AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 21 2015, Vol.349


発芽シグナルが照らされる(Germination signals illuminated)

有害雑草であるストライガは,ある作物を全滅させる能力がある.アフリカの畑は特に,ストライガがもたらしうる惨状に陥りやすい.ストライガの種子は,その宿主が遊離する極微量のホルモンであるストリゴラクトンに応答して発芽する.Tsuchiyaたちは,ストライガ受容体で切断されると蛍光性の最終物を生成するストリゴラクトンの模倣物を設計した.この発光性模倣物は,発芽の際にストライガの種子を輝かせ,そのストリゴラクトン受容体の同定役となった.この受容体の活性を無効化することが、効果的な防御対策になるはずである.(MY,kh)
【訳注】
・ストライガ:アジア,アフリカに生息し(日本では生息せず),穀物植物の根に寄生し,宿主の吸い上げた水や栄養分を奪うことで宿主の生育に障害をもたらす寄生植物.
Probing strigolactone receptors in Striga hermonthica with fluorescence (Science, this issue p. 864)

転写制御因子がDNAの形状を変える(Transcription factor shape-shifts DNA)

或る遺伝子が、いつ発現するのか、或いは抑制されるかを制御することは、細胞代謝や発生において重要である。大腸菌において、銅感受性の転写制御因子である CueRは、遺伝子プロモーター中の正確に同じ部位に結合した時に発現を抑制したり、或いは活性化することができる。Philipsたちは、CueRが銅に結合することで DNAの形態を劇的に変えるが、しかしタン パク質とDNA間の接触に影響を与えないことを、X線結晶解析法により示した。DNAの形状変化により、RNAポリメラーゼがそのプロモータに結合し、そしてその遺伝子の転写を可能にする。(KU,ok,kh)
【訳注】
・プロモーター:RNAポリメラーゼが特異的に結合して転写を始めるDNA上の領域で、転写制御因子が作用する部位もある。
Allosteric transcriptional regulation via changes in the overall topology of the core promoter (Science, this issue p. 877)

暗黒側の未知なるものを限定する(Limiting unknows in the dark side)

我々の宇宙を作り上げている物質の一覧がどの程度判っているかといえば、控えめにみて 5%というところである。Hamiltonたちは原子干渉計を用いて、バルク物質ではなく個々の原子においてダークエネルギー・スクリーニング機構を制御していた実験結果について述べている。Aprileたちは、XENON100の検出器で得られたデータの解析結果を報告している。この検出器は、ダークマターと通常の物質とのまれな相互作用を監視することにより、ダークマター粒子を直接的に同定することを目的としている。この設備では、巨大な地下タンク中の液体キセノンが、大質量の粒子と弱い相互作用をする標的となっている。これらを結び合わせた結果は、提案された幾つかのタイプのダークマターとダークエネルギー候補に制限を設けることになる(Schmiedmayerと Abeleによる展望記事を参照のこと)。(Wt,KU,ok,kh)
Atom-interferometry constraints on dark energy (Science, this issue p. 849; see also p. 786)
Exclusion of leptophilic dark matter models using XENON100 electronic recoil data (Science, this issue p. 851; see also p. 786)

相互作用する原子を局在化させる(Making interacting atoms localize)

無秩 序が相互作用していない粒子の伝搬をその場に留めることができる。アンダーソン局在として知られるこの現象は、光子や冷たい原子という状況下だけでなく、無秩序化された固体内で生じる。相互作用はどちらかといえば局在性を生じさせにくいが、いわゆる多体局在状態においては、無秩序、相互作用、局在が共存するかもしれない。Schreiberたちは、初めに格子を一つおきに原子で占有させた一次元の光格子において、多体局在を検出している。外部から生じさせた無秩序さと相互作用は、その系が急速に、各格子とも単原子が入った状態になってしまうことを妨げた。(Sk,kh)
Observation of many-body localization of interacting fermions in a quasirandom optical lattic (Science, this issue p. 842)

変則で不均衡な捕食者(An anomalous and unbalanced predator)

前世紀、人間は多数の生態系において支配的な捕食者になった。我々が捕食の対象とする種は、極めて数を減らしているが、しかしながら自然界の捕食者は通常、被捕食者集団と均衡を保っており、両者が持続できる。Darimontたちは、人間と他の捕食者種がどのように被捕食者を標的とするかという点において幾つかの特異的な相違点を発見した(Wormによる展望記事参照)。例えば、海洋環境において、我々人間は定常的に他の捕食者種を捕食している。他の捕食者と比較すると、このような相違点は、我々の生態系に与える更に強い影響の要因となっている可能性がある。(Uc,KU,kh)
The unique ecology of human predators (Science, this issue p. 858; see also p. 784)

膜電位は増殖を制御する(Membrane potential regulates growt)

原形質膜を横切る電圧変化は、細胞増殖に影響を与える。Zhouらは、膜電位が、培養された哺乳類細胞と無傷のハエのニューロンにおける膜中のリン脂質の組織化に影響を与えることを発見した(Accardiによる展望記事参照)。これが次に、細胞増殖の重要な制御因子である小さなグアニン・ヌクレオチド結合タンパク質 K-rasの局在化と活性を制御した。このように細胞膜は、分裂促進シグナル伝達の強さを調整することにより、電界効果型トランジスタに類似した作用をする可能性がある。(hk,KU)
Membrane potential modulates plasma membrane phospholipid dynamics and K-Ras signaling (Science, this issue p. 873; see also p. 789)

"ニュートンのゆりかご"によるプロトン化(Protonation by “Newton's cradle”)

ニュートンのゆりかごのどちらかの端部の球を持ちあげることを思い浮かべて見よ.球を放し続く衝突で,それに応じて,他端の球が跳ね上げられる.高分解能の中性子回折法を用いて,Nakamuraたちはほぼ同じやり方で動作する酵素のプロトン・リレー鎖を見出した.キノコの仲間である Phanerocaete chrysosporiumから得られた糖質分解酵素において、プロトンが酵素により作られた構造に沿って,遠端のアスパラギンから触媒作用を持つアスパラギンへと,順繰りの互変異性化を通してリレーされる.(MY,KU,kh)
【訳注】
・プロトン化:化合物にプロトン (水素イオン) を付加すること
・ニュートンのゆりかご:互いに接した同じ大きさの吊るされた金属球からなり,末端の金属球を衝突させると,反対側の金属球が同じ速度で弾き飛ばされる動きをする装置
・互変異性:化合物が,分子内の原子の結合位置が異なる2つの構造体として存在し,かつ,それぞれの構造体間の変換が容易な性質を持つこと
"Newton's cradle" proton relay with amide-imidic acid tautomerization in inverting cellulase visualized by neutron crystallography (Sci. Adv. 10.1126/sciadv.1500263 (2015))

免疫シグナルが根の共同体を形成する(Immune signals shape root communities)

地上の病原性微生物を妨害するために、シロイヌナズナはサリチル酸を用いて防御的シグナル伝達を行う。変化した免疫系を持つシロイヌナズナにおいて、Lebeisたちは、細菌群落が、根域において同じようにサリチル酸シグナル伝達に応答して変化することを示している(Haney and Ausubelによる展望記事参照)。 いくつかの菌根菌群の存在量が他の細菌群を犠牲にして増加したが、 これは部分的にサリチル酸が免疫シグナルとしてか、あるいは微生物増殖のための炭素源として用いられるかどうかの機能による。(KU,kh)
Salicylic acid modulates colonization of the root microbiome by specific bacterial taxa (Science, this issue p. 860; see also p. 788)

2つの喘息のお話し(A tale of two asthmas)

症状に応じて病気を分類することは急速に時代遅れのやり方になりつつある.標的治療法は,異なる発病機構が症状の組み合わせを引き起こす可能性があることを示した.Choyたちは,喘息が3つの免疫学的集団(TH2-高, TH17-高, and TH2-TH17-低)に分類できることを示している.マウスモデルの喘息では.TH2-高と TH17-高の集団は,片方の徴候を中和することが他方の徴候を促進する逆相関の関係にある. 両方の経路を標的とする併用療法が,個々の喘息に対してのより良い措置になるであろう.(MY,KU,kh)
   【訳注】
・標的治療法:発病機構に関わる特徴的な分子に対して,この働きを阻害する薬剤を用いて治療する方法のこと
TH2 and TH17 inflammatory pathways are reciprocally regulated in asthma (Sci. Transl. Med. 7, 301ra129 (2015))

遺伝子転写を食い止める(Keeping gene transcription in check)

すべての遺伝子の転写は、RNAポリメラーゼ(RNAP)によって遂行される。この酵素は、つまるところ、多くの細胞過程や発生過程にとって枢要な制御点である。細菌では、シグマ因子が転写制御において重大な役割を果たしていて、とりわけ σ54が、多くのストレス応答遺伝子の転写にとって決定的である。Yangたちは、σ54に結合した RNAPのX線結晶構造を、プロモータ DNAと同じように決定した。RNAP・σ54複合体の初期の抑制状態において、σ54は、鋳型 DNAが RNAPの活性部位および下流の DNAチャネルに入ることを妨げている。(KF,KU,ok,kh)
Structures of the RNA polymerase-D54 reveal new and conserved regulatory strategies (Science, this issue p. 882)

アメリカ先住民の遺伝学的な歴史(Genetic history of Native Americans)

アメリカ先住民の起源と移住の時期に関しては、いくつかの説が出されてきた。Raghavanたちは、この論争を明らかにするため、アジアとアメリカの古代人および現代人のゲノム変異を調査した。その結果、北部アジアからアメリカへ複数回の移住の波があったという証拠も、アメリカから北部アジアへ逆に遺伝子流動があったという証拠もなかった。最も早い移住は、23,000年前以降にシベリアに住んでいた祖先から起こった。(アメリカ先住民の一部である)アメリンディアンやアサバスカンの人々も、単一の母集団を起源としており、両者はおよそ13,000年前に分かれた。(Sk,bb,kh)
【訳注】
・アメリカ先住民:北米、中南米に住むアメリカ先住民
・遺伝子流動:ある集団から別の集団への遺伝子の移動
・アメリンディアン:中米と南米に住む先住民
・アサバスカン:北アメリカのアラスカおよびカナダ北西内陸部に住む先住民
Genomic evidence for the Pleistocene and recent population history of Native American (Science, this issue 10.1126/science.aab3884)

スプライシング制御因子の制御(Regulation of splicing regulators)

ほとんどの真核生物遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)は、一連のエクソンをまとめて組み換え(スプライスし)、介在するイントロンを除去することによって形成される。エクソンの識別と順序は同じ遺伝子からの mRNA間で異なり得る。選択的にスプライスされた生成物は、増大する多様なタンパク質生成物を産生する。Gueroussovたちは、哺乳類のスプライシング制御因子の選択的スプライシングが、次に、広範な標的RNAの選択的スプライシングに影響を及ぼすことを示している。この制御機構は、脳特異的な選択的スプライシング・プログラムを制御している。(KF,KU,kh)
【訳注】
・選択的スプライシング:DNAからの転写過程において特定のエキソンをとばしてスプライシング(組み換え)を行うこと。同一遺伝子から異なる組み合わせでエキソンを結合したmRNA分子が生成され、遺伝子産物に多様性が増す機構。
An alternative splicing event amplifies evolutionary differences between vertebrates bb(Science, this issue p. 868)

「喰うものと喰われるもの」のモデル(A model for who eats and who is eaten)

喰うものと喰われるものとの間には、多くの相互作用の型がある。多数の理論式が、このダイナミクスを、捕食者と餌食という見方や、寄生者と宿主という見方など、さまざまに記述している。Laffertyたちは、これら関係のすべての型が、「消費者と資源」という基本的な相互作用に帰着することを示している。無数の複雑な相互作用から導き出された、1つの単純なモデルが、過去のモデルを「喰う、喰われる」の一般理論へと単純化することで、それら相互作用のいずれにも適応することができる。(KF,kh)
A general consumer-resource population model (Science, this issue p. 854)

双極子相互作用の動力学(The dynamics of dipolar interactions)

極低温原子ガスのような緻密に制御可能な系は、複雑な材料系の物理現象シミュレーションに活用することができる。Alvarezらは、磁性研究にこの量子シミュレーションの概念を適応するにあたって、興味深い工夫を加えている。極低温原子ではなく、アダマンタン多結晶中の水素の核スピン・ネットワークがシミュレーターとして役に立つ。核磁気共鳴技術を活用して、著者たちは、すべてのスピンがお互いに結合した状態から、揃ったスピンが幾つかの集団に分かれた状態へと転移を引き起こすことができた。(NK,KU,ok,nk,kh)
【訳注】
・アダマンタン:C10H20、tricyclo decaneの慣用名。イス型のシクロヘキサン環4個が縮合した形
Localization-delocalization transition in the dynamics of dipolar-coupled nuclear spins (Science, this issue p. 846)

二つの経路の抑制が一つよりも優れている(Inhibiting two pathways is better than one)

ERKと JNKの経路は、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ経路であり、癌細胞によって強奪されることがある。多くのメラノーマ患者は、ERK経路の上流キナーゼ中に活性化する変異を持っているが、しかしその阻害剤はこれら患者に短期間の改善をするだけである。Ramsdaleたちは、JNK経路によって活性化される転写制御因子レベルの増加が、ERK経路における阻害剤抵抗性の原因であり、そして潜在的転移能に寄与していたことを示している。もし 転写補助因子のレベルや、或いはJNK経路によるその活性化も減少していたなら、ERKキナーゼ阻害剤は培養とマウスのメラノーマ細胞の死滅により効果的であった。(KU,kh)
【訳注】
・マイトジェン:細胞分裂促進物質
The transcription cofactor c-JUN mediates phenotype switching and BRAF inhibitor resistance in melanom (Sci. Signal. 8, ra82 (2015))
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