AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


[インデックス] [前の号] [次の号]

Science January 29 2016, Vol.351


期的なサイレント地震の引き金(A silent and periodic earthquake trigger)

日本のような場所を襲う大地震は、微小で静かな変形が先行しているように思われる。Uchidaたちは、このような「スロー・スリップ現象」が日本のメガスラスト帯において、準周期的に生じていることを示している。スロー・スリップ現象は1年から6年の周期で生じており、しばしば巨大な2011年の東北沖地震を含む大地震と関連付けられた。この準周期的な挙動は、少なくとも1930年まで遡ることができ、その地域の地震の危険性評価に対する重要な制約を与える。(Sk,KU,kh)
【訳注】
・メガスラスト:プレート境界部にある、上盤側がのし上がる構造の低角度(45度以下)の逆断層

バビロンの天文学者たちは木星を追跡した(Babylonian astronomers tracked Jupiter)

古代バビロニアの天文学者たちは、天空の360度分割などの現在でも利用されているたくさんの重要な概念を開発していた。彼らはまた、計算により惑星の位置を予測することをも出来た。Ossendrijverは、紀元前350年から50年までのいくつかのバビロニア楔形文字の粘土板を翻訳し、木星の位置に関して洗練された計算を含んでいることを発見した。この計算法はグラフ曲線の下の台形面積を決めることを基礎にしている。この技術は、これまでは少なくとも1400年後の14世紀のオックスフォードにおいて発明されたと考えられてきた。この驚くべき発見は、バビロニアの天文学者がどのように研究し、そして西洋科学に影響を与えていた可能性に関する我々の考えを変える。(Uc,KU,nk,kh)

超伝導を見つけに極限に向かう(Going to extremes to find superconductivity)

量子相転移(QPT)は、ゼロ度で磁場や圧力のようなパラメータが変化する際に生じる。重フェルミオン化合物において、QPTに付随して超伝導が現れることが多いが、磁気QPTを生じる YbRh2Si2は例外であると考えられていた。Schuberthらは、極低温かつ磁場条件下において磁気測定と熱量測定を行い、結局のところ超伝導体になることを見出した。超伝導とほぼ同じタイミングで、核反強磁性秩序が出現した。(NK,KU,nk,kh)

気道の感染症は酸性テストに向かう(Airway infections put to an acid test)

嚢胞性線維症の人々の殆んどは、慢性的呼吸器感染症に悩んでいる。この症状と病気の遺伝的原因(嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子:CFTRの機能を落とす変異)との間の機構的関連は、十分には理解されていない。動物モデルの研究において、Shahたちは、機能的な CFTRがない場合には、気道表面の液体が酸性になり、これが感染に対する宿主の防御を損なうことを見出している。この酸性化は、ATP12Aと呼ばれるプロトン・ポンプの作用により生じる。ATP12Aを抑制する分子は、もしかするとこの病気に有効な薬剤として開発されるかも知れない。(KU,ok,nk,kh)

全てのT細胞が記憶できる(All T cells can remember)

適応免疫の特徴の一つは、Tおよび Bリンパ球が、以前の感染を「記憶」しており、宿主をその後の感染から守ることである。T細胞が病原体と反応すると、それらは増殖し、その子孫の一部が長寿命の免疫記憶細胞を形成する。ただ、最初の感染で反応した T細胞クローンのすべてが、記憶 T細胞の形成につながる可能性があるかどうかは不明である。Tuboたちは、マウスの中に単細胞の養子免疫細胞を移入する手法を用いてこの疑問に答えを出した。ほとんどすべての T細胞クローンが記憶細胞を作り出した。このことは、寛容性が免疫記憶の重要な構成要素であるかもしれないことを示唆している。(Sk,ok,kh)
【訳注】
・適応免疫:ある病原体に感染することで獲得される免疫(獲得免疫)
・T細胞クローン:同一のT細胞受容体(タンパク質)を持つ集団
・養子免疫細胞:宿主の免疫細胞を体外で培養・活性化したもの

Y染色体を置換する(Replacing the Y chromosome)

哺乳類の Y染色体は、オスの生存能力と生殖力に必須な特定の遺伝子セットをコードしている。特に、性決定領域 Y (SRY)タンパク質は、雄性の性決定を行うために必要である。しかしながら、Yamauchiたちは、 Y染色体の全体の機能が、僅か二つの遺伝子で置き換えられることを示している。マウスにおいて、二つの導入遺伝子 Sox9と Eif2s3xが、総ての Y染色体遺伝子の欠如を補い、精子形成を成功させることができた。(KU)

地球と月からなる系の再均質化(Rehomogenizing the Earth-Moon system)

巨大衝突が月を形成し、そして月の岩石がこのプロセスに関する洞察を与える。Youngたちは、地球と月との岩石の酸素同位体が同じであることを見出した。これは、巨大衝突由来のよく混合された物質が、月と地球の両方のマントルを形成したに違いないことを示唆している。また、この発見は、"レイト・べニア"の組成に制約を与える。この"レイト・べニア"とは、月形成にいたる衝突の後、地球上に降り注いだ物質である。(Wt,KU,kh)

アンチセンスが、今やセンスとなる(Antisense now makes sense)

ミポメルセン(Mipomersen)は、合衆国の食品医薬品局認証のアンチセンス・オリゴヌクレオチドで、アポリポタンパク質 B (apoB)の合成を標的とすることで高コレステロールの患者における低密度リポタンパク質 (LDL)を低下させる。ミポメルセンがヒトに対してどのように作用するかは、正確には定かでない。Reyes-Sofferたちは、健常人においてこの薬剤が、肝臓によるLDLとその前駆物質である超低密度リポタンパク質 (VLDL)の分泌を減少させるというよりも、むしろ血管を塞ぐこれら物質の除去を増加させることによって、 それらの濃度を下げることを見出した。VLDLの直接的除去は、LDLの生成減少に導いた。マウスや細胞系統における研究は、 脂肪肝の病気の可能性を回避するために低下させた apoB の合成を肝臓がどのように補償しているかを明らかにした。(KU,nk,kh)
【訳注】
・アンチセンス:標的とするDNAやRNAに対して相補的な塩基配列を持つ化合物

胎盤におけるキナーゼの閾値(A MEK threshold in the placenta)

キナーゼの MEK1と MEK2は同じ基質を有しているが、Mek1を欠くマウスは胎盤の欠陥により胚として死ぬが、一方 Mek2を欠くマウスは生存可能である。Aoidiたちは、十分なタンパク質が生成される限り、MEK1と MEK2が機能的に重複することを見出した。発生中の胎盤における最小量の MEKの生成は、Mek1を欠くマウスでは少なくても Mek2の4つのコピーを、或いは Mek2を欠くマウスでは Mek1の2つのコピーを必要とした。このように、この生成物は機能的に同一であるが、しかしアイソフォームに特異的な差が、アイソフォームに特異的な調節と表現型を可能にするのかもしれない。(KU)
【訳注】
・アイソフォーム:構造がごくわずかに異なるが、機能的に関連したタンパク質の複数の分子系

悪性黒色腫の始まりを可視化する(Visualizing the beginnings of melanoma)

癌生物学では、腫瘍は、遺伝的変異を共有する前癌細胞内グループの、一個の細胞から始まる。Kaufmanたちはゼブラフィッシュの悪性黒色腫を実験モデルとして、癌の始まりを可視化した(Boumahdiと Blanpainによる展望記事参照)。彼らは、胚形成時または成人の悪性黒色腫の腫瘍形成時のみに現れる神経堤前駆体を特異的に光らせる、蛍光標識を用いた。この腫瘍の出現は、スーパー・エンハンサーとよばれる一組の遺伝子調節エレメントと相関していた。このスーパー・エンハンサーの同定と操作は、悪性黒色腫の開始を検出して防ぐのに有効となるかもしれない。(Sk,KU,ok,nk,kh)
【訳注】
・神経堤:胚形成時に生じる脊椎動物特有の構造。 頭部骨格やメラノサイト、神経節など非常に多くの構造へ分化する。

重合に倍賭けする(Doubling down on polymerization)

生物においては、細胞骨格繊維のような構造的重合体は、水素結合のようなより弱い超分子相互作用によって、共有結合で重合した単量体から作られる。Yuたちは、三つの単量体が、二つは共有結合的に、一つは超分子の形で反応する時の、円筒状繊維の合成を報告している。反応が一歩ずつ進行すると、代わりに、より低分子量の平らなテープが形成された。このことは、超分子相互作用が共有結合性の重合を触媒するのに役立つことを示唆している。(Sk,ok)
【訳注】
・超分子:複数の分子が共有結合以外の結合(水素結合、疎水性相互作用など)により秩序だって集合した分子

細胞は逆境に直面してどう頑張るのか(How cells keep going in the face of adversity)

細胞は,新規合成タンパク質の産生能に影響を及ぼすストレスに直面すると,そのストレスを生き残るために,自身の翻訳速度を遅くする.細胞はまた,ストレスの間に生じた間違った折りたたみをされたタンパク質に対処できるタンパク質の翻訳を始める.細胞はどうやって,全体として翻訳を遅くはするが,特定のタンパク質の翻訳を維持あるいは増大させたりするのだろうか? Starckたちは,ストレスで下方制御されない特定のメッセンジャーRNAの翻訳が観察できるやり方を開発した.彼らはシャペロン・タンパク質の合成が進み続けることを助けるモチーフを特定した.(MY,ok)
【訳注】
・シャペロン:他のタンパク質分子が正しく折りたたまれ,機能を獲得することを助けるタンパク質の総称
・モチーフ:タンパク質中に認められる特定の部分繰り返し単位

鍵となるスプライセオソーム複合体の構造(Structure of a key spliceosomal complex)

真核生物においては,DNAが RNAへと転写される際,一次転写物は,イントロンと呼ばれる非翻訳配列により分断されたタンパク質翻訳配列を有している.イントロンは、複雑な分子機械であるスプライセオソームによって取り除かれる.Wanたちは鍵となる部分複合体であり,3つの低分子核内RNAと30以上のタンパク質から成るトリSNPの構造を決定した.電子顕微鏡により分解能3.8オングストロームで決定されたその構造は,予想外なことに,トリSNP中に結合した一次 RNA転写物を示している.さらなる解析は,スプライセオソームがどのように集まってその複雑な機能を達成しているのかを明らかにした.(MY,KU)
【訳注】
・スプライセオソーム:遺伝子からの転写で生成したイントロンを含むmRNA前駆体からのイントロン除去に作用するタンパク質複合体

CO添加だけでできるナノクラスター(Nanoclusters just by adding CO)

最密充填された遷移金属の表面は通常、真空下で安定である。しかし、触媒反応の際に、分子を吸着した結果生じるエネルギー変化が、表面構造を変える可能性がある。Erenたちは、非常に低い CO分圧下における銅の(111)表面上の一酸化炭素(CO)吸着という極端な例を報告している。その表面は小さなナノクラスターに分解した(多くは、3または19の原子を含有)。その表面はもともとのものよりいっそう反応性に富んでおり、たとえば、室温下で吸着水を分解することができた。(Wt,KU,nk,kh)

気候シグナルとしての堆積層を探して(Searching sediment for climate signals)

大洋底の堆積層から、氷期と大洋中央海嶺のマグマ生成活動との相互作用に関するヒントが得られるかもしれない。Lundたちは、東太平洋海膨に沿った熱水活動から得られた、年代が特定された詳細な堆積層記録を報告している。この堆積層は、熱水による放出メタル量が過去2つの氷河期と密接にかかわって変化したことを示している。氷期の海水面変動はマグマの生成を変化させたが、そのことは熱水系における変化によって証明される。過去二つの氷河期終期における、東太平洋海膨における熱水活動が明らかに増加していることは、氷床の大きさを抑制する点でマグマ活動が或る役割を担っていることを示している。(Uc,ok,nk,kh)

特別な方法でTをつくる(A special way to make T)

全ての細胞生物のゲノムは DNAから成っている.DNA合成を阻むことは,それゆえ命にかかわり,もし選択的に標的とされたなら,DNA 合成の抑制は癌治療や抗生物質による治療を提供することができる.例えば,薬剤メトトレキサートはチミジン(DNAの塩基T)の合成を妨害する.Mishaninaたちは,結核, 炭疽, チフスを引き起こす幾つかのヒト病原体中で,チミジン合成の最終段階を行う酵素がこれまで記述されていない機構を用いていることを見出した.この機構を知ることは,この酵素に対する特異的阻害剤の開発を可能にするかもしれない.(MY,nk)

生物多様性の変化のパターン(Patterns of biodiversity change)

侵入種と気候変動は、生態系の構成を世界的に変えつつある。展望記事において、Magurranは、生態系の構成における自然変化に加わってくる、これらの変化の影響を考える。例えば、トリニダード・トバゴの河川における生物種の入れ替わり(turnover)は、歴史的なデータで見られるそれと比較して倍加し、そして海洋の温暖化が、ノルウェーの南の海に温暖化に順応する種の流入に導いた。生物多様性を保存するためには、入れ替わりと侵入のパターンを理解することが重要となるであろう。単に現状を保存するだけでなく、保護管理者たちは、自分たちの計画の中に種の入れ替わりを組み込むことが更に必要となるだろう。(KU,kh)

トリの配偶システムの遺伝学(Genetics of bird mating systems)

手が込んだ求愛行動は、トリにおいて何等珍しいことではないが、種の中には更に、異なる繁殖戦略をもつた異なる色のタイプの雄と雌、或いはモルフ(morphs)を持つトリさえもいる。展望記事において、Taylorと Campagnaは、これらのモルフがどのように進化したかを説明する最近の研究を考察している。その結果は、超遺伝子(一緒に受け継がれる連鎖遺伝子)が、重要な役割を果たすことを示している。すなわち、すべてではないが、いくつかのトリにおいてこれらの超遺伝子の染色体反転が、様々なモルフの進化に導き、個々の繁殖戦略が異なる有利さと不利益を持つために、これらが進化の過程において生き延びる。(KU,ok,kh)
【訳注】
・超遺伝子:染色体交差から守られ。世代から世代へと伝達される連鎖遺伝子のセグメント
・モルフ : 同一種内にあってはっきり区別できる, 同所性・同時性を有する互いに交配可能のグループ

環境変化が進化の谷を克服する(Environmental changes bridge evolutionary valleys)

個々のタンパク質分子の分子進化は,起こり得るアミノ酸配列の頂上・谷底を含む「地形(landscape)」に記述される.頂上は生物の生殖成功に対して有利な性質を持つ特定の配列を示している.SteinbergとOstermeierは,実験室条件のもとで進化する細菌が,この適応地形の谷を横切り, 優れた適応度結果に辿りつくまでの道筋を考案した.(MY,ok,nk)
【訳注】
・地形:遺伝子の表現型(その根底はDNA情報に基づくアミノ酸配列)とその生殖成功率の関係をxy平面で視覚化した「適応度地形(fitness landscape)」に基づく用語
[インデックス] [前の号] [次の号]


リコー
AbstractClub
ご意見ご質問は www-admin@ic.src.ricoh.co.jp までお寄せ下さい。

お問合わせ
アンケート
検  索


Copyright (C) 2016 RICOH Co.,Ltd. All rights reserved.