AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約

Science June 29 2018, Vol.360

知覚と判断が変形する (Perceptual and judgment creep)

それほど頻繁に起こらなくなっていても問題が持続していると思いますか? Levariたちは、探し求めている「信号」が稀になると、人はその信号の定義を自然に拡大することで応答し、その結果としてそこに存在していないときでさえ信号を見出し続けることを実験的に示している。色に関する低レベル知覚からより高レベルの倫理の判断に至るまで、知覚基準と判断基準は、そうなるべきではないときにじわじわと変化する強い傾向がある。例えば、青い点が稀になると、参加者は紫色の点を青色と呼び始め、脅迫する顔が稀になると、参加者は特徴のない顔を脅迫する顔と呼び始める。この現象は、世界における諸問題を見つけて取り除くことを仕事にしている人々が、しばしば、その仕事がいつ終了するのかを言うこと出来ない理由を説明するのに役立つ可能性のある広範な意味を持っている。(KU,kj,nk,kh)

スプライソソーム組立ての構造基盤 (Structural basis for spliceosome assembly)

スプライソソームは、RNA前駆体から非コード配列を除去し、コード配列を連結して有用なRNAにする。スプライソソーム前駆体(A複合体)は、3つのU4/U6.U5 核内低分子リボ核タンパク質(snRNP)と呼ばれるsnRNP複合体と会合して、B複合体前駆体を形成する。B複合体前駆体は、触媒前駆体であるB複合体へと転換される。Baiたちは、酵母から単離されたB複合体前駆体とB複合体の低温電子顕微鏡構造を解明した。これらの構造はU1 snRPNとU2 snRPNを示していて、A複合体のモデル化によりスプライソソームの組立てと活性化の初期段階を明らかにすることを可能にする。(MY,kh)

【訳注】
  • A複合体:mRNA前駆体の5'スプライス部位にU1 snRNPが、分岐部位にU2 snRNPが取り付いて形成されたスプライソソーム前駆体のこと。
  • snRNP:リボ核酸とタンパク質の複合体。
Science, this issue p. 1423

脳内におけるドーパミン放出の画像化 (Imaging dopamine release in the brain)

神経調整物質の放出は標的回路の機能を変更するが、そのやり方はほとんど分かっていない。この知見の隔たりに取り組むのに不可欠な第一歩は、行動中に標的回路の構成諸要素を操りながら、同時に神経調整性シグナルの動態を測定することである。Patriarchiたちは、蛍光タンパク質系のドーパミン標識剤を開発して、高忠実度かつ高解像度で、空間的および時間的にドーパミン放出を可視化した。皮質中におけるこれらの標識剤による二光子画像法を用いて、ドーパミン活性位置が細胞分解能で特定された。(MY,nk,kh)

【訳注】
  • 二光子画像法:生体中の所望の場所に二光子吸収を発生させ、それによる蛍光を取得して画像化する顕微鏡技術。光による生体ダメージが少なく、高解像度で3次元画像を取得できる特徴を持つ。
Science, this issue p. eaat4422

眼が神経活動を見ることができる (Eye can see neural activity)

生物は、視覚系を介して膨大な量の情報を取り込み、それらは次に神経回路によって処理される。Hongたちは、マウス網膜中への注入により埋入されるメッシュ型移植電子装置を開発した。これらの装置を用いて、覚醒している活動的マウスにおいて長時間にわたる網膜神経節細胞からの記録を得ることが可能となる。網膜神経節細胞活性の概日性調節と同様に、方位選択性と方向選択性の網膜神経節細胞の両方を観察することができる。(KU,kj,nk,kh)

【訳注】
  • 方位選択と方向選択: 一次視覚野の個々の神経細胞が持つ刺激選択性. 刺激である線の方位・傾きと, 刺激の運動方向の, それぞれの特定のものを選択する.
Science, this issue p. 1447

ペロブスカイト層が期待にそう (Perovskite layers make the grade)

来のメソポーラス酸化チタン酸化物中間層を有するものと比較して、逆型平面ペロブスカイト太陽電池は、単純な素子構造への機会を提供する。しかしながら、その開放電圧の低さが、変換効率を低めている。Luoたちは、混合カチオンと混合ハロゲン化物の鉛ペロブスカイトと溶液処理2次成長法を用いて、ペロブスカイト膜中に、非放射的電荷再結合を抑制する表面領域を作った。このような太陽電池は、従来型に匹敵する性能を示した。(MY.KU,kj,nk)

【訳注】
  • 逆型太陽電池:透明電極と対抗電極の間に、透明電極側から正孔輸送層、ペロブスカイト層、電子輸送層を持つ構成の太陽電池。
  • メソポーラス:直径2-50nmの細孔。
  • 溶液処理2次成長法:溶液法で形成したペロブスカイト層の表面に施され、ペロブスカイト粒子表面に存在する非ペロブスカイト組成を消失させて、ペロブスカイト粒子を成長させる処理のこと。
Science, this issue p. 1442

金の超高速融解 (Golden ultrafast melting)

金属の高速融解を理解することは、溶接と微細加工のような応用にとって重要である。しかしながら、高速融解の過程を調べる選択肢は、唯一、シミュレーションに委ねられている。Moたちは、レーザー・パルス光を照射された金膜上で、超高速電子線回折実験を行った。これにより、融解過程の詳細な描画が可能になった。融解過程は2つの全く異なる状況を通って進行し、一方、その接着挙動は予想外の形で変化する。この結果は、高エネルギー融解模型に新規な物理過程の追加を必要とする。(MY,kj,kh)

Science, this issue p. 1451

性決定時のSox9の調節 (Sox9 regulation during sex determination)

性決定はSox9遺伝子によって調節される。精巣分化の際に、この遺伝子は、Y染色体コード遺伝子Sryの生成物によって直接的に標的とされる。Sox9の調節領域は複雑であり、これは発生における複数の役割を有する遺伝子の典型である。Gonenたちは、単一の遥か上流の557塩基対の要素が、Sox9を活性増加するために重要であることを見出している。それがなければ、XYマウスは雄ではなく雌として発生する。557塩基対のエンハンサーは遺伝的に保存されており、ヒトの性分化の障害に関係している可能性があり、そしてそして速度とタイミングが重要な過程の早期に作用するので、おそらく性分化に極めて重要であり、何らかの不具合によって卵巣特異的な要因が支配する可能性がある。(KU,kj,nk,kh)

Science, this issue p. 1469

オランウータンへの人間の影響 (Human influence on orangutans)

オランウータンの数とそれらの地理的分布は更新世後期後に劇的に減少した。専門家は、考えられる原因として、気候変動と人間活動を提案してきた。Spehar たちは、利用可能な考古学的、遺伝学的、および行動学的データを総合して、過去7万年にわたり、狩猟が特に影響を及ぼしたと結論づけた。いくつかの順応性のあるオランウータンの集団は、人間が支配する環境で生き続けており、オランウータンが手つかずの生息地を必要としているという長年の信念に議論を喚起している。(Sk,kh)

Sci. Adv. 10.1126/sciadv.1701422 (2018).

炭素排出ゼロへの道 (Path to zero carbon emissions)

気候変動の危険域を回避するためには、世界中の二酸化炭素排出量は今世紀後半にゼロにしなくてはいけないことをモデルが示している。このような排出の殆どはエネルギー使用から発生している。Davisたちは、エネルギー系の脱炭素を達成するために何が必要であるかを評価している。エネルギー系のいくつかの部分、例えば航空機、長距離輸送、鉄鋼とセメント生産、高信頼電力供給の設備などはとりわけ脱炭素が難しい。最近の技術と経路は期待がもたれるが、しかし現在、別々になっているエネルギー部門と工業プロセスの統合は最小限の排出量を達成するために必須である。(Uc,kj,kh)

Science, this issue p. eaas9793

乗馬者のための古代の草原 (Ancient steppes for human equestrians)

ユーラシア大草原は、ヨーロッパのウクライナからモンゴルや中国にまで及ぶ。過去5000年にわたりこの平らな草原は、移住する人間、馬、言語が行ったり来たりする通り道であると考えられていた。de Barros Damgaardらは、この地域で見つかった74の遺体からの全ゲノム配列を調べた。大草原からヨーロッパへ人が移った証拠はあるが、人間の動きの詳細は複雑であり、乗馬文化の独立した複数回獲得を含む。さらに、インド・ヨーロッパ語系のヒッタイト語はアナトリア地域由来で、大草原からではないらしい。大草原地帯の人々は南アジアに侵入しなかったようである。遺伝的な証拠は、古代南アジアの人々の中への西ユーラシア人の混合を含む独立した歴史を示している。(ST,KU,kh)

【訳注】
  • アナトリア地域:トルコ共和国の大部分を占める, 小アジアとも呼ばれるアジア最西端の半島. この地にインド・ヨーロッパ系語族最初の, 人類最初の製鋼技術を開発したヒッタイト帝国が, 古代エジプトと同時期に栄えた.
Science, this issue p. eaar7711

乳腺でのクロストーク (Cross-talk in the mammary gland)

マクロファージは感染を除去するために損傷した細胞と死細胞を貪食するが、又、組織再生にも関わる。Chakrabartiたちは、乳腺発達に対するマクロファージの得意領域を拡張する(KannanとEavesによる展望記事参照)。乳腺幹細胞はノッチ・リガンドであるDll1を分泌し、近くのマクロファージの生存を促進するノッチ・シグナル伝達を活性化する。これはウィント・リガンドの産生を刺激して、乳腺の幹細胞にシグナルを送り返す。このクロストークは、乳腺発達の調整、組織恒常性、とりわけ乳癌において重要な役割を果たす。(Sh,kj,nk)

【訳注】
  • クロストーク:あるシグナル伝達経路が情報を伝えるときに他の伝達経路と影響しあうこと。
  • ノッチ(Notch):1回膜貫通型タンパク質で、ノッチ・シグナル伝達は、幹細胞分化の重要な制御因子となる細胞の分化・増殖を制御するシグナル伝達機構
  • ウィント(Wnt):350~400のアミノ酸からなる分泌性の糖タンパク質で、ウィント・シグナル経路は、細胞の増殖や分化を制御するシグナル伝達機構
Science, this issue p. eaan4153; see also p. 1401

第一チャーン数を超えて行く (Going beyond the first Chern number)

物理系のトポロジカル特性は、いわゆるチャーン数に反映される。ゼロでないチャーン数は、通常、系がトポロジカル的に非自明であるということを意味している。Sugawaらは、第一チャーン数のみを普通は用いる凝縮系物理とは異なり、ゼロでない第二チャーン数を持つ冷却原子系を作り出した。このエキゾッチクなトポロジーは、ルビジウム原子のボーズ・アインシュタイン凝縮における内部自由度の5次元空間におけるYang単極子(高エネルギー物理理論から知られている)と呼ばれる磁気単極子の出現に関係している。この結果は、高エネルギー現象をシミュレートできる冷却原子物理学の可能性を例証している。(NK,KU,nk,kh)

【訳注】
  • 非自明なトポロジー:トポロジーとは連続的に変形して移り変われるもの同士を同一視することで立体の持つ普遍的性質を分類する数学であり、それらを区別するための整数が定義されている。その整数が0ではないものを、非自明なトポロジーを持つ、と呼び、数学的に興味深い性質を持っている。
Science, this issue p. 1429

ビタミンからのひらめき (Inspiration from a vitamin)

限定された立体化学を有する分子の有機合成には不斉中心を必要とし、それには次に不斉触媒が絡むことになるだろう。Chenたちは、ビタミンB6をモデルにした、アルデヒド基に隣接した電子求引性のピリジン環を含む有機触媒を開発した。この触媒は、アミノ酸グリシンの誘導体であるアミンと反応することによってこのビタミンのように作用し、活性種を生成する。触媒上の付加物はその後の反応を調整し、2つの隣接するアミンを有する立体選択的な生成物の形成を可能にする。(Sh,KU,nk,kh)

Science, this issue p. 1438

ガラス様と結晶様 (Glass-like and crystal-like)

ガラス様の超低熱伝導度をもつ結晶は、遮熱塗装や熱電材料として魅力的である。Mukhopadhyay たちは、ガラス様の熱伝導率を持つ一連のセレン化タリウム化合物を開発した。これらの材料は、応用面で有望かもしれないが、それらはまた、その熱的性質を説明するために、ガラス様と結晶様の熱輸送の組合せを必要としている。この2経路モデルは、未だ見つかっていない超低熱伝導率の化合物をつきとめるために使用できるかもしれない。(Sk,kj,nk,kh)

Science, this issue p. 1455

摩擦をもったブラシ (A brush with friction)

高分子電解質ブラシは、共通の骨格または表面に付着した帯電したポリマー鎖からなる。それは、設計された材料と生理的材料の両方に対する2つの表面間で優れた潤滑性を提供する。ブラシのパッキングは、pH、温度、または添加された塩類に敏感である。Yuらは、多価イオンの存在が、一価イオンと同様に、ブラシの崩壊を引き起こす可能性があること示している(Ballauffによる展望記事参照)。決定的なことに (そして一価イオンの添加では観察されないことに) 非常に低い濃度の多価イオンがブラシ間に架橋を引き起こし 、生物医学装置としての価値が制限される程度まで, ブラシ表面間の摩擦を増加させる。(NA,KU,kj,kh)

Science, this issue p. 1434; see also p. 1399

死亡率水準は超高年齢で一定になる (Mortality rates level off at extreme age)

人間の寿命に関する人口統計学は、議論のある話題である。Barbi たちは、105歳以上のイタリア人からの高品質データに基づいて、 死亡率が超高年齢で一定であるが, その水準は対象集団の生誕年に従って経時的にやや低下する。人間の死亡率は、約80歳まで指数関数的に上昇し、次に減速し、105歳以降は高水準安定になる。(Sk,nk,kh)

Science, this issue p. 1459

終末期の医療費支出 (End-of-life health care spending)

米国では、寿命の最後の12ヶ月間にメディケア支出の4分の1が発生する。これは一般に、無駄使いの証拠とみなされている。Einavたちは予測モデルを使用して、この解釈を再評価した。詳細なメディケアの請求データから、死亡者だけでなく、死亡が予想される人にも、どの程度支出が集中しているかを見積もることができる。ほとんどの死亡は予測不可能である。したがって、終末期の支出に焦点をあてることが、必ずしも「無駄な」支出の特定とはなってはいない。(Wt,KU,kh)

【訳注】
  • メディケア(medicare):米国での65歳以上の老人を対象とした老人医療保証制度
Science, this issue p. 1462

ビッグ・ワンの後の温暖化 (Warming after the big one)

白亜紀-古第三紀境界において大量絶滅をもたらした、6,500万年前のチクシュループ隕石衝突は、また、長期間にわたって強い地球温暖化を引き起こした。MacLeodたちは、魚の歯や鱗、骨を含む燐酸化物の微化石からのデータを用いて、地球の平均気温を推定した。小惑星襲来直後から、気温は約5℃上昇し、約10万年の間高いままであった (Lecuyerによる展望記事を照)。これらの結果は、現在の気候予測と関連している。なぜならば、チクシュループ隕石衝突は、現在の変化の速度よりもずっと短かい時間スケールで地球のシステムを攪乱したからである。(Wt,kh)

【訳注】
  • ビッグ・ワン: 生命大発展のカンブリア紀以後 5 回と数えられる大量絶滅の最大のものを指す. 本論文の白亜紀-古第三紀境界のものは, 絶滅種の割合では第 5 位. 現在を 6 回目の大量絶滅とする説もある.
Science, this issue p. 1467; see also p. 1400

運動のある行動 (Behavior with movement)

運動に必要な神経回路は脊髄に存在する。しかし、神経系は、さまざまな脳領域にわたる多様な神経集団をどのように協調させて有機体の行動要求を満たすのだろうか?展望記事において、ArberとCostaは、専門化した脊髄微小回路、感覚性フィードバック・ループ、および脳の運動指令の組織化の論理を研究している。しかし、 動作選択がどのように起こるかは、依然として謎である。(KU)

Science, this issue p. 1403

より持続可能な物資体系 (A more sustainable materials system)

物資の大規模な使用と消費は現代の生活様式の中心であるが、ますます環境問題を引き起こしている。 展望記事において、OlivettiとCullenはその影響を概説し、消費を削減し技術を変えることによってより持続可能な物資体系が実現できることを示している。経済的動機づけだけでは、必要な変更を達成するには不十分であろう。さらに、寿命の延長、より高い製造効率、および回収が不可欠である。そのような改革は、より持続可能な方向での研究と実践を推進するための、行政と教育によって支えられなければならない。(Sk)

Science, this issue p. 1396