AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 4 2015, Vol.349


大きければ大きいほど、崩壊も激しい(The bigger they are, the harder they fall)

2015年4月25日に、マグニチュード7.8の Gohkha地震がネパールを襲った。この地震では、数千人の死者が出て、大きな被害をもたらした。Galetzkaたちは、この地震を引き起こした断層がどのように破壊したかを決定した。その破砕は、 断層に沿って東方向におよそ6秒間以上動いた20km幅のなめらかな滑りパルスを生じた。断層破砕のこのような特性により、通常の住居への損傷を限定的なものにしたが、高層の構造物を崩壊させる揺れが生じた。(Wt,KU,ok,nk,kh)
Slip pulse and resonance of the Kathmandu basin during the 2015 Gorkha earthquake, Nepal (Science, this issue p. 1091)

形質細胞と多発性骨髄腫を抑制する(Restraining plasma cells and multiple myeloma)

形質細胞は、抗体を分泌する分化した B細胞である。多発性骨髄腫の患者は、過度に多くの形質細胞を持っている。アダプター TRAF3をコードしている遺伝子の変異が、多発性骨髄腫の幾つかの病例と連動している。Linたちは、B細胞中で TRAF3を欠いたマウスの特徴を解析した。これらのマウスはより多くの形質細胞を有し、それらマウスの B細胞はインターロイキン6 (IL-6)(形質細胞の発生と生存において重要なサイトカインである)に対してより敏感に反応した。正常マウスの B細胞において、TRAF3は、 IL-6受容体の下流の転写制御因子の不活性化を促進するのだが、このことは、TRAF3が IL-6シグナル伝達を抑制することで形質細胞の数を制限することを示唆している。(KU,nk,kh)
【訳注】
・形質細胞:抗原により増殖したB細胞の一部が完全に増殖を停止し、形質細胞に分化する。
・アダプター:制限された配列部位を持つ短い合成DNA断片
The adaptor protein TRAF3 inhibits interleukin-6 receptor signaling in B cells to limit plasma cell development (Sci. Signal. 8, ra88 (2015))

歓迎される鋼の新しいコンプレクション(Welcoming steel's new complexion)

金属は、優れた強度と延性を含む、いくつかのよく知られた特性を有している。これらの特性を制御するには、しばしば合金中の構造欠陥の数や種類を変化させることを必要とする。Kuzminaたちは、マグネシウムを多く含有する鋼において、線状コンプレクションとよばれる新しい種類の欠陥を作り出した(Kaplanによる展望記事参照)。このコンプレクションは、線状欠陥の内部に位置する、化学的および構造的に全く別の領域であり、転位層によって本体素材から隔離されている。この発見は、開発目標とする欠陥を定め たり、合金開発を改善する ための新しい道筋を示唆している。(Sk,kh)
【訳注】
・コンプレクション:粒界の界面状態を相として表現した用語
Linear complexions: Confined chemical and structural states at dislocations (Science, this issue p. 1080; see also p. 1059)

変異がリガンド特異性を切り替える(Mutation switches ligand specificity)

進行性骨化性線維異形成症 (POP)は軟部組織の部位に骨成長を引き起こす,めったに発生しないが命取りの遺伝子疾患である.その原因となる,骨形成タンパク質 (BMP)の受容体 ACVR1の変異が,受容体の活性を強め,骨形成を引き起こすと考えられている.今回,Harsellたちは違うメカニズムを示唆している.彼らは,変異受容体(mACVR1)がアクチビンに応答するすることを見出した.本来ならアクチビンは BMPが ACVR1に結合することを阻止する.mACVR1が発現している成体のマウスは,内在性アクチビンの刺激を必要とする異所性骨化を発生するところだった.アクチビンを浸した小スポンジは,mACVR1マウスに埋め込まれると骨化させ,アクチビンに対するモノクローナル抗体で処置した動物は保護された.この普通とは違うメカニズムは,FOP患者の骨形成が、何故アクチビンを誘発する組織損傷によって引き起こされるかを説明するものかも知れない.(MY,KU,kh)
【訳注】
・リガンド:特定の受容体に特異的に結合するホルモンや神経伝達物質などの物質
・受容体:細胞膜や細胞内部に存在し,リガンドと結合することで細胞に応答を誘起するタンパク質
・アクチビン:胚が体の器官の細胞へと分化する際の分化誘導に関わるタンパク質
・モノクロナール抗体:抗原の複数の部位に作用する性質を持つ通常の抗体に対して,モノクロナール抗体は抗原のある部位にのみに作用する性質を持つ
ACVR1R206H receptor mutation causes fibrodysplasia ossificans progressiva by imparting responsiveness to activin A (Sci. Transl. Med. 7, 303ra137 (2015))

ケシ畑なしのオピオイドに向かって(Toward opioids without poppy fields)

畑で栽培されるケシに頼らずにオピオイドを製造できるなら,大変有益だろう.合成による製造は,副作用のより少ない,さらに効果的な薬剤を製造できる可能性がある.今回、Galanieたちは酵母を遺伝子操作し,出発物質の砂糖からオピオイド化合物であるテバインとヒドロコドンを作り出すようにした(Nielsenによる展望記事参照).現在までの生産量は,商業的に必要であろう量に比べると僅かである.今後,最適化とスケールアップが次の挑戦となる.(MY,nk,kh)
【訳注】
・オピオイド:モルヒネのような鎮痛作用を有する物質の総称
Complete biosynthesis of opioids in yeas (Science, this issue p. 1095; see also p. 1050)

牧畜がどうやってアレルギーから守るのか(How farming protects against allergies)

酪農場で育つ人たちは,喘息やアレルギーを発生することがまずない.恐らくこれは,子供時代に彼らは細菌成分を含む空気を吸っていて,その細菌成分が免疫系の反応性全体を弱めるためである.Schuijsたちは,マウスを細菌内毒素に慢性暴露させてからアレルギー刺激を与えた.実際この方法は,アレルギー応答を発生することからマウスを守った.防御は特定の酵素 A20に依っていた.人間では,A20の変異形が,酪農場で育つ子供たちの喘息やアレルギーにかかりやすくなることと相関している.(MY,kh)
【訳注】
・内毒素:細菌が作る毒素のうち,通常は細胞壁に付着して細菌外には積極的には遊離されず,細菌が崩壊したときに遊離される毒素
Farm dust and endotoxin protect against allergy through A20 induction in lung epithelial cells (Science, this issue p. 1106)

超構造系を分配するプラスミド(Plasmid partitioning superstructure system)

分裂細胞間にDNAを分配し、配分することは、あらゆる生命のドメインにおいて決定的に重要である。原核生物が生き残るためには、ゲノム DNAと同様にある種のプラスミドを配分する必要がある。Schumacherたちは、原核生物スルフォロブス(Sulfolobus)の対になったプラスミドを分離する分配システムを研究した。そのシステムは、3個のタンパク質から成る。AspAはプラスミドDNAに沿って広がり、タンパク質・DNAの超らせんを作る。ParAモータータンパク質は、ParBタンパク質を通してタンパク質・DNAの超らせんに結合し、その構造はタンパク質を分離する真核生物のセントロメアに構造的類似性を持っている。(KU,nk,kh)
【訳注】
・プラスミド:細胞内で染色体と別に存在し、子孫に安定に伝達される遺伝因子の総称
・セントロメア:動原体ともいうが、細胞分裂期の染色体における一次狭窄を作る領域
Structures of archaeal DNA segregation machinery reveal bacterial and eukaryotic linkages (Science, this issue p. 1120)

鉄がほんのわずかのパラジウムに力を与える(Iron lends power to traces of palladium)

パラジウム (Pd)は、化学触媒の主要材料である。この貴金属には炭素-炭素(C-C)結合を作るという特別な技がある。Hanadaらは、鉄と ppmレベルの Pdを特殊な手法で配合すると、 C-C 結合を作る鈴木カップリング反応触媒として機能することを報告している。界面活性剤を加えることで、同反応を水中でも行うことができた。この手法は、製薬や農芸化合物の合成で用いられている Pd使用量削減に貢献できるであろう。(NK,KU,ok,nk,kh)
【訳注】
・ppm:parts per millionの略
Sustainable Fe-ppm Pd nanoparticle catalysis of Suzuki-Miyaura cross-couplings in water (Science, this issue p. 1087)

無力化された自壊状態からバイオレメディエーション(Bioremediation from disabled self-destruction)

採鉱、建築、軍事行動で使用される爆発物は、その後に汚染された土壌を残す。バイオレメディエーションはその救済となりうるが、植物はこのような土壌で十分に育つことは無い。Johnstonたちは今回、何故そのようなことになるか、という点を明らかにした(Noctorによる展望記事参照)。爆薬性の TNTを与えられると、植物のミトコンドリアや葉緑体内に見出される酵素は制御不能となり、有毒な活性酸素種を生成し、生化学的経路を破壊する。この鍵となる酵素を無力化することで、その植物は TNTに対して高い耐性を持ち、多くの TNTを蓄積するようになる。このような結果は、将来のバイオレメディエーションや除草に関する長期計画に対する道を指し示している。(Uc,KU,nk,kh)
【訳注】
・バイオレメディエーション:微生物等の働きを利用して汚染土壌の浄化を図る手法
Monodehydroascorbate reductase mediates TNT toxicity in plants (Science, this issue p. 1072; see also p. 1052)

感染症に生態学を導入する(Bringing ecology to infection)

私たちが感染症を調べるのに用いる手段は,個別の1宿主1病原体の関係に焦点を当てがちであるが,病原体はしばしば,多くの宿主に関わる複雑なライフサイクルを持っている.Johnsonたちは,群集生態学者たちがそのような複雑性をどのように解析しているのかについて概説している.生態学者たちは,多数種の群集において空間的な規模とともに変化する因果関係を探索する調査手段を持っている.これらの手法は,時間経過と共に群集が変化する様子の観察や,個体・種・集団を特徴づける不均一性の測定(すべて,病気の専門家が理解するために必須の課題)に用いられる.(MY,KU,nk)
【訳注】
・群集生態学:同一地域に生息する生物種間の関係や構造を明らかにすることを目的とした生態学
Why infectious disease research needs community ecology (Science, this issue 10.1126/science.1259504)

好中球が軌道を敷設する(Neutrophils lay down the tracks)

T細胞は、侵入病原体が彼らに行動を呼びかけるまで、全身を常に循環する。微生物は限局性感染も引き起こすことが多く、それ故に、T細胞は、何処に行くべきかをどうやって知るのだろうか? Limたちは、インフルエンザ感染症のマウスモデルでこの疑問を調べ、そして好中球と呼ばれる免疫細胞が、その道を案内するのを助けていることを見出している(Kiermaier and Sixtによる展望記事参照)。感染において、好中球はすばやく感染箇所である気管に移動する。そこで、彼らは、ケモカイン、特にケモカイン CXCL12と呼ばれるタンパク質に富んだ「軌道」を敷設する。この軌道が CD8+ T細胞を感染組織まで導くのである。このような軌道を敷設できなかったマウスは、 CD8+ T細胞を呼び集め、ウイルスを排除することに失敗した。(KU,ok,nk,kh)
Neutrophil trails guide influenza-specific CD8+ T cells in the airways (Science, this issue 10.1126/science.aaa4352; see also p. 1055)

細菌の増殖動力学を推定する(Estimating bacterial growth dynamics)

メタゲノム試料における細菌の sequencing read coverage のパターンは、増殖速度を反映する。細菌のゲノムは単一の複製開始点を中心に円状に広がるので、このパターンから増殖強度を予測できる。それ故増殖の間、そのゲノムのコピーは開始点に蓄積する。Koremたちは開始点でのコピー数と終端でのコピー数の比を用いて、微生物群において活発に増殖している種を検出している(Segreによる展望記事参照)。彼らは、病原性系統と非病原性系統との間の差異、個体数の日周変動、過敏性腸病で増殖している種、及び宿主の食事が変化したとき何が起こるかを発見することができた。これ等の結果は、ケモスタット、マウス及びヒトの糞便サンプルからの結果と一致した。(KU,nk,kh)
【訳注】
・メタゲノム:環境中に存在する生物群集の構造を個々のゲノム単位で明らかにする研究分野をメタゲノミクスと言い、その対象となるゲノムをメタゲノムという。
・ケモスタット:連続培養を行う栄養制限型装置。細菌等の増殖速度を制限栄養物質の濃度や加える速度を調節して調べることができる
Growth dynamics of gut microbiota in health and disease inferred from single metagenomic samples (Science, this issue p. 1101; see also p. 1058)

生態学における一般的スケーリング則(A general scaling law for ecology)

生態学的コミュニティーの膨大な多様性にもかかわらず、それらは、予期せざるパターンを共通にもつことがある。Hattonたちは、陸生および水生の動物群集に共通する、全体の捕食者と餌食の生物量との関係に成り立つ一般的なスケーリング則を記述している(Cebrianによる展望記事参照)。彼らは、プランクトンから大型哺乳類まで、広範囲の生物群系にわたる動物群集についての、何千という集団数のデータを基にしている。彼らは、生物量のスケーリングについての遍在的パターンを発見したが、それは生態系の根底に、ある一つの組織化の機構が潜んでいることを予想させる。動物群集というものは、環境の変化を越えて、構造と動力学において系統的な変化に従うものらしい。(KF,nk,kh)
The predator-prey power law: Biomass scaling across terrestrial and aquatic biomes (Science, this issue 10.1126/science.aac6284; see also p. 1053)

非平衡の過渡的な自己組織化(Nonequilibrium transient self-assembly)

生命現象においては,その定常的なエネルギーの供給が系を平衡条件から大きく離れさせることができ, 有用なやるべき仕事を可能にする.それに対し,ほとんどの人工系においては,より低いエネルギー状態に向かう駆動力が存在する.Boekhovenたちは,化学燃料を加えることで非会合状態と会合状態との間を切り替えることができる分子を作った(Van der ZwaggとMeijerによる展望記事参照).自己組織化状態の寿命,剛性,再生挙動は,燃料の転換速度によって制御,調整することができた.(MY,ok,kh)
Transient assembly of active materials fueled by a chemical reaction (Science, this issue p. 1075; see also p. 1056)

大きなものと小さなものの優れた組み合わせ(A superior mix of big and small)

グラフェンは、しばしば広げられたカーボンナノチューブといわれる。しかしながら、ナノチューブは並外れた機械的および電気伝導の特性で知られているにもかかわらず、グラフェンからなる繊維にはそれは当てはまらない。Xinたちは、丸めて繊維状にしたより大きなグラフェンシートにより形成された空隙に、グラフェンの小さな断片を挿入した。いったん焼きなましされると、大きなシートは導電経路を提供し、一方、小さな断片は繊維を強化する助けになった。結果として、優れた熱および電気的伝導性、そして機械的強度が得られた。(Sk,ok,kh)
Highly thermally conductive and mechanically strong graphene fibers (Science, this issue p. 1083)

SMとSNARE関係の謎々を解きほぐす(Unravelling the SM-SNARE conundrum)

いわゆる SNAREタンパク質は、さまざまな細胞内膜間の融合を仲介し、それに特異性を与える。SMタンパク質は細胞内小胞融合において普遍的に必要とされるが、その作用機序は長らく謎のままだった。Bakerたちは、この謎の一端を、SMタンパク質の表面に膜融合複合体を組み立てる過程において SNAREを「捉える」ことによって、解決した。この知見は、細胞内膜輸送の際の小胞融合を、SMタンパク質がいかにして、またなぜ、助けて いるかをまさしく示唆するものである。(KF,ok,kh)
A direct role for the Sec1/Munc18-family protein Vps33 as a template for SNARE assembly (Science, this issue p. 1111)

RNA編集が細胞内RNAの同定を助ける(RNA editing helps identify cellular RNAs)

メッセンジャーRNA(mRNA)中のアデノシン塩基は、酵素によって変更され、イノシン塩基へと変化することがある。このRNA「編集」は、RNAに作用するアデノシンデアミナーゼ(ADAR)酵素によって仲介される。Liddicoatたちは、主要な編集酵素である ADAR1の生体内での標的が、細胞内 mRNAの非翻訳部分にある長い二重鎖RNA(dsRNA)構造であることを示している。ADAR1によって方向づけられた、それら細胞内標的の編集は、細胞質中の dsRNAへの免疫応答の活性化を回避するためにきわめて重要であるが、それは、dsRNAもまたウイルス感染のマーカーの一種だからである。(KF,kh)
RNA editing by ADAR1 prevents MDA5 sensing of endogenous dsRNA as nonself (Science, this issue p. 11159)

遺伝子発現の調節因子の融合(Amalgamated regulators of gene expression)

哺乳類ゲノムの5%未満が、タンパク質コード遺伝子をコードしていて、ゲノムの残り95%以上は、調節要素から構成されている。それら調節要素は、エンハンサーないしシス調節要素と呼ばれていて、タンパク質コード遺伝子の組織特異的あるいは細胞型特異的発現を保護する情報を供給する。Bresnickたちは、一つのタンパク質コード遺伝子に複数のシス調節要素が存在し得ることを発見している。その要素は、発生の際や、幹細胞と前駆細胞の遷移を区別して制御するのに必須である。つまり、融合されたエンハンサー調節機構は、発生の際の遺伝子発現のシームレスな遂行を統合的に扱っているのである。(KF.KU,kh)
【訳注】
・エンハンサー:隣接する遺伝子の転写を促進するDNA上の調節領域(シス調節要素)
Cis-regulatory mechanisms governing stem and progenitor cell transitions (Sci Adv. 10.1126/ sciadv.1500503 (2015))
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