AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 31 2015, Vol.349


炭素循環に対する旱魃の影響(Drought effects on carbon cycling)

旱魃に対する森林生態系の応答は、気候温暖化の面でますます重要である。Andereggたちは全世界の1338の森林地帯からなる年輪データベースを調査した。彼らは、旱魃の後に続く3〜4年の間森林の成長速度が低下するいう、旱魃の「遺産効果」を発見した。旱魃後のこの低生長期の間、森林による炭素吸収機能も下がるであろう。森林の遺産効果を地球システムモデルに組み込むことで、地球の炭素循環における旱魃の影響に関するより正確な予測が得られるであろう。(uc,KU,ok,nk,kh)
Pervasive drought legacies in forest ecosystems and their implications for carbon cycle models. (Science, this issue p. 528)

欲求不満から生まれた無金属触媒(A metal-free catalyst born of frustration)

ホウ素(ルイス酸)と窒素、あるいはリンを含む断片(共にルイス塩基)は、対を作る傾向がある.同一分子上の両末端にこれらを分離した状態にしておくと,「欲求不満」となったフラストレイテッド・ルイスペアが生成する.そのような分子は,水素分子の水素・水素結合を切るような強力な反応性を発揮する.Legareたちは今回、この反応性をフランやピロールのような複素芳香族化合物の炭素-水素結合の開裂反応に拡張している(BoseとMarderによる展望記事参照).これらのフラストレイテッド・ルイスペア錯体は,複素芳香族化合物のホウ素化に触媒として作用した.反応選択性のパターンは,従来用いられた金属触媒で見いだされた選択性を補うものであった.(MY,KU,kh)
【訳注】
・ルイス酸,ルイス塩基:反応により電子対を受け取る化学種がルイス酸,電子対を供与する化学種がルイス塩基
・フラストレイテッドルイスペア:嵩高さによる立体障害や束縛等により,反応できない状態となった酸と塩基
Metal-free catalytic C-H bond activation and borylation of heteroarenes. (Science, this issue p. 513)

水の上をどうやって歩いて跳躍するのか(How to walk and jump on water)

地上での跳躍には,重力を克服するため,多くの筋肉や関節の協調した動きが必要である.水面上での歩行には,動作中に表面張力の破壊を回避するよう設計された特殊な脚が必要となる.しかし,アメンボやウオツリハシリグモのような昆虫は,離水に余分な力が必要となる水面で,どのようにして首尾よく跳躍するのだろうか? Kohたちはアメンボを研究し,跳躍を可能するのに必要な脚の構造,および,表面張力の破壊を回避する動きの範囲の限界を突き止めた(Vellaによる展望記事参照).彼らは次に,水面を跳躍するロボットを作り,脚の設計や動きに対する重要なパラメーターを検証した.(MY,kh)
Jumping on water: Surface tension-dominated jumping of water striders and robotic insects. (Science, this issue p. 517)

失われた熱を探す(Looking for the missing heat)

21世紀の最初の十年間、地球温暖化の減速は明らかで、もしくは止まってさえいる。この一時休止は通常、「ハイエイタス(停滞現象)」と呼ばれている。しかしながら我々は、地球の気候系が、大気中の温室効果ガスの増加のために、過剰な太陽エネルギーを蓄積しつつあることを知っている。では、大気中に蓄積されていないとすると、このエネルギーは何処に行ってしまったのだろうか。Nieves たちは、この期間にわたって、太平洋の表面層(<100m)は冷たくなったが、インド洋と南洋の上層(100m-300m)は温まったということを見出した。このように、2003年に始まった10年に及ぶハイエイタスは、全地球的温暖化速度の変化と言うよりも、海洋中の熱の再分配の結果であるように思われる。(Sk,nk,kh)
Recent hiatus caused by decadal shift in Indo-Pacific heating. (Science, this issue p. 532)

小さな毒がすごいことをする(A little toxin can do a lot)

アクチン架橋結合領域 (ACD)は、幾つかの病原性微生物によって作られるアクチン特異的な毒である。Heislerたちは、ACDの発症機構が非常に珍しい毒性増幅カスケード反応を含むことを発見した。アクチン細胞骨格を直接的に不活性化するのではなく、ACDは、多数の細胞活性に重要な役割を果たしているアクチン調節タンパク質である、フォルミンの活性を妨げる。ACDは, 基質が真核細胞のうちで最も豊富に存在するタンパク質のアクチンであるとはいえ、例外的に強力に作用する 。(KU,ok,nk,kh)
【訳注】
・アクチン架橋結合領域:コレラ菌毒素分子を構成する 4 個の機能領域の 1 個
ACD toxin-produced actin oligomers poison formin-controlled actin polymerization. (Science, this issue p. 535)

1個の遺伝子で3個のカルシウム電流(One gene for three calcium currents)

哺乳類は、多様なカルシウム・チャネルの孔を形成するOrai1 タンパク質の代替型を作る。これは、コード化転写物中の2つの別の翻訳開始点を利用することを伴う。Desaiたちは、それら長いあるいは短い形態が、違った性質をもつカルシウム・チャネルを作ることを示した。どちらの形態も、内部に貯蔵されているカルシウムの減少に応答する2種類のチャネルに関与できる。しかし、長い方の形態だけが、アラキドン酸と、炎症を促進する脂質であるロイコトエリンC4とによって活性化されるチャネルに寄与している。つまり、Orai1メッセージの翻訳開始における二者択一は、少なくとも、シグナル伝達および調節性の性質が異なる、3つの型のカルシウムチャネルを作るのである。(KF,KU,ok,kh)
【訳注】
・カルシウム電流:カルシウムチャネルを通るカルシウムイオンによってはこばれる膜電流
Multiple types of calcium channels arising from alternative translation initiation of the Orai1 message. (Sci. Signal. 8, ra74 (2015))

S-ニトロシル化が肥満と細胞ストレスに結び付く(S-nitrosylation links obesity and cell stress)

肥満や別のいくつかの病気は、どうやら小胞体(ER)のタンパク質保護機能の機能不全に結び付いている。Yangたちは、肥満とそれに付随する慢性炎症が、ER中での折り畳まれていないタンパク質の蓄積と関係している仕組みについて提唱している。そのようなストレスが通常は、UPR (折り畳まれていないタンパク質応答) として知られるプロセスの引き金を引くのかも知れない。しかし、肥満マウスは、UPRを制御するRNA分解酵素である、IRE1α (イノシトールを必要とするタンパク質1)のS-ニトロシル化を増加させた。修飾された IRE1αは、RNA分解酵素の活性を減少させた。著者たちは、肥満マウスの肝臓中に、ニトロシル化できないよう変異した IRE1α タンパク質を発現した。このアプローチは UPRを改良し、グルコースの恒常性の回復を助けた。(KF,KU,ok,kh)
S-Nitrosylation links obesity-associated inflammation to endoplasmic reticulum dysfunction. (Science, this issue p. 500)

抗体はいかに成熟するか(How antibodies mature)

抗体は、感染に対するたくましい守護者であるが、彼らでさえ、友人からのちょっとした助けを必要とする。親和性成熟と呼ばれるプロセスを介して、T濾胞性ヘルパー(TFH)細胞は、 B細胞が特定の病原体向けに改善された特異性をもつ抗体を産生するように誘導する。このたびYamamotoたちは、ヒト以外の霊長類では、TFH細胞の頻度と質が幅広い中和抗体の発生に付随しており、このことがサルの HIVを防御する可能性があると報告している。こうした知見は、TFH細胞刺激を取り込んだ HIVワクチンが、広範な中和抗体産生を促進する可能性を示唆するものである。(KF,KU,nk)
Quality and quantity of TFH cells are critical for broad antibody development in SHIVAD8 infection. (Sci. Transl. Med. 7, 298ra120 (2015))

粒子付加による結晶成長(Growing crystals by attaching particles)

結晶は、様々な方法で成長する。その方法は、他の粒子や多数イオン錯体の組み立てを伴う過程も含む。De Yoreoたちは、新しい観測技術と計算技術からこれらの非古典的過程に関する山のような証拠、及びこれらの成長機構に対する熱力学的な基盤を論評している。これらの結晶成長と核形成経路に関する予測モデルの開発は、材料合成の考え方を改善するであろう。また、これらのアプローチは、水生生態系での微量元素の循環やバイオミネラリゼーション(生体内鉱物形成作用)のような自然界で起こる諸過程の基本的な理解をも進展させるであろう。(hk,KU,ok,nk,kh)
【訳注】 ・バイオミネラリゼーション:歯、骨や貝殻のように、生体内で鉱(物)質の物質が形成される過程をさす
Crystallization by particle attachment in synthetic, biogenic, and geologic environments. (Science, this issue 10.1126/science.aaa6760)

端面電子接合(Electronic junctions on edge)

グラフェンのような二次元材料は,本質的にナノの大きさで,かつ大きな電流を流すことができるため,より小さなトランジスタを作る上で魅力的な物質である.しかしながら、グラフェンはバンドギャップを持たず,それで作られたトランジスタは漏れ電流が大きい.つまり,つまり,トランジスターとして使うときに電流をオフにしにくい.関連する硫化モリブデンのような遷移金属ジカルコゲン化合物 (TMDCs)は、バンドギャップを持つ.これらの材料に基づいたトランジスタは,高いオン・オフの電流比を持つことが可能である.しかしながら,異なる TMDC材料間で,良好な電圧バイアスによる(p-n)接合を作ることは、困難なことが多い.Liたちは,これらに該当する2つの材料である硫化モリブデンとセレン化タングステンの間で,p-nヘテロ接合を作ることに成功した.彼らはこれを接合の弱い積層法ではなく,三角形のセレン化タングステンの端面に硫化モリブデンを成長させて原子レベルでくっきりした界面を持つヘテロ接合を達成した. (MY,KU,nk,kh)
【訳注】
・遷移金属ジカルコゲン化合物:遷移金属元素(M)とイオウ・セレン・テルルのような第16族元素(X)からなり,化学式MX2で表される化合物
・ヘテロ接合:接合を形成する2つの層の基質がシリコン半導体のように同一ではなく,異種の物質からなるもの
Epitaxial growth of a monolayer WSe2-MoS2 lateral p-n junction with an atomically sharp interface. (Science, this issue p. 524)

寄生植物はどのようにして宿主を見つけられるように進化したのか(How plant parasites evolved to find hosts)

寄生植物の種子は、適切な時に、的確な場所で発芽するため、自分の宿主の存在を感知できなければならない。これは、植物ホルモンであるストリゴラクトンを感知することによって行われる。しかしながら、この知覚系の起源は不明である。Connたちは、寄生植物の複数の系統とそれらの近縁種における、ストリゴラクトン受容体の多様性を調査した。彼らは、非寄生の近縁種と比較して、寄生植物においてより大きなコピー数や加速された進化を見出した。遺伝形質転換の遺伝子を導入したシロイヌナズナにおける、寄生植物ストリゴラクトン受容体の機能解析の結果は、寄生植物がその宿主を感知できるように収斂進化が生じたことを示唆していた。(Sk,ok,kh) <br> 【訳注】
・コピー数:ゲノム中のある遺伝子の数。通常は父母それぞれからの2コピーだが、コピー数多型では3コピー以上が存在する
    ・機能解析:ゲノム配列の機能的意味を理解するための解析
・収斂進化:系統の異なる生物種が、同様の生態的地位についたとき、類似した形質を個別に進化させる現象          
Convergent evolution of strigolactone perception enabled host detection in parasitic plants. (Science, this issue p. 540)

地球の古代磁性履歴を解く(Unlocking Earth's ancient magnetic past)

磁場は、地球表面を致死性の宇宙線から守るとともに、惑星内部に関する手がかりを与えてくれる。Tardunoたちは、地球上の最も古い鉱物である Jack Hillsジルコンのあるものは、40億年以上前の磁場の記録を残していることを見出した(Aubertによる展望記事を参照)。地球磁場は、惑星が形成されたほんの数億年後には完全に作動していたように思われる。これは、プレートテクトニクスと居住適性とって重要な古代の宇宙線遮蔽が地球史の初期に始まったことを示唆している。(Wt,nk,kh)
A Hadean to Paleoarchean geodynamo recorded by single zircon crystals. (Science, this issue p. 521; see also p. 475)

フッ素・水素反応時の共鳴を見る(Glimpsing resonances as F and H2 react)

フッ素原子と水素分子の反応は、長い間、化学動力学における微細な量子力学効果を観察する窓としての役割を果たしてきた。Kim等は、その系には未解決の謎がまだ幾つか残っていることを示している。筆者らは、FH2-アニオンとその重水素置換体に光脱離作用を適用した。これにより, 反応途中の軌道をとらえることができ、弱い結合による共鳴を明確にできた。理論計算がこれらの観察を説明し、まだ見られていない付加的な類似特徴を予測することができる。(NK,ok,nk,kh)
Spectroscopic observation of resonances in the F + H2 reaction. (Science, this issue p. 510)

免疫機能に関連した腫瘍抑制因子 p53(Tumor suppressor p53 linked to immune function)

我々は、腫瘍抑制因子 p53に関しては、知る必要があるすべてを知っていると思っていた。しかしながら、Yoonたちは、p53の以前認識されていなかった機能を記述している(Zitvogel and Kroemerによる展望記事参照)。p53は DD1α(免疫グロブリン・スーパーファミリーの受容体様膜貫通タンパク質)をコードしている遺伝子の発現を誘発する。ストレス条件下で、p53の活性化は細胞死に導くことがある。p53誘発のDD1α 発現はま た、マクロファージによる貪食を促進することで死細胞の除去を促進する。更に、T細胞での DD1αの発現は、T細胞の機能を抑制する。このように、p53はアポトーシス細胞の蓄積によってもたらされる炎症性疾患からの防御を与え、そしてT細胞の抑制が、癌細胞が免疫検出から逃れるのを助けているかもしれない。(KU,nk,kh)
Control of signaling-mediated clearance of apoptotic cells by the tumor suppressor p53. (Science, this issue 10.1126/science.1261669)

奇妙に挙動不審な相(A mysteriously misbehaving phase)

真空中における二個の電子は同じ電荷を持っているため、お互いに反発する。しかし、金属内部では他の電子が周りに多数存在して遷移可能な準位を全て埋めているため、二つの電子を取り出してみた時、それらはある意味では相互作用のないかのような挙動をする。フェルミ液体(FL)の振る舞いとして知られるこの現象は、電気抵抗が温度の二次従属性に従うという固体に特徴的な性質に関係している。抵抗がこの FL依存性から外れる場合のケースは、一般に磁気量子臨界と関係している。Tomitaたちは、一連の圧力と温度において重いフェルミ粒子化合物 β-YbAlB4の抵抗を測定し、介在する FLによって磁性相から除かれた非FL相を同定した。磁性の非存在下での非FLの説明は、理論家たちへの課題である。(KU,nk,kh)
Strange metal without magnetic criticality. (Science, this issue p. 506)
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