AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約

Science March 16 2018, Vol.359

健全な漁業は混獲を減らすことができる (Healthy fisheries can reduce bycatch)

商業漁業時に海洋哺乳類とカメと鳥をも混獲してしまうことはかなり危ない兆候である。 混獲減少を目的とした活動は商業漁業と衝突を引き起こすと、しばしば考えられている。 しかしながら Burgess たちは、大部分の場合では、長期持続性を最もよく推進するよう漁業資源を管理することが、また混獲を減少させることを示している。 漁獲資源の再編は自然と混獲を減らし、このような要素は全体として漁獲から持続的な利益の創出を促すであろう。(Uc,ok,kh)

【訳注】
  • 混獲:漁獲対象の種とは別の種を意図せずに漁獲してしまうこと。
Science, this issue p. 1255

誘発地震にとって注入深さが重要である (Injection depth matters for induced earthquakes)

排水注入はオクラホマ州で地震を引き起こしてきたが、そのような地震の誘起における操作上および地質学上のパラメータの相対的重要性は不明確である。 Hincks たちは、高度なベイジアンネットワークを開発して、オクラホマ州におけるこれらのパラメータ間の相互作用を決定した。 地震エネルギーの放出の可能性を考慮する際には、注入の結晶質基盤岩までの深さが最も重要なパラメータであった。 このモデル化方法は、提案された規制変更が誘発地震に及ぼす影響予測を改善する方法を提供する可能性がある。(Wt,MY,nk,kh)

Science, this issue p. 1251

グラフェンの成長を凝視する (Watching graphene grow)

金属表面上のグラフェンの成長が移動性の表面金属原子によって触媒され得る。 Patera たちは、高速走査トンネル顕微鏡を用いてニッケル表面上の島状グラフェンの成長を画像化した。 高温により炭素が表面に拡散し、移動性のニッケル原子が島の縁でグラフェン成長の触媒として働いた。 分子動力学および密度汎関数理論による計算が反応段階への機構上の洞察を与える。(Wt,nk,kh)

Science, this issue p. 1243

タンパク質で見られる設計をまねる (Mimicking the designs found in proteins)

天然タンパク質は、化学的多様性、予め決められた形状間を急速に切り替える能力、および構造の階層性を含む、幅広い有用な特徴を兼ね備えている。 Panganiban たちは、タンパク質で見られる特徴の多くを用いて、極性基と無極性基を有するランダム共重合体を設計した(Alexander-Katz と Van Lehn による展望記事参照)。 その構造は、有機溶剤中でのタンパク質可溶化の促進と水性環境中でのタンパク質の機能性維持を助けすることがともに可能で、「幅広い用途の」界面活性剤として働くことができた。(Sk,MY,ok,nk,kh)

Science, this issue p. 1239; see also p. 1216

哲学者としての幼児 (The infant as philosopher)

視線の移動あるいは長時間の凝視のような視覚挙動は、内面的な思考の診断に役立てることができる。 Cesana-Arlotti たちはこのような尺度を用いて、言語習得前の幼児(12ヶ月と19ヶ月)が、選言三段論法と呼ばれる論理構造を組み立てられることを実証した(Halberda による展望記事参照)。 それは、 もし "A またはB" が真であって、A が偽であるなら、B が真であるに違いないというものである。 B が偽であることが明らかになる場面を幼児に提示すると、驚きの表情を引き起こした。(Sk)

Science, this issue p. 1263; see also p. 1214

活動要請 (Call to action)

発生中の脳は、初期に、必要以上のシナプスを作り出す。 さらなる発達とともに、過剰なシナプスは取り除かれ、成熟した回路が残る。 シナプスは、それらを貪食し破壊する、小膠細胞によって取り除れることができる。 Vainchtein たちは、神経細胞が依存する支持細胞である星状膠細胞が、小膠細胞の活動要請をすることを見出した。 余剰シナプス近傍の星状膠細胞が、サイトカインであるインターロイキン-33(IL-33)を放出し、それが小膠細胞をその場所に集める。 マウスにおいて、IL-33の欠乏で引き起こされるようなこの貧食過程の崩壊は、過剰な興奮性シナプスと、過剰に活動する脳回路の原因となった。(Sk,kj,kh)

【訳注】
  • 小膠細胞:通常は不活性な状態で存在し、神経細胞が傷害や炎症などによって損傷を受けると活性化して、損傷修復のための免疫担当細胞として機能する神経膠細胞(神経系を構成する神経細胞ではない細胞の総称)の一種。
  • 星状膠細胞:細胞体からスポンジのように複雑な形の突起を伸ばして脳の空間を満たし、神経組織の形態維持、血液脳関門、神経伝達物質の輸送などの役割を担う神経膠細胞(神経系を構成する神経細胞ではない細胞の総称)の一種。
  • サイトカイン:免疫システムの細胞から分泌されるタンパク質で、標的細胞が特定されない情報伝達をするもの。
Science, this issue p. 1269

ロボットが手足を伸ばす (Robots reach out)

無人飛行体(UAV)は、時には、窮屈な空間に突入する必要がある。 以前の折り畳み可能なロボット・アームは、あまりにたわみ易くて実用的でなかった。 Kim たちは、二つの折り目が直角に交わる場合、一度に一方しか折り畳めないという認識に基づいた固定機構を持つ、モジュール組み立て方式の、折り紙に着想を得たロボット・アームを作り出した。 これにより、単一電動モーターでの腱型の駆動が可能となり、UAVが狭い場所で物をつかんだり、木の枝の間にカメラを差し込んだりできるようになった。(Sk,kj,kh)

Sci. Robot. 3, eaar2915 (2018).

リソソームが神経幹細胞の若さを保つ (Lysosomes keep neuronal stem cells young)

加齢の重要な結果は、幹細胞、特に神経系幹細胞の再生能力が失われることである。 Leeman たちは、マウスから静止幹細胞と活性化幹細胞を単離し、それらのトランスクリプトームを比較した。 その結果、凝集タンパク質が蓄積している静止神経幹細胞における大型リソソームの役割が重要と判明した。 リソソームの機能を刺激する措置が、加齢した静止幹細胞がタンパク質凝集を片付けることを可能にし、その細胞の活性化される能力を復活した。 そのような幹細胞機能の復活は、加齢におけるタンパク質恒常性不全を緩和するかもしれない。(MY,nk,kj,kh)

【訳注】
  • トランスクリプトーム:特定の状況で組織や細胞中に存在する全てのRNAのこと。 これを把握することで、対象とする組織や細胞の遺伝子発現の状況を調べることができる。
  • リソソーム:加水分解酵素を含み、細胞の消化作用を助ける細胞内小器官。 ここで消化されたタンパク質から生じたアミノ酸はリソソーム外に排出され、タンパク質合成へと再利用される。
Science, this issue p. 1277

動作の知覚に良い振動 (Good vibrations for movement perception)

人工装具が動作中に身体的結果情報を与えないと、装具患者たちは、自分たちが身体動作を完全に制御していると感じないかもしれない。 Marasco たちは、義手の制御に用いられる筋肉を振動させる、自動的神経−機械接続法を開発した。 この装置は装具患者たちに運動感覚を身につけさせ、彼らが視覚的結果情報なしに義手の動作を制御することを可能にし、彼らの制御感覚を高めた。(Sk,nk,kj,kh)

Sci. Transl. Med. 10, eaao6990 (2018).

レーザーのためのトポロジカル保護 (Topological protection for lasers)

トポロジーは当初、連続変形のもとで変わらない幾何学的空間の特性を記述する数学として発展してきたが、その概念は現在、材料、電子工学、光学に応用されるようになっている。 この主たる原動力は、欠陥があっても系に安定性を与える特性としてのトポロジカル保護である。 Harari たちは、トポロジカル保護の概念を幾何学的に設計されたレーザー共振器に活用する理論提案の概要を説明している。 レーザー発振状態は、共振器構造のトポロジカル端状態に閉じ込められる。 Bandres たちは、リング共振器アレイを備えたトポロジカル絶縁体レーザーの作製にこの概念を組み込み実現させている。 この成果は、新しいレーザー系を構築する強力な技術基盤を示している。(NK,MY,ok,nk,kj,kh)

Science, this issue p. eaar4003, p. eaar4005

ヒヒにおける日々の転写サイクル (Daily transcription cycling in the baboon)

生理学における概日リズムの重要な影響に関する私たちの知識の多くは、マウスに対する研究に由来しているが、マウスは夜行性である。 Mure たちは、ヒヒの多くの組織と脳領域からの 24時間にわたる転写プロファイルを報告している(Millius と Ueda による展望記事参照)。 その結果、リズム的な発現はタンパク質をコードする遺伝子の80%以上で検出され、それがいかに広範囲にわたっているかが示された。 彼らは、さまざまな組織の転写サイクルにおけるマウスとヒヒとの相違の予想外の程度についても強調している。 この知見は、ヒトと近縁種の昼行性動物に対する遺伝子発現の概日変動の包括的な分析を提供している。(MY,ok,kj,nk)

Science, this issue p. eaao0318; see also p. 1210

メンデル型遺伝の隠れた影響 (Hidden effects of Mendelian inheritance)

遺伝性疾患における決定要素の特定は、病原性が顕性(優性)である変異体のメンデル型遺伝に対して、大きな成功を成し遂げてきた。 この場合、2個の非機能ないし低機能の遺伝子が病気に寄与する。 しかしながら、潜性型のメンデル型遺伝の影響は、ヒトの健康におけるゲノム影響を調べる場合、普通は無視されてきた。 Bastarache たちは、電子記録を用いて、以前は特定されなかったメンデル型変異体の表現型への影響を明らかにした。 彼らの分析は、未診断のメンデル型疾患を持つ人たちが、想定よりも多く一般集団に存在するかもしれないことを示唆している。 このため、遺伝子分析は、臨床医が診断に至るのを支援することができるかもしれない。(MY,kj,kh)

【訳注】
  • 潜性型遺伝子:1つの遺伝子座に属する対立遺伝子のうち、同じ遺伝子が2個揃ったときにだけ発現する遺伝子。
  • 電子記録:電子健康記録(Electronic Health Record or EHR)のこと。 国民一人ひとりの生涯にわたる健康医療電子記録で、わが国を含め各国で整備が進められている。
Science, this issue p. 1233

急速凍結が酵素の秘密を見せる (A quick freeze shows an enzyme's secrets)

有機ラジカルは酵素反応において化学的に有用であるが、その寿命が短いため、往々にして観測することが困難である。 Dong たちは急冷凍結法を用いて、非正統的なラジカルS-アデノシルメチオニン(SAM)酵素によって作られた2つの中間体を捕捉した。 このラジカルSAM酵素は、鉄-炭素結合を介して鉄-硫黄クラスターと結合したSAM分子断片と生成物様ラジカルから構成されている。 SAMが結合した酵素の構造は、炭素、硫黄、鉄分子が同一直線に並んでいない配置を示した。 この結合配列は、この有機金属中間体が二電子求核機構によって作られる可能性を示唆する。 それに続きラジカル中間体が基質タンパク質上に形成され、酸化分解してアミノ酸生成物のジフタミドとなる。(MY,kh)

Science, this issue p. 1247

河川の物理が制限を設ける (Stream physics set the limits)

物理的な輸送過程と河川の流れ・堆積物中での生物媒介反応が組み合わさると、河川水から溶存無機窒素(DIN)が除去される。 いかに速くDINが除去されるかは、河川の流れの化学と生物学が支配的な制御因子と考えられてきたが、Grant たちは、物理は硝酸塩(DINの1成分)の除去速度に制限を設けるものであることを示している。 河床間隙水域(堆積物表面の下方領域で、地下水と表流水が交わるところ)での滞留時間が、河川水から除去可能な硝酸塩の最高速度を決定する。 それでもやはり局所規模では、化学と生物学が、どれだけその最高速度に近い速度で除去が起きるかを修正する。(MY,kh)

Science, this issue p. 1266

マラリア原虫の性的発達 (Sexual development in Plasmodium)

マラリアを引き起こす原虫(Plasmodium)はヒトの組織内で複雑な生活史を過ごしている。 普段、原虫は、ヒト宿主細胞内での複製に彼らの努力を集中している。 しかし、時々、一部の複製細胞は配偶子を血流に放出し、それが吸血蚊により吸い採られる。 Filarsky たちは、マラリア原虫がヘテロクロマチン・タンパク質1(HP1)を用いる厳密な後成的制御下で配偶子の産生を維持していることを発見した。 マラリア原虫の配偶子母細胞形成は、配偶子母細胞発生1(GDV1)タンパク質によって配偶子特異的遺伝子の上流からHP1が排除されたときに開始される。 GDV1は、次にそのアンチセンスRNAによって調節される。 GDV1発現を引き起こす要因は不明である。 この経路の解明は、マラリア感染を遮断するための標的を提供するかもしれない。(KU,kj,kh)

【訳注】
  • アンチセンスRNA:メッセンジャーRNA(mRNA)など、意味のある機能を持つRNA(センスRNA)と相補的な塩基配列を持ち、センスRNAの機能を阻害する。
Science, this issue p. 1259

染色体の動態と細胞時計 (Chromosome dynamics and cellular clocks)

多くの遺伝子は、その転写速度において日々のつまり概日の変化を経験する。 Kim たちは、概日時計が染色体の動態と関連する機構を調べた(Diettrich Mallet de Lima と Göndör による展望記事参照)。 彼らは染色体立体構造捕捉技術(Hi-C)を使用して、隣接するDNA断片の相互作用を究明し、このような相互作用を変えるDNAループ形成が、日々の周期でどのように変化するかを調べた。 哺乳動物の時計機構の一部として機能する抑制転写因子Rev-erbαはクロマチンに結合し、ループ形成を強める他のタンパク質を排除するタンパク質複合体を動員することで、エンハンサー-プロモーターの概日性相互作用を容易にするらしい。(KU,nk,kj,kh)

Science, this issue p. 1274; see also p. 1212

単一細胞における突然変異の速度と影響 (Mutation rates and effects in single cells)

突然変異の動態と適応度影響の分布を理解することは、ほとんどの進化モデルにとって不可欠である。 Robert たちは単一細胞技術を用いて、新たな突然変異の蓄積を可視化した。 この方法は、生きている大腸菌細胞においてDNA複製エラーによって引き起こされた誤対形成塩基と小さな挿入または欠失を有するDNA配列を明らかにする。 突然変異後の細胞の運命を追跡することで、新たな突然変異の影響を正確に定量化することができた。 突然変異が有害である割合は、以前、間接的な観察から予測されたよりも小さいことが判明した。(KU,nk,kh)

Science, this issue p. 1283

新しい標的が合成致死を誘発する (A new target induces synthetic lethality)

合成致死として知られている過程で選択的腫瘍細胞死を引き起こすよう標的化できる変異を同定することが、ガン研究の一つの方法論となってきた。 DNA修復の喪失は、変異速度を高め、かつ腫瘍の進化を促進することによって、腫瘍細胞に選択増殖の利点を提供することがある。 展望記事で Higgins と Boulton は、DNA重合酵素uとして知られるDNA損傷応答タンパク質が、乳ガンおよび卵巣ガンに見られるような特定の腫瘍でどのように増加するかについて議論している。 この経路は、おそらく放射線療法と組み合わせて治療反応を改善するかもしれない刺激的な抗ガン標的を表している。(NA,MY,kh)

【訳注】
  • 合成致死:単独遺伝子欠損では細胞や個体に対する致死性を示さないのに,複数の遺伝子の欠損が共存すると致死性を発揮する現象。
Science, this issue p. 1217

動物は感染症危険をどのように乗り切るか (How animals navigate infection risk)

生態学者は、捕食者の恐怖が動物の行動にどのように影響するかということについてはずっと以前から認識をしてきている。 展望記事で Weinstein たちは、別の要因として感染症の危険性が重要であることを強調している。 彼らは、さまざまな動物を例にして、潜在的な感染症源によって引き起こされる嫌悪感が動物の行動にどのように影響を及ぼすかを示している。 捕食と感染症の危険性が重なり合った状況に動物がどのように反応するかを理解することは、生態系が変化する環境にどのように対応するかを予測する上で重要である。(ST,nk,kh)

Science, this issue p. 1213

ランゲルハンス細胞中の乾癬標的 (A psoriasis target in Langerhans cells)

乾癬は自己免疫性皮膚病であり、皮膚の T細胞によって産生される炎症誘発性サイトカイン・インターロイキン-17(IL-17)に関連する。 Zheng たちは、皮膚常在性樹状細胞(ランゲルハンス細胞)におけるp38αシグナル伝達が、この疾患のマウス・モデルにおいて乾癬の病変形成に重要であることを見出した。 ランゲルハンス細胞におけるp38αシグナル伝達は、IL-17産生T細胞の発生に不可欠なIL-23の産生を刺激した。 p38αの遺伝的欠失または薬理学的抑制は、難治性の乾癬病を有するマウスの皮膚炎を減少させた。(KU,nk,kh)

Sci. Signal. 11, eaao1685 (2018).

RSVに関する構造的洞察 (Structural insights into RSV)

呼吸器合胞体ウイルス(RSV)は、乳児、幼児、および高齢者の重篤な罹患率と死亡率に関わる呼吸器感染を引き起こす。 この病気に対する、認可されたワクチンは存在しない。 Fedechkin たちは、2つの異なる広域中和モノクローナル抗体(mAb)によって結合されたRSV Gタンパク質の遺伝的に保存された中心ドメイン(CCD)の共結晶構造を描写している。 両方のmAbは、この高度に保存された領域上の立体配座エピトープに結合する。 RSV G CCDはケモカイン受容体 CX3CR1を活性化することができ、この活性はmAbの結合によって妨げることができる。 これらの知見は、中和mAbがRSV Gタンパク質とどのように相互作用するかの洞察を提供し、RSVワクチンと治療薬の開発を前進させる可能性がある。(Sh,kj,kh)

【訳注】
  • RSウイルス:上気道炎や下気道炎を引き起こす代表的な呼吸器ウイルス。 軽い症状も含め多くの子どもがかかり、乳幼児では重症化しやすい。 慢性呼吸器・心疾患を合併する高齢者でも下気道感染を起こし、入院・死亡の主要な原因となる。
  • モノクローナル抗体:単一の抗体産生細胞に由来するクローンから得られた抗体分子。
  • 中和抗体:抗原が生体に対して毒性や感染力などの活性をもつとき、その抗原に結合して活性を減退または消失させる抗体。
  • Gタンパク質:RSウイルスのエンベロープ(外皮)を構成する主要抗原の一つ
  • エピトープ:抗体は病原微生物や高分子物質などと結合する際、抗原の比較的小さな一部のみを認識し結合するが、この抗体結合部分。
  • ケモカイン受容体:細胞を移動させる物質であるケモカインを細胞の表面で受けとめる受容体で、その後、刺激が細胞の中に伝わる。
Sci. Immunol. 3, eaar3534 (2018).

MHCIは再発を抑制する (MHCI suppresses relapse)

再発は薬物中毒治療でのいつまでも続く課題であり、個人的および社会的に大きな費用がかかる。 Murakami たちは、マウスにおけるコカイン中毒への再発を抑制する分子機構を発見した。 遺伝子導入マウス・モデルにおいて、コカインの自己投与は、脳の報酬系での主要組織適合複合体クラスI(MHCI)レベルの低下、グルタミン酸信号伝達の増強、そして行動の再発をもたらした。 ドーパミン神経細胞中の MHCIの機能に影響を与える上方制御遺伝子または下方制御遺伝子は、この中毒症状を妨げ、または促進した。(Sh,ok,kj,kh)

【訳注】
  • 薬物自己投与法:動物を用いての依存性の強度を定量的に測定する方法。 例えばカテーテルを静脈内に留置したサルを実験箱に入れ、サルがレバーを押した時、カテーテルを介して薬液を微量注入する。 注入薬液が好ましい効果(強化効果)を持つ場合、サルは再びレバーを押して薬液を注入し、これを何度も繰り返すようになる。
  • 主要組織適合複合体(MHC:major histocompatibility complex):免疫システムの中で、異物として認識されるペプチド断片を提示する膜貫通タンパク質。
  • ドーパミン神経細胞:神経伝達物質としてドーパミンを放出する神経細胞。
Sci. Adv. 10.1126/sciadv.aap7388 (2018).