AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 24 2015, Vol.349


イネは害虫を監視している(Rice is on the lookout for bugs)

イネ白葉枯病菌(Xoo) は,アフリカやアジアでイネの収穫量を大幅に制限する深刻な病原性微生物である.イネは細胞表面に特定の免疫受容体タンパク質を発現することで,Xooや他の病原性微生物から自身を守っている.Pruittたちは,イネ免疫機構の標的であるXooタンパク質を特定した.このタンパク質を欠損しているXooは妨害されずに、イネを攻撃することが可能である.この洞察は,植物学者が, イネと Xooとの軍備競争で, イネの勝利を支援するのに役立つかもしれない (MY,kh)
The rice immune receptor XA21 recognizes a tyrosine-sulfated protein from a Gram-negative bacterium (Sci. Adv. 10.1126/sciadv.1500245 (2015))

伸縮可能な伝導性複合ワイヤ(Composite stretchable conducting wires)

伸縮性のある電子「皮膚」があれば、どれほど有用かを考えてみよ。たとえば、飛行機の胴体や身体上にそれを配置して、センサー、演算装置、エネルギー蓄積装置、人工筋肉のネットワークを生み出せるだろう。しかし、そのような表面の上に伸縮可能な電気的相互配線やひずみセンサーを作るのは難しい。Liuたちは、あらかじめ引き伸ばしたゴムの芯にカーボンナノチューブのシートを堆積させることで、超弾性的な伝導性ファイバーを創った(Ghoshによる展望記事を参照のこと)。そのナノチューブは、コアの引き伸ばしをはずすと、ゴムが縮んでナノチューブはねじ曲がったが、しかし、芯を完全に被覆し続け、そして抵抗値の変化も比較的小さなままで、非常に伸縮することができた。(Wt,KU.nk,kh)
Hierarchically buckled sheath-core fibers for superelastic electronics, sensors, and muscles (Science, this issue p. 400; see also p. 382)

シナプス可塑性の可塑性を保つ(Keeping synaptic plasticity plastic)

脳内の神経細胞のシナプスは、私たちが世界を体験するにつれ、移り変わる要求に応じて順応する。このシナプス可塑性は、視覚系や体性感覚系における臨界期の基礎を形成する。Greenhillらは、マウスで、可塑性自体の発生に関する臨界期を見いだした。その根底にはあるタンパク質が存在するのだが、その変異形はマウスの統合失調症と関連している。初期発生中に一時的にこのタンパク質の機能を妨害すると、成体マウスの脳の可塑性に障害が引き起こされた。(hk,KU,nk,kh)
Adult cortical plasticity depends on an early postnatal critical period (Science, this issue p. 424)

病床から実験台への往来(Trafficking from bedside to bench)

トランスレーショナル・リサーチに特徴的なことであるが、細胞や分子生物学における発見は、患者治療を改善するために後になって活用される。時に、情報が逆方向へ流れる場合もある。Loたちは、LRBAと呼ばれるタンパク質の欠乏により引き起こされる自己免疫障害を持つ患者は、薬剤アバタセプトに劇的に応答することを見出した(Sansomによる展望記事参照)。アバタセプトは、強力な抑制性免疫受容体 CTLA4の一部を含んでいる。この観察に誘発された実験は、二つのタンパク質間の関係を明らかにした。すなわち、LRBAは CTLA4の細胞内輸送と分解を制御している。この情報は患者治療を更に改善する可能性があり、というのは、他の臨床的に承認された薬剤には、CTLA4 関連で要求される作用機構を有し、かつ潜在的に副作用のより少ないものがあるからである。(KU,nk,kh)
【訳注】
・トランスレーショナル・リサーチ:新しい医療を開発し、臨床の場でその効果を確認し、日常医療に応用するまでの一連の研究課程
・アバタセプト(abatacept):CTLA4(ヒト細胞障害性Tリンパ球抗原4)の細胞外領域とヒト免疫グロブリンある領域から構成される融合タンパク質で、関節リウマチ等の全身性自己免疫疾患の優れた薬剤
Patients with LRBA deficiency show CTLA4 loss and immune dysregulation responsive to abatacept therapy (Science, this issue p. 436; see also p. 377)

白金ナノ鳥かご触媒をエッチングする(Etching platinum nanocage catalysts)

白金は、燃料電池で起きる酸素還元反応の触媒として卓越した性能を示すものの、その希少性故により効率の良い使用法が求められている。Zhangらは、数原子層の白金でパラジウムナノ結晶をコーティングし、次にパラジウムの核をエッチングで除去することで白金のナノ鳥かごを作った(Strasserの展望記事参照)。パラジウムのナノスケール八面体および六面体から得られた白金ナノ鳥かごは、酸素還元反応に対してそれぞれ異なる触媒活性を示した。(NK,KU,kh)
Platinum-based nanocages with subnanometer-thick walls and well-defined, controllable facets (Science, this issue p. 412; see also p. 379)

混成量子情報システムを作る(Making hybrid quantum information systems)

キュービット(量子ビット)の種々の物理的実現方法には、それぞれ得失がある。魅力的なアイデアは、それらを 混成構成にして、それぞれの強みを生かすことである。Tabuchiたちは、強磁性の球体と超伝導キュービットを空洞内に配置し、空洞の電磁モードをその二者間の伝達役として用いた。彼らは、球体の集団電磁モードとキュービットとの間に強い結合作用を達成した。Viennotたちは、二重量子ドット中の単一スピンを空洞中の光子と結合させた。両者の取り組みは、将来の応用が期待できる。(Sk,nk,kh)
【訳注】
・電磁モード:導波路中の電磁界の分布
・量子ドット:三次元空間全方位で閉じ込められている半導体などの物質の励起子
・二重量子ドット:トンネル障壁を介して2つの量子ドットを連結したもの
Coherent coupling between a ferromagnetic magnon and a superconducting qubit (Science, this issue pp. 405)
Coherent coupling of a single spin to microwave cavity photons (Science, this issue pp. 408)

ヘビの四本肢の失われた環(Snakes' four-legged missing link)

ヘビが、我々のように、太古の四本肢の祖先から生じた四肢動物であることを知れば、あなたは驚くかもしれない。Martillたちは、後肢と前肢を持った細長くて曲がりくねったヘビのような種を含む、ブラジルの白亜紀の化石について述べている(Evansによる展望記事参照)。この種は、掘穴動物であったと思われ、明らかに、今日我々が知るトカゲのような体形から滑らかで肢の無いヘビへの初期の移行段階を示している。(Sk,kh)
A four-legged snake from the Early Cretaceous of Gondwana (Science, this issue p. 416; see also p. 374)

悪い食事の影響を抑える(Counteracting the effects of a bad diet)

肥満は、代謝疾患における危険因子の一つである。これらの疾患は、2型糖尿病に導くインスリン抵抗性や脂肪が肝臓に蓄積する脂肪肝を含む。βアドレナリン作動性シグナル伝達を抑制することで、キナーゼ GRK2は脂肪組織の機能を低下させる。GRK2はまた、インスリン感受性をも低下させる。Vila-Bedmarたちは、高脂肪食を食べることで肥満になり、インスリン抵抗性を発生した成体マウスの GRK2を遺伝子的に切除した。これらのマウスは高脂肪食を続けたが、GRK2の欠失は体重がさらに増加することを止め。脂肪肝の発生を防いだ。それはまた、インスリンへのマウスの感受性をも改善した。(KU,nk,kh)
Reversal of diet-induced obesity and insulin resistance by inducible genetic ablation of GRK2 (Sci. Signal. 8, ra73 (2015))

石炭層の中で深い眠り(A deep sleep in coal beds)

海洋底の深部で、森林土壌由来の微生物が繁殖し続けている。Inagakiたちは、日本の沿岸沖での海洋底下2km以上の深さから収集されたものも含む、いくつかの掘削コアで得た微生物群落を分析した。深くなるに従い細胞の数は減少したが、深部の石炭層には、メタン生成細菌の活動的な群落が棲んでいた。これらの群落は、他の深海の地層で見られる物よりも森林土壌のそれにより類似していた。(Uc,KU,nk,kh)
Exploring deep microbial life in coal-bearing sediment down to ~2.5 km below the ocean floor (Science, this issue p. 420; see also p. 376)

微生物由来の生理活性分子(Microbial bioactive molecules)

私たちの共生体である微生物の細胞は,私たちの細胞より数が一桁多い.これらの生物体の全てに代謝活性があり,複数の生理活性分子を分泌する.ゲノム科学は,ヒトの微生物叢内で,多様な代謝産物をコードしている数々の注目すべき生合成遺伝子群を明らかにした.Doniaたちは,ランチビオティクスやミクロシンから,インドキシル硫酸塩や免疫調節作用性のオリゴ糖や脂質に至る分子が,人それぞれの微生物群の構成に依存して,生物体全体の健康や生理機能にどのように影響しうるのかについて概説している.(MY,kh)
【訳注】
・ランチビオティクス:抗菌性機能を持つ低分子ペプチド
・ミクロシン:細菌の成長を抑える低分子量ペプチド
・インドキシル硫酸:尿毒症の原因となる物質の1つ
Small molecules from the human microbiota (Science, this issue p. 10.1126/science.1254766)

厚みのある材料への折り紙の拡張(Expanding origami to thicker materials)

折り紙パターンの膨大な種類は、紙のように厚みがゼロに近いどんな物質の折り畳みにも適用可能である。しかし、厚みのある材料の折り畳みには、材料やずらしを加える必要がある。Chenたちは、標準的な球面リンク機構(折り目)を、硬いパネルをずらし折り畳みを介して結合したもので置き換えた一般モデルを開発し、厚みがゼロに近いものと厚みのあるもの、双方の折り畳み運動を同じに扱えるようにした。さらに、折り目を一方向にしか動けないように制約した。宇宙空間での太陽電池パネルや大規模な工学的構造を拡げるといった応用にとっては折り畳みが自動的に進行することが望ましいので、この一方向きに限定された可動性は重要である。(KF,nk,kh)
Origami of thick panels (Science, this issue p. 396)

膜の接触部位がリン脂質の交換を促進する(Membrane contact sites promote lipid exchange)

ほとんどの膜脂質は小胞体(ER)で製造される。異なる小器官や原形質膜(PM)は、違うリン脂質組成をもっている。Chungたちは哺乳類細胞を、Moser von Filseckたちは酵母を研究し、両者とも、細胞内の脂質のバランスの維持において、タンパク質の1ファミリーがどう重要であるかを記述している。その特別なタンパク質は、ERとPMの間の接触部位に蓄積し、それらをつなぎとめ、特異的リン脂質の交換を促進していて、これがPMの異なるアイデンティティーの維持を助けている。(KF,kh)
PI4P/phosphatidylserine countertransport at ORP5- and ORP8-mediated ER-plasma membrane contacts (Science, this issue pp. 428)
Phosphatidylserine transport by ORP/Osh proteins is driven by phosphatidylinositol 4-phosphate (Science, this issue pp. 432)

多様性のマイナス面(The downside of diversity)

適応免疫系は、多様性の利点を例証するものであり、特異的病原体への個体の応答を可能にしている。ナチュラルキラー(NK)細胞もまた、単細胞レベルで多様であるが、NK細胞によって仲介される免疫へのNK細胞の多様性の寄与は、これまで不明であった。Strauss-Albeeたちは、適応免疫細胞と違って、NK細胞の多様性は出生時には成人におけるよりも低いことを発見した。さらに、抗ウイルス応答の結果生じる多様性は、将来の応答の柔軟性を減少させる。実際、NK細胞多様性の大きさは、アフリカの女性におけるヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)獲得リスクの増大と関連していた。(KF,kh)
Human NK cell repertoire diversity reflects immune experience and correlates with viral susceptibility (Sci. Transl. Med. 7, 297ra115 (2015))
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