AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 25 2016, Vol.351


乱流的太陽磁場のシミュレーションを行う(Simulating turbulent solar magnetic fields)

太陽磁場の精密なシミュレーションは、大規模なスケールのダイナモと小規模な乱流場の両方を再現する必要がある。計算分解能を単純に増加させることは、必ずしも役立つわけではない。なぜならば、それは 11年の太陽周期が現れるのを妨げる可能性があるからである。Hottaたちは、大規模と小規模の両方の現象が、これまで利用可能な最高分解能のシミュレーションの幾つかでどのように再現されるかを示している。この結果は、太陽磁場と他の電磁流体力学的に乱流状態の系との両方に対する私たちの理解を深めるものとなろう。(Wt,KF,KU,kh)

シクロヘキサンの海でのメタンのホウ素化(Methane borylation in a cyclohexane sea)

メタンは高温で容易に燃焼するが、C-H結合が強力なため、穏やかな環境下では化学反応させるのが最も難しい炭化水素である。Cookらは、溶解性のロジウム、イリジウム、ルテニウム触媒を用いると、150℃でメタンの C-H結合を切断し、ホウ素置換基を付加できることを見出している。Smithらは、反応性が高めるためのホスフィン・リガンドを用いたイリジウム触媒反応に関して報告している。両研究はシクロヘキサン溶液中で行われ、環状炭化水素の官能基化よりもメタン反応の方に著しく片寄った選好性を明らかにした。(NK,KF,KU,kh)

ペロブスカイト太陽電池が光子をリサイクルする(Perovskite solar cells recycle photons)

無機−有機ペロブスカイト太陽電池は、一つには電荷担体が非常に長い経路長を示すという理由で、非常に効率的である。Pazos-Outonたちは、これまで高効率のガリウム・ヒ素太陽電池で見いだされていた光子リサイクルが、この効果に寄与していることを示している(Yablonovitch による展望記事参照)。ほとんどの太陽電池では、光生成電荷担体(電子と正孔)の再結合は、エネルギーのすべてを無駄にする。本研究の三ヨウ化鉛太陽電池では、再結合は、再吸収されてより多くの電荷担体を作り出すことが可能な光子を放射する。(Sk,kh)

ヒト・スプライセオソームの部分複合体(A human spliceosomal subcomplex)

スプライソソームは、メッセンジャーRNAからイントロンを除去するRNAとタンパク質からなる分子機械である。Agafonovたちは低温電子顕微法を用いて、ヒト・スプライセオソームの組立過程における中間部品複合体の中で最大のものの構造を決定した (Cateによる展望記事参照)。その構造は、それに相当する酵母の複合体との本質的な差異を示している。それはまた、その部分複合体が、スプライソソームの残部にどのようにして結合すべきかを明らかにし、そしてその複合体が、成熟したスプライソソームを形成するために通過しなければならない構造変化を暗示している。(KU,KF,nk,kh)

もう一つの社会科学は自身を考察する(Another social science looks at itself)

実験経済学者は、経済学における二つのトップレベルのジャーナルから選択され発表された実験研究の実験を再実行することで再現性の議論に参加した。Camererたちは、調査された18の研究のうちの2/3が効果量と方向に関して再現可能な推定値を与えていることを見出した。この割合は、お雇いではない専門家が関連する先物市場で喜んで賭けをするより幾分低いが、標本サイズと P値からの期待値とほぼ一致する。(KU,KF,ok,nk,kh)
【訳注】
・先物市場:将来予測をするための先物市場である

既知と新規の符号化(Coding what is known and what is new)

神経細胞活動の睡眠中のパターンは,新規な体験を,それとも,既存不変の力動を映し出して再生しているのだろうか? GrosmarkとBuzsakiは,学んだ知識のうちの既知の相と新規な相両方が,海馬の同調的発火活動の間に再生されることを観察した.よく知っていることは,急速に発火して変更の効きにくい神経細胞群により符号化され,その発火速度と発火細胞の順番との間の相関関係は学習後の睡眠中にも持続した.或る体験の新規な特徴は,それとは異なるセットの緩やかな発火と可塑性の高い細胞群により表現された.(MY,KU,nk,kh)

雲理論への有機物の寄与(Organic contributions to cloud theory)

有機成分を含むエアロゾル粒子からの雲粒の生成に関する現在の理論は、有機分子が水滴全体に分布していると想定している。Ruehlたちは、この仮定が必ずしも正しいとは限らないことを示している(Noziereによる展望記事参照)。水滴の核形成の間、水滴の直径は標準モデルで予想されるより 50% 大きかった。これは、有機粒子が、水滴全体というよりも表層に存在することを示唆している。したがって、有機物の表面活性を無視したモデルは、有機物に富んだ粒子がいかにうまく雲の種を作るかを、過小評価することになるであろう。(Sk)

腫瘍抗原の細胞祖先(The cellular ancestry of tumor antigens)

抗腫瘍免疫に寄与する因子の一つは、腫瘍細胞内部の遺伝的変異により生成される一連のネオ抗原である。対応する変異と同じく、このネオ抗原は腫瘍内不均一性を示す。あるものは総ての腫瘍細胞中に存在し(クローン的)、またあるものは細胞の一部分 (部分クローン的)にのみ存在する。肺癌とメラノーマの研究において、McGranahanたちは、クローン腫瘍ネオ抗原の高負荷は、患者生存の改善、腫瘍浸潤リンパ球の存在量の増加、及び免疫療法への持久性のある応答と関係していることを見出した。(KU,ok,nk,kh)
【訳注】
・ネオ抗原:癌免疫療法で、遺伝子変異由来の抗原(ネオ[新]抗原)を利用すれば、非自己免疫系として認識されるので、従来の特異的癌免疫療法より治療効果が期待できるとされている。

ひどい近隣の拡がり(The spread of bad neighborhoods)

我々のゲノムは、遺伝子発現を分割し調節する複雑な三次元 (3D)配置を持っている。癌細胞は、頻繁にゲノムを全体的に再編成し、この複雑な 3Dの組織化を妨げる。Hniszたちは、これらの 3D近隣の破壊は、通常はそれらから分離されている調節エレメントの制御下に癌遺伝子を置く可能性のあることを示している (Wala and Beroukimによる展望記事参照)。こうしてできる新しい並置は、癌遺伝子の不適切な活性化をもたらす。(KU,ok,nk,kh)

中国の森林再生は皆伐ほどにはひどくない(Forest recovery in China is not so clear cut)

開発途上国ではしばしば、木々が切られ、農業が拡大するとともに森林が縮小する。この傾向は、顕著な経済発展や都市化が生じるまで逆戻りしない傾向にある。Vinaたちは遠隔測定と分析モデルを用いて、中国が開発途上国であるという状況にもかかわらず、中国のひどく森林破壊された地域が、2000年から2010年の間に再生されたことを示した。この成功の鍵は、中国の強力な保護政策であった。それにもかかわらず、うっそうとした森林地域はまだ縮小しており、森林の増加は他地域での森林の縮小の犠牲の上に成り立っていた可能性がある。(Sk,kh)

最小のゲノムの設計と作製(Designing and building a minimal genome)

生物学のゴールは,1つの細胞中のあらゆる遺伝子について,分子的および生物学的機能が分かることである.これに近づく1つの方法は,生命に必須の遺伝子だけを含む最小のゲノムを作り上げることである.2010年に,マイコプラズマ・ミコイデスのゲノムを基にした,107万9千の塩基対からなるゲノムが化学的に合成され(JCV-syn1.0),細胞質に移植されると細胞増殖を維持した.Hutchison IIIたちは,設計・作製・試験のサイクルにより,このゲノムを53万1千の塩基対(遺伝子数473)に減らした.作られた JCV-syn3.0は,転写や翻訳のような極めて重要なプロセスに関わる遺伝子を保持しているばかりでなく,機能が知られていない149の遺伝子をも含んでいる.(MY)

作動中のプロトン・ポンプ(A proton pump in action)

P型アデノシン三リン酸分解酵素(ATPases)は,ATPの加水分解からのエネルギーを使って生体膜を横切って陽イオンを汲み上げる。生み出される電気化学勾配は,多くの必須な細胞プロセスを制御する.Veshaguriたちは植物のプロトン・ポンプを小胞に組み込み,単独のポンプの動きを時間を追って観察した.汲み上げは、ランダムに挟み込まれる長い不活動状態あるいは機能喪失の状態により、しばしば中断された.この研究は,これらのプロトン・ポンプがタンパク質ドメインや pH勾配によりどのように調節されるかを明らかにしている.(MY,nk,kh)
【訳注】
・プロトン・ポンプ:水素イオンを能動輸送し、生体膜の内外に膜電位やプロトン勾配を作り出す機能
・タンパク質ドメイン:タンパク質を構成する配列構造の一部で,独立に折り畳まれコンパクトな三次元構造を形成している

1日の変動あるいは1シーズンの間の変動性(Variability for a day or a season)

季節による大きな気候変動を経験する種は,生理的な柔軟性がより高く,このため,より広い標高範囲に渡って生息する可能性が高い.日々の温度変化もまた普通に起きているが,ほとんど考慮されてこなかった.Chanたちは脊椎動物の地球規模のデータ集合を用いて,これら2種の異なる変動集合が,種の垂直分布にどう影響しているかを調べた(Perezらによる展望記事参照).思いがけないことに,日内変動が大きくなると垂直分布の範囲が小さくなった.このため,日内変動が支配的な所では特殊型が有利で,一方,おもな気候影響が季節変動である所では万能型が有利である.(MY,KF,nk,kh)

変異と転写制御因子の結合(Variation and transcription factor binding)

機能タンパク質内のアミノ酸変化に帰結する、遺伝的変異体の表現型および機能的効果については、ほとんど知られていない。Barreraたちは、アミノ酸変異体が,転写制御因子の DNA結合の特異性と親和性を変化させるかどうかを研究した。予測解析はタンパク質の変化を同定し、タンパク質結合マイクロアレイは、病気に関わるものも含め、転写制御因子の機能に影響する変化を検証した。つまり、ヒト内在タンパク質の配列変動は、転写制御のネットワークに影響を及ぼすことがあり、それは遺伝的変異体に依存して、アミノ酸変化に対する頑健さと緩衝能力を与え、個人の間の表現型多様性を説明できるかもしれない。(KF,KU,kh)

密度汎関数法の比較(A comparison of DFT methods)

密度汎関数理論(DFT)は、今や材料特性をシミュレートするために日常的に用いられる。多くのソフトウェア・パッケージが利用可能であり、それが、特定の計算に用いるのにどのソフトウェアが最適なのかを知ることを困難にしている。Lejaeghereたちは、40の異なるポテンシャルを採用している15の異なる広く使われている DFTコードから71の基本的な結晶の状態方程式の計算値を比較した(Skylaris による展望記事参照)。計算値には変動があったが、最新のコードと方法は、実験値と同程度の誤差で、単一の値に収束させた。(Sk,KU,kh)

bNAbに向けての小さな歩み(Baby steps toward bNAbs)

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者の中には、HIVを標的にする、大きく変異した幅広く効果のある中和抗体(bNAb)を発生させるものがある。科学者たちは、そうした抗体を誘発するワクチンを設計しようと狙っている。Jardineたちは、この目標に向かっての大事な段階を報告している。彼らは、HIV非感染者由来の B細胞を作動させる免疫原を設計した。ここで対象としたHIV非感染者は、bNAbの特定のクラスによって隠された免疫グロブリン遺伝子生殖系列版を発現していた。そうしたB細胞の数、それの免疫原との親和性、さらに構造解析によって、その免疫原が有望な候補であることが示唆された。引き続いての免疫原に関わるB細胞の応答をさらにはっきり形にすることで、最終的に、人々においてbNAbを誘発できる可能性がある。(KF,KU,kh)

ニューロンの転写性プログラムの追跡(Tracking neuronal transcriptional programs)

脳発生の初期に、皮質ニューロンは脳室のそばで生まれ、それから機能するための目的地とへと遊走する。Telleyたちは蛍光ラベル付け技術を用いて、いかなる転写物が神経発生のこうした最初期段階を特徴づけるかを見た。転写プログラムの波は起動され、その後はニューロンが増殖性から遊走性へ、そして最終的に接続相へ発達する間は無視される。(KF,nk,kh)

GRK2ペプチドが心不全を防ぐ(A GRK2 peptide prevents heart failure)

心肥大の際に、持続する高血圧により、増加するその負荷に対処するため心臓の壁が厚くなる。もし検査しないで放っておけば、心肥大は心不全をもたらすことになる。キナーゼと足場タンパク質を兼ねる GRK2の特定部分は、心肥大を促進する Gタンパク質を抑制する。Schumacherたちは、心臓中に GRK2の抑制性領域のペプチドを過剰発現するマウスを作り出した。心不全を引き起こす条件下で、それらマウスは心肥大をさほど生じず、心機能をよりよく保持した。(KF,KU,ok,kh)

グルコースの綱渡り(A glucose balancing act)

自己免疫疾患において、T細胞はその能力を強く発揮し、通常以上の速度で炎症性サイトカインの増殖と分泌を行なう。このプロセスを強める代謝の変化については、ほとんど知られていない。Yangたちは、活性酸素種(ROS)の欠損が、関節リウマチにおける炎症誘発性T細胞を増加させるかもしれないことを報告している。糖分解作用強度おける欠損が ROS消費の増大をもたらし、それが、細胞周期チェックポイントを迂回し、過剰増殖と炎症誘発性細胞分化に寄与した。さらに、細胞内 ROSを回復させると、増殖が減少し、炎症が抑制された。(KF,KU,nk,kh)
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