AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 29 2015, Vol.348


自然リンパ球が腸のT細胞を抑制する(Innate lymphoid cells keep gut T cells in check)

我々の腸には何兆もの細菌が棲んでいる.T細胞を含めて多くの種類の免疫細胞も同じように腸内に生息し、これら腸内細菌を攻撃すると予想されるている。では,我々の体はどうやって秩序を保っているのだろうか? Hepworthたちはマウスを研究し,そうした仕組みの1つを報告している.自然リンパ球と呼ばれる免疫細胞集団が,腸の共生微生物に反応する CD4陽性T細胞(CD4+ T cells)を直接殺していた.この過程は細部のいくつかの点で,免疫系が胸腺において自己反応性 T細胞の発生を抑制する方法と類似している.さらに,この秩序維持過程は,炎症性腸疾患のある子どもでは乱されているかもしれない.(MY,KU,nk)
【訳注】
・自然リンパ球:自然免疫系で働くリンパ球のことで発見が新しい.従来のリンパ球(B細胞,T細胞)は獲得免疫系で働く
・CD4陽性T細胞:ヘルパーT細胞とも呼ばれ,抗原を捕捉した抗原提示細胞からの刺激で,抗原を攻撃するB細胞やキラーT細胞にシグナルを送り,免疫応答を起こさせる
Group 3 innate lymphoid cells mediate intestinal selection of commensal bacteria-specific CD4+ T cells (Science, this issue p. 1031)

光化学系Iがスポット光を浴びて姿を見せる(Photosystem I enters into the spotlight)

植物は,タンパク質,葉緑素,他の補助因子からなる巨大複合体に依存して光を化学エネルギーに変換する.Qinたちは,エンドウ豆由来の光化学系I (PSI)と集光性複合体I (LHCI)との超複合体の結晶構造を提示している(Croceによる展望記事参照).外側のアンテナ複合体の十分な分解能の構造およびアンテナ複合体とPSIコアとの相互作用は,励起エネルギーの移動効率を計算する上での構造の拠り所を与えている.さらに,PSIと LHCIの内部および境界での葉緑素とカロチノイド補助因子の秩序組織や配向は,エネルギー移動や光防護の機構を暗示している.(MY,nk,kh)
【訳注】
・超複合体:中心にあるPSIをLHCIが取り囲む構造をとる.LHCIで吸収された光エネルギーがPSIに伝えられ,PSIは糖生成に必要なNADPHという物質をその酸化体から作る
・光防護:過剰な光エネルギーから光化学系を防御すること
Structural basis for energy transfer pathways in the plant PSI-LHCI supercomplex (Science, this issue p. 989; see also p. 970)

リンと窒素の芳香環(An aromatic phosphorus and nitrogen ring)

化学において、「芳香族」という用語は、環内の原子に共有される電子と関連したエネルギー的安定性を意味している。ベンゼンはもっとも有名な芳香族化合物であるが、多数の関連する炭化水素化合物でも同様の性質を示す。Velianと Cumminsは、無機の芳香族化合物(3つの窒素原子と2つのリン原子からなる負に帯電した五員環)という珍しい事例について報告している。(NK,KU)
Synthesis and characterization of P2N3-: An aromatic ion composed of phosphorus and nitrogen (Science, this issue p. 1001)

頭尾極性を蚊で引き起こす方法(How to generate head-to-tail polarity in a midge)

動物のゲノムは、静止した状態のままではなく、時間と共に必須遺伝子を得たり失ったりする。このようなケース一つは、ハエのビコイド遺伝子である。ビコイドは、頭尾極性生成の際に初期のショウジョウバエの発生に重要な役割を果たしているが、ほとんどのハエはビコイドを欠いている。それでは、どの遺伝子が他の昆虫で同じ機能を果たしているのか?Klompらはビコイドと構造的に無関係な遺伝子について報告している。それは蚊とよく似たハーレクインフライにおいてビコイドと本質的に同じ機能を果たすが、異なる遺伝的機構を通じて働くのである。(hk,KU,ok,nk,kh)
【訳注】
・ビコイド遺伝子(bicoid gene):ショウジョウバエの前後軸形成に関与する遺伝子
A cysteine-clamp gene drives embryo polarity in the midge Chironomus (Science, this issue p. 1040)

糖尿病における遺伝子治療法(A gene therapy approach for diabetes)

遺伝子治療は増加する疾病群の処置法としてますます成功を収めつつある。糖尿病に関してはどうだろうか?Akbarpourたちはレンチウイルスベクターを用いて、1型糖尿病のマウスモデルの肝細胞中にインスリンを発現させた。この治療はインスリンに特異的な調節性 T細胞を誘発し、そして膵島中への免疫細胞の浸潤を止めた。さらに、遺伝子治療を CD3への単クローン抗体の1回投与と併用すると、糖尿病マウスにおいて病状悪化を抑えた。このように、肝細胞における自己抗原の発現は、自己免疫疾患において抗原特異的な耐久力を誘起することがある。(KU,nk,kh)
【訳注】
・1型糖尿病:免疫系の異常で、インスリンを産生する自らの膵臓の細胞を破壊する自己免疫疾患
・レンチウイルス:RNAウイルスの中で逆転写酵素を持つレトロウイルス科の一つ
・膵島(すいとう:pancreatic islets):膵臓のランゲルハンス島の別名
Insulin B chain 9-23 gene transfer to hepatocytes protects from type 1 diabetes by inducing Ag-specific FoxP3+ Tregs (Sci. Transl. Med. 7, 289ra81 (2015))

疲労を回避する記憶合金(Memory alloys that avoid exhaustion)

形状記憶合金は、変形された後にさっと元の形状に戻ることが可能である。しかしながら、多くの場合、これらの合金は何度も変形を繰り返すと対処できなくなってしまう。Chlubaたちは、1000万回変形させてもほとんど疲労を生じない、この落とし穴を回避する合金を見出している(Jamesによる展望記事参照)。そのような低疲労材質は、冷蔵庫から人工心臓弁まで、多くの将来の応用に有用となるであろう。(Sk,ok,nk)
Ultralow-fatigue shape memory alloy films (Science, this issue p. 1004; see also p. 968)

一晩寝て考える:ボンヤリした学習内容を固定化する(Sleep on it: Consolidating implicit learning)

良好な夜の睡眠は、直近に学習した情報を持続性のある記憶に固定する最も良い方法の一つである。最近の証拠は、直近の記憶が寝ている間に再活性化され、蓄積されている情報の既存の表象の中に織り込まれることを示唆している。Huたちは今回、睡眠中の記憶固定のきっかけを作ることが、直近に学習した反偏見の研修内容を植え付ける助けになることを証明した。人種や性別に対する人々の紋切り型の態度の変化は、訓練後、最大一週間の間維持された。(Sk,nk,kh)
【訳注】
・表象:記憶されたイメージが再び心のうちに表れるもの
Unlearning implicit social biases during sleep (Science, this issue p. 1013; see also p. 971)

悪事における変異プロモーターの仲間(A mutant promoter's partner in crime)

テロメラーゼは、染色体の末端を維持している酵素である。その酵素の触媒サブユニットをコードしている遺伝子、TERTは健康な体細胞中では発現しないが、しかしヒト癌の大部分でその発現が再活性化される。その結果として生じる高レベルのテロメラーゼは、癌細胞の生存と増加を助けている。TERTのプロモーター領域における反復性の変異は、複数の癌のタイプにおける高いテロメラーゼレベルと関係している。Bellたちは、GABPと呼ばれる特異的な転写制御因子が、TERTプロモーターの変異体型に選択的に補充され、これがTERT遺伝子の発現を活性化することを示している。(KU,kh)
The transcription factor GABP selectively binds and activates the mutant TERT promoter in cancer (Science, this issue p. 1036)

異種由来生合成の力を利用する(Harnessing the power of heterologous biosynthesis)

糸状菌や植物、及び細菌から得られた環境由来の生理活性化合物は、非常に多様なヒトの疾患の治療用の薬を提供した。しかしながら、工業的に、或いは実験室でこれらの化合物をつくることは困難なことが多い。Zhangたちは、代用の大腸菌宿主中にさまざまな生合成経路を導入し、多様な鏡像異性体の化合物を産生した。産生された類似体の幾つかは、エリスロマイシン耐性の枯草菌系統に対して効き目があった。(KU,kh)
Tailoring pathway modularity in the biosynthesis of erythromycin analogs heterologously engineered in E. coli (Sci. Adv. 10.1126. sciadv.1500077 (2015)

それは穴次第だ(It's all about the holes)

台所の篩や漉し器からコーヒーフィルターまで、多孔性材料は幅広い用途がある。産業規模では、それらは吸着部材、フィルター、膜、触媒として用いられる。Slaterと Cooperは、それぞれの用途が、いかに使える材料を制限するか、さらに必要とされる孔の大きさや連結性を調査している。彼らは次に、学術的および産業的応用において増大する用途が見出される、ますます増えつつある様々な多孔性材料の比較や対比へ話を進めた。(Sk,ok,nk,kh)
Function-led design of new porous materials (Science, this issue 10.1126/science.aaa8075)

LEMは T細胞が必要とするエネルギーを彼らにもたらす(LEM gets T cells the energy they need)

感染の際に、T細胞は広範囲にわたって増殖し、十分な兵力を整えて、侵入する病原体を打ち破る。代謝における慎重に制御された変化は、T細胞にこのようなことをさせるが、しかしこれらの変化の特異的な性質は十分には理解されていない。T細胞性免疫を制御している遺伝子をスクリーンするためにマウスでの順遺伝学を用いて、Okoyeたちは、彼らがリンパ球拡大分子 (lymphocyte expansion molecule:LEM)と名付けたタンパク質をコードしている遺伝子中の変異を同定した(O'Sullivan and Pearceによる展望記事参照)。LEMは、慢性的なウイルス感染に応答して、増殖と記憶細胞の産生の双方を含めて、T細胞性免疫を増強した。LEMは、ミトコンドリアの呼吸における影響を通してこれらの変化を促進した。(KU,nk,kh)
【訳注】
・順遺伝学(フォワード遺伝学:forward genetics):遺伝性の見られる形質からその原因となる遺伝子を探る方法
The protein LEM promotes CD8+ T cell immunity through effects on mitochondrial respiration (Science, this issue p. 995; see also p. 976)

逆行性健忘症からの実験的回復(Experimental recovery from retrograde amnesia)

記憶の研究者が健忘症を生起するとき,通常彼らは, その操作が記憶痕跡【訳注】の有効な符号化を, 固定化において妨げるものと仮定している.この仮説が予測するように、Ryanたちはタンパク質の合成阻害薬を注入すると,動物は記憶を取り出せないことを見出した.しかし,驚いたことに,それにもかかわらず,条件付けの際に標識付けされたニューロンを光誘発活性化すると記憶が再活性化された.細胞レベルの固定化の結果であるシナプス強度の増強は,記憶の貯蔵にとって決定的な必要条件ではない.(MY,KU,nk,kh)
【訳注】
・記憶痕跡:記憶に対して脳内神経で生化学的な変化が生じるという仮説
・逆行性健忘症:発症以前の過去の記憶を思い出すことができない障害
・光誘発活性化:光遺伝学的方法で神経細胞に光チャンネルを発現させ,光チャンネルが吸収する光を照射することで神経細胞を活性(興奮)状態にすること
Engram cells retain memory under retrograde amnesia (Science, this issue p. 1007)

氷山の大群の熱帯地方への影響(The tropical impact of iceberg armadas)

最終氷期におけるグリーンランドの氷床からの大量の氷山の流出は、Heinrich eventと呼ばれている。Heinrich eventは、急激な気候変化の原因となったのか、あるいは、その気候変化の産物なのか? メタンの産生が増加するのは主に熱帯の環境が湿潤になる結果なので、メタン濃度は気候の代用尺度である。Rhodesたちは、南極の氷のコアから得られた、大気のメタン濃度の高精度記録を報告している。Heinrich eventによって引き起こされた北半球の寒冷化に応じて、メタン濃度は変化し、すなわち、熱帯の気候は変化した。(Wt,KU,nk,kh)
Enhanced tropical methane production in response to iceberg discharge in the North Atlanti (Science, this issue p. 1016)

準性的な微生物集団(Quasi-sexual microbe populations)

微細スケールでの微生物多様性が驚くほど大きいことが、自然母集団の DNA配列決定によって明らかにされてきた。この多様性がいかにして形成され、維持されているか、また環境や臨床に対してそれがどんな意味を持っているかははっきりしていない。専用の先進統計手法を用いて、Rosenたちは、イエローストーン公園の温泉中で成長する光合成細菌の進化構造を分析した(DesaiとWalczakによる展望記事参照)。この集団は、クローンのようにも「生態型」のようにも振る舞うことなく、むしろ性のある生物のように振る舞った。 このラン藻類は多様性を維持する高い組換え比率をもっていて、さもなけれ ば多様性を減少させるはずの選択的掃引を防いでいる。(KF,nk,kh)
【訳注】
・生態型:同じ一つの種であるが、異なる条件の環境に長く生育し、環境条件に適応して形質が分化して、それが遺伝的に固定した型のこと
・選択的掃引:突然変異で有利な変異が固定する過程で、その周辺にある型が少数に限定されること
Fine-scale diversity and extensive recombination in a quasisexual bacterial population occupying a broad niche (Science, this issue p. 1019; see also p. 977)

記憶薬の標的の同定(Identification of a memory drug target)

ISRIBは、統合的ストレス応答(ISR)の強力な阻害剤である。ISR には eIF2α特異的キナーゼの活性化、 eIF2αのリン酸化、そしてその結果生じる全体的な翻訳レベルの下方制御が含まれている。ISRIBはまた、ある種の記憶障害治療のための薬剤候補でもある。ISRIBはリン酸化を防ぐのではなく、そのステップの下流で作用しているに違いない。Sekineたちはこのたび、ISRIBが、専用のグアニンヌクレオチド交感因子である eIF2Bの活性に関する eIF2αリン酸化の抑制効果を反転させ、リン酸化とは独立にその活性を増強していると報告している(Hinnebuschによる展望記事参照)。著者たちはISRIB耐性細胞を単離し、eIF2Bδの短いN末端領域にある、観察された表現型の原因であるらしき遺伝的病変を同定した。(KF,KU,nk,kh)
Mutations in a translation initiation factor identify the target of a memory-enhancing compound (Science, this issue p. 1027; see also p. 967)

細胞シートの引き伸ばしによる増殖促進(Stretching cell sheets promotes proliferation)

機械的ひずみは、多細胞性組織の発生や組織化、機能を制御している。しかしどのようにして?カドヘリンは、細胞外相互作用を介して、隣接する上皮細胞に機械的に結び付き、転写制御因子βカテニンと Yap1を隔離している。より以上の発見をするため、Benham-Pyleたちは上皮細胞シートを引き伸ばした。この機械的ひずみは、細胞周期の急速な再開や、連続的な核集積による DNA合成、そして Yap1と βカテニンの転写活性化を引き起こした。つまり、細胞-細胞間結合は、シグナル伝達センターを提供する、機械的な応答性のある構造的足場であり、転写反応を外から加わる力に協調させる。(KF,KU,kh)
Mechanical strain induces E-cadherin-dependent Yap1 and β-catenin activation to drive cell cycle entry (Science, this issue p. 1024)

キネトプラスト病との戦い(The battle against kinetoplastid diseases)

キネトプラスト類と呼ばれる寄生原生動物によって引き起こされる病気は、多くの低所得国の風土病で、世界中で何百万の人に感染している。そうした病気の中でもっとも広まっているのはリーシュマニア症で、98か国の3億5千万人に感染リスクがある。その次がシャーガス病で、これは推定で6、7百万人に感染している。昆虫によって伝播され、これら病気はしばしば外見をひどく損なわせたり、死をもたらす。しかしながら、多くの既存の薬物治療は深刻な副作用をもたらし、管理が難しい。展望記事において、Bilbeは、これら無視されてきた病気に対する薬剤開発に際して直面する課題の概要を論じ、より効果的な、経口投与薬物治療へ向けての進歩に光を当てている。(KF,kh)
Overcoming neglect of kinetoplastid diseases (Science, this issue p. 974)

電気に感じてその方へ移動(Moving to that electric feel)

細胞運動は、化学的勾配(走化性)によって、あるいは電場(電気走性)によって導かれることがある。その両者は創傷治癒に貢献している。電気走性を制御する仕組みは、走化性を制御する仕組みほど解析されていない。変形菌である細胞性粘菌が、走化性研究において広く用いられてきた。Gaoたちは高スループット・スクリーニング法を開発し、遺伝子改変を施したタマホコリカビ系統における電気走性を解析した。走化性に関与する TORC2経路の成分が電気走性にも必要とされた。(KF,KU,ok)
【訳注】
・高(ハイ)スループット・スクリーニング法:膨大な数の化合物ライブラリー群の内から、自動化ロボットなどの手法で、目的とする化合物を、単位時間の処理量を多くして選別する技法
A large-scale screen reveals genes that mediate electrotaxis in Dictyostelium discoideum (Sci. Signal. 8, ra50 (2015))
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