AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 15 2016, Vol.351


非常に傷つきやすい小脳(The very vulnerable cerebellum)

軽い外傷性脳障害(イラクやアフガニスタンでの戦争の特徴的な障害)は、爆発による衝撃波に起因している可能性がある。現在、そのような爆風が動物や人間にどのように持続性の脳障害を引き起こすのかは、よく分かっていない。今回、Meabonたちは、爆風にさらされたマウスにおいて、知覚情報と運動の統合に大切な脳組織である小脳が、選択的に傷つけられることを報告している。この損傷が集中する部位はまた、爆風にさらされた、戦闘経験の豊富な兵士の脳画像において、異常が見られる小脳の領域とも対応する。(Sk,kh,nk)

RNAを機能させるための化学修飾(Chemical modification of RNA for function)

化学修飾は,DNAやRNAの機能の修飾・制御に重要な役割を果たしている.Delatteたちは,ミバエでは,多くのメッセンジャーRNA(mRNA)が修飾塩基である5-ヒドロキシメチル・シトシン (5hmC)を含有していることを示している.この化学標識は,DNAに 5hmCを付加するのと同じ酵素によりmRNAに付加される.神経細胞の発生に関与する多くの mRNAが 5hmCを含有しているため,この酵素を阻害すると脳欠損が生じ,命取りとなる.生体内では,RNAのヒドロメチル化は mRNAの翻訳を促進する.(MY,kh)

一つの環を開いて他の物を付加する(Opening one ring to tack on another)

好奇心の強い化学者は、どのように炭素原子がしっかりと結合されているかを知ろうとして長きにわたって研究してきた。例えば、既に歪んだ四員環の2つの対向する角の間に結合を作り、辺を共有した三角形のペアを作ることは可能である。Gianatassioらは、これらや関連する珍しい分子化合物の一般的な利用法を考案した。彼らは、適切に修飾された窒素中心は、最も高度に歪んだ結合を速やかに開口し、より歪みの少ない環構造化合物をそのままに残すことができることを示している。このように、新しい医薬品候補を含む化合物の多様化を簡便に実現させる要素として、小さな環状化合物が登場する可能性がある。(hk,KU,ok,kh,nk)

波長可変レーザ (Tunable lasers)

レーザは、特定波長のコヒーレントな光を放射する。その波長は通常、いったんデバイスが製作されると固定される。Chakrabortyらは、単層グラフェン・シートとテラヘルツ量子カスケード・レーザーを組み合わせて、グラフェン層のキャリア添加濃度によって調整可能なテラヘルツ・レーザを実現した (Poliniによる展望記事参照)。この実証は、グラフェン導波路と融合することでレーザ放出に関する可逆的な制御の可能性への道を切り開く。(NK,KU,kh,nk)

結合した星状細胞が発作を調整する(Connected astrocytes coordinate seizures)

星状細胞は,神経系に存在するグリア細胞であり、コネキシンにより形成されるギャップ結合で相互接続される.ギャップ結合は細孔を形成し,この細孔は,細胞質基質の信号を素早く通過させることで,結合した細胞が一体としての機能を可能にする.Cheverたちは,アストログリアのコネキシンが欠損したマウスの海馬切片を分析することで,相互接続したアストロサイトが広い領域にわたる神経の発火活動を調整し,それが誘発された発作の強さに寄与していることを見出した.実際,星状細胞の接続が断たれたマウスは,正常なマウスより,化学的に引き起こされて、たびたび起きるが重症ではない発作を起こした.(MY,KU,ok,kh)
【訳注】
・グリア細胞:電気的な信号伝達活動をしない神経系を構成する細胞
・星状細胞:グリア細胞の一種で脳に多く存在する
・ギャップ結合:イオンや分子を通過させる細胞間結合のこと.タンパク質複合体からなるチャンネル(コネクソン)により結合されている
・コネキシン:コネクソンを形成するタンパク質からなるサブユニット
・細胞質基質:細胞質から細胞内小器官を除いた部分のこと

経時変化する月の外気圏(The Moon's time-variable exosphere)

われわれの地球を回る月には、通常の意味での気体状の大気はないが、代わりにその表面から放出された粒子の「外気圏」がある。ColapreteたちはNASAの LADEE orbiterを用い、ナトリウムとカリウムの原子からの発光を利用することで、外気圏が時間的にどのように変化するかを調査した (Dukes と Hurleyとの展望記事を参照)。外気圏の組成は、月の様々な部分が太陽光に曝されるのにつれ、一か月の間で 2倍から3倍変化する。また、月が流星体の流れの中を通過した後では、この粒子もまたすぐに増える。 (Wt,ok,kh,nk)

ヒトの最古の北極地方居住(Earliest human Arctic occupation)

ユーラシアの北極地方(北緯66度以北)におけるヒトの旧石器時代の記録は乏しく、せいぜい30,000年から35,000年前までしか遡れない。Pitulko たちは、十分にシベリア北極圏内といえる北緯72度で、45,000年前にヒトが居住していた証拠を発見した。その証拠とは、生前および死後に武器によってつけられた傷の痕跡をたくさんもつ、凍ったマンモスの死骸とである。同様な年代の遠く離れた場所から見つかった、狩られたオオカミの残骸は、ヒトはこれまで考えられていたよりも少なくとも10,000年以上早く、北シベリア全域にわたって拡がっていたかもしれないことを示している。(Sk,kh,nk)

別のマイクロペプチドが筋肉を動かす(Another micropeptide flexes its muscle)

ゲノム・アノテーションは複雑で、非常に不完全な技術である。その限界を立証するのは、長い非翻訳RNA (lncRNA)として注釈を付けられた幾つかの転写物が、実際には生物学的に重要な機能を持つ小さなペプチドをコードしているという証拠の増加である。哺乳類において、このような lncRNA由来のマイクロペプチドの一つはミオレグリンであり、これは重要なカルシウム・ポンプの活性を抑制することで筋肉の性能を減少させる。Nelsonたちは、哺乳類の筋肉において DWORFと呼ばれる、第2の lncRNA-由来のマイクロペプチドの反対方向の活性に関して記述している (Payre and Desplanによる展望記事参照)。このペプチドは、同じカルシウム・ポンプを活性化することで筋肉の性能を高める。DWORFは、心疾患を持つ哺乳類の心筋機能の改善に役立つことになるかもしれない。(KU,ok,kh,nk)
【訳注】
・ゲノム・アノテーション(ゲノム注釈):DNAの塩基配列から遺伝情報のもつ機能を予測し注釈したり説明を加える。

胎性グロビン遺伝子の再活性化(Reactivating the fetal globin gene)

成人型グロビン遺伝子の変異は、鎌状赤血球症や地中海貧血症を引き起こす。これら異常ヘモグロビン症の遺伝子治療を用いた処置は可能ではあるが、一般の患者集団を処置する薬理学的方法に対する緊急の必要性がある。有望な方法の一つは、成人の赤血球細胞中の抑圧された胎性型ヘモグロビン (HbF)の発現を再活性化することである。Masudaたちは、 LRF/ZBTB7A転写制御因子により仲介されるような HbF抑圧を支配している分子機構を明らかにしている。この研究は、異常ヘモグロビン症に対する新たな HbF再活性化治療の開発を鼓舞するであろう。(KU,kh)

微生物群落がウイルス感染の形を作る(Microbial villages shape viral infections)

ノロウイルスやロタウイルスのような腸管に感染するウイルスは,ヒトに対する深刻な病原体である.宿主内の厳しい環境(pH勾配,消化酵素,ヒトの腸に棲みついている膨大な微生物を含む)に直面するにもかかわらず,これらのウイルスは何とか生き残り,また,しばしば繁栄する.PfeifferとVirginは、腸内ウイルスと腸微生物相の間で起こる複雑な微生物の出会いについて概説している.微生物の王国(つまり, ウイルス,細菌,古細菌,寄生蠕虫,菌類,ファージ)間の相互作用は,ウイルス感染の経路とそれに引き続く宿主の免疫応答を形作るのに特に重要である.(MY,kh,nk)

ヒトとウイルスの IRESを同定する(Identifying the IRESs of humans and viruses)

殆どのタンパク質は、5'キャップ構造の RNA転写物の翻訳に由来する。ウイルスとヒトの遺伝子のサブセットにおいて、配列内リボソーム進入部位 (IRES)を持つ RNA転写物は、キャップ構造を持たない。Weingarten-Gabbayたちは、ヒトのタンパク質・翻訳領域の転写物における IRESの存在を、ウイルスのそれと同じように体系的に研究した (Gebauer and Hentzeによる展望記事参照)。大規模な変異原性プロファイリングは IRESに2つの種類を同定した。即ち、IRESの小さな領域の一つに局在した機能的要素を持つものと全体領域にわたって分布した重要な要素を持つものの2種類である。ヒト遺伝子全体における不偏的選別は、3'非翻訳領域において IRESが以前仮定されていた以上に頻繁に存在することを示唆している。(KU,kh)

アミノ酸はパラジウムに手を貸すことができる(Amino acids can lend palladium a hand)

ロジウムやパラジウム (Pd)のような金属は,別の方法では不活性状態にある炭素−水素結合を,有用な反応へと活性化する名人である.適切に配向するため,これらの触媒はしばしば近傍の酸素基や窒素基からの多少の助けを必要とする.しかしながら,これらの配向基の付加や除去は,この化学合成の効率を低くする.Zhangたちは,アレーンとアルデヒドまたはケトンとの Pd触媒カップリング反応において,アミノ酸が一時的な配向基として働くことを示している.Pd触媒作用を確実にするのに十分な時間だけ,アルデヒドやケトンの基質に可逆的に結合することにより,アミノ酸はさらに面倒な配向基の操作を不要とする.(MY,kh,nk)
【訳注】
・配向基:触媒金属に配位することで,その近傍での触媒の反応性を高める化学基

これまでに最も明るい超新星(The most luminous supernova to date)

超新星は、恒星の生涯の最終段階の爆発状態の姿であり、これは銀河中の重元素とエネルギーの源泉となっている。ある種の超新星はほぼ同じピーク光度を有するが、最近では、新しい種類の超高光度超新星が見つかってきた。Dongたちは、ASASSN-15lh (SN 2015L) の発見を報告している。これは、これまで発見されたものの中では最も高い光度なもので、それも従来のもののよりかなり明るい。それらは、巨大で静謐な銀河の中に生まれているようである。これは、他の多くの超高光度の超新星とは対照的である。後者は、典型的には恒星を生み出している矮銀河から生まれる。この発見は、超高光度超新星のモデルと、それらがどのように宿主の銀河に影響するかについて制限を与えるものとなろう。(Wt,kh,nk)

太陽エネルギーを最適以下で使う(Using solar energy suboptimally)

太陽光を光合成産物に変換する上で、植物プランクトンはどの程度効率的なのであろうか? 吸収されたエネルギーがとりうる別の二つの経路は、蛍光により放射して周囲に戻すか、熱に変換するかである。Linたちは、実験室で植物プランクトンの蛍光寿命を測定し、それらを可変クロロフィル蛍光の衛星測定結果と結びつけた。その結果、彼らは4つの海盆における、光化学反応と蛍光発光の量子収率を決定した。吸収された太陽エネルギーの約60%が熱に変換されており、それは最適な成長の条件として決定されていたよりも50%高い値である。(Sk,kh)
【訳注】
・蛍光寿命:蛍光分子が光を吸収して励起された時、励起状態にとどまる平均時間
・可変クロロフィル蛍光:植物が光合成を行う際に、使えなかった光の一部を赤い光に変換して発光する蛍光の、最大値と最小値の差
・量子収率:吸収(励起)によって蛍光分子に吸収された光子数と、蛍光によって放出された光子数の比

学習した音節への固定(Fixation on learned syllables)

キンカチョウは、他のキンカチョウが鳴くのを聞くことにより、その美しい鳴き声を学習する。Vallentin たちは、学習している間のキンカチョウの脳を観察したが、結局、学習した鳴き声の固定化に重要なのは神経回路の抑制作用であった。十分に学習された鳴き声の音節に対しては、一貫して抑制性神経細胞が発火した。まだ学習されていない鳴き声の音節は、この抑圧信号を作動しなかった。このように、神経回路を変えるのは学習プロセスである。鳥の年齢ではなく、抑制性神経細胞の発火が学習内容を固定する。(Sk,KU,ok,nk)

ミトコンドリア・ネットワークの形成法(How to shape mitochondrial networks)

ミトコンドリアは、細胞代謝の変化に応じて断片化や或いは融合を行う。Toyamaたちは、アデノシン一リン酸・活性化タンパク質キナーゼ (AMPK)が、ミトコンドリアの断片化を制御するのに必要十分条件であること報告している。AMPKは、ミトコンドリアの外膜のタンパク質であるミトコンドリア分裂因子 (MFF)をリン酸化することで細胞のエネルギー状態を監視するセンサーとして機能する。MFFは次に、ミトコンドリアの分裂を促進する細胞質のグアノシン三リン酸分解酵素を補充するよう作用する。(KU,kh)

一つの病気は一つの病原体だけが作るのではない(One disease does not a pathogen make)

感染した生物内部の微生物群集の組成は、生物が病気を発生するかどうかを決定する。例えば、一つ或いはより多くの特定の菌種の存在は、病原体が宿主にコロニー形成することをより困難にするかもしれない。Byrdと Segreが展望記事で説明しているように、この知見は、病気がどのように発生するかを理解するために重要である。病気の原因の理解へのより幅広い方法は、微生物群集の塩基配列決定、それらの相互作用のモデル化、疑わしい病原体の培養、そして宿主の遺伝的特徴と被曝史を含むべきである。(KU,kh,nk)
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