AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 26 2015, Vol.348


暑くなっても大丈夫(Some like it hot)

サンゴ礁は、温度上昇によって絶滅の危機に瀕している。急激な温度上昇はサンゴにストレスとダメージを与える。しかしながら、より緩やかな温度変化は、高温に対する適応性とそれに続く耐性をもたらす。Dixonたちは、様々な緯度由来のサンゴ集団全体の今日存在する耐熱性が、遺伝的に受け継がれていることを示している。このように、温度耐性における自然変異は、気候温暖化に従いサンゴの中に急速な適応性を促進するであろう。(KU)
Genomic determinants of coral heat tolerance across latitudes (Science, this issue p. 1460)

化学リソグラフィー由来の複雑な形状(Complex shapes from chemical lithography)

リソグラフィー法による半導体の印刷は、一度に一層の複雑なパターンを形成する。このプロセスは、層毎のマスクがけ、露光、エッチングという多数のステップを含んでいる。Luoたちは、シリコンナノワイヤを成長させ、複雑な3次元(3D)形状に作り上げるために、これまで用いられたのと同じプロセスを微調整した。金が、気相からシリコンナノワイヤを成長、伸長させるための触媒として作用した。その成長過程の圧力を変えると、ワイヤの表面に沿って金の拡散速度が変化した。ワイヤのエッチングにおいて、金の不均質なコーティングがリソグラフィーのマスクとして働いた。かくして、著者たちは、厳密に化学的手段のみで、一連の隆起や凹みを有する、複雑な形状のシリコンの針状の構造物を作成することができた。(Wt,kh,nk)
Atomic gold-enabled three-dimensional lithography for silicon mesostructures (Science, this issue p. 1451)

流出した油を取り除く環境に優しい方法(A green way to clean up an oil spill)

海洋環境から軽質原油の薄い膜を取り除くことは、非常に困難な課題である。現在は、シリコーン系の化合物が用いられているが、永続的な残留物が残ってしまうことがある。植物に含まれる天然顔料からヒントを得て、Johnたちは植物系の油除去剤を開発した。この製品は「環境に優しい」化学的な追い立て役として機能し、薄い油の層を集めて、回収したり燃焼させたりするのに適した塊にする。この生分解性の薬剤は、油を集めるという点においては化学合成物質と同等の性能を持ち、かつ残留汚染物を残さない。(Sk,kh,nk)
Sacrificial amphiphiles: Eco-friendly chemical herders as oil spill mitigation chemicals (Sci. Adv. 10.1126. sciadv.1400265 (2015))

マルチの仕事で休む暇もない(Multitasking around the clock)

我々の概日リズムの慢性的な乱れは--例えば,交替勤務による--,代謝疾患の危険性を高める可能性がある.Zhangたちは,Rev-erb-αと呼ばれるマルチタスク転写因子が,時計遺伝子と代謝遺伝子の双方の発現を異なる機構で制御していることを見出した.時計遺伝子において,この転写因子は特定の DNA配列に直接結合し,競合する転写因子と置換する.代謝遺伝子において,この転写因子は DNAとではなく他の転写因子と相互作用して,代謝遺伝子の発現を組織固有のやり方で制御している。(MY,KU,ok,kh)
Discrete functions of nuclear receptor Rev-erb-α couple metabolism to the clock (Science, this issue p. 1488)

脅威応答回路を通って迫ってくる(Looming in on the threat-response circuit)

脳の中で脅威に関連する入力を伝達する神経要素は何だろうか? Shangたちは,マウスの上丘中で,能動的回避や防御類似挙動の根底をなす重要な神経細胞特殊型を系統的に特定した.彼らは,迫りくる物体に応答し,網膜からの入力を脳の恐怖中心に繋いでいる神経経路を発見した.(MY,kh)
【訳注】
・上丘:網膜から視覚情報を受け取り、脳幹にある眼球運動制御の神経核に信号を送り出す働きをする大脳中の部位
A parvalbumin-positive excitatory visual pathway to trigger fear responses in mice (Science, this issue p. 1472)

ビタミンB12は微生物相を介してにきびを増やす(B12 boosts acne via the microbiota)

低服用量のビタミンB12サプリメントは、にきび(acne)を軽減するが、同じサプリメントでも高服用量の服用はにきびを激増させる。なぜだろうか? Kangらは、皮膚の常在性微生物の転写性の変化が、B12誘発性のにきびを増加させることを示している。このビタミンを服用していたサプリメント患者は、アクネス菌(Propionibacterium acnes)中で B12-合成遺伝子の発現を減少させていた。このことが皮膚の微生物相のトランスクリプトームを変え、炎症誘発性ポルフィリンの生成を促していた。(hk,KU,ok,kh,nk)
【訳注】
・トランスクリプトーム(transcriptome):特定の状況での細胞中に存在する全てのmRNA(messenger RNA)の総体を指す。
Vitamin B12 modulates the transcriptome of the skin microbiota in acne pathogenesis (Sci. Transl. Med. 7, 293ra103 (2015))

標的を迎える態勢にあるRNAシード(An RNA seed poised to meet its target)

原核生物の CRISPR-Casシステムは,感染する寄生虫の DNAやウイルスを正確に特定し,それらを破壊する.CRISPR-Casシステムは手軽なゲノム編集法に作り変えられており,新時代の分子生物学の到来を告げている.Jiangたちは,Cas9ヌクレアーゼが,標的とするガイドRNAに結合する時に異なるコンフォーメーションをとることを示している.ガイドRNAは次に、あらかじめ決められた形状をとる.このようにして,このRNAの”シード領域”は, DNAの標的配列の認識をすぐ開始する態勢をとる.(MY,KU,kh,nk)
【訳注】
・CRISPR-Casシステム:バクテリアが持つ免疫機構.外来生物に感染すると,外来生物のDNA断片がバクテリアのゲノム中に挿入される過程,再感染時に,該当DNA断片からRNAが作られる過程,作られたRNAの誘導でヌクレアーゼが再感染した外来生物のDNAを切断する過程からなるシステム
・ゲノム編集法:ゲノム上の狙った遺伝子を人為的に改変する方法で,CRISPR-Casシステムを応用した方法が用いられる
・ヌクレアーゼ:核酸切断機能を持つタンパク質
・コンフォーメーション:タンパク質鎖の立体的な配置
A Cas9-guide RNA complex preorganized for target DNA recognition (Science, this issue p. 1477)

強すぎる光からの保護(Protection from too much light)

光合成を行う生物は、過剰エネルギーを吸収する色素の光スイッチを用いて,強すぎる光から自分自身を守っている.Leverenzたちは,シアノバクテリア由来の活性化状態にあるエネルギー散逸型のオレンジカロテノイドタンパク質(OCP)の構造を分析した.過剰の光で活性化されると、OCPは,その疎水性カロテノイド色素をタンパク質内部で12オングストローム動かして、より大きく広げた光合成アンテナ複合体による非光化学的消光を可能にする.(MY,nk,nk)
【訳注】
・オレンジカロテノイドタンパク質:シアノバクテリアの光アンテナ部からの光励起エネルギーの熱散逸を引きおこすタンパク質.1つおきに炭素-炭素二重結合が繰り返されたポリエン構造を有するカロテノイド色素を結合している
・非光化学的消光:カロテノイド色素が光アンテナ複合体に近づくことで,活性化状態にある光アンテナ複合体からカロテノイド色素への過剰エネルギーの移動が可能となり,過剰エネルギーによる光アンテナ複合体の化学的変化が生じないこと
A 12 A carotenoid translocation in a photoswitch associated with cyanobacterial photoprotection (Science, this issue p. 1463)

温暖化の結果に関する後ろ向きのお話(Walking back talk of the end of warming)

21世紀の最初の10年間の地球の気温傾向に関する以前の解析は、温暖化が失速したことを示すように見えた。このことが、地球温暖化の考え方への批判者たちに、気候変化に関する懸念は場違いであると主張させることになった。Karlたちは、温度上昇には考えられたような頭打ちは見られず、温暖化の停止は単に以前の解析の人為的な効果であることを示している。温暖化は20世紀後半のペースと似たようなペースで続いており、スローダウンは、まさに錯覚にすぎなかった。(KU,ok,kh,nk)
Possible artifacts of data biases in the recent global surface warming hiatus (Science, this issue p. 1469)

容量危機を乗り越える(Getting around the capacity crunch)

かつてない速さのインターネットや、増大する長距離通信に対する欲求の高まりから、より多くの光を光ファイバーに押し込む必要が生じている。しかしながら、光誘起による非線形性が、信号を損なうことなくファイバーに注入できる光の量を制限してしまう。この制限が、「容量危機」の見通しにつながっていた。Tempranaたちは、デジタル方式の誤差逆伝播法を、単一の周波数コムからの相互コヒーレントレーザーパルスと共に用いることにより、この非線形効果を排除した。(Sk,kh)
【訳注】
・周波数コム:光を櫛の歯列状の周波数スペクトルに分解したもの
Overcoming Kerr-induced capacity limit in optical fiber transmission (Science, this issue p. 1445)

骨形成タンパク質のモルフォゲンは増殖と運命を指示する(BMP mophogens direct growth and fate)

古典的な予定運命図の研究で示されたように、組織と器官は胚の特定の領域から生じる。過去数十年間にわたる研究は、この発生の振付けを指示する分子プレーヤを同定した。骨形成タンパク質 (BMP)とそれらの拮抗物質は発生する胚の中で領域を確立する。Bierと De Robertisは、この分野における鍵となった発見の歴史をレビューしている。さらに進んで、彼らは、どのようにして拡散性のモルフォゲンが勾配を形成して、胚葉を異なる領域に細区画し、そして体の軸を組織化し、増殖を制御し、幹細胞のニッチを維持しているのかに関する今日的理解を解説した。(KU,kh)
【訳注】
・モルフォゲン(mophogen):多細胞動物のパターン形成において、細胞に位置情報を与える機能を持っ物質の総称
・予定運命図(fate map):多細胞動物の胚の予定運命の空間的分布を示す模式図
BMP gradients: A paradigm for morphogen-mediated developmental patterning (Science, this issue 10.1126/science.aaa5838)

心筋細胞を作る(Making cardiomyocytes)

心臓において、複数の細胞型が一緒になって仕事をしている。心臓の前駆細胞は、心筋細胞系列や内皮系列、或いは平滑筋系列を生じる。しかしながら、心筋細胞形成に特異的な標識の正体は曖昧のままであった。Jainたちは、心筋細胞の形成のみに従事するように決定された特殊な前駆体集団を同定している。彼らはまた心筋細胞の作成に関与している分化系列決定やその機構を促進するのに適した信号を同定している。この知見は、心臓病に対するこれからの細胞に基づいた再生薬物療法の発展に役立つであろう。(KU,ok,nk)
Integration of Bmp and Wnt signaling by Hopx specifies commitment of cardiomyoblast (Science, this issue 10.1126/science.aaa6071)

古典的光学における量子ねじれ(A quantum twist on classical optics)

近年の光と物質の相互作用に関する実験結果の解釈は、光に関する古典的マックスウェル理論が、自由空間においてさえ固有の量子スピンホール効果の性質を持っていることを示している。凝縮物質系の複雑な現象に対しては、類似な現象がよりクリーンな光学系においてしばしば見られる。Bliokhらは、同様の複雑な現象を示している光学系もより簡略化できると主張している(Stoneらの展望記事参照)。自由空間における光は、ゼロではないトポロジカル・スピン・チャーン数を有し、故に反対方向に伝搬する表面モードを取ることができることを彼らの理論研究は示している。そのようなモードは実際よく知られているものであり、マックスウェル方程式のエバネッセント・モードとして記述できる。(NK,kh,nk)
Quantum spin Hall effect of light (Science, this issue p. 1448; see also p. 1432)

液体重水素を金属にする(Driving liquid deuterium into metal)

急速で強い圧縮により、物質に劇的な特性変化を生じさせることができる。Knudsonたちは、サンディア Z マシンの高エネルギー磁気パルスを用いて、液体重水素を超高温・高圧状態に圧縮した(Ackland による展望記事参照)。導電性が急激に増大するとともに、重水素は圧縮中に鏡のように反射するようになった。重水素や水素が金属化する条件の観察は、宇宙で最も豊富に含まれる元素の理論モデル構築の手助けとなる。これは、木星や土星のようにガスでできた巨大惑星の内部の層構成に関する我々の理解に役立つ。(Sk,nk)
【訳注】
・サンディア Z マシン:米国サンディア研究所にある爆縮による核融合実験装置
Direct observation of an abrupt insulator-to-metal transition in dense liquid deuterium (Science, this issue p. 1455; see also p. 1429)

海辺のにおいのもとをただす(Sourcing the smell of the seaside)

海洋の植物プランクトンは、地球の硫黄循環に決定的な役割を果たしている.例えば、藻は,海から大気へ放出される芳香族化合物である硫化ジメチル(DMS)の主要な源である.Alcolombriたちは,ブルーム形成海洋植物プランクトンである Emiliania huxleyiの DMS産生の原因である酵素リアーゼを特定した(Johnstonによる展望記事参照).地球規模で分布している他の植物プランクトンやサンゴにこの遺伝子が存在することは,これが,多様な生物門にわたる DMS産生の信頼できる指標として役立つかもしれないことを示唆している.DMSは酸化されて硫黄エアロゾルになり,これは雲の凝集核の役割を果たすため,この酵素は重要な地球規模の生物地球化学的触媒である.(MY,kh)
【訳注】
・ブルーム形成:植物性プランクトンの光合成活動が盛んになり爆発的に増殖する現象
・Emiliania huxleyi:細胞表面に円石と呼ばれる円盤型の構造を持ち,光合成を行う植物プランクトン
・リアーゼ:ある化学基を脱離させて二重結合を生じさせたり,その逆反応を行う酵素
Identification of the algal dimethyl sulfide-releasing enzyme: A missing link in the marine sulfur cycle (Science, this issue p. 1466; see also p. 1430)

一度に一つの遺伝子を沈黙させる(Keeping quiet one gene at a time)

染色体DNAには、2つの種類がある。発現遺伝子の大部分を含む真正染色質と、通常沈黙している異質染色質でである。しかし、何が異質染色質内の遺伝子を沈黙させているのだろう? Tchasovnikarovaたちは、哺乳類細胞におけるこのタイプのサイレンシングの基盤を検討した(Brummelkampによる展望記事参照)。彼らは HUSHと呼ぶ、ヒト細胞中でタンパク質複合体を同定したが、この複合体が関連するヒストンメチル化標識を変えることによってゲノムの特定部分を沈黙させていた。(KF,kh)
Epigenetic silencing by the HUSH complex mediates position-effect variegation in human cells (Science, this issue p. 1481, see also p. 1433)

タンパク質合成のためのRNA巻解き(Unwinding RNA for protein synthesis)

タンパク質合成の第一段階の際、小さなリボソームのサブユニットが mRNAの5'末端を走査して、タンパク質開始コドンを探す。このプロセスには、翻訳開始因子の一つ eIF4Aが関与していて、これが、リボソームによる探索を妨害するかもしれないいかなる RNA構造をも除去することを助けている。Garcia-Garciaたちは単一分子光トラップ測定法を用いて、eIF4Aが他の2つの翻訳開始因子と協力して、二本鎖 RNAのヘアピン構造を連続的、かつ一方向に巻解くことができることを示した。これら因子は、RNA二重らせんの一回転にほぼ等しいステップでRNAを巻解いた。(KF,KU,kh)
Factor-dependent processivity in human eIF4A DEAD-box helicase (Science, this issue p. 1486)

部分の和以上に(More than the sum of its parts)

微生物の系統や種は、微生物コミュニティー中で、いかに相互作用し、生き延びているのだろうか? その答えは、例えば、バイオマスからバイオ燃料を作り出すなどの、生物工学的プロセスを科学者が発明することを助ける可能性がある。展望記事において、Fredericksonは、微生物コミュニティーが栄えるのを助けている協力的機構についての最近の洞察に光を当てている。異なる種が、アミノ酸などの必須化合物を産生する仕事をしばしば共有している。協力し合う細胞は、そうした共通の資源を、お返しなしに利用しようとするぺてん師たちを出し抜くように進化する。また、空間的な組織化も重要である。例えば、抗生物質に抵抗するために、混合生物膜を促進するなど。(KF,kh)
Ecological communities by design (Science, this issue p. 1425)

母乳栄養の利点(Benefits of breastfeeding)

我々の腸内に良い微生物相を増やす食事の変化は、健康上の興味を大いに惹くものだが、我々の利益になるようにその微生物コミュニティーをうまく形成する方法は、はっきりしていなかった。展望記事において、HindeとLewisは、最適な介入に関する洞察を得るために、乳児の腸の微生物群ゲノムと母乳栄養を進化的視点で検討している。ビフィズス菌が、健康な乳児の腸における主要な微生物クレードである。その細菌は母乳にもっとも多く含まれているオリゴ糖を代謝し、発生中の腸と免疫系を助ける副産物を産生している。自然選択は、免疫と消化に圧力を加えるものへの応答として、母乳と健康な腸の微生物叢とを共進化させることを好んだのであろう。(KF,KU,kh)
【訳注】
・クレード(clade):共通の先祖から進化した生物群
Mother's littlest helpers (Science, this issue p. 1427)

よりよい免疫抑制剤の発見(Finding better immunosuppressants)

免疫抑制剤シクロスポリン A(CsA)は、移植患者における器官の拒絶反応を防ぐ。CsAは脱リン酸酵素カルシニューリンを抑制し、NFAT転写制御因子の活性化を防いでいて、このどちらもがT細胞増殖に必要である。しかし、CsAはまた、カルシニューリンが他の標的に結合することも妨げていて、これが多くの副作用をもたらすことになる。Matsuokaたちは、脱リン酸酵素の活性を抑制することなくカルシニューリン-NFAT複合体からNFATを置換する複合体を同定した。これら複合体のうち4つが、NFAT標的遺伝子の発現をブロックし、ヒトCD4+T細胞の増殖を抑制し、免疫抑制剤としてさらなる検証を行なうべき良い候補である可能性がある。(KF,kh,nk)
Identification of small-molecule inhibitors of calcineurin-NFATc signaling that mimic the PxIxIT motif of calcineurin binding partners (Sci. Signal. 8, ra63 (2015))
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