AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 11 2015, Vol.350


RANKをアウトにして骨肉腫をランキング外にする(Out-RANKing osteosarcoma)

骨肉腫は最もありふれた原発性骨癌で,特に転移性疾患を持つ患者において治療が難しいとされている.Chenたちは遺伝子操作された骨肉腫のマウスモデルを作り,それを用いて、破骨細胞分化因子 (RANKL)のシグナル伝達がこの病気の進行に寄与していることを実証した.さらに,RANKLに対する抗体であるデノスマブ(別の骨の病気を持つ患者にすでに用いられている)が,マウスモデルで骨肉腫を抑制した.そのため,デノスマブはヒトの患者での今後の治験に対する有望な候補である.(MY,nk)
【訳注】
・破骨細胞分化因子(RANKL):破骨細胞が,前駆細胞からの分化で作られる際に必須となる複合タンパク質.前駆細胞の受容体に結合することで前駆細胞にシグナル伝達を起こし、破骨細胞への分化を誘導する
・デノスマブ:RANKLの機能を阻害する抗体で破骨細胞の活性化を抑制する.骨粗しょう症の治療薬に用いられている
RANKL blockade prevents and treats aggressive osteosarcomas.Sci.Transl.Med. 7, 317ra197 (2015)

変異率の低さはT細胞にとって問題とならない(Low mutation rate okay for T cells)

黒色腫や喫煙誘発性肺癌のような多くの変異を持つ癌は,免疫療法に良く反応し,一方膵臓癌のような殆んど変異を持たない癌はそうではない.Tranたちは,変異量が比較的少ない転移性胃腸癌に罹った患者10人に対して,腫瘍の変異に反応する T細胞を捜し,10人のうちの9人がそのような細胞を持っていることを見出した.ある患者からの T細胞は,多くの種類の癌に共通の変異を認識した.T細胞をこの特別の変異反応性 T細胞受容体を発現するよう遺伝子改変することは,以前予測されていたよりは多くの患者群に,養子細胞免疫療法を広げるかもしれない.(MY,nk)
【訳注】
・T細胞:リンパ球の一種で,免疫機能を担う細胞
・養子細胞免疫療法:自分の免疫細胞を体外で培養し,再度体内へ戻して治療に用いる方法
Immunogenicity of somatic mutations in human gastrointestinal cancers.Science, this issue p. 1387

老化: 全ては頭の中で,そして腸で(Aging: All in the headーand the gut)

低酸素やカロリー制限の効果は,その両方がシノラブディス・エレガンス(線虫の一種)の寿命を伸ばすものであるが,それらの効果は腸細胞中の,ある酵素の活性化に収束する.Leiserたちは,低酸素が寿命を伸ばす効果は,低酸素誘導性因子-1により転写が活性化し,セロトニン作動性シグナル伝達が増強される神経細胞中で始まることを示している.これらの効果は,腸内でフラビン含有モノオキシゲナーゼ-2 (FMO-2)の産生の増加につながり,そして,これが寿命を伸ばしたのである. FMO-2はまた,長寿を推進する条件下で哺乳類中に蓄積され,FMO-2に関連する標的を見つけることは,正常な老化現象を進めるさらなるメカニズムを説明するかもしれない.(MY,ok,kh)
【訳注】
・低酸素誘導性因子:細胞が酸素不足状態になった際に誘導され,転写因子として機能するタンパク質
Cell nonautonomous activation of flavin-containing monooxygenase promotes longevity and health span.Science, this issue p. 1375

縮小する氷棚、速くなる流れ(Shrinking shelf and faster flow)

グリーンランド北東部の巨大な氷河ザカリア・イストロムは、1990年代後半に固着岩床から離れた後、急速な後退が始まった。Mouginotたちは、2002年から2014の間にこの氷河の氷棚に覆われた領域が95%程縮小したこと、1999年以来、この氷河の流速がほぼ二倍になっていること、その速力の増加が2012年秋に三倍になっていることを報告している。このような劇的な変化は、大気と海洋の温度上昇と氷河先端における海洋底の地形が複合して起こった結果らしい。海水面の上昇はザカリア・イストロムの海洋部分を数十年間不安定にし続けるであろう。(Uc,kh)
Fast retreat of Zacharia Isstrom, northeast Greenland.Science, this issue p. 1357

貞節から空間記憶まで(From faithfulness to spatial memory)

自然選択は、或る与えられた環境に対してできるだけ適応するように形質を形成する。Okhovatたちは、このような変化する選択が、また社会的行動や脳の変化をも形成することを示している(Robinsonによる展望記事参照)。一夫一婦制のプレーリーハタネズミにおけるオスの忠誠の変化は、空間記憶で機能するバソプレッシン受容体の発現、調節、及び後成的状態の違いを反映している。このように、オスの忠誠と背信の間のトレードオフは、空間記憶に重要な遺伝性の変化を促進し、そして彼らの忠誠レベルの変化を保存するのかもしれない。(Uc,KU,kh,nk)
Sexual fidelity trade-offs promote regulatory variation in the prairie vole brain.Science, this issue p. 1371; see also p. 1310

神経膠腫中の成長する血管(Growing blood vessels in gliomas)

攻撃的神経膠腫は高密度の異常血管を伴い,それらが腫瘍増殖を可能にし,脳を損傷する.Zhangたちは患者のデータを分析し,プレイオトロフィンと呼ばれる分泌因子の濃度増加と,より攻撃的程度の神経膠腫及び生存低下とが相関することを示した.マウスに移植すると,プレイオトロフィンを放出する神経膠腫細胞は、より多くの血管を持ったより大きな腫瘍を作った.プレイオトロフィンの受容体である ALKの阻害剤で処理すると,マウスに発生した神経膠腫はより小さく,また,マウスはより長く生きた.(MY,KU,kh,nk)
【訳注】
・神経膠腫:脳中の神経膠細胞に発生する悪性腫瘍
・プレイオトロフィン:主として発達中の神経系組織で作られ,神経栄養因子となるタンパク質
Pleiotrophin promotes vascular abnormalization in gliomas and correlates with poor survival in patients with astrocytomas.Sci. Signal. 8, ra125 (2015).

謎めいた中間マントルの減速(A mysterious mid-mantle slowdown)

地球の最深部の粘性は、プレート・テクトニスクを成立させるうえで、鍵となる役割を果たす。Rudolphたちは、幾つかの地球物理学的な一連のデータを組み合わせて、マントルの粘性をモデル化した。マントルの粘度は地下 1000kmで突然増加する。この増加はこの深さのあたりで、スラブの滑り込みが停滞することや高温の湧昇プルームが屈曲することを説明できる可能性がある。この粘性の増加は、最近観測されたいくつかの予期せぬ結果を説明するものだが、急な高粘度化自体の起源は謎のままである。(Wt,kh,nk)
Viscosity jump in Earth’s mid-mantle.Science, this issue p. 1349

超伝導体中のスピンに鍵をかける(Locking the spins in a superconductor)

超伝導体の風変りな特性の原因となっている電子対である、クーパー対は二つの電子のスピンが逆方向に向いている。強力な外部磁場は、スピンの向きを同じ方向にさせて超電導性を壊すであろう。Luらは、二硫化モリブデンの二次元超電導性が、サンプル平面に印加した外部磁場に影響を受けないという驚くべき現象を見出した(Suderowの展望記事参照)。二硫化モリブデンのバンド構造とそのスピン軌道カップリングが協力して有効磁場を作り、サンプルの垂直方向に整列するスピンを持つ電子対を強めた。(NK,KU)
Evidence for two-dimensional Ising superconductivity in gated MoS2.Science, this issue p. 1353; see also p. 1316

計算モデルが書いた手書き文字(Handwritten characters drawn by a model)

子どもは学ぶのに苦がないばかりでなく,それを素早くやるし,しかも先に学んだことを新しいことを作りだすための素材として用いるという注目するべき能力を持っている.Lakeたちはある計算モデルが,子供に似たやり方で学び,しかもそれを現在の深層学習アルゴリズムよりもうまくやることを記述している.このモデルは,手書き文字を分類・解析・再作成し,しかもチューリング・テストに似た試験による判断で本物の人間が作りだすものと比較して“正しく”見えるアルファベットの新規文字を作りだすことができる.(MY,kh)
【訳注】
・深層学習:入力層と出力層の間に多層の中間層を持つ構造のニューラルネットワークによる機械学習
・チューリング・テスト:英国の数学者アラン・チューリングが考案した, コンピュータを, その応答を人間のと比較して, 知性を持つかどうか判定する方法
Human-level concept learning through probabilistic program induction.Science, this issue p. 1332

海の微生物系(The ocean microbial system)

広大な半透明性の海は,地球上の重要な生命現象や元素循環を駆動するミクロな生命体であふれている.それにもかかわらず,気候変動が、この微生物相の機能にどのように影響するかはよく分かっていない.Moranは,環境の,植物の,動物の,そしてさらに人間の微生物相の研究を先導してきた海洋微生物学で, 最近なされた進展と画期的な発見について概説している.(MY,KU,kh)
The global ocean microbiome.Science, this issue p. 10.1126/science.aac8455

タンパク質組立の原理(The principles of protein assembly)

タンパク質の構造についての知識は、タンパク質の機能に関する我々の理解を大きく深める。多くの場合、機能はオリゴマー形成に依存する。Ahnertたちはタンパク質複合体の構造に関する大規模な解析と共に質量分析データを用いて、タンパク質組立の基本的なステップを調べた。組立ステップを系統的に結びつけることで、多数の4次形態が周期表へと組織化されることを明らかにした。この周期表に基づいて、著者たちは四次構造形態の予期される頻度を正確に予想した。(KU,nk)
Principles of assembly reveal a periodic table of protein complexes.Science, this issue p. 10.1126/science.aaa2245

遷移状態の詳細を明らかにする(Shaking out details of transition states)

化学者たちは、反応エネルギー論を山と谷を持つ地形に例えている。この文脈において、遷移状態とは、反応物が生成物を作る過程で越えなければならない最も高い障壁を意味している。Barabanらは、振動スペクトル・データから直接的に転位反応の遷移状態に関する詳細を抽出するための枠組みを導入している。彼らは、遷移状態近傍の振動エネルギー準位間の間隔に特徴的なパターンを同定した。そのパターンは、障壁を越えることに関与する特異的運動と共にそのエネルギーを特異的運動と共に明らかにした。(KU,kh)
Spectroscopic characterization of isomerization transition states.Science, this issue p. 1338

乾草中にはかない細針を見つける(Detecting a transient needle in a haystack)

騒々しい環境内で信号を識別することは、天文観測から安全な情報交換、可視化に至る、多くの学問分野にとって重大な問題である。信号が周期的であれば、多くの測定にわたる平均が、S/N比の向上に役立つことがある。しかしながら、単一の一過性の事象として存在する信号に対して、その検出能力は限られていた。Ataieたちは、周波数コムを用いた信号クローニングと信号処理技術を結びつけることで、その制限を取り除くことのできる検出器を開発した (Vasilyevによる展望記事参照)。彼らの検出器は、さもなければ検出不能となるであろう雑音内に埋もれた信号を検出することができた。(KU,ok,kh)
Subnoise detection of a fast random event.Science, this issue p. 1343; see also p. 1314

水素原子を表面に固定する(Sticking hydrogen atoms to surfaces)

表面への吸着のもっとも単純な場合である水素原子の吸着は、実際は非常に複雑である。これは、この軽い原子が、減速して固着できるのに十分な運動量を重い表面にどのようにして転嫁できるのかが明らかでないためである。Bunermannたちは、エネルギーを精密に制御した水素原子を作成した(Bruneによる展望記事を参照のこと)。金の表面において、非弾性衝突が吸着過程で起こったが、キセノン原子の絶縁層が用いられた時にはそれは起きなかった。(Wt,KU,kh)
Electron-hole pair excitation determines the mechanism of hydrogen atom adsorption.Science, this issue p. 1346; see also p. 1321

生体内でのニューロン電位スパイクの可視化(In vivo imaging of neuronal voltage spikes)

神経科学者たちは、眠らずに行動する動物の個々のニューロン膜電位の挙動を光学的に可視化出来る手段を長い間探してきた。Gongたちは、タンパク質電位指示器を遺伝子改変した。その指示器は、1ミリ秒以下の精度で活動電位を、そして以前可能であったよりも数桁低いスパイク検出誤り率を記録することができる。覚醒しているマウスやショウジョウバエの脳内で、彼らは活動電位と膜電位の挙動を記録することができた。(KU,ok,kh)
High-speed recording of neural spikes in awake mice and flies with a fluorescent voltage sensor.Science, this issue p. 1361

知識経済の追跡(Tracking the knowledge economy)

科学研究における合衆国の投資は、容易に資料で証明されるが、その成果は追跡困難である。Zolasたちは、8っの大学から得られた博士号受領者に関するデータとビジネス登録簿及び合衆国の国勢調査局からのデータとを結びつけた。それらのデータは、Ph.D.受領者と彼らすべてのその後の雇用主とを結びつけることを可能にした。博士号受領者は学問の世界に留まったり、或いは高い給料の大きな会社に入る傾向があった。およそ20%は、彼らが学位を受け取った州に留まっていた。Ph.D.を得たその年に、数学者とコンピュータの科学者たちは最も高い給料を受け取り、生物学者は最低の給料であった。(KU,kh)
Wrapping it up in a person: Examining employment and earnings outcomes for Ph.D. recipients.Science, this issue p. 1367

時間調整で細胞のシグナル伝達を乱す(Altering timing perturbs cell signaling)

生物学的調節系は、環境変化に適応するため進化により最適化されてきた。しかし、これらの系は、また脆弱な側面を持っており、それがシグナル伝達事象のタイミングの変化によって暴かれたりする。Mitchellたちは、細胞が浸透圧条件の変化に適応可能にする、酵母のシグナル伝達系の筋書きを調べた。同じ筋書きがまた、或る特定の周波数で浸透圧条件の変動を受けると、同じ性質が、また系の感受性を活性化過剰にし、その結果として細胞増殖を抑制した。他の調節経路における似たような脆弱性の同定は、癌や糖尿病のような、シグナル伝達が乱される病気に対する治療方針の開発に有用となるかも知れない。(KU,ok,kh,nk)
Oscillatory stress stimulation uncovers an Achilles’ heel of the yeast MAPK signaling network.Science, this issue p. 1379

離してよ, 行かせて(“Please release me, let me go.”)

RNAポリメラーゼII (Pol II)は、後生動物細胞の遺伝子転写に必要な主要なタンパク質複合体である。多くの遺伝子はそのプロモーター近傍で「休止した」 Pol IIを持っており、遺伝子がメッセンジャーRNAの合成を開始出来るよう Pol IIが遊離されるのを待っている。Yuたちは、Pol II関連因子 1 (PAF1)が、この休止した Pol II複合体の活性化の調節に中心的役割を果たしていることを示している。正の転写伸長因子bは、休止した Pol IIへの PAF1の勧誘を助ける。このことが、Pol IIの C末端領域でのリン酸化を促進し、Pol IIを自由にして本格的に転写を開始する。(KU,kh)
RNA polymerase II-associated factor 1 regulates the release and phosphorylation of paused RNA polymerase II.Science, this issue p. 1383

ビタミンCのストレスでまいらせる(Getting all stressed out by vitamin C)

ビタミンCほど多くの議論を巻き起こした実験的癌治療は少ない。未だに癌細胞におけるビタミンCの機序的効果は、ほとんど理解されていない。Yunたちは、KRAS或いは BRAFの変異を持つヒト直腸結腸癌細胞を調べ、それらが他の細胞と異なる方法でビタミンCを「操作」し、最終的には細胞損傷へと操作していることを見いだした (Reczek and Chandelによる展望記事参照)。或る受容体がその変異細胞中で上向き調節されるので、それら変異細胞はビタミンCの酸化型(デヒドロアスコルビン酸)を取り込む。これが酸化ストレス、増殖のために変異細胞に必要な解糖酵素の不活性化、そして最終的に細胞死に導く。これら変異細胞へのビタミンCの選択的毒性が治療に利用出来るかどうかは、定かではない。(KU,kh,nk)
Science, this issue p. 1391; see also p. 1317
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