jin たちは、「非接触焼鈍」と呼ばれる、巨大な単結晶金属箔を製造する方法を提示している(Rollett による展望記事参照)。 この方法は、商業的に入手可能で安価な冷間圧延金属箔を、吊るして加熱することに基づいている。 ほとんど魔法のように、多結晶粒が回転して結晶欠陥が消失し(焼鈍)、特定の結晶方位を有する大きな単結晶シートになる。 この方法は、ずっと大きくて、ずっと安価な単結晶金属箔の作製を可能にする。(Sk,kh)

Science, this issue p. 1021; see also p. 996

第3の次元へと圧縮する (Squeezing into the third dimension)

クプラート超伝導体は、相図の一部に電荷秩序相を抱えることができることで知られている。 興味深いことに、その秩序相は磁場がゼロの場合には2次元的な性質を持つが、一方強磁場のもとでは3次元的な性質が現れる。 Kim たちは、イットリウム系クプラートにおいて、3次元電荷秩序がゼロ磁場でも誘導されうることを示している。 著者たちは一方向に沿ってこの材料を圧縮して、3次元秩序の形成と合致する強い非弾性X線散乱信号を測定した。 この測定は、誘導された秩序が材料中の光格子モードと関係していることを示唆している。(NK,ok,kj,kh,nk)

【訳注】
  • クプラート:銅を中心金属とする陰イオン錯体。
Science, this issue p. 1040

幹細胞を組み入れた微小針パッチ (A stem cell–integrated microneedle patch)

米国では毎年60万人以上の人々が心臓発作を起こしている。 幹細胞治療は、 生存に向けての療法選択肢を改善するために使用されてきたが、これまでは心筋幹細胞の定着率が低かった。 幹細胞を生存可能な心臓組織により良く組み込むために、Tang たちは微小針パッチを創り出した。 その生体適合性微小針は皮膚に貫通し、パッチと心臓との間の伝播経路として働き、損傷領域に幹細胞を送達しながら心臓に栄養を与える。 急性心臓発作後のラットと豚で試験すると、このパッチは心臓組織の発達を促進し、瘢痕を小さくし、心機能を増加させた。(Sh,kh,nk)

Sci. Adv. 10.1126/sciadv.aat9365 (2018)

衝突合体は、強力なダスト・クエーサーを駆動する (Mergers drive a powerful dusty quasar)

初期宇宙の巨大銀河は、その中心に超大型ブラックホールを宿している。 物質がブラックホールに向かって落ちると、それはエネルギーを放出し、クエーサーとして観測される。 天文学者は、ダストによって覆い隠された、遠方の強力なクエーサーの集団を発見したが、それらがどのように形成されているかは明らかではなかった。 Diaz-Santos たちは、サブミリメートル波長で、ダストに覆われたクエーサー WISE J224607.56-052634.9を観測し、ガスとダストの橋によってクェーサーに繋がった3つの小さな随伴銀河を発見した。 彼らは、銀河の衝突合体が、クェーサーに動力を与える原材料と、それを覆い隠す大量のダストの両方を供給している可能性があると推測している。(Wt,kh)

Science, this issue p. 1034

ガン遺伝子を狩りたて捕獲する (Hunting and fishing for cancer genes)

粘膜黒色腫は稀だが致死性の黒色腫の一種で、日光から保護された組織で生じる。 この腫瘍の増殖を駆動する遺伝子変化についてはほとんど知られていない。 Ablain たちは43人の患者から得られた粘膜黒色腫について配列決定し、RAS-MAPK(分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ)シグナル伝達に対する負の調節因子をコードしている遺伝子であるSPRED1がかなりの割合で、不活性化や欠落していることを見つけた。 彼らはMAZERATI(急速腫瘍発生のためのゼブラフィッシュを用いたモデル化法)と呼ばれる実験基盤を用いて、SPRED1の損失が、KITチロシン・キナーゼの阻害薬に対する黒色腫患者の応答不良を説明するのに役立つかもしれないことを発見した。 この結果は、KIT阻害剤とMAPKシグナル伝達の阻害薬の併用が、より効果が高いかもしれないことを示唆する。(MY,kj,kh,nk)

【訳注】
  • RAS:グアノシン三リン酸(GTP)との結合型タンパク質。 GTPの結合で活性型となり、下流の様々なシグナル伝達経路を活性化する。 このシグナルが過剰だとガン発生やガン増殖に関与しているとされる。
  • 分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK):活性化されると、転写因子などの基質をリン酸化し、これによる細胞内シグナル伝達で、細胞の増殖、分化、死、ストレス応答など多くの細胞機能が生じる。
  • 調節因子:遺伝子のプロモーター配列に結合することでその遺伝子の発現を調節するタンパク質。 調節には正負の両方がある。
  • KITチロシンキナーゼ:受容体型タンパク質キナーゼ。 リガンドの結合で細胞質領域のチロシンキナーゼ活性部位が活性化され、細胞の分裂、分化、形態形成で重要な役割を果たす。
Science, this issue p. 1055

細菌叢の代謝調節 (Metabolic regulation of microbiota)

腸内細菌はヒトの健康に影響するが、私たちは、関係する宿主-細菌の相互作用の幾つかについて、機構的な理解を深めるのをやっと始めたばかりである。 Litvak たちは、宿主の結腸上皮細胞がどのようにしてこの共生を仲介しているのかについて概説している。 健康な結腸細胞は, その代謝が、迅速な酸素消費を確保するので、腸管内腔中の嫌気性状態を維持する。 そのような状態は偏性嫌気性菌を選択する。この状態は、食物繊維を消費し、宿主にとって有益な短鎖脂肪酸を産生する状態になりやすい。 もし、病気・食事・その他の障害のため、結腸細胞の代謝が変化すると、結腸上皮は酸素を含む状態になる。 酸素の存在は通性好気性菌の増殖を可能にする。 病原菌を含む属の細菌は往々にして酸素耐性があり、その結果、腸内毒素症となる可能性がある。(MY,kj,kh,nk)

【訳注】
  • 偏性嫌気性菌:無酸素状態で発育し、酸素があると増殖しないか死滅する細菌。
  • 通性好気性菌:酸素がある状態では酸素に基づく代謝で良好に発育するが、酸素が利用できない場合には乳酸発酵によりエネルギーを得る細菌。
Science, this issue p. eaat9076

分子モーターの協調 (Molecular-motor coordination)

プロテアソームは、ユビキチンで標識付けされた不要あるいは損傷したタンパク質を認識し分解する細胞質可溶性分子機械である。 ヘテロ六量体アデノシン三リン酸モーターは被分解基質をタンパク質分解室の中に引き込み、それと同時にこのモーターの入口に位置するタンパク質がユビキチンを除去する。 De la Peña たちは、ユビキチンの除去を抑制することによってモーター内部の基質を捕捉した。 これにより、基質およびアデノシン三リン酸(ATP)の存在下で、低温電子顕微鏡で構造を決定することができた。 この知見は3つの連続した立体構造状態を区別して、モーターの6つのサブユニット間で、ATP結合、加水分解、およびリン酸放出がどのようにして協調され、プロテアソームの中を通って基質を転座させる構造変化を引き起こすのかを明らかにしている。(NA,MY,kj,kh)

【訳注】
  • プロテアソーム:タンパク質分解活性を持つ触媒ユニットと制御ユニットが会合した構造を持つ。 ヘテロ六量体アデノシン三リン酸モーターはATPaseリングと呼ばれれ、制御ユニットを構成するサブユニットである。
  • ユビキチン:76個のアミノ酸からなるタンパク質で、標的タンパク質に結合してタンパク質の分解標識などの役割を果たす。
Science, this issue p. eaav0725

追加すべきもう一つのN-末端則 (Another N-end rule to add)

リボソームから出現するタンパク質は、N末端メチオニン(Met)残基を有する。 細菌において、Metは翻訳開始前にホルミル化されるが、一方真核生物において、ほとんどの新生タンパク質は未修飾 Metから始まると思われていた。 Kim たちは酵母の研究から、真核生物タンパク質のN末端ホルミル化が通常の条件下でさえも検出可能であり、特定のストレスにより大きく増加することを見出した。 このストレスが或る種のFmt1ホルミル基転移酵素を細胞質に保持させており、普通ならミトコンドリアにあるこの酵素の保持には、Gcn2キナーゼを必要とすることが判明した。 さらに、Psh1ユビキチン・リガーゼは、いわゆる fMet/N末端則経路によるプロテアソーム依存的に分解するために、真核生物のN末端ホルミル化タンパク質を標的とすることが示された。(KU,kj)

【訳注】
  • N末端則(N-end ruley):タンパク質のN末端残基の認識によりその分解速度を支配する法則。
Science, this issue p. eaat0174

渡し船の代わりに電子の橋 (An electron bridge in place of a ferry)

呼吸複合体は、生体膜に埋め込まれた大きな足場タンパク質であり、膜を貫通する水素イオンの動きと組み合った電子伝達を可能にするようにレドックス補因子を配置する。 Gong たちは低温電子顕微鏡を用いて、マイコバクテリアの複合体III-IVの安定した集合体の構造を決定した。 その集合体において、複合体III二量体は2つの複合体IVモノマー間に挟まれている。 可能性のある直接的電子伝達経路が、複合体IIIにおけるキノン酸化中心から複合体IVにおける酸素還元中心へと伸びている。 緩く会合したスーパーオキシド・ジスムターゼは、解離した酸素の還元により生成されたスーパーオキシドを解毒する役割を果たしているのかもしれない。(KU,MY,kj,kh,nk)

【訳注】
  • 呼吸複合体:ミトコンドリア内膜などに存在するにタンパク質。 I~IVの複合体からなるが原核生物の場合は揃わないことがある。 糖などの水素と呼吸酸素をもとに生体のエネルギー物質であるATPを作る呼吸鎖と呼ばれる経路の中で中心的な役割を果たしている。 一般的には呼吸鎖複合体と呼ばれる。
  • スーパーオキシド・ジスムターゼ:細胞内に発生した活性酸素を分解する酵素。 ヒトはこの酵素の活性が際立って高く長寿の原因の一つとされている。
Science, this issue p. eaat8923

二酸化バナジウムの結晶構造と電子を切り分ける (Separating structure and electrons in VO2)

絶対温度341度(室温とさほど違わない)以上では、バルク状の二酸化バナジウム(VO2)は金属である。しかし、この材料が絶対温度341度以下に冷却された途端、VO2 は絶縁体に変わり、同時にその結晶構造をルチル型から単斜晶系に変化させる。 Lee たちは、酸素がやや少ない同じ材料層とそのすぐ下に配置されたVO2 層とからなる、ヘテロ構造の特異な挙動を研究した。 このVO2 層では、金属-絶縁体転移よりも高い温度で構造転移が起こった。 これらの二つの温度の間では、VO2 は単斜晶系構造を有する金属であり、これは隣接する貧酸素層が存在しない場合には生じない組み合わせである。(Sk,nk)

Science, this issue p. 1037

ガンマ線が宇宙の歴史を明らかにする (Gamma rays reveal the Universe's history)

どれほどの星が宇宙の中で形成されたか、そして、いつそれらは形成されたのか? 観測された光量を銀河中の星の総質量に変換する上での系統的な不確定性があるため、これらの基本的な問いに答えるのは難しい。 Fermi-LAT 共同研究は、遠方のブレーザーからのガンマ線が銀河間空間を伝搬する際に、すべての銀河から放射される光の総量に影響されることを利用して、これらの疑問に答えた。 この共同研究は、星形成はビッグバンの約30億年後にピークを迎えたことを見出した(Prandini による展望記事参照)。 これは、光学観測や赤外線観測による以前の推定値と類似であるが、それらの結果はさまざまな系統的な効果の影響を受けているだろうから、この結果は貴重な確証を与えるものである。(Wt,MY,nk)

【訳注】
  • ブレーザー:巨大銀河の中心にある大質量ブラックホールがエネルギー源となって明るく輝く天体で、高エネルギーのガンマ線を放射する。
Science, this issue p. 1031; see also p. 995

記憶は皮質に速やかに届く (Memories reach the cortex rapidly)

学習で生じる脳の解剖学的変化はどのくらい速く生じるのだろうか? 従来の見方は、新皮質記憶表現が海馬によって開始される復元過程を反映し、長期にわたる再活性化を通じてのみ、真の物理的痕跡が出現すると仮定している。 Brodt たちは、機能的磁気共鳴画像法(MRI)と拡散強調MRI を併用して、宣言的記憶のための連合学習を課している間、被験者における経験依存的な脳の構造的可塑性を調べた(Assaf による展望記事参照)。 この可塑性は学習後に速やかに引き起され、12時間以上持続し、行動を駆り立て、記憶に関係した脳機能活動を示す領域に集中した。 後頭頂葉におけるこの可塑的変化およびその短時間で生じる動態は、脳領域間の記憶の固定化に対する従来の見方に挑むものである。(MY,kj,kh)

【訳注】
  • 拡散強調MRI:水分子の拡散現象の組織による相違をコントラストとして画像化する方法。 例えば、ガン組織では細胞密度が高く、細胞間隙が狭くなり水分子の拡散が周囲組織より制限されるため、組織分解能でガン組織が画像化される。
  • 脳の構造的可塑性:脳の神経回路網の構造が変化すること。
  • 宣言的記憶:事実と経験を保持するもので意識的に議論や言明(宣言)ができる記憶。 陳述記憶ともいう。
Science, this issue p. 1045; see also p. 994

scTrio-seqが結腸ガン系統を同定する (scTrio-seq identifies colon cancer lineages)

ガンの治療法をよりよく設計するために、腫瘍の異質性とこれが転移にどのように寄与するかを理解することが重要である。 この過程を調べるために、Bian たちはscTrio-seq技術を使用して、10人の患者からの直腸結腸ガン腫瘍および腫瘍転移内の突然変異、トランスクリプトームおよびメチロームを調べた。 この解析は、腫瘍の進展に関する洞察を提供し、DNAメチル化を遺伝子系列に結びつけ、そしてDNAメチル化のレベルが系統内で一致しているが、クローン間で実質的に異なる可能性があることを示した。(KU,MY,kh)

【訳注】
  • scTrio-seq(single-cell triple omics sequencing)技術:体細胞のコピー数多型(細胞分裂での複製の際に、数キロ塩基対から数メガ塩基対に至るゲノム断片のコピー数が異なってしまう変異)、メチローム、トランスクリプトームの3つの情報を単一細胞から同時に取得して解析する技術のこと。
  • メチローム:シトシンがメチル化された部位のゲノム全体にわたる状態のこと。
  • トランスクリプトーム:特定の状況で細胞中に存在する全RNAのこと。
Science, this issue p. 1060

カスパーセ-8 はピロトーシスの1演者である (Caspase-8 is a player in pyroptosis)

病原体関連分子パターンによる特定のパターン認識受容体の活性化は、インフラマソーム複合体の形成という結果となる。 インフラマソーム複合体は、炎症性サイトカインの成熟、およびカスパーゼが仲介するガスダーミンD(GSDMD)の開裂によるピロトーシス性細胞死、の両方を惹起することが出来る。 現在のところ、マクロファージにおけるGSDMDの既知調節因子は、カスパーゼ-1とカスパーゼ-11だけである。 Orning たちは、GSDMDプロセスの制御経路に付け加わる経路を報告している。Yersinia 属菌(感染症の原因病原体)によって産生されるエフェクター分子であるYopJは、TAK1-IκBキナーゼのシグナル伝達を阻害する。 これは次に、カスパーゼ-8 によるGSDMDの開裂、ピロトーシス、インターロイキン1β(IL-1β)とIL-18の遊離を起こす。 このように、宿主と病原体間の武器競争において、宿主はシグナル伝達の障害を病原体性と認識し、炎症と細胞死で対抗するのである。(MY)

【訳注】
  • インフラマソーム複合体:炎症シグナルに応答してマクロファージなどの自然免疫細胞に発現する複合体。 パターン認識受容体、アダプター分子、カスパーゼ-1(タンパク質分解酵素)から構成される。
  • ピロトーシス:炎症シグナルに応答して形成されたインフラマソーム複合体中のカスパーゼ-1 が、細胞内タンパク質であるGSDMDを切断し、形成されたGSDMDのN末端断片が透過性の孔を細胞膜に作り、細胞膜成分が細胞外に流出することで生じる細胞死。
  • 炎症性サイトカイン:細菌の感染部位に発熱や腫れを引き起こすタンパク質。 IL-1βとTNF-αが代表的。
  • 炎症性サイトカインの成熟:IL-1などの炎症性サイトカインは前駆体の一部が切断されることで成熟型(活性型)となる。
  • 調節因子:ここでは基質であるGSDMDに作用することが可能な化学物質の意味で用いられている。
  • Yersinia 属菌:腸内細菌科Yersinia 属に属する無芽胞グラム陰性通性嫌気性桿菌。 ヒトに対して食中毒様症状を起こすエルシニア感染症を引き起こす。
  • エフェクター:タンパク質(特に酵素)に選択的に結合してその機能を促進または阻害する小分子。
  • TAK1:TGF-β活性化キナーゼ1。
  • IκBキナーゼ:核内転写因子NF-κBと結合している抑制因子IκBをリン酸化する酵素。 IκBのリン酸化でNF-κBが遊離し核内に移行し、免疫・炎症応答、アポトーシスなどの発現の転写因子として作用する。
Science, this issue p. 1064

流体力学が転移の流れを決める (Fluid mechanics influence metastasis)

原発腫瘍から流出する循環腫瘍細胞は、遠くにある器官に到達するために、リンパおよび血液の中でのかなりの剪断力に耐えなければならない。 Goetz は展望記事で、遠隔部位への腫瘍細胞の分配と腫瘍転移の形成に対する流体力学の影響について議論している。 この過程をより明確に理解することは、ガン患者の主な死因である転移性増殖を防ぐ標的を同定するのに役立つかもしれない。(ST,kh)

Science, this issue p. 999

クモの育児 (Spider nursery)

哺乳類は子に授乳するために乳を出し、母親の世話は多くの場合、子供たちが自分自身で食料を手に入れることができるずっと後まで続く。 乳様分泌物の他の例は見出されてきたが、この継続的な母親の世話との組み合わせは、ほとんど哺乳動物に独特の特徴と考えられてきた。 Chen たちは、アリに擬態するハエトリグモについて述べている。 彼らは、その子どもが完全に依存している、栄養価の高いミルク様物質を分泌する。 このクモはまた、子グモが成熟して独り立ちしても、子グモを世話し続ける。 このように、この種類の母親の世話は、想定されていたよりも広く普及しているのかもしれない。(Sk,ok,kh)

【訳注】
  • アリに擬態するハエトリグモ:ハエトリグモ科アリグモ属のクモ(擬態の理由は、よくわかっていない)。
Science, this issue p. 1052