AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 2 2015, Vol.350


雲の混合と水滴の変化(Cloud mixing and droplet evolution)

大気中の乱流によって雲がより乾燥した空気と混ざると、雲の水滴の一部は蒸発する。Bealsたちは大気中ホログラフィー画像撮影システムを開発し、空間的構造の変化とこれらの水滴の大きさを観察した(Bodenschatz による展望記事参照)。雲と雲を含まない空気との乱流による混合は、水滴の個数密度の劇的な変動を生じたが、水滴の平均粒径は基本的にそのままであった。この発見で、パラメータ化するのが難しかった雲(形成)過程をもっとうまく表現できるにちがいない。(Sk,ok,kh)
Holographic measurements of inhomogeneous cloud mixing at the centimeter scale (Science, this issue p. 87; see also p. 40)

衝突がいろいろな衝撃を与える(Making an impact in more ways than one)

6500万年前の大量絶滅事象とほぼ時を同じくして、大規模な噴火がインドのデカン・トラップの洪水玄武岩を形成した。Renneたちはその大きな火山地帯の形成時期を正確に調べ、その結果は、有名なチクシルーブ衝突と同時期に起きた火山活動の増加はそれと深い関係を有することを示唆している。火山活動が50万年後に緩やかになるまで、強い生態系の回復は不可能であったのかもしれない。(Uc,KU,nk)
【訳注】
・チクシルーブ衝突:白亜紀末の大量絶滅の有力な原因と考えられている, メキシコ・ユカタン半島への隕石衝突
State shift in Deccan volcanism at the Cretaceous-Paleogene boundary, possibly induced by impact (Science, this issue p. 76)

海洋の強靭性が啓示される(Resilience of the oceans revealed)

今世紀に、地球は海洋酸性化の大きな変化に直面するだろう.海洋酸性化は,海洋の生物多様性と生物地球化学に影響を及ぼす.溶解性有機物(DOM)は,およそ700キガトンの炭素を貯蔵しているその役割のために特に重要である.Zarkたちは,スウェーデンのフィヨルドに吊るされた大きなメソコスムを用いて,西暦2100年に経験しそうな酸性化への DOMの応答を評価した.励まされることには,著しく複雑な系の動態にも関わらず,酸性化したメソコスモス中のDOMは,対照群系の DOMとほとんど異なることはなかった.私たちは必ずしも窮地から脱したわけではないが,今世紀に私たちの過剰な CO2発生が作りだすであろう酸性化の損傷に,少なくとも,DOMに蓄えられた炭素が耐える可能性がある.(MY,nk,kh)
【訳注】
・溶解性有機物(DOM):水や海水に溶解している有機炭素物質
・メソコスム:被験物質の生態系への影響を調べるため,自然環境の一部を囲い込むなどして作られた管理された生態系空間のこと
Effects of ocean acidification on marine dissolved organic matter are not detectable over the succession of phytoplankton blooms(Sci Adv. 10.1126.sciadv.1500531 (2015))

前例なし(No precedent)

人間活動が大量絶滅事象を引き起こしつつある。この事象の強さは、人間の時代で前例のないものであるが、地球の歴史上、幾つかの匹敵する事象が存在していた。Roopnarineと Angielczykは、最も大きなものの一つであるペルム紀-三畳紀の絶滅を検討した(Marshallによる展望記事参照)。群集の構造と多様性が、この事象を通して安定性の重要な予言指標であった。更に、絶滅はランダムに起きるのではなく、小型種がより絶滅しやすかった。このパターンは、今日の絶滅に見られるパターンと正反対である。このように、今日の人間活動で促進される絶滅は、以前の破局的な絶滅と基本的に異なる。(KU,nk,kh)
Community stability and selective extinction during the Permian-Triassic mass extinction (Science, this issue p. 90; see also p. 38)

動機づけが神経細胞損傷の回復を助ける(Motivation helps reverse neuronal damage)

動機づけは、神経学的損傷後の回復の手助けに基本的役割を果たす。Sawadaたちは、サルにおいて脊髄損傷後の運動制御に関する、脳の動機づけセンターである側坐核の潜在的寄与を評価した。損傷後の初期相の際に、側坐核の活性が運動成績の回復に重要だった。(KU)
Function of the nucleus accumbens in motor control during recovery after spinal cord injury (Science, this issue p. 98)

核への門を構築する(Building a gate to the nucleus)

核膜孔複合体は、細胞質と核との間の出入り口を形成する (Ullman and Powersによる展望記事参照)。Stuweたちは、構造的・生化学的・機能的解析を結びつけて、真菌の核膜孔内側の環を作るタンパク6分子複合体の構造解明した。これは、後生動物で見出された Nup62複合体に相同な中央の三量体複合体を含んでおり、それが核膜孔内側の環複合体に組み込まれている。Chugたちは、後生動物の三量体の Nup62複合体構造を報告している。いずれの研究も、核膜孔が膨れて狭窄するというモデルを支持していない。その代わりに、彼らは堅い核膜孔を示唆し、FG反復と呼ばれる柔軟領域がその流路をふさぎ、そして積荷を運ぶ受容体が横切ることのできる障壁を形成する。(KU,kh)
Architecture of the fungal nuclear pore inner ring complex (Science, this issue pp. 56; see also p. 33)
Crystal structure of the metazoan Nup62-Nup58-Nup54 nucleoporin complex (Science, this issue pp. 106; see also p. 33)

まぶしさの中から引き上げられた太陽系外惑星(An exoplanet extracted from the bright)

若い星の周りの木星状の太陽系外惑星を直接的に画像化することは、我々の太陽系がどのように形成されたかに関する一瞥を与える。若い星は明るいため、Gemini Planet Imager (GPI)のような次世代の装置が必要である。MacintoshたちはGPIを用いて、51 Eridani という若い星の周りを回る木星状の惑星を発見した(Mawetによる展望記事を参照のこと)。その惑星、51 Eri bには、メタンが存在する兆候をもち、おそらくは、これまで直接的に画像化された太陽系外惑星の中では最も小さいものである。これらの惑星の発見は、太陽系の起源を理解するための扉を開くとともに、次世代惑星イメージングの新しい時代の夜明けを告げるものである。(Wt,nk,kh)
Discovery and spectroscopy of the young jovian planet 51 Eri b with the Gemini Planet Imager (Science, this issue p. 64; see also p. 39)

ヒト T細胞における遺伝子編集を改善する(Improving gene editing in human T cells)

遺伝子編集は、ヒト疾患を治すための期待を抱かせるが、効率の低さが障害となっていた。これに取り組むために、Satherたちはヒト T細胞における CCR5座位を壊し置換するためのより効率的な方法を考案した。この方法は、HIVクリアランスを改善する既知の手順である。アデノ随伴ウイルスベクターの血清型 6は、ヒト初代 T細胞へのヌクレアーゼと修復鋳型の配送に特に良く作用し、効率的な遺伝子編集速度と低毒性を達成した。彼らが用いたヌクレアーゼ (megaTAL)は、相同修復を行ない(非相同的な末端結合修復ではなく)、それゆえに標的座位を除去し置換することができた。その座位に挿入されると、キメラ抗原受容体と HIV融合阻害薬は、マウスにおいて HIV感染症を改善した。(KU,nk,kh)
Efficient modification of CCR5 in primary human hematopoietic cells using a megaTAL nuclease and AAV donor template (Sci. Transl. Med. 7, 307ra156 (2015))

一時的な重合体架橋はもっと優れる(Transient polymer links are better)

大変長い重合体分子は,せん断流中でで伸張する.この分子鎖の秩序化で、低分子溶媒の粘度を低下させる.このような重合体分子鎖はまた,溶媒の爆発的散布中の噴霧化の危険を減らす.しかしながら,長鎖高分子は通常の燃料取り扱い中に劣化して,くみ上げ装置を目詰まりさせる. Weiたちはテレキーレック高分子(両末端に反応性基を有する鎖長の短い高分子)を用いて,有機溶媒中で極端に長い分子鎖を作製した(JaffeとAllamによる展望記事参照).形状変化可能なこれらの重合体は,共有結合性の長鎖高分子の持つ弱点がない,より優れた燃料安全性の可能性を提供する.(MY,ok,kh)
Megasupramolecules for safer, cleaner fuel by end association of long telechelic polymers (Science, this issue p. 72; see also p. 32)

食べ物が宿主の身体と腸の細菌健康度を作る(Diet shapes host and gut microbe fitness)

人間の腸内微生物相は極めて多様で,宿主の代謝と免疫に多重の影響を及ぼす多くの菌株変異体を持っている.これらの機能の幾つかを明確にするため,Wuたちは,これがなければ消化困難な食物繊維を処理する能力で知られているバクテロイデス種変異体の検体集を作った.この変異体を含む 既定の腸内微生物相群落でコロニー化された無菌マウスに,脂肪と繊維をさまざまな比率で含む特定の餌が与えられた.特定の代謝経路に関連する遺伝子,菌株,菌種が同定された.餌の変動に対する微生物群落の変化応答が、菌種をそのプロバイオティックや治療可能性に関して特徴づけるためにうまく処理された.(MY,KU,nk,kh)
【訳注】
・バクテロイデス:腸内に最も多く存在する常在菌
・プロバイオティック:乳酸菌などの体に良い影響を与える細菌
Genetic determinants of in vivo fitness and diet responsiveness in multiple human gut Bacteroides (Science, this issue p. 10.1126/science.aac5992)

水分子はどのようにしてプロトンを共有するのか?(How well does water share its protons?)

化学者たちは、酸が分子レベルでどのような構造をとっているのかを解明しようとして、何世紀も費やした。液体中の水分子が余分なプロトンを取り込んだ状態であることは、今日明らかである。しかし、プロトンが個々の水分子の上に乗っかっているのか(Eigen構造)、或いは同時に2個の水分子の間で共有されて取り込まれている(Zundel構造)かはそれほど解明されていない。Thamerらは、通常は行わないほどに広い波長幅での中間赤外時間分解振動分光スペクトルを測定して、伸縮モードと屈曲モードを同時に観察した。これまでの予測と異なり、Zundel構造がより顕著であることを示している。(NK,KU,nk,kh)
Ultrafast 2D IR spectroscopy of the excess proton in liquid wate (Science, this issue p. 78)

人間の脳における個人化したニューロン変異(Individualized neuronal mutations in the human brain)

人間の脳のニューロンは何十年も存続し、計算機能やシグナル伝達機能を担うことができる。Lodatoたちは、死後のヒト脳から試料として得た個々のニューロンの DNAを分析し、個々のニューロンが体細胞変異を獲得することを発見した(Linnarssonによる展望記事参照)。変異の仕組みには、DNA複製よりはむしろ遺伝子転写が関与していた。つまり、有糸分裂後のニューロンが、自分自身の最悪の敵であるようだ。神経機能のために利用される遺伝子がまさに、体細胞変異のリスクを最ももたらす遺伝子なのである。(KF,kh)
Somatic mutation in single human neurons tracks developmental and transcriptional history (Science, this issue p. 94; see also p. 37)

遺伝子抑制による記憶固定(Memory consolidation by gene suppression)

脳に持続性の記憶を蓄えるには、動的な遺伝子調節が関与している。しかしながら、記憶形成の際に制御されている標的遺伝子についての我々の知識は、限られている。Choたちは、RNA配列決定とリボソームのプロファイリングを用いて、記憶形成前後におけるマウスの海馬内での転写及び翻訳のレベルを比較した。基本条件の下で、リボソームタンパク質翻訳領域遺伝子の、予想外の翻訳抑制があった。学習後早期に、特定の遺伝子が翻訳抑制された。その後で、ある遺伝子グループの抑制が、エストロゲン受容体αのシグナル伝達によってもたらされた。つまり、海馬内の抑制の仕組みは、記憶固定の際に主要な役割を演じているらしい。(KF)
Multiple repressive mechanisms in the hippocampus during memory formation (Science, this issue p. 82)

GABAを作る代替経路(An alternative way of making GABA)

中脳のドパミン作動性ニューロンは、抑制性の神経伝達物質 GABAとドパミンの双方を遊離する。中枢神経系において、GABA合成は通常、2つのグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD65とGAD67)によって仲介される。Kimたちは、中脳のドパミン作動性ニューロンが、GAD65と GAD67に依存しない、異なる、進化的に保存された GABA合成経路を利用していることを発見した。その細胞は、ジアミン酸化酵素とアルデヒド脱水素酵素 1a1を介してプトレシンから GABAを合成する。この経路によって合成された GABAは、共遊離された GABAのおよそ70%を占める。(KF,KU)
Aldehyde dehydrogenase 1a1 mediates a GABA synthesis pathway in midbrain dopaminergic neurons (Science, this issue p. 102)

TGF-β信号への応答増強(Increasing the response to TGF-β signals)

トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)は、細胞表面受容体に結合し、上皮から間充織への遷移の引き金を引くサイトカインである。このプロセスは線維症として知られる病理学的瘢痕を促進し、癌の進行と転移に寄与する。Budiたちは、グルコース濃度の高さに応答して遊離され、糖尿病治療に用いられるインスリンが、マウスの胚性線維芽細胞と上皮細胞の表面への TGF-β受容体の輸送を増強していることを発見した。この結果は、糖尿病患者が線維症になりやすい理由や、高血糖とインスリンが癌の進行と転移をどう増強しているか、を説明する助けになる可能性がある。(KF,kh)
The insulin response integrates increased TGF-β signaling through Akt-induced enhancement of cell surface delivery of TGF-β receptors (Sci. Signal. 8, ra96 (2015))

より優れた小さな接点を作る(Making better small contacts)

半導電性単層カーボン・ナノチューブは、より小さなトランジスタを作るための、シリコンに対する大き さと導電率の優位性を潜在的に有している。しかしながら、金属の電気接点の大きさが小さくなると、それによる電気抵抗が非実用的な値に増大してしまう。Caoたちは、モリブデン膜を半導電性カーボンナノチューブと反応させて、炭化物の接点を作った。これらの接点の電気抵抗は、10ナノメーター規模の接点でも低いままであった。(Sk,kh)
End-bonded contacts for carbon nanotube transistors with low, size-independent resistance (Science, this issue p. 68)
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