AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 12 2015, Vol.348


種の分布における新興のパターン(Emerging patterns in species distribution)

人間の影響によって、動物種の地理的分布に変化が発生している。Capinhaたちは、軟体動物の在来種と人間活動によって新しい地域に持ち込まれた種の分布とを比較した。在来種の生息範囲は分散能力の限界によって、既におおざっぱに制限を受けているが、持ち込まれた外来種の生息分布は、気候や人間の移動パターンによってより強く影響される。人間によって、分散に対する障壁が壊さることが続くと、もっと多くの種の分散がそれら自身の環境耐性によって制限を受けるようになるだろう。(Uc,kh)
The dispersal of alien species redefines biogeography in the Anthropocene (Science, this issue p. 1248)

結合した染色体を、細胞が検知するやり方(How cells sense connected chromosomes)

細胞は、すべての染色体が紡錐体上に適切に配列して、個々の染色体の複製をそれぞれの娘細胞に正確に分配可能になるまで、細胞分裂を休止するという、「チェックポイント」機能を持っている。Hirumaたちは、分裂の用意ができたことを細胞が検知するその分子機構を説明している。タンパク質キナーゼ MPS1は、染色体の動原体でタンパク質複合体と結合している。その活性は、細胞周期を休止する信号を作る。染色体が、紡錘体に適切に付着すると、MPS1が結合している動原体上の同じ部位へ物理的に結合しようとして、紡錐体の微小管が互いに競い合う。このように、いったん動原体が適切に付着されると、MPS1は解離し、抑制シグナルが失われ、細胞分裂が進行可能となる。(KU,ok,kh,nk)
Competition between MPS1 and microtubules at kinetochores regulates spindle checkpoint signaling (Science, this issue p. 1264)
Kinetochore attachment sensed by competitive Mps1 and microtubule binding to Ndc80C(Science, this issue p. 1260)

変化は大気にあった(Change was in the air)

気体の酸素分子 O2の大気中の割合は、現在は 21%であるが、過去5億年間に渡り、およそ 35〜15% の間を変化していたと考えられている。O2は温室効果ガスではないため、しばしば、この変化は気候変動の研究で考慮されてこなかった。Poulsonと Wrightは、酸素濃度が大気圧や大気の平均分子量に寄与しており、その間接的効果によって、降水と大気の湿度に影響を与えていることを示している(Peppeと Royerによる展望記事を参照のこと)。これらの効果は、地質学的な過去において、水蒸気による温室効果強制力の強さ、地表面の大気温度、や水循環に顕著な変化を生じた可能性がある。(Wt,ok,kh,nk)
Long-term climate forcing by atmospheric oxygen concentrations (Science, this issue p. 1238; see also p. 1210)

ナノ処方で静脈移植血管を正常に保つ(Nanoformulation keeps vein grafts healthy)

MK2iペプチドは、静脈移植後の炎症や線維症を抑えるために現在臨床試験中である。しかしながら、低い生物学的利用能と急激な分解が、MK2iの臨床移行を遅らせていた。Evansたちは、静電気的に複合化したナノ粒子に MK2iペプチドを処方した。その結果の MK2i・ナノポリプレックス(MK2i-nanopolyplexes)は、ヒト静脈中の血管平滑筋と血管内皮細胞の双方に入りこんだ。それらの輸送は、炎症誘発性サイトカインの濃度、血管平滑筋細胞の遊走、及び新生内膜の形成(すなわち, 血管の肥厚)を減少させた。ウサギの静脈移植において、MK2i・ナノポリプレックスの治療(しかしフリーの MK2iではなく)が、移植後1ヶ月の間内膜の過形成を防いだ。このように、ナノポリプレックスはより長期にわたる静脈移植の有用性を改善する可能性がある。(KU,ok,kh)
【訳注】
・生物学的利用能(bioavailability):投与薬物・微量元素が血液に入り全身を循環する割合
MK2 inhibitory peptide delivered in nanopolyplexes prevents vascular graft intimal hyperplasia (Sci. Transl. Med. 7, 291ra95 (2015))

日周振動の再構成(Reconstruction of circadian oscillations)

概日リズムは,生命系統樹の中で広く見出される.しかしながらよくあることだが,概日時計は,いくぶんかは,概日時計システム内の冗長性が高いために,それを持つ自然界の生物体で要素還元的に研究を行うことが困難である.Silverたちは,シアノバクテリアから得た概日時計を,概日性のない生物体である大腸菌に移植した.概日性のない生物体で研究が行えるようになることは,概日時計を分子レベルで分析する機会を開くものであり,また,時間依存性を持つ生物回路を操作するやり方を示唆するものである.(MY,kh)
Transplantability of a circadian clock to a noncircadian organism (Sci. Adv. 10.1126.sciadv.1500358 (2015))

断層への注水と同時にスリップを観察する(How to observe fault injections in real time)

地中の断層は,間隙水圧を変える排水注入のようなやり方に応じて変形することが知られている.Guglielmiたちは,不活性断層中へ制御された流体の注入と同時にこの過程を監視することに挑戦した(Cornetによる展望記事参照).活動を止めている断層を再活性化させると,非地震性滑りが誘発され,これが微小地震を引き起こした.これらの観察は,どのようにして摩擦力が滑り速度に関係するかのモデルに貴重な情報を与える.この手法はまた,地震活動を誘発する排水注入に対して,現場規模での監視に応用できる.(MY,ok,kh,nk)
【訳注】
・間隙水圧:地盤に及ぼす地下に存在する流体の圧力
Seismicity triggered by fluid injection-induced aseismic slip (Science, this issue p. 1224; see also p.1204)

脳内の受容体が呼吸を制御する(Receptor in the brain controls breathing)

哺乳類における呼吸の制御は主として、酸素を検知するのではなく、血液中の二酸化炭素濃度の検出に依存している。この系の機能停止は、死にかかわる睡眠時無呼吸症候群を引き起こす可能性がある。昆虫からのヒントを元に(昆虫はヘテロ三量体のグアニンヌクレオチド結合タンパク質共役受容体(GPCR)を用いて、二酸化炭素を検知している)、Kumarたちは、マウスにおいて GPCR GPR4が呼吸を制御するのに必須であることを実証している。GPR4は血液中の炭酸の形成によって産生される水素イオンを検知し、そして呼吸を制御している脳細胞群において TASK-2と呼ばれる pHに敏感なカリウムチャネルと一緒に作用している。(KU,kh,nk)
Regulation of breathing by CO2 requires the proton-activated receptor GPR4 in retrotrapezoid nucleus neurons (Science, this issue p. 1255)

日の光をもっと取り入れる(Taking in more sun)

太陽電池用の有機-無機ペロブスカイトの優れた膜を成長させる多くの努力は,メチルアンモニウムヨウ化鉛(MAPbI3)に集中している.しかしながら,ホルムアミディニウムヨウ化鉛(FAPbI3)は,最終的にはより優れた性能をもたらしうる,より広い太陽光吸収スペクトルを持っている.Yangたちは,ヨウ化鉛とジメチルスルホキシド(DMSO) からなる膜から出発し,次に,DMSOをヨウ化ホルムアミディニウムと交換することでFAPbI3の高品質膜を成長させた.彼らの最良の素子は20%を超える電力変換効率を達成した.(MY,kh)
【訳注】
・メチルアンモニウムヨウ化鉛の分子式:CH3NH3PbI3
・ホルムアミディニウムヨウ化鉛の分子式:NH2CH=NH2PbI3
・ジメチルスルホシキドの分子式:(CH3)2SO
High-performance photovoltaic perovskite layers fabricated through intramolecular exchange (Science, this issue p. 1234)

モリブデンドープにより活性を高める(Molybdenum doping drives high activity)

白金は燃料電池における酸素還元反応の効率的な触媒であるが、入手が困難な素材である。白金の使用効率を高めるために、ニッケルのような豊富な金属との合金を用いる方法がある。同合金触媒は高い活性を示すものの、ニッケルの脱落が原因で寿命が短いことが課題であった。Huangらは、八面体 Pt3Niナノ結晶の表面にモリブデンをドープすると、工業用の従来触媒に比べ80倍の活性を示すだけでなく、寿命も延ばすことができることを示した。(NK,kh,nk)
High-performance transition metal-doped Pt3Ni octahedra for oxygen reduction reaction (Science, this issue p. 1230)

高品質の製造は品質管理にまさる(Quality manufacture beats quality control)

半導体ナノ結晶に関しては、均一な特性を持つ粒子を得るために、粒子径を厳しく制御することが必要である。しかしながら、合成後に精製する方法は困難で費用がかかる。Hendricksたちは、優れたカルコゲン前駆物質として、置換されたチオ尿素類を提示した(Hensによる展望記事参照)。反応速度は前駆物質の特定の化学的性質に関係しており、特定の粒径で、狭い粒径分布を有し、反応物質が完全に変換された、硫化鉛(PbS)のような金属カルコゲナイドのナノ結晶を合成することを可能にしている。(Sk)
A tunable library of substituted thiourea precursors to metal sulfide nanocrystals (Science, this issue p. 1226; see also p. 1211)

速すぎもせず、遅すぎもせず(Not too fast and not too slow)

蛾は一般的に、光の量が減って物を見ることが大変な、夜明けや夕暮れに活動的になる。視覚の応答時間がより遅くなると、より高い光感度が可能になるが、飛翔する昆虫は自分が動くだけでなく動く対象の追跡もしており、そのようなトレードオフが潜在的な問題になっている。Sponbergたちはモデル化と実験の組み合わせを用いて、蛾がこの潜在的な視力低下を回避できることを示した(Warrant による展望記事参照)。これは、彼らの動きの認識が損なわれる境界が、自然の花が揺れる振動数をほんの少し超えているためである。このようにして、昆虫の視覚は彼らの行動する環境の光と動きの条件に的確に順応している。(Sk,ok,kh,nk)
Luminance-dependent visual processing enables moth flight in low light (Science, this issue p. 1245; see also p. 1212)

より広い視野から見たすばらしい新世界(A brave new world with a wider view)

研究者たちは、動物たちが住む環境を移動するのに応じて、彼らを追尾しようと長い間試みてきた。しかしながら、比較的最近まで、そのような取り組みは大きな電池と発信機を運ぶことができる十分大きな種で、しかも短距離、短時間の場合に限られていた。新技術が、動物追跡の遠隔データ収集における新境地を開拓した。Hussey たちは、海洋生態系に対してそのような取り組みが用いてきた独特の使用法を概説している。一方で、Kays たちは、陸生の種に対する最近の進歩を概説している。我々は、動物たちが彼らの住む環境の対象として、かつ検査係としても役割を果たす、動物生態学の新時代に入っている。(Sk,ok,kh)
Aquatic animal telemetry: A panoramic window into the underwater world (Science, this issue 10.1126/science.1255642)
Terrestrial animal tracking as an eye on life and planet (Science, this issue 10.1126/science.aaa2478)

損傷組織用のカンフル剤(A shot in the arm for damaged tissue)

組織の損傷は,負傷,病気,また,ある種の治療によってさえも引き起こされる.組織の再生と回復を加速させる薬剤.特に,多数の臓器系に益となる薬剤を同定することに大きな関心が集まっている.Zhangたちは,少なくともマウスに対して、この望まれる活性を持つ化合物について記述している(FitzGeraldによる展望記事参照).SW033291は,骨髄移植後の造血系の回復を促進し,また,腸内での潰瘍性結腸炎の発生を防ぎ,さらに,肝臓手術後の肝再生を加速する.この化合物は,組織幹細胞維持に関与していた脂質シグナル伝達分子である、プロスタグランジンに対する分解酵素を抑制することで作用している.(MY)
Inhibition of the prostaglandin-degrading enzyme 15-PGDH potentiates tissue regeneration (Science, this issue 10.1126/science.aaa2340; see also p. 1208)

脳領域の協調が類似遺伝子を発現する(Cooperating brain regions express similar genes)

脳が休息しているときにも、数多くの別々の領域が機能的に結ばれている。それらはネットワークで組織化されている。Richiardiたちは脳画像表示と遺伝子発現データとを比較して、そのネットワークの計算モデルを構築した。この機能ネットワークは、中核的な161個の遺伝子の相関する発現によって支えられている。この遺伝子集合においては、イオンチャネルおよび神経伝達物質放出などの他のシナプス機能をコードしている遺伝子が支配的な役割を果たしている。(KF,KU,ok,nk)
Correlated gene expression supports synchronous activity in brain networks (Science, this issue p. 1241)

グラム陰性菌の検出(Detecting Gram-negative bacteria)

様々なクラスの微生物に特異的な不変の分子(しかし、真核細胞では発現することのない)は、免疫系に潜在的な侵入者の警報を伝える。Gaudetたちは、種々のグラム陰性菌によって発現されるそのような分子の1つである、単糖ヘプトース-1,7-二リン酸(HBP)を同定した(BrubakerとMonackによる展望記事参照)。HBPは、細菌の細胞壁の主要な成分であるリポ多糖の合成における中間物である。免疫系に対して、Toll様受容体などの伝統的な病原体検出経路を介して通報するのではなく、HBPは、宿主タンパク質 TIFA(フォーク状の領域を有するTRAF-相互作用タンパク質)を介してシグナル伝達していて、それによって自然免疫応答と順応性の免疫応答の双方を活性化している。(KF,KU)
Cytosolic detection of the bacterial metabolite HBP activates TIFA-dependent innate immunity (Science, this issue p. 1251; see also p. 1207)

M因子を操作して蚊の性を変える(Manipulating M factor alters mosquito sex)

メスの蚊は血液を吸い、それを通じて、毎年何百万人の人に病原体を伝達している。多くの動物における性決定の分子機構は知られているが、蚊における特異的な因子は捉えられてこなかった。これは、昆虫における性決定には、ゲノムの高度に反復配列している部分が関与しているからである。Hallたちはこのたび、ネッタイシマカの雄性決定因子(M因子)を同定した。M因子の操作によって、性変化した表現型が産み出された。遺伝子 Nixをノックアウトすると女性化したオスが生まれ、異所性発現があると、雄性化したメスが生まれた。これらの知見は、メスの蚊を刺すことのないオスへと転換する方策を進展させる助けになるにちがいない。(KF,KU,ok,kh)
【訳注】
・異所性発現ectopic expression):本来発現する場所以外で遺伝子が発現し タンパク質が生成すること
A male-determining factor in the mosquito Aedes aegypti (Science, this issue p. 1268)

分解のためのSUMOの切り替え(SUMO switching for degradation)

急性前骨髄球性白血病は、融合タンパク質によって引き起こされ、その一部が核タンパク質 PMLである。亜ヒ酸による化学療法は、PML部分の修飾を介してこの融合タンパク質の分解を誘発する。Fasciたちは、基礎的条件下で、SUMO2が PML中の特異的リジン残基に絶えず付加されたり、そこから除去されたりしていることを発見した。亜ヒ酸に曝された細胞中では、SUMO2ではなく SUMO1がこの残基(著者たちが「切り替え」残基と呼ぶ)に共役結合し、これが別のリジン残基(「鎖」残基)に SUMO2鎖の形成と PMLのユビキチン化と崩壊に導く。(KF,KU,ok,kh)
【訳注】
・SUMO(small ubiquitin-like modifier):細胞内のタンパクと一時的に結合する小さなタンパクで、ユビキチンに似ている。
SUMO deconjugation is required for arsenic-triggered ubiquitylation of PML (Sci. Signal. 8, ra56 (2015))
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