AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約

Science April 7 2017, Vol.356

ソリトンの相互作用を捉える (Probing the interaction of solitons)

光パルスが媒質中を伝搬すると、通常は、光子が散乱されたり、振動数により媒質中の速度が変わる分散過程によりパルスの形が崩れてくる。しかし、ある環境下で、分散過程を非線形性によってつり合わせて、ソリトン或いは光弾丸と呼ばれる局在構造を形成することができる。Herink等はスペクトル干渉法を用いて、ソリトン複合体がレーザ共振器中を伝搬する際のその複合体の形成を可視化し、追跡した。その形成過程と複雑な相互作用の力学を実時間測定できるこの手法は、他の非線形系のモデル化に役立つかもしれない。(NK,KU,ok,kj,nk,kh)

Science, this issue p. 50

ウイルスが食物アレルギー症状をひどくする (Viruses compound dietary pathology)

レオウイルスは通常,症状を引き起こさずにヒトとマウスに感染する。Bouziatたちは,2種の腸感染性レオウイルスへの免疫応答が違う経路をとることをマウスで見つけた(VerduとCamineroによる展望記事参照)。これらのレオウイルスは2つとも防御免疫応答を引き起こしたが,グルテンや卵白アルブミンのような食物抗原の存在下で感染を生じた場合,片方のレオウイルスでは食物抗原への免疫寛容が失われた。これは,このウイルス株が免疫寛容性の末梢由来制御性T細胞の形成を妨げたためであった。その代わり、このウイルス株は,インターフェロン制御因子1のシグナル伝達を通して,食物抗原へのTh1細胞による免疫を促し,免疫恒常性を壊した。セリアック病患者もまた,レオウイルスへの抗体濃度が高かった。(MY,ok,kj,nk,kh)

【訳注】
  • レオウイルス:10 - 12本の線状の二本鎖RNAをゲノムに持つウイルス。乳幼児対して冬季に嘔吐性の下痢を引き起こすロタウイルスが含まれる
  • 末梢由来制御性T細胞:制御性T細胞(Treg)は分化過程によって胸腺由来Tregと末梢由来に分類される
  • インターフェロン制御因子1:抗ウイルス作用や細胞増殖抑制作用を有する生体物質であるインターフェロンをコードしている遺伝子の転写を活性化する因子
  • セリアック病:グルテンの摂取が原因で自らの小腸を傷つける自己免疫疾患
  • Th1細胞:ナイーブT細胞からの分化で生じる2つの免疫系細胞のうちの1つ。細胞性免疫(食細胞などの細胞体による異物除去)の経路を発動させる
  • 免疫寛容 : 特定抗原に対する特異的免疫反応の欠如あるいは抑制状態のこと
Science, this issue p. 44; see also p. 29

記憶固定のネットワーク (The network of memory consolidation)

記憶は海馬で形成され、その後、長期保存のために新皮質に移動すると考えられている。しかしながら、新皮質記憶の形成と成熟、および、海馬ネットワークとの相互作用の根底にある機構についてはほとんど知られていない。 Kitamuraたちは、学習の開始時に、文脈性恐怖条件付け記憶のためのニューロンが、前頭前野の皮質で迅速に生成されることを発見した。この過程は、海馬および扁桃体の両方からの求心性神経の活動に依存している。時間の経過とともに、前頭葉前部ニューロンは記憶表現におけるその役割を強化する。対照的に、海馬ニューロンはゆっくりとこの機能を失う。(Wt,KU,kj,nk,kh)

Science, this issue p. 73

熱い電荷担体が限界を打ち破るのを見る (Seeing hot carriers break the limit)

もし、太陽電池中の電荷担体を、平衡状態への途上で冷える前に回収することができれば、太陽電池効率に対する 33% というショックレー・クワイサーの限界を打ち破ることができるかもしれない。有機・無機ハイブリッド金属ハロゲン化物ペロブスカイトに対しては、長い電荷担体寿命(~100 ピコ秒)が報告されてきた。Guo たちは、過渡吸収顕微法を用いて、CH3NH3PbI3 薄膜における電荷輸送を画像化した。熱い電荷担体は、最長 600 nm 進むことが可能であった。このことは、熱い電荷担体を回収する素子が実現可能かもしれないことを示唆している。(Sk,kh)

【訳注】
  • ショックレー・クワイサーの限界:太陽電池材料のバンドギャップに対して、より小さなエネルギーの光が入射すると吸収されずに透過して透過損失が発生し、より大きなエネルギーの光が入射すると励起された電荷担体はフォノンを放出してバンド端まで冷えてから回収されるため熱損失が発生する。主にこれらの損失により、単一材料の太陽電池の効率は32.7%を超えることができないとする理論限界。
Science, this issue p. 59

処理可能な架橋重合体(Processable cross-linked polymers)

熱可塑性樹脂は架橋することにより,より硬く、より丈夫にすることができるが,こうすることが,その再処理やリサイクルをより困難にする。Rottgerたちは,ポリエチレンやポリスチレンのようなありふれた重合体へグラフトされたボロン酸エステルのエステル交換反応が,それらの樹脂の形状安定性や耐薬品性を向上させることを示している。しかしながら従来の架橋型材料と違い,これらの樹脂では押出成形や射出成形でもできる。これは,共有結合の架橋が高速に交換反応できるためであり,結果としてこれらの材料を高温でなお架橋構造を保持しながら,流動可能にしている。(MY,KU,ok,nk,kh)

Science, this issue p. 62

基礎・応用両方の論文からの特許 (Patents from papers both basic and applied)

研究に対する公共からの資金提供は、結果としての知識が医薬など社会的に価値のある成果になるという考えに立脚している。この関連性を主張するのは容易だが、実際に証明するのは難しい。Liたちは、アメリカ国立保健研究所による27年間の助成金レベルの資金提供を調査した。約10%の助成金は特許によって直接的に引用され、何らかの技術的な応用を示唆しており、そして助成金の30%はその後特許に引用された研究論文に引用されている。5%の助成金は、成功したと認識された薬剤に対する特許によって引用された論文になり、それにくらべ医薬特許によって直接引用されのは1%未満の助成金である。このようなパターンは、研究がより基礎的か応用的かにかかわらず成り立っている。(Uc,KU,ok,kj,nk,kh)

Science, this issue p. 78

抗体療法を用いてフィロ・ウイルスと戦う (Fighting filoviruses with antibody therapy)

RavnおよびMarburgウイルスは、ヒトにおいて高罹患率の出血熱を引き起こす。 Mireたちは、モルモットを致死的感染から守るため以前に解析されたいくつかのヒト単クローン抗体の効能を試験した。候補抗体の1つが、さもなければ致死的なMarburgまたはRavn感染症になるはずの, 非ヒト霊長類に5日後に投与され、臨床症状を軽減し、ほぼ総てのモルモットを守ることができた。 この抗体は、将来のフィロ・ウイルスの流行に役立つつかも知れない有望な治療薬である。(KU,kj,nk,kh)

【訳注】
  • フィロ・ウイルス:枝分かれした長い線状(filamentous)の形態を示し、これからfiloという名がついた。一本鎖RNAウイルスで最も代表的なものがエボラウイルス。
Sci. Transl. Med. 9, eaai8711 (2017).

巨大ウイルスのゲノム進化 (The evolution of giant virus genomes)

巨大ウイルスの中には,一部の細菌のものより大きなゲノムをコードしているものもあるが,それらの進化の歴史は謎である。Schulzたちは,オーストリアの排水処理施設から得られた試料に含まれるゲノムを調べ,以前には見つかっていない巨大ウイルスのゲノムを組み立てた。彼らはそれを用いて,遺伝子データベースで関連ウイルスを調べた。その結果著者たちは,アミノアシル転移RNA合成酵素を含むタンパク質翻訳機構の構成要素をコードする遺伝子を、他の巨大ウイルスより多く持つ一群の巨大ウイルスを同定した。これらの遺伝子は,おそらくこれらのウイルスの宿主から,宿主への適応として,これらの遺伝子は,おそらくこれらのウイルスの宿主から,宿主への適応として, 進化的には最近と呼べる期間の間に獲得されたことを,系統発生解析は示唆している。(MY,KU,nk,kh)

Science, this issue p. 82

肺における薬物送達のためのナノ粒子 (Nanoparticles for drug delivery in lungs)

粘液に付着する薬物送達ナノ粒子を設計することで、肺に滞留する時間を増大させることが可能である。Schneiderたちは、別のタイプとして、肺におけるより長い滞在時間と、強化された薬物送達能力を示す、粘液浸透ナノ粒子を開発した。滞在時間は粒子の大きさに関連していた。気道粘液の平均網目間隔より小さな粒子は、それに浸透することが可能であり、それにより生理的粘液排出に打ち勝った。これにより、粘液内の粒子はより有効で均一な分布となり、急性肺炎のモデル・マウスにおいてより大きな効き目があった。(Sk,nk,kh)

Sci Adv. 10.1126.sciadv.1601556 (2017).

原核生物における獲得免疫の変動 (Variation in prokaryote adaptive immunity)

ファージやと動遺伝因子の感染を撃退するため,原核生物は,「集まって規則的に間を空けて配置された短い回文配列の繰り返し」(CRISPR配列) と「付随タンパク質」(CRISPR-Cas)に備わっている,ある種の獲得免疫応答と免疫記憶を所有している。この分子機構は,短いヌクレオチド配列を捕獲し,保持することで,外来核酸を認識し記憶することができる。次に遭遇すると,同系のCRISPR-Casが酵素による防御を組織化し,同一のヌクレオチド配列を含んでいる感染要素を破壊する。Jacksonたちは,多様なCRISPR-Cas系が可動遺伝因子からの新たな脅威や免疫回避の対抗措置に適応し,事前に手を打つ分子機構について概説している。(MY,nk,kh)

【訳注】
  • 可動遺伝因子;別のDNAから転移して他のDNAに挿入されるDNA断片のこと
Science, this issue p. eaal5056

DNA配列および遺伝的な遺伝子サイレンシング (DNA sequence and inherited gene silencing)

細胞の運命決定には遺伝子の転写状態が、オンかオフかにかかわらず、複数の細胞世代にわたって安定、かつ遺伝的に維持される必要がある。サイレンスされた遺伝子がある時には、そのヘテロクロマチン領域では特異的なヒストン翻訳後修飾があり、これらの修飾で入ったヒストン標識は DNA複製および染色体複製の際に維持される(DeとKassisによる展望記事参照)。Laprellたちは、ショウジョウバエにおいて親のメチル化されたヒストンH3リジン27(H3K27)ヌクレオソームが、複製後に娘細胞に受け継がれ、転写を抑制出来るが、そのメチル化標識を伝播するには不十分であることを示している。新たに取り込まれたヌクレオソームのトリメチル化は、メチル基転移酵素ポリコーム抑制複合体2(PRC2)の隣接するシス調節性DNA要素への補充を必要とする。ゲノムの複製で新たに取り込まれたヌクレオソームのトリメチル化には、メチル基転移酵素ポリコーム抑制複合体2(PRC2)をシス調節性DNA要素の隣へ補充する必要がある。ColemanとStruhlは、H3K27トリメチル化ヌクレオソームが、ポリコーム応答エレメント結合部位でPRC2を固定することで、ショウジョウバエのHOX遺伝子における後成的記憶の伝達に因果的役割を果すことを実証している。 Wangたちは分裂酵母を調べ、配列依存性およびクロモドメイン配列非依存性の機構の両方が、ヒストン修飾の安定した後成的遺伝およびサイレンシングの後成的維持に必要とされることを示している。これらの研究は、増殖と発生の際の遺伝的な遺伝子サイレンシングには、DNA配列特異的に結合するヒストン修飾酵素の重要な役割があることを強調している。(KU,kj,nk,kh)

【訳注】
  • 遺伝子サイレンシング(遺伝子抑制):染色質(クロマチン:DNAとタンパク質の複合体)への後天的修飾により遺伝子発現を制御する、後成的遺伝子制御。遺伝子発現のスイッチをオン、オフすることを記述する際に用いる。そ機構の差により転写型遺伝子サイレンシング(ヒストンの修飾または異質染色質の環境変化等)と転写後遺伝子サイレンシング(特定のmRNAが破壊される)に分かれる。(ウイキペディアの遺伝子サイレンシングから)
  • ポリコーム(Polycomb):後成的な転写制御に関与する遺伝子群
  • ヘテロクロマチン:クロマチンの中の異常に凝縮している部分。染色すると区別できる。実体はヒストンにメチル化が起こっていてその部分のDNAで遺伝子サイレンシングが起こる。ヒストンのメチル化は後成的に起こるが、後成的なのになぜ遺伝するかが大きな関心を集めている
Science, this issue p. 85, p. eaai8236, p. 88; see also p. 28

ナノシート回路網トランジスタを印刷する(Printing nanosheet-network transistors)

グラフェンおよび二セレン化タングステン(WSe2)などの金属カルゴゲナイドのような二次元(2D)材料は、高い電荷担体移動度を有するため、低価格の薄膜トランジスタ(TFTs)用として魅力的である。Kellyたちは、グラフェン接点、半導体としてのWSe2、および窒化ホウ素セパレータからなる2D材料薄片分散体の回路網でできたTFTを印刷した。イオン性液体による電解的ゲート開閉は、同等の有機TFTで達成されるよりも大きな動作電流を可能とした。(Sk,kh)

Science, this issue p. 69

行動薬理学の見直し(A tailored look at behavioral pharmacology)

動物の行動が、脳の分子、細胞、および回路の要素によってどのように仲介されているかを理解することは重要である。 しかしながら、限定された細胞内の特定の分子活性を、行動の役割に関連付けることは困難であった。 Shieldsたちは、細胞特異性を使って行動神経薬理を分解する方法を開発した。DART (drugs acutely restrictedby tethering:テザリングで局所的に働くように敏感に制限された薬剤)と呼ばれるこの技術は酵素捕獲を用いて、標準的薬剤を遺伝的に特定された細胞表面に, 本来の薬理学的標的の事前修飾無しに, 局限する。この方法は、薬剤伝達を細胞型特異性、内因性タンパク質の特異性により規定し、即効性を有し、そして行動している動物において使用可能である。この方法により、規定された神経回路要素内の特定の分子活性を行動に因果的に結びつけることが可能となる。(KU,kj,nk,kh)

Science, this issue p. eaaj2161

良く似た顔触れから構造を選び出す(Picking structures out of a lineup)

医薬品の研究は、おびただしい数の複雑な分子の正確な構造決定に、決定的に依存している。X線回析のための整然とした結晶が得られない場合、核磁気共鳴(NMR)分光法が最も一般的な構造解明方法である。しかしながら、スペクトルがよく似た異性体を区別するのは困難な場合もある。Liuたちは、計算機モデリングを、ゲルで整列させた試料を用いて得られた異方性NMRデータと結びつける手順を紹介している。分子骨格全体にわたって、相対的な結合配向に対する感度が一定であるため、この方法は、正しくない構造決定の原因となるかもしれないよくある落とし穴を克服する。(Sk,ok,kj,nk,kh)

Science, this issue p. eaam5349

X線像がウッドワード・ホフマン則を捉える(X-ray vision catches Woodward-Hoffman)

有名なウッドワード・ホフマン(W-H)則は、有機分子における種々の急速な結合転位を合理的に説明する。その鍵となる本質は、反応物から生成物への電子移動における対称性の保存を含んでいた。Attarらは、フェムト秒のX線吸収スペクトルとそれに付随するシミュレーションの研究について報告している。その研究は、シクロヘキサジエンのヘキサトリエンへの光化学開環反応のような反応の際の炭素の電子状態の変化を追跡する(Sensionによる展望記事参照)。ペリ環状最小の近傍で起こる滑らかな進展は、W−H則の全体的な枠組みが正しいことを直接に承認するものである。さらに、便利な卓上装置の使用は超高速の電子動力学の将来のX線研究にとって吉兆となる。(NA,KU,nk,kh)

【訳注】
  • ペリ環状最小反応:π電子系を含む複数の結合が環状の中間励起状態最小を経由して形成、切断される反応様式
Science, this issue p. 54; see also p. 31

金属とガスで語られるマントルの物語(A mantle story told with metal and gas)

微量元素の同位体組成の違いは、我々の地球のマントル領域がどのように時間とともに進化してきたかを解析するのに有用である。Mundlたちは、マントルの均一化過程から隔離され、それゆえ、原始物質の兆候を含むいくつかの古い領域を特定した。タングステンとヘリウムの同位体比の値は、これらのマントル領域の分画と隔離が地球形成の直後であったことを示している。この知見は、コア形成のような 太古のプロセスを制限するのに役立つとともに、現在の下部マントル中にある未解明な構造に対する洞察をも与える。(Wt,nk,kh)

Science, this issue p. 66

蚊ゲノム解析のためのHi-C 法 (Hi-C for mosquito genomes)

現在配列決定されたゲノムのほとんどは、ジグソーパズルのようにコンピュータで断片を全体としてつなぎ合わせできるDNAの短かい配列決定された小片の生成によって決定される。 これは、真核生物のゲノムを構成する多くの染色体を, 溝を埋めて完全に組み立てるための、資金と追加データを必要性としている。 DudchenkoらはHi-C法を使用した。そこでは、配列の足組みを確証するために、染色体内および染色体間の接触点間距離の測定を、配列の補正・順序付けと一緒に行い、ゲノム・ マッピングのための短かい配列読み取り断片(リードという)の配置をより完全に決定できるようにしている。彼らは、完全なヒト・ゲノムの新規な生成を通して彼らの手法を検証した。 ネッタイ・イエカのゲノム組立を改良し、ジカ・ウイルスの媒介生物であるネッタイ・シマカのゲノムを生成することにより、蚊ゲノムの比較解析が可能になった。(Sh,KU,ok,kj,kh)

【訳注】
  • ゲノム・アセンブリ:ゲノム断片配列をつなげて対象のゲノム配列を復元するコンピュータ処理
Science, this issue p. 92

脳損傷の後に起こるアストロサイト軍招集 (An astrocyte call to arms after brain injury)

脳損傷は、持続的な二次的組織損傷を引き起こす可能性がある末梢免疫細胞の浸潤を刺激し、患者の回復を損なう。Dickensらは、炎症性脳損傷のマウス・モデルを使用して、炎症部位のアストロサイト(星状膠細胞)が小胞を循環系に放出することを発見した。これらの小胞が肝臓に到達すると、末梢免疫細胞を動員して脳を浸潤するサイトカインの分泌を刺激した。脳と肝臓との間のこの通信を阻止することは、脳損傷からの回復を加速し、改善する可能性がある。(ST,kj,kh)

Sci. Signal. 10, eaai7696 (2017).

学習から本能へ (From learning to instinct)

動物の学習を支配する分子と細胞のプロセスは比較的よく理解されているが、動物が本能をどのように獲得しているかは殆ど知られていない。 展望記事で、RobinsonとBarronは、本能が学習から進化していること、そしてその根底にあるプロセスは同じであると立証している。このアイデアに対する支持は、例えば、マウスがある匂いに恐怖を学習すると、彼らの子孫は親よりも速くこの匂いへの恐怖を学習するということを示す実験室の研究から得られている。 更に、ハチとハエにおいて、同じ神経回路が本能的応答と学習された嗅覚応応を支配している。DNA配列それ自体を変えずに遺伝子発現に影響を与える後成的変化が、学習された応答を何等の外部刺激を必要としない本能に変換するための鍵であるかもしれない。(KU,kh)

Science, this issue p. 26

制御性T細胞を制御する(Regulating the regulators)

LAG3(リンパ球活性化遺伝子3によってコードされる)を含むT細胞上の抑制性受容体は、宿主に対する免疫介在性の損傷を制限する。 LAG3は、腫瘍の微小環境において疲弊した消耗した通常型T細胞によって発現される。 制御性T細胞(Tregs)におけるLAG3の役割は不明である。 Zhangらは、自己免疫性糖尿病のマウス・モデルを研究した。LAG3のTreg特異的欠失は、Treg増殖の向上をもたらし、1型糖尿病の発生率を低下させた。 この知見は、LAG3に細胞型依存性と状況特異性がある事を浮き彫りにし、腫瘍免疫療法の標的として新たに浮上した抑制性受容体の機能をより全身的に評価しなくてはならないことを求めるものである。(Sh,kj,kh)

Sci. Immunol. 2, eaah4569 (2017).