AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 26 2016, Vol.351


細胞核周縁部の大写し(Close-up view of the nuclear periphery)

細胞生物学者は分子分解能で細胞の内側にある複合体を可視化したいと思っている.しかしながら,幾つかの制限事項が,この分野での目標実現を妨げてきた.たいていの細胞は厚みがあるので、低温電子断層撮影法(cryo-ET) は使えない。この方法自体は、画像のコントラストが充分ではない。Mahamidたちは,双方の最前線での最近の進歩を上手に組み合わせ,細胞核周縁部の構造をそのままの状態で分析した.それらの画像は,核膜孔と核ラミナの自然な組織化に関する我々の理解を広げるような特徴を明らかにしている。(MY,KU,ok,kh,nk)
【訳注】
・核膜孔:真核生物の核膜(外膜と内膜からなる二重構造)に存在する核と細胞質の間で物質の移動が行われる穴
・核ラミナ:二重構造の核膜のうち,内膜の内側を裏打ちしているメッシュ状の構造体.内膜の強度を保つ機能がある

あるT細胞が自閉症の原因?(A T cell cause for autism?)

自閉症スペクトラム障害(ASD)の原因は複雑で,完全には明らかになっていない.妊娠期,特に胎児の神経発達の重要な初期段階における母親の免疫系の変化が関与しているかもしれない.Choiたちは,妊娠中のマウスに感染性あるいは炎症性の刺激を与えた.これらの刺激の結果,生まれた子供たちは ASDを彷彿とさせる行動を示した(EstesとMcAllisterによる展望記事参照).母親にサイトカインであるインターロイキン-17aを作らせる,ヘルパーT細胞のサブセットは,生まれた子供に皮質欠損と,それに付随する ASD行動を引き起こした.妊娠期間中のインターロイキン-17aを標的とした治療は、生まれた子どもの ASD症状を少なくした.(MY,nk)
【訳注】
・自閉症スペクトラム障害:自閉症、アスペルガー症候群などが含まれる障碍
・ヘルパ−T細胞:抗原情報を受けとり,抗体産出を促したり,インターロイキンを分泌して抗原を貪食するよう促す免疫細胞

シリコンがキラルな対イオンに結びつく(Silicon marries a chiral counterion)

酸は最も古く,そして最も汎用的な化学触媒であるが,対称形状のプロトンでは、ある物質をその鏡像よりも有利に生成するように反応を誘導できない.化学者たちは,キラルな共役塩基を用いることでこの欠点を解決した.プロトンが基質を活性する一方,それに近接する対イオンが,その周りの空間を非対称に偏らせる.Gatzenmeierたちは,シリル・カチオンにより,この取り組み法をルイス酸触媒へと拡張している.このカチオンは,プロトンと補完しながら,さまざまな基質の活性化が可能である(DumoulinとMassonによる展望記事参照).彼らは,これらのシリル基をキラルな炭素型アニオンと組み合わせることで,エナンチオ選択性の高いディールス・アルダー反応触媒を実現している.(MY,kh,nk)
【訳注】
・キラル:結合の組み換えなしに自らの鏡像と重ね合わすことのできないこと
・シリル基:ケイ素に少なくとも1つの有機基が結合した化学基
・ルイス酸:他の物質から電子対を受け取る物質
・エナンチオ選択性:右旋性か左旋性の立体異性体が優先的に得られる反応の性質

フェルミオンの相転移をその場観測する(Watching fermions transition on site)

光格子は、固体中の多体物理をシミュレートするプラットフォームとして有力である。低温ボゾン原子を配置した光格子の場合、「量子顕微鏡」は、ボゾン原子の相互作用がほぐれる際に、量子相転移を観測することを可能にする。Greifらは、冷却するのは容易ではないが固体中の電子挙動により近い、フェルミオンを配置した格子を同様の手法で観測している。リチウム6原子間の相互作用を調節することで、金属相からバンド絶縁相へ、さらに電子相関効果に起因するモット絶縁相へ転移する様を観測することに成功している。(NK,KU,kh,nk)

グラフェンの黄金の好機(A golden opportunity for graphene)

摩擦を減らすことは、摩耗の進行を制限し、機械装置のエネルギー効率を改善する可能性がある。グラフェンは、ある条件下ではシート相互間の摩擦が非常に小さいため、有望な潤滑剤のひとつである。Kawaiたちは、同じ超低摩擦の特性が他種の表面にも拡張できることを示している。彼らは原子間力顕微鏡を用いて、グラフェンのナノリボンが金の表面上を引きずられる時は極めて小さな摩擦力であることを見出した。この発見は、ナノグラフェンによる摩擦のないコーティングを開発できる可能性を与えるものである。(Wt,ok,kh,nk)

アマゾンの森林における葉の季節変化(Leaf seasonality in Amazon forests)

熱帯森林において降水量が減少することは、植物が利用可能な水や光合成が減少することを意味すると、多くのモデルが仮定している。しかしながら、アマゾンにおける直接的な観測結果は、乾季では生成量は一定のままもしくは増加することを示している。この食い違いを調査するために、Wuたちは塔搭載型のカメラを使って、アマゾン・ブラジルの森林樹冠における葉の動態の季節学(例えば季節性のパターン)を観察し、この結果を吸収や発生による CO2流れと関連づけている。全生態系の光合成の季節性動態を理解するためには、個々の葉や樹冠の中の樹齢依存的な変化を解明することが必要である。気候帯の勾配を越えて、葉の季節学が熱帯森林の炭素流動の季節変化を調節している。(Uc,KU,ok,kh,nk)

転移を管理する(Managing metastasis)

転移性癌の予後不良のために、多様な因子が、癌の伝播にどのように寄与しているかを正確に決定することが極めて重要である。Mlecnikたちは、大腸癌患者の腫瘍転移に関する腫瘍固有因子、腫瘍の微小環境因子、免疫学的因子の影響を調べた。例えば染色体不安定性或いは癌に付随した変異といった腫瘍固有の因子よりも、リンパ管の存在数の減少と免疫的細胞傷害の低下が、転移プロセスとより強く関係していた。このいわゆる免疫スコアと呼ばれる試験法は、転移を予測し治療の方向性を決めるための生物マーカーとして利用されるかも知れない。(KU,kh,nk)
【訳注】
・予後不良:根本的な治療法が無く、残余の時間が少ない可能性があること

遊走を制御するためにcAMPを制御する(Control cAMP to control migration)

細胞の遊走を刺激する Gタンパク質共役受容体の活性化は、活動的 Gタンパク質 α及び βγサブユニットを産生する。これらサブユニットは次に、別のエフェクター分子と相互作用する。好中球において αサブユニットを活性化せずに βγサブユニットを活性化する小さな分子を用いて、Surveたちは、活動的な βγサブユニットのみが、好中球が接着分子で被覆された表面に付着するほど多く、二次メッセンジャーである cAMPの細胞内濃度を増すことを見つけた。活動的な Gタンパク質 αiサブユニットはこの βγ信号とバランスを取り、細胞が動くことができるように cAMPを十分に減らす。(KU,ok)
【訳注】
・好中球 :白血球の一つで、盛んな遊走運動をして細菌等を貪食する

体内時計のてっぺんでの多層化した機能性(Layered versatility atop circadian clocks)

概日時計は、細胞や生物が地球の24時間の昼夜のサイクルと結びついた生理的要求の変化に対処するように進化した。しかしながら、いくつかの活動はこの中心時計の位相からずれて起きる必要がある。Liangたちは、ショウジョウバエの脳における神経細胞集団内の Ca2+の細胞内濃度の変化を画像化した。根底にある時計は同期していたが、Ca2+の変化のリズムは、特定の神経細胞集団の活動と関連した異なるタイミングの活動と対応していた。これら異なる位相を適切に調整するには、神経ペプチド色素-拡散因子とその受容体の発現を必要とした。(KU,ok,kh,nk)

CRISPR-Casが侵入するRNAを捕獲する(CRISPR-Cas captures invading RNA)

CRISPR(集まって規則的に間を空けて配置された短い回文配列の繰り返し)系は,細菌に適応免疫機能を与える.CRISPRの関連タンパク質1(Cas1)によるウィルスやプラスミドから捕獲されたDNAは,細菌が外部侵入者を破壊の標的にするために用いる.Silasたちは,Cas1遺伝子の幾つかのクラスが、逆転写酵素遺伝子(RT-Cas1にと融合されることを見出している(SontheimerとMarraffiniによる展望記事参照).この RT-Cas1タンパク質は侵入者の DNAと RNAの両方を捕獲し、そしてCRISPR遺伝子座の中に直接的に両方を取り込むことができる.RT-Cas1系は寄生RNA種に対して,あるいは細菌遺伝子の発現調節に対してさえ有効であるのかもしれない.(MY,KU,kh)
【訳注】
・プラスミド:細菌や酵母の核外に存在し、細胞分裂によって娘細胞へ引き継がれるDNA分子の総称

ビナフチル触媒をめぐる競争(Competition for binaphthyl catalysts)

ビナフチル骨格は,2つの鏡像生成物の内の1つのみの生成へと、さまざまな化学反応を偏らせるのに極めて効果的であることが証明された.この構造体は最初,金属触媒の配位子として適用され,さらに最近では,酸触媒の共役塩基として適用された.Gheewalaたちは,入手容易な前駆体からたやすく得られる、シクロペンタジエン骨格周辺の1組のキラルな有機酸を報告している.これらの化合物は,不斉向山・マンニッヒ反応 や不斉オキソカルベニウム・アルドール反応に対して,選択性の高い触媒として紹介されている.(MY)
【訳注】
・ビナフチル骨格:2つのナフチル環が共有結合で結合した骨格

飲料水の安全性を改善する(Improving drinking water safety)

米国や英国のような多くの国では、微生物の混入対策として、飲料水に残留消毒薬が含まれている。それなのに、オランダのような他の国では、そのような残留物のない水を各世帯に供給している。展望記事の中で、Rosario-Ortiz たちは、その二つの取り組み方を比較している。彼らは、飲料水由来の病気の危険性は、米国や英国よりもオランダにおける方が低いことを示している。米国や英国は古い水道管網を有していて、水道基盤設備の脆弱性の尺度となる漏水率が高い。しかし、残留消毒薬のない水を供給できるためには、いくつかの安全障壁を整える必要がある。(Sk,kh,nk)

アルツハイマー病を出発点から治療する(Treating Alzheimer's from the start)

Aβ凝集体として知られる、ベータ・アミロイド斑の形成は、アルツハイマー病を進行させていると看做されている。Vendruscoloたちは化学反応論的手法を用いて、試験管内やC.エレガンス・モデルにおいて、Aβ凝集を変えることのできる分子としてベキサロテン(レチノイド X受容体を選択的に活性化する抗癌剤)を同定した。したがって、ベキサロテンによるAβ凝集の核形成の抑制は、アルツハイマー病や他の同様な神経変性疾患の発症と進行のリスクを減少させるかもしれない。(Sk,KU,kh,nk)
【訳注】
・Aβ:アミロイドβタンパク質
・C.エレガンス:体長約1mmの線虫の一種で,ショウジョウバエと並ぶ遺伝学の代表的なモデル生物
・レチノイドX受容体:生体内で形態形成制御や分化増殖制御などの機能を有する、ビタミンAの核内受容体の一つ

過酸化水素の直接的合成(Direct hydrogen peroxide synthesis)

過酸化水素は、工業的には高濃度を達成するために、水素と酸素の直接接触なしで合成される。しかし、多くの用途に対しては、希釈した水溶液が必要なだけである。Freakleyたちは、パラジウム・スズ合金を用いた過酸化水素の直接的合成法の改良を報告している。この触媒は、パラジウム・金合金と同じように、また 95%以上の選択性を達成するが、より安価であり、かつ生成物を分解する反応を抑えることができる。(Sk,kh,nk)

実利的な管理を越えて(Beyond utilitarian management)

種や生態系の保存に対する努力は、人類にとっての、認識された社会的、文化的および経済的な価値に焦点を合わせがちである。Sarrazinと Lecomteは展望記事の中で、これらの保存への努力が、多くの他の人間活動と一緒になって、多くの、たいてい予想外の方法で、人類以外の種の進化の軌跡を形作っていると主張している。急速に変化する世界において、他の種に最良の生存機会を与えるために、保存への取り組みは、人類の活動がもたらすこれらの長期的な進化の結果を考慮に入れなければならない。(Sk,nk)

神経伝達物質の取り込み、一度に一つの小胞(Neurotransmitter uptake one vesicle at a time)

イオン勾配に逆らっているにもかかわらず、シナプス小胞は神経伝達物質を蓄積することができる。これがどうして起きるのかという謎を解明するために、Farsiたちは、単一のシナプス小胞レベルで pH勾配と膜電位の同時測定を行った。グルタミン酸作動性小胞と GABA作動性小胞は異なる取り込み機構を持っており、このことは、小胞の神経伝達物質輸送に関するエネルギー性とイオン性の結びつきに関する洞察を明らかにする。(KU,nk)

減数分裂時の切断におけるパートナー・タンパク質(A partner protein for meiotic snip)

真核生物は、減数分裂時の組換えをとおして生殖細胞を産生する。このプロセスは、SPO11タンパク質によって触媒されるゲノム DNAの切断により始まる。Vrielynckたちと Robertたちは、トポイソメラーゼ VI酵素と同じように SPO11が、パートナー・タンパク質と相互作用していることを発見している (Bouuaert and Keeneyによる展望記事参照)。このパートナーは適切な減数分裂時の組換えに必要とされ、そして広範囲の真核生物において見出されており、極めて重要な組換え段階の普遍的な特徴であることを示唆している。(KU,kh)
【訳注】
・トポイソメラーゼ:二本鎖DNAの切断及び再結合する酵素の総称で、このうちのトポイソメラーゼ VIはDNAをもつれないようにほどく酵素
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