AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 23 2015, Vol.350


一度に1個の葉緑体の品質管理(Quality control one chloroplast at a time)

植物細胞は,求められるようには機能しない葉緑体をどのようにして取り除くのだろうか? Woodsonたちは、葉緑体を個別に選択的に除去することを可能にする葉緑体の品質管理経路について記述している.活性酸素種による光合成中の損傷はユビキチン・リガーゼにより認識され、そしてそれが損傷した葉緑体を分解用として標識付けする.この発見は,本質的に負荷の高いエネルギー産生過程を, 細胞が細胞小器官の代謝回転とどのように調和させているのかを、明らかにしている.(MY,nk,kh)
【訳注】
・ユビキチン・リガーゼ:タンパク質にユビキチン(他のタンパク質の修飾に用いられる76個のアミノ酸からなるタンパク質)を連結させる酵素
・細胞小器官:細胞内に存在する構造体で,ミトコンドリア,小胞体,ゴルジ体など幾つかが知られている.構造体ごとに一定の機能を持つ
・代謝回転:生体の構成物質が代謝による流入と流出によって絶えず交替している現象
Ubiquitin facilitates a quality-control pathway that removes damaged chloroplasts (Science, this issue p. 450)

インフラマソームが車輪を回す(Inflammasomes take the wheel)

細胞は、病原体を検知するため微生物リガンド結合を必要とする(Liu and Xiaoによる展望記事参照)。NOD類似受容体ファミリーへの結合は、インフラマソームと呼ばれる大きなタンパク質シグナル伝達複合体の構築の引き金を引き、感染細胞を死に導き、そして炎症メディエーターを産生する。Huたちと Zhangたちは低温電子顕微法を用いて、このような二つの受容体、 NAIP2 (これは微生物のリガンドに直接結合する)と NLRC4 (これは直接下流で機能するタンパク質)の構造的及び生化学的基礎を明らかにした。下流のインフラマソーム・シグナル伝達の自己伝播する活性化の機構は、その微生物リガンドに直接結合する NAIP4の一個の分子でまず始まる。NAIP4は次に、10ないし12個の NLRC4分子の活性化を触媒し、車輪に似た構造を形成する。(KU,nk,kh)
【訳注】
・インフラマソーム:細胞内の異物等による危険信号により炎症応答を活性化するタンパク質複合体
・炎症メディエーター:損傷した組織や炎症部位からの白血球やマクロファージから放出される生理活性分子
Structural and biochemical basis for induced self-propagation of NLRC4 (Science, this issue p. 399; see also p. 376)
Cryo-EM structure of the activated NAIP2-NLRC4 inflammasome reveals nucleated polymerization (Science, this issue p. 404; see also p. 376)

二次元超伝導体を作るための三次元の取り組み(A 3D approach to make 2D superconductors)

超伝導膜の厚みが、その電子対の典型的な大きさと同程度になると、その超伝導性は二次元(2D)体制に入る。通常、より薄い膜はより多くの無秩序性を有し、2D効果を単離することを困難にする。この制約を回避するため、Saitoたちは、三次元絶縁体である ZrNCl の表面に電荷担体を誘導した。この取り組みは、その結晶の単位格子より薄い純粋な超伝導層を作り出した。その超伝導状態は、純粋な系に対して予想されていた通り、 垂直磁場の印加に対して極端に敏感であった。(Sk,kh)
Metallic ground state in an ion-gated two-dimensional superconductor (Science, this issue p. 409)

ゆらいでいる真空を調べる(Probing the fluctuating vacuum)

量子力学によれば、真空は空っぽの空間ではない。不確定性原理によれば、粒子やエネルギーがほんの一瞬出現することが可能である。そのような真空または量子のゆらぎが存在することは知られているが、それらの証拠は間接的なものであった。Riekたちは、電磁放射の真空ゆらぎを直接に調べる、超高速光学系に基づく手法を提案している。(Sk,kh)
Direct sampling of electric-field vacuum fluctuations (Science, this issue p. 420)

メタン循環がさらに多様となる(Methane cycling gets more diverse)

微生物によるメタンの生産と消費は,地球上での炭素循環に大きな役割を果たしている.これらの過程は,動物の消化管から深海に至る広範な環境で起こり得るが,メタンの代謝は古細菌に限られる.Evansたちはメタゲノミクスを用いて,深部地下水のメタン生成菌から2つのほぼ完全な古細菌ゲノムを組み立てた(Lloydによる展望記事参照).この再構築された2つのゲノムは,最近記載されたBathyarchaeotaのメンバーで,以前知られていた全てのメタン代謝古細菌が属していた門のメンバーではない.(MY,nk,kh)
【訳注】
・メタゲノミクス:環境中から直接回収された微生物集団のゲノム混合物に関する研究
・古細菌:細菌や真核生物とは異なるドメインに属する生物群
Methane metabolism in the archaeal phylum Bathyarchaeota revealed by genome-centric metagenomics (Science, this issue p. 434, see also p. 384)

マウスの研究が男性の避妊薬につながるかもしれない(Mouse work may lead to male contraceptive)

望まない妊娠は世界的に大きな健康問題である.経口避妊薬は女性用には何十年前も前に開発されたが,男性用経口避妊薬は存在しない.Miyataたちは,マウスにおける精子特異的カルシニューリン酵素の遺伝子欠失や薬剤抑制が,オスの不妊を引き起こすことを示している(CastanedaとMatzukによる展望記事参照).カルシニューリンの阻害剤は2週間以内にオスの不妊をもたらしたが,薬剤投与の中止後1週間で生殖能力が回復した.精子特異的カルシニューリン複合体はヒトにも見いだされており,これを抑制することが,使用中止後の回復が可能な男性避妊薬を開発する1つの方策であるかもしれない.(MY,ok,nk)
【訳注】
・カルシニューリン酵素:脱リン酸化酵素の一種で,細胞内シグナル伝達に関与する
Sperm calcineurin inhibition prevents mouse fertility with implications for male contraceptive (Science, this issue p. 442, see also p. 385)

磁場プローブとしての星の振動(Stellar oscillations as magnetic probes)

星表面の磁場とは異なり、星の内部の磁場は、これまで、観測が困難なままであった。Fullerたちは赤色巨星の振動を利用することで、奥底までの磁場を探る方法を開発した。強い磁場は、ある振動モードを減衰させて、音波を星の中心領域内に閉じ込めることができる。恒星振動学の解析技法を用いて、この抑制現象は、いくつかの赤色巨星のコア磁場の推測に役立つ可能性がある。(Wt,nk)
Asteroseismology can reveal strong internal magnetic fields in red giant stars (Science, this issue p. 423)

動脈瘤を生じる前に止める(Stopping aneurysms before they start)

大動脈における平滑筋細胞は、細胞外基質に結合される。fibulin-4のような、細胞外基質成分の変異は、動脈瘤として知られる、大動脈管の拡大に導くことがある。Yamashiroたちは、平滑筋細胞中で fibulin-4を欠くマウスが、細胞外基質との結合を切断していたことを見出した。そのマウスはまた、機械感覚性タンパク質の異常な増加があり、コフィリンと呼ばれるアクチン細胞骨格の再構築酵素の活性を高めた。コフィリンの活性、或いはその上流の活性化因子の抑制は、それ故に動脈瘤の発生を防ぐことが出来るだろう。(KU,kh)
Abnormal mechanosensing and cofilin activation promote the progression of ascending aortic aneurysms in mice (Sci. Signal. 8, ra105 (2015))

薬剤は波に乗って組織の防壁を越える(Drugs ride waves across tissue barriers)

胃腸 (GI)管を通って移動する薬剤は、その吸収を制限し作用を弱める組織防壁に出会う。Schoellhammerたちはありふれた携帯超音波プローブを用いて、その防壁を一時的に壊し、薬剤が通過できるようにした。その超音波は、組織への損傷もなく、自然吸収より速くブタの結腸組織中に薬剤を送り込んだ。この方法はまた、マウスの結腸組織中への薬剤送達をも促して、急性大腸炎の治癒に導く。超音波介在の薬剤送達は、胃腸管における防壁課題に関する多面的解決を与えるであろう。(KU,ok,nk,kh)
Ultrasound-mediated gastrointestinal drug delivery (Sci. Transl. Med. 7, 310ra168 (2015))

HIVタンパク質はクラスリン被膜を利用する(HIV proteins exploit clathrin coats)

クラスリン被覆小胞は、トランス・ゴルジ網で膜と積荷の仕分けに関係する。クラスリン被膜はその積荷の選択において、AP-1と AP-2を含むアダプタータンパク質を,小さな膜輸送関連 GTPase Arf1の補助によって。Shenたちは、HIV-1 Nefタンパク質が、このプロセスにどう影響を及ぼしているかに興味を持った。彼らは Nefの存在下で解決された構造を拡張して、AP-1:クラスリン被膜が以前考えられたよりもはるかに複雑に組織化されていることを示した。更に、Arf1は、これらの被覆小胞において中心的な構造上に役割を果たしていた。HIV-1 Nefは、非常に巧妙に少しだけ構造を変更してクラスリン経路を自分自身の目的のために乗っ取るらしい。(KU,nk,kh)
HIV-1 Nef hijacks clathrin coats by stabilizing AP-1:Arf1 polygon (Science, this issue p. 10.1126/science.aac5137)

電子常磁性共鳴は一度に1個の原子(EPR, one atom at a time)

電子常磁性共鳴(EPR)は通常、不対電子を持つ原子の集団をアンサンブル平均として検知する。Baumannらはスピン偏極走査トンネル顕微鏡探針を用いて、酸化マグネシウム表面に吸着した単一の鉄原子のEPRスペクトルを極低温で測定した。この測定は原子軌道の対称性に依存し、同じ条件下でのコバルト原子に対して対しては信号が検出されなかった。(NK,KU,ok,nk,kh)
Electron paramagnetic resonance of individual atoms on a surface (Science, this issue p. 417)

ナノスケールの刑事(Detectives of the nanoscale) | 12.Detectives of the ナノスケール

多くの商品はナノメートル大きさの成分を含んでいる。これらのナノ材料は、環境中に放出されると有害なのだろうか?Valsami-Jonesと Lynchが展望記事で説明しているように、この質問に答えを出すのは容易ではない。ナノ粒子は、予想するのが困難な、かつ人体を含めた生物系による取り込みに影響を与えるような、劇的な変化を被る。実験計画について合意不足があるので、さらなる進展が妨げられている。最先端技術の応用が、設計されたナノ材料が使用上安全であるかどうかに関する、より明白な答えに向けての希望を持たせる。(KU,ok,nk,kh)
How safe are nanomaterials? (Science, this issue p. 388)

新たな自己抗体標的のAlu化(An Aluring new autoantibody target)

自己免疫とは、免疫系の究極の裏切り行為である。侵入してくる微生物から保護するために設計された細胞が、そうせずに、突然、宿主を標的にする。自己免疫疾患である全身性エリテマトーデスにおいては、抗体が、DNAと RNA結合タンパク質 Ro60などの宿主タンパク質を標的にする。Hungたちは、Ro60が内在性の Aluレトロエレメントに結合することを発見した。彼らは、ループス(狼瘡)及び高濃度の Alu転写物をもつ個人の血中に、抗体・Ro60・Alu RNA免疫複合体を検出した。Aluに結合した Ro60は、おそらく B細胞内の RNA結合性自然免疫受容体を刺激し、それら細胞に Ro60・Alu RNAを標的とし、かつ病気の原因となる炎症を駆動する抗体を作るように導く。(KF,KU,nk,kh)
【訳注】
・Alu:ゲノム中の反復配列の一種
・レトロエレメント:逆転写酵素(RNAを鋳型にしてDNAを合成する酵素)を持つ因子の総称
・ループス:結合組織の慢性炎症性疾患
The Ro60 autoantigen binds endogenous retroelements and regulates inflammatory gene expression (Science, this issue p. 455)

固体中のカイラル対称性を破る(Breaking chiral symmetry in a solid)

ディラック半金属は、二次元ではなく三次元であるにもかかわらず、グラフェンのような電子構造を有している。磁場中では、それらのディラックコーンは、左手系を担う一方と他方の右手系のフェルミ粒子の二つに分割される。もし電場が磁場に平行に印加されると、この「カイラル」対称性は破れるであろう(カイラル異常と呼ばれる現象)。Xiongたちは、ディラック半金属 Na3Biにおいて、この異常を観察した(Burkovによる展望記事参照)。輸送測定が予想された大きな負の磁気抵抗の検出に導き、これは二つの場が互いにほぼ平である場合のみに現れた。(Sk,nk,kh)
【訳注】
・ディラック半金属:伝導帯の下部と価電子帯の上部がフェルミ準位をまたいでわずかに重なり合ったバンド構造を有する物質
・ディラックコーン:フェルミ粒子(ディラック粒子)の特殊な状態におけるエネルギーと運動量(px、py)の関係グラフ(円錐状)
Evidence for the chiral anomaly in the Dirac semimetal Na3Bi (Science, this issue p. 413, see also p. 378)

花粉粒子の水分補給の測定(Metered rehydration in pollen grains)

乾燥した花粉粒子が繁殖可能な範囲に着地すると、それは、増殖と代謝の過程を活性化するために水分補給する。小さな植物、シロイヌナズナを調べて、Hamiltonたちは、花粉粒子が水分補給する際に原形質膜の膨張に応答する、機械感覚性イオンチャネルを同定した。このチャネルが傷ついたり、存在していなかったりすると、花粉粒子は、過剰なほど旺盛に出芽し、その後、破裂する様子を見せた。(KF,ok,kh)
Mechanosensitive channel MSL8 regulates osmotic forces during pollen hydration and germination (Science, this issue p. 438)

根の多機能な調節因子(Multifunctional root regulators)

成長中の植物の根は、根が伸びていくにつれて、その太さや枝分かれを決定する様々な発生上の段階を経験する。Moreno-Risuenoたちは、根の増殖の際に(細胞の)運命の変化を制御している一揃いの転写制御因子を同定したが、そのうちのいくつかは細胞間を移動する。その同じ一揃いの転写因子は、娘細胞の運命だけでなく、幹細胞の独自性とその増殖とを支配している。(KF,KU,kh)
Transcriptional control of tissue formation throughout root development (Science, this issue p. 426)

認知症の早期の兆候(Early signs of dementia)

現状、アルツハイマー病の治癒は存在しない。その理由の一つは、治療処置が遅すぎて、その時すでに、脳に不可逆的な損傷が生じているからである。かくて、この病気のまさしく初期段階で治療を効果的に開始するのを助けるバイオマーカーの開発は、高い関心の的である。Kunzたちは、アルツハイマー病の進行リスクをもつ個人と対照群の参加者において、嗅内野皮質における空間的ナビゲーションの相関脳活動を研究した。リスクのあるグループは、病気の開始の何十年も前から、(対照群とは)違った脳のシグナルを示し、仮想環境内でも違ったナビゲーションのやり方を示していた。(KF,nk,kh)
Reduced grid-cell-like representations in adults at genetic risk for Alzheimer's disease (Science, this issue p. 430)

ミオグロビンの超高速ダイナミクスを観察する(Observing ultrafast myoglobin dynamics)

酸素貯蔵タンパク質ミオグロビンは、その三次元構造が決定された最初のタンパク質であり、そしてタンパク質の構造が機能にどのように関係しているかを理解する為の牽引車の役を務めている。 Barendsらはフェムト秒短パルスの X線自由電子レーザを用いて、CO解離反応の2分の1ピコ秒内で生じる動きを直接観察した(Neutzeによる展望記事参照)。実験とシミュレーションとの組み合わせは、ミオグロビン内のヘム基の超高速の動きがピコ秒以下のタンパク質の動きに結びつき、それが次に大規模な動きに結びついていることを示している。(hk,KU,nk,kh)
Direct observation of ultrafast collective motions in CO myoglobin upon ligand dissociation (Science, this issue p. 445, see also p. 381)
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