AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 20 2015, Vol.350


姿をくらます(Disappearing act)

沿岸水域や岩礁と違って、外洋にはほとんど何もない。それにもかかわらず、多くの魚種は一生のほとんどをそこで過ごす。そのような何もない場所では、迷彩を施すことがことが非常に困難になる。では、飛び回り反射する光で満たされた水の中で、生物はどのように身を隠しているのだろう。Bradyたちは、ある科の魚が光を反射、偏光させ、よりたやすく鏡のような状況に溶け込むことができる、進化した皮膚を有していることを示している。これらの結果は、世界中の海で暮らす魚たちにみられる銀色の体色を説明するのに役立つ。(Sk,kh)
Open-ocean fish reveal an omnidirectional solution to camouflage in polarized environments (Science, this issue p. 965)

腫瘍での転写,STATを阻止する(Blocking transcription in tumors, STAT)

STAT3は多くの癌の一因であると知られている転写因子であるが,従来型の薬剤で標的とするのが大変困難である.Hongたちは,これに代わる取り組みを行い,メッセンジャーRNAに結合するアンチセンス分子を用いて、STAT3タンパク質が作られないようにした.強力なアンチセンス分子は脂質に溶解されることなく細胞へ浸透した.AZD9150という,ある新規のアンチセンス薬剤は,1つないしそれ以上の以前の治療措置が失敗した癌患者に対してだけでなく、様々な前臨床モデルの癌の抑制に成功した.これらの発見はさらなる臨床試験に道を拓くものである.(MY,KU,kh)
【訳注】 ・STAT:細胞増殖、分化および生存などの制御に関わるシグナル伝達性転写因子 ・アンチセンス分子:標的RNAに対する相補的な配列を持ち,標的とするRNAにより作られるタンパク質の発現を阻害する分子
AZD9150, a next-generation antisense oligonucleotide inhibitor of STAT3 with early evidence of clinical activity in lymphoma and lung cancer (Sci. Transl. Med. 7, 314ra185 (2015))

寄生虫がヒトの繁殖力に影響する(Parasitic worms influence human fecundity)

寄生虫は世界中で20億の人たちに感染している.そのような感染は大抵,症状がなく,また,個々の寄生虫が及ぼす負担は小さい.Blackwellたちは,ボリビアのチマン(Tsimane)族の女性の繁殖力を観察した.チマン族の女性たちは生涯で平均10人の子どもを産む.しかしながら,継続的に鉤虫に感染している場合,生涯出産数は7に落ちた.驚いたことに,女性たちが回虫に慢性的に感染している場合には,12人もの子供を産んだ.これらの結果は,寄生虫感染による生理的コストよりはむしろ,異なる寄生虫が誘発する免疫応答の釣り合いと関係しているかもしれない.(MY)
【訳注】
・生理的コスト:体でのエネルギー消費のこと
Helminth infection, fecundity, and age of first pregnancy in women (Science, this issue p. 970)

ペロブスカイトが大きくなる(Perovskites go large)

プレナー型の有機無機ペロブスカイトで作られた太陽電池では、今や、20%を超える効率が報告されている。しかしながら、これらの値は小さな照射面積で測定されたものであった。Chenたちは、高濃度の不純物を添加した無機電荷取り出し層を用いて、1 cm2 大の太陽電池を作成した(Sessoloと Bolinkによる展望記事参照)。それらの層は電荷発生層が空気により劣化することを防止するのに役立った。その電池は、政府研究機関公認で 15%以上の効率を達成した。さらに、1000時間動作後も、その効率の 90%が維持された。(Sk,kh,nk)
Efficient and stable large-area perovskite solar cells with inorganic charge extraction layers (Science, this issue p. 944; see also p. 917)

クプラートの電荷パターンを見分ける(Discerning charge patterns in a cuprate)

酸化銅は、超電導に必要な秩序を実現可能な材料であると知られている。それらの材料はまた、電荷密度に模様を形成するという、もう一つの秩序を実現できる。核磁気共鳴と共鳴X線散乱の両手法により、イットリウム主成分のクプラートにおいていわゆる電荷密度波(CDW)が観測された。しかし、CDWの性質は、2種類の測定手法に依存して異なっていることが明らかになった。Gerberらは、X線散乱と結びつけて、28テスラまでの磁場パルスを用いて、そのみぞを埋めた(Julienの展望記事参照)。磁場が強くなるにつれて、2次元 CDWが3次元的なものに変わるのだ。(NK,KU,kh)
【訳注】
・クプラート:銅を中心金属とする錯イオン
Three-dimensional charge density wave order in YBa2Cu3O6.67 at high magnetic fields (Science, this issue p. 949; see also p. 914)

構造も視力も強い一組みの眼(A set of strong eyes)

多くの生物組織は一つ以上の目的のために働いているが、複数の仕事を最適化して行うことは殆ど無い。一つの機能を最適化しようとすると、他の機能が犠牲になってしまう。Liたちは、小さな軟体動物ヒザラガイ類の生体鉱物化した甲殻を調査した。その甲殻は、機械的な強度と数百のアラゴナイトを主成分とした集積化レンズによる画像取得の双方に対して最適化しているらしい。(Uc,KU,kh,nk)
【訳注】
・アラゴナイト:炭酸カルシウム鉱物の霰石
Multifunctionality of chiton biomineralized armor with an integrated visual system (Science, this issue p. 952)

単球が肺への腫瘍接近を阻止する(Monocytes block tumor access to the lung)

転移性癌は治療が特に困難である.可能性のある新規な治療標的を見つけるため,科学者たちは転移を促進したり抑制したりする細胞事象の理解を試みているところである.Hannaたちは,マウスにおける肺への腫瘍転移を阻止する巡回性単球の役割を報告している.巡回性単球を欠くように遺伝子操作されたマウスは,肺への腫瘍転移を増加させたが,他の組織への転移はそうではなかった.巡回性単球は肺の微小血管系に存在し,そこで腫瘍物質を貪食していた.この巡回が,腫瘍が肺に定着するのをこれらの細胞がどのように防いでいるかを説明するかもしれない.(MY,kh)
【訳注】
・単球:白血球の一種で,その約7パーセントを占める.強い食作用を持つ
Patrolling monocytes control tumor metastasis to the lung (Science, this issue p. 985)

睡眠段階を調節するニューロン(Neurons that regulate sleep stages)

睡眠とは何なのか、未だに若干謎めいたままである。睡眠中に、我々は、いわゆる急速眼球運動 (レム)睡眠とノンレム睡眠の間を何回か切り換えている。Hayashiたちは精巧な発生上の細胞の運命地図を用いて、マウスにおける2つの型の睡眠に関与するニューロンを調べた (Vyazovinskiyによる展望記事参照)。彼らは、レム睡眠を代償にノンレム睡眠を促進する、発生学的に選び出されたニューロン集団を同定した。(KU,kh,nk)
Cells of a common developmental origin regulate REM/non-REM sleep and wakefulness in mice (Science, this issue p. 957; see also p. 909)

電気バラはいまだ甘く香るだろうか?(Would an electrical rose still smell as sweet?)

電気と植物を調和させることができるだろうか? Stavrinidouたちは、バラの内部に導電性高分子を用いた基本的な電子回路を作った.彼らの取り組みの基は, 植物の根・茎・葉・維管束回路網と,電子回路の接点・配線・素子・電線との間の類似性だった.この技術は,植物生理機能の監視や調節,光合成によるエネルギーの取り込み,及び植物最適化のための遺伝子改変を達成する新しい方法につながるかも知れない.従って,"power plant"の意味はそのうち現在の発電所から、発電樹という新しい意味を持つことになるかも知れない.(MY,KU,kh,nk)
(Sci. Adv. 10.1126.sciadv.01136 (2015))

神経発達障碍を救う(Help for neurodevelopmental disorders)

脳が正常に発達しないときに、結果として起こる能力障碍は、一生を通じて個人に影響を及ぼすことがある。Sahinと Surは、一連の神経発達障碍の背後にある分子生物学に関しての明らかになりつつある知識が、どのように全体としてそのグループに光を投げかけているかを調べている。新たな知識は、より効果的な治療に向けての待ち遠しい糸口を与える。(KU,kh)
Genes, circuits, and precision therapies for autism and related neurodevelopmental disorder (Science, this issue p. 10.1126/science.aab3897)

多分化能或いは細胞運命における Notchの役割(Notch role in multipotency or cell fate)

多分化能のショウジョウバエ腸の幹細胞 (ISC)は、栄養を吸収する腸細胞 (EC)かそれとも分泌性腸管内分泌細胞 (EEC)のいずれかを産生する。Guoと Ohlsteinは、このプロセスにおける Notchシグナル伝達の役割を研究した。彼らは、ISCの非対称分裂を追跡し、EEC娘細胞(低濃度の Notchを持つている)が、ISCの多分化能を保つために ISCに信号を送り返していることを見出した。しかしながら、EC産生中に、ISCは娘細胞において強い Notchシグナル伝達を活性化する。このように、Notchシグナル伝達は、幹細胞の多分化能を達成するために双方向で機能している。(KU,kh)
【訳注】
・Notchシグナル伝達:細胞の発生、再生、恒常性の維持に重要な役割を持っている、Notch受容体を介したシグナル伝達
Bidirectional Notch signaling regulates Drosophila intestinal stem cell multipotency (Science, this issue p. 10.1126/science.aab0988)

遺伝子組換え:鳥と酵母(Recombination: The birds and the yeast)

類人猿とマウスは特異的遺伝子、PRDM9を持っており、この遺伝子は高頻度の遺伝子組換えを行う遺伝領域、いわゆるホットスポットと関係している。PRDM9を持つ種において、ホットスポットはゲノム内を急速に移動し、集団や密接な近縁種の中で変化する(Lichtenによる展望記事参照)。PRDM9を欠いている種の遺伝子組換えのホットスポットを研究するために、Singhalたちは、PRDM9遺伝子を欠く鳥のゲノムを調べた。彼らは、鳥フィンチ種のゲノムを詳しく調べ、遺伝子組換えが遺伝子のプロモータ領域に局在し、そして数百万年を越えて保存されていたことを見出した。同じ様に、Lamと Keeneyは、PRDM9を欠く酵母内の遺伝子組換えの局在化を調べた。彼らは、ホットスポットの同じ様な多少固定されたパターンを見出した。このように、PRDM9遺伝子を欠いている種の遺伝子組換えは、ホットスポットの局在化と進化の同じ様なパターンを示している。(KU,kh)
【訳注】
・プロモータ領域:RNAポリメラーゼが特異的に結合して転写を始めるDNA上の領域
Putting the breaks on meiosis (Science, this issue p. 913, p. 928; see also p. 932)
Stable recombination hotspots in birds (Science, this issue p. 913, p. 928; see also p. 932)

電池の安全性に対する濃縮された努力(A concentrated effort for battery safety)

水溶性電解質は、分解を回避するため 1.23 V 以下での使用に制限されている。Suoたちは、リチウム(Li)ビス(トリフルオロメタン・スルホニル)イミドを含む水溶性の塩溶液によりこの制限を突破し、 3 V の電気化学的な窓領域を有する電解質を作った(Smith と Dunnによる展望記事参照)。彼らは極度に高濃度の溶液を用い、これが水素の放出と電極の酸化を抑制した。このような濃度では、単純に Li+ 電荷を中和する十分な水が存在しないため、Li 溶媒和殻が変化する。このようにすることで、もしかすると、可燃性の有機電解質を、より安全な水溶性の代替物で置き換えることができるかもしれない。(Sk,kh)
【訳注】
・溶媒和:溶質分子またはイオンをいくつかの溶媒分子が(殻のように)とりまいて、一つの集団をつくる現象。本例では、Li+電荷に対し、取り巻いた多数の水分子の双極子のマイナス(酸素)側が強く引き付けられ、見かけ上、元のLi+電荷と同じ電荷量の、広がりの大きな中空の球状電荷に変更される。
・電気化学的な窓領域:電池の正極と負極との組み合わせで, 電解質が安定に存在できる電位領域
gWater-in-salt-h electrolyte enables high-voltage aqueous lithium-ion chemistries (Science, this issue p. 938; see also p. 918)

戻るのは禁止(No going back)

哺乳類の脊髄は、身体の至る所で神経細胞系を協調させている。発生の際に脊髄の正中を横切る軸索は、まず最初に横切る許可を、次に往復しない指示を必要とする。Jaworskiたちは、軸索誘導受容体 ROBO3を研究し、このプロセスを助けているらしいリガンド NELL2をマウスで発見した。(KF,kh)
Operational redundancy in axon guidance through the multifunctional receptor Robo3 and its ligand NELL2 (Science, this issue p. 961)

非翻訳 RNAがタンパク質結合を助ける(Noncoding RNA helps protein binding)

遺伝子の翻訳領域を読むだけでなく、RNAポリメラーゼはプロモーターの近位と遠位にある DNA要素において RNAを産生するが、それら分子の機能は殆んど知られていない。Sigovaたちは、それら RNAが遺伝子調節因子とそれが支配する調節要素との相互作用を促進していることを明らかにした。新生の RNAは転写制御因子 YY1と連携して、DNAに結合する能力を増強する。つまり、活動的な調節要素における転写は、遺伝子発現プログラムの安定性に貢献する調節要素を強化する、正のフィードバックループを提供している可能性がある。(KF,kh)
Transcription factor trapping by RNA in gene regulatory elements (Science, this issue p. 978)

長期滞留の確立(Establishing a longtime residency)

自然リンパ球細胞 (ILC)は、免疫細胞のサブセットであり、腸や肺などの組織における障壁免疫を促進し、免疫恒常性の維持を助けている。Gasteigerたちは、、そのような末梢組織中と同様にリンパ節や脾臓のような免疫組織中で、いかにして身体が ILCのプールを維持しているかを研究した。血流を共有するよう外科的に結合されたマウスでは、リンパ球と違って、ほとんどの ILCが血液を介して循環していなかった。その代わり、ILCは、炎症や感染症にかかっていても組織に長期間滞留していた。(KF,KU,kh)
Tissue residency of innate lymphoid cells in lymphoid and nonlymphoid organs (Science, this issue p. 981)

いかにして瀕死の腫瘍細胞が注目を得るか?(How dying tumor cells get noticed)

アントラサイクリンのような幾つかの化学療法は、腫瘍細胞を直接死滅させる以外に、腫瘍を死滅させる免疫系をも活性する。 Vacchelliらは、マウスにおいて、アントラサイクリン誘発の抗腫瘍免疫が、タンパク質ホルミルペプチド受容体1(FPR1)を発現する免疫細胞を必要とすることを発見した。 腫瘍の近くにある樹状細胞(DC:Dendritic cell)は、特に大量の FPR1を発現した。 DCは、通常、死んでいる腫瘍細胞の断片を捕獲し、それらを使用して、腫瘍を死滅させるため近くの T細胞を活性化した。しかし、FPR1を欠乏しているDCは、これを効果的に行うことができなかった。 FPR1の変異体を発現し、アントラサイクリンで治療されている乳癌または結腸癌に侵されている個体は、転移を起こしやすく、かつ全体的生存も低かった。したがって、FPR1はまた、人の抗腫瘍免疫にも影響を与える。(hk,KU,kh,nk)
Chemotherapy-induced antitumor immunity requires formyl peptide receptor 1 (Science, this issue p. 972)

プレート・テクトニスクのパイオニア(Pioneer of plate tectonics)

なぜ、地球の大陸の輪郭は、パズルのようにぴったり合うのだろうか? 100年前、Alfred Wegenerは、「大陸移動」に関する彼の有名な研究書のなかで、すべての大陸はかつては一つの超大陸の構成部分であったと主張した。展望記事の中で、Romanoと Cifelliは、現在プレート・テクトニクスと呼ばれる、この理論の歴史を記録している。最初、プレート・テクトニクスは多くの科学者に嘲笑されていたが、この理論を支持する証拠が蓄積させるにつれて、1960年代には広く受け入れられるようになった。今日、この理論は、あまねく受け入れられている。科学者たちは、いまや太陽系を越えた他の惑星におけるプレート・テクトニクスの兆候さえも探している。(Wt,kh)
100 years of continental drift (Science, this issue p. 915)

薬剤抵抗性の前立腺腫瘍を標的に(Targeting drug-resistant prostate tumors)

mTOR経路の活性は、さまざまな癌において、しばしば増加する。Hsiehたちは、タンパク質合成を抑制する mTOR標的の1つである 4EBP1の濃度が、前立腺腫瘍における様々な細胞型が、mTOR阻害剤に対して抵抗性があるかどうかを決定していることを発見した。ベースとなる細胞に比較して、管腔前立腺上皮細胞は、より多くの 4EBP1を発現し、タンパク質をより低率で合成し、mTOR阻害剤に対する感受性が低かった。4EBP1濃度を減少させると、mTOR阻害剤への抵抗が抑制されるので、4EBP1を共に標的にすることで、前立腺癌の患者への治療成績が改善される可能性がある。(KF,nk)
Cell type-specific abundance of 4EBP1 primes prostate cancer sensitivity or resistance to PI3K pathway inhibitors (Sci. Signal. 8, ra116 (2015))
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