AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 11 2015, Vol.349


コオロギが音で通信する方法(How crickets communicate by sound)

音のパターンは、音で通信するすべての動物におけるコンピュータ的課題を提供する。Schoneichは、メスコオロギによるオスの求愛の鳴き声の処理方法を解明した。そのメスの脳内のたった5個のニューロンの局所的ネットワークが、呼び声へのメスの行動応答の選択性に合う応答同調機能を持つ聴覚の特徴検出回路を形成する。(KU,ok,kh)
An auditory feature detection circuit for sound pattern recognition. (Sci. Adv. 10.1126/ sciadv.1500325 (2015))

超伝導の矩形格子中の渦糸(Vortices in a superconducting egg crate)

平衡相転移の近傍では、互いに類似点を持たない物理系が、非常に似た振る舞いをすることがある。たとえば、磁気転移での熱力学関数は、みかけ上無関係な気体ー液体の相転移と同じスケーリング則に従う。そのような普遍性は、非平衡相転移においても存在するだろうか? Poccia たちは、金属表面に島状の超伝導部分の正方配列を作成した。彼らは、島の間に整列する渦糸を生じさせる磁場を与えて、渦糸がその位置に貼りついた状態から移動可能な状態への転移を誘発させた。彼らは、いくつかの平衡転移に適用される、同じスケーリング挙動を観察した。(Sk,ok,nk)
【訳注】
・渦糸:超伝導体に一定以上の磁場が作用した場合に生じる量子化された磁束の通り道
・スケーリング挙動:物理量の変換関係式が、変数のスケールを変化させても不変であるような現象の挙動
Critical behavior at a dynamic vortex insulator-to-metal transition (Science, this issue p. 1202)

スプライソソームの構造と機能(Structure and function of the spliceosome)

真核細胞の核中でDNAからRNAが転写される場合,最初の転写産物はスプライスして取り除く必要がある非コードイントロンを含んでいる.このスプライシングは複合巨大分子装置であるスプライソソームにより行われ,これは5つの核内低分子 RNAと100以上の関連タンパク質からなる.今回,2つの論文が酵母スプライソソームの構造と機能に対する洞察を明らかにしている.Yanたちは,電子顕微鏡で決定された4つの RNAと37のタンパク質からなるスプライソソーム複合体の高分解能構造について記載している.Hangたちは触媒部位に注目し,タンパク質成分が,転写された RNAをどのように係留し,どのように十分に屈曲性を持たせ,スプライシング反応の触媒に関わる RNA部品を配送しているのかについて記述している.(MY)
  【訳注】
・転写:転写は,DNA→メッセンジャーRNA前駆体(pre-mRNA)→メッセンジャーRNA(mRNA)の順で行われ,最初の転写産物はpre-mRNAとなる.DNAは,目的とするタンパク質のアミノ酸に対応する塩基配列(エクソン)に該当しない部分(イントロン)を含んでいる
・スプライシング:pre-mRNAからの転写でmRNAが作られる際に,イントロン部が除かれエクソン部同士の結合になること
Structure of a yeast spliceosome at 3.6-angstrom resolution (Science, this issue pp. 1182 and 1191)

植物ミヤオウソの知恵を移す(Transplanting the wisdom of the mayapple)

トポイソメラーゼ阻害剤であるエトポシドは、様々な癌治療に用いられる。しかしながら、エトポシドを手に入れるのは容易ではない。その前駆物質は、非常にゆっくりと成長する植物ミヤオウソから得られる。Lauと Sattelyは生物情報科学、異種性酵母発現、及び反応解析を用いて、ミヤオウソにおけるその前駆物質を作る経路を解明した(O'Connorによる展望記事参照)。彼らは次に、植物タバコにその完全な生合成経路をうまく移植した。(KU,nk,kh)
【訳注】
・エトポシド:北米原産の植物アメリカミヤオウソの根茎に含まれる化学物質からの誘導体。DNAの切断後にポリイソメラーゼと複合体を形成してDNAの再結合を阻害する
Six enzymes from mayapple that complete the biosynthetic pathway to the etoposide aglycone (Science, this issue p. 1224; see also p. 1167)

取り込み速度の上昇(Uptake uptick)

地球温暖化は、南極海による大気中 CO2の取り込みを弱めたのだろうか? Landschutzerたちは、否といっている(Fletcher による展望記事を参照)。以前の研究は、南極海の炭素吸収源としての強さが、1990年代を通して低下したことを示唆していた。このことは、このような減少傾向が大気中 CO2の上昇を激化させ、それゆえ、地球表面の大気温度と海洋の酸性度を上昇させるだろうという懸念を引き起こした。より新しいデータは、過去10年間において南極海の炭素吸収が再び強まったことを示している。この現象は炭素吸収プロセスの動的な特性を良く表すと同時に、以前の減少傾向に関する不安のいくばくかを緩和するものである。(Wt,KU,nk,kh)
The reinvigoration of the Southern Ocean carbon sink (Science, this issue p. 1221; see also p. 1165)

コバルト触媒を改良する(Improving cobalt catalysts)

複数の分子触媒をつなぎ合わせることは,これらの触媒の精製や再使用をより容易にする実証済みの方法である.今回 Linたちは,共有結合性有機骨格(COF)構造からなる集合体が,基本的な触媒性能も向上できることを示している.彼らはコバルト・ポルフィリン複合体を,COFに対する構成要素として用いた.その結果としての物質は,水系でCO2のCOへの電気化学的還元反応において活性の大きな向上を示した.(MY,kh)
【訳注】
・COF構造:自己組織化によって組みあがり,供給結合で出来たジャングルジム状の骨格を持つ構造
Covalent organic frameworks comprising cobalt porphyrins for catalytic CO2 reduction in water (Science, this issue p. 1208)

介在ニューロンの特性を変える(Changing properties of interneurons)

神経細胞(ニューロン)の独自性は発生早期に決定される.ひとたびニューロンが独自性を導入しおわると,この独自性は一生を通じて不変のままであると考えられている,しかしながら,Dehorterたちは,急速に発火する(fast-spiking)介在ニューロンの特性を制御するメカニズムを調べた.転写因子 Er81が,カリウムチャンネルサブユニットの発現を制御することによって,これらの細胞の正常な特性に極めて重要であることを彼らは見出した. (MY,KU,kh)
【訳注】
・介在ニューロン:感覚ニューロンから運動ニューロンへと刺激を伝達する神経細胞
・急速に発火する(fast-spiking)介在ニューロン:抑制性の信号伝達を行う神経細胞で,非常に高い頻度で発火し続けることができる特徴を持つ
・カリウムチャンネル:細胞膜中に存在し,タンパク質から構成され,カリウムイオンを選択的に透過させる小孔構造
Tuning of fast-spiking interneuron properties by an activity-dependent transcriptional switch (Science, this issue p. 1216)

ウイルスが抗ウイルス媒介物質を詰め込む(Viruses pack antiviral mediators)

ウイルスはしばしば宿主タンパク質を利己用に奪い取り,宿主細胞をウイルス粒子放出装置にしてしまう.しかしながら,今回 Bridgemanたちと Gentiliたちは,宿主が反撃できる陰険なやり方について報告している(Schogginsによる展望記事参照).細胞質 DNAを感知する自然免疫受容体である、酵素 cGASを発現した宿主細胞は,cGASが産生した二次メッセンジャーcGAMPをウイルス粒子に詰め込んだ.次にウイルス粒子が cGAMPを隣接細胞へと移すことができたら,これらの新たに感染した細胞で抗ウイルス遺伝子プログラムを誘発させることになる.抗ウイルス媒介物質のそのような伝達は,ウイルス伝播を抑制する免疫応答を高速化する助けとなるかもしれない.(MY,KU,kh)
【訳注】
・二次メッセンジャー:一次メッセンジャーによる細胞表面の受容体への刺激を細胞内部に伝える細胞内物質
・cGAMP:I型インターフェロン(I型IFN)遺伝子を発現させてI型IFNを産生させるメカニズムの一端を担う物質.I型IFNの産生はウイルス複製の抑制をもたらす
Viruses transfer the antiviral second messenger cGAMP between cells (Science, this issue pp. 1228; see also p. 1166)
Transmission of innate immune signaling by packaging of cGAMP in viral particles (Science, this issue pp. 1232; see also p. 1166)

癌の分子モータを止める(Shutting off cancer's motor)

グリオブラストーマは、治療が難しい一般的な、かつ進行性脳腫瘍である。それによる致死の要因となる2つの機構は、腫瘍細胞の増殖と正常な脳組織への腫瘍細胞の侵入である。これらの二つのプロセスは、通常、独立であると考えられているが、Venereらは分子モーター KIF11が両方の役割を果たすことを示している。小分子による KIF11の働きの抑制は、グリオブラストーマ細胞の増殖と侵入を妨害し、そしてその病気のマウスモデルにおいて生存を延ばした。ヒトの使用に安全な KIF11阻害剤が入手可能であることと、以上の知見とを合わせると、 KIF11 はグリオブラストーマ治療に対する有望な治療標的であると看做せる。 (hk,KU,nk)
【訳注】
・グリオブラストーマ(Glioblastoma):膠芽腫(こうがしゅ)と訳されている。脳の神経細胞を支える神経膠細胞(神経系を構成する神経細胞ではない細胞)が腫瘍化したもの
。 ・分子モータ(molecular motor):細胞内で何らかのエネルギーを機械的な動きに変換する分子。
The mitotic kinesin KIF11 is a driver of invasion, proliferation, and self-renewal in glioblastoma (Sci. Transl. Med. 7, 304ra143 (2015))

ヒトゲノムにおける遺伝子重複と遺伝子欠失(Duplications and deletions in the human genome)

遺伝子重複と遺伝子欠失が、ヒトの間の遺伝子やゲノム座位のコピー数の変動をもたらすことことがある。そうした変異は、進化のパターンを明らかにすることがあるし、ヒトの健康に密接な関係をもつことがある。Sudmantたちは、125のヒト集団から得られた236人の個別のゲノムにわたって、コピー数の変動を調べた。遺伝子欠失はより強く淘汰されていたが、一方遺伝子重複はより強く集団特異的な構造を示した。興味深いことに、オセアニア集団は、古代のデニソワ人の系列に起源をもつことを要求する大きな遺伝子重複を保持している。(KF,KU,nk)
【訳注】
・デニソワ人:ロシア・アルタイ地方のデニソワ洞窟に約4万1千年前に住んでいたとされるヒト属の個体および同種のヒト属の人類(ウィキペディアから)
Global diversity, population stratification, and selection of human copy-number variation (Science, this issue 10.1126/science.aab3761)

わずかに相互作用したキュービットを作って、操る(Making and manipulating a weak-link qubit)

超電導体においては、単独粒子も超電導ギャップよりも小さいエネルギーを持つことはできない。非超電導体薄膜を介して二つの超伝導体が弱く相互作用した状態にすると、準粒子が超伝導体ギャップ内に準位を占有することができる(アンドレーフ束縛状態(ABSs)と呼ばれる)。Janvierらはその構造を超電導アルミニウムから作製し、ABSs対の準位占有を操作した。彼らは、ギャップ内の 2つのエネルギー・レベル間で占有数が振動して一種のキュービットを形成しているのを観測した。彼らはそれにアンドレーフ・キュービットという名を与えた。この結果は量子情報処理応用の道を切り開くかも知れない。(NK,KU,nk,kh)
Coherent manipulation of Andreev states in superconducting atomic contacts (Science, this issue p. 1199)

破断に向かって都合よく配向した断層(Faults well oriented for failure)

一組のトランプは上から押えている間は、動かないままであるが、ずらすと容易に分離する。同様に、地質学的断層が裂ける容易さは、 応力の大きさと方向に対する断層の幾何学的配置に依存する。Hardebeckは、世界的に沈み込み帯において断層が破断に都合よく配向していて, 低応力環境を 示すことを見出している (Burgmannによる展望記事参照)。沈み込みゾーンの断層は強力な地震を開放する。応力状態に関するこの推定は、沈み込み帯の破壊的な地震を引き起こし得る発生機序に対し拘束条件を課するものである。(KU,ok,nk,kh)
Stress orientations in subduction zones and the strength of subduction megathrust faults (Science, this issue p. 1213; see also p. 1162)

染色体のダンスにおけるミスステップ(A misstep in the chromosomes' dance)

ほとんどの癌細胞の染色体は不安定であり、破壊や再編成を被りやすい。そうした異常は、正常な遺伝子調節プログラムを動揺させ、癌の進行に寄与する。Tannoたちは、染色体不安定を示すいくつかのヒト細胞系統を調べた。相同染色体は、細胞分裂の際に互いにうまく対形成しなかった。それら染色体は、特定の特異的染色質の共有結合的修飾である、ヒストンH3リジン9のメチル化および/または染色体セントロメアにあるタンパク質「接着剤である」コヒーシンを失っていた。どちらの損失も、適正な染色体対合と分離に必要な、shugoshin様タンパク質2の結合を妨害した。(KF,kh)
【訳注】
・セントロメア:染色体の長腕と短腕が交差する部位。 染色体のほぼ中央に位置する ・コヒーシン:複製された染色体を娘細胞に均等に分離するために必須な過程で中心的な役割を果たすタンパク質複合体
The inner centromere-shugoshin network prevents chromosomal instability (Science, this issue p. 1237)

RNF43は核においてWntを停止させる(RNF43 halts Wnt at the nucleus)

Wntシグナル伝達は、βカテニンの転写活性の引き金を引くものだが、発生においてきわめて重要であり、また、癌においてしばしば再活性化される。Loreggerたちは、RNF43が核膜において、βカテニンのパートナーであり、転写制御因子である TCF4を隔離することによって、Wnt-βカテニンのシグナル伝達を抑制することを発見した。Wntシグナル伝達は、ヒト胃腸の腫瘍に発見されるのと同様な変異を持つ RNF43の型を発現したカエルの胚で増加した。さらに、野生型の RNF43の同時発現は、βカテニンの恒常的活性変異体を持つ細胞においてさえ、Wntシグナル伝達を抑制した。(KF,KU)
The E3 ligase RNF43 inhibits Wnt signaling downstream of mutated β-catenin by sequestering TCF4 to the nuclear membrane (Sci. Signal. 8, ra90 (2015))

単細胞生物間の共生(Symbioses between single-celled organisms)

微生物と植物や動物の間での、長期にわたる相互にとって有益な関係の例は豊富にある。対照的に、単細胞のパートナー間でのそうした共生の例は、ほんの僅かしか知られていない。展望記事で、Zehrは、海洋系や淡水系における単細胞の共生についての最近の報告に注目している。両方の事例で、共生状態にあるラン藻のパートナーは、ずいぶん縮小したゲノムをもち、それゆえ、その共生相手の生物をいつも運んでいないといけない。こうしたシステムは、小器官の進化に似ており、真核細胞の小器官形成をもたらした進化的事象の理解に役立つ可能性がある。(KF,kh)
How single cells work together (Science, this issue p. 1163)

時間に干渉する(Interfering with time)

光や粒子が二重スリットを通過することで生じる干渉パターンは、その効果を説明したり理解したりしようとする際の解釈の微妙さと対照的に、単純な実験である。例えば、光や粒子が「どちらの経路」を進むかを決定することが、干渉パターンを消滅させることができる。Margalitたちは、時間を用いた干渉法の新たな試みを示している(Arndtと Brandによる展望記事参照)。時間(すなわち、低温原子凝縮 の内部状態)は、干渉可能な状態で分割され、干渉するよう一緒に戻された。クロック刻みの半分を異なる速度で刻ませると、干渉パターンに変化が生じた。おそらく、その時間が「どちらの経路」かを知る証拠になることの結果である。その時間が「どちらの経路」かを知る証拠になるだろう。(Sk,kh)
A self-interfering clock as a”which path ”witnes (Science, this issue p. 1205; see also p. 1168)
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