AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 8 2015, Vol.348


電子を閉じ込めるための環状の経路(A circular route to confine electrons)

波を閉じ込めるためには、物理的な障壁が用いられる。それが、海の波に対しての岸壁、光に対してのガラスディスク、音に対してのセントポール寺院にある「ささやきの回廊」の丸い部屋の壁のいずれであったにせよ、閉じ込め(反射)の原理は同じである。Zhaoたちは同じ原理を用いて、グラフェンのナノスケールの丸い空洞の中に電子を閉じ込めた。空洞内の周期的模様は、ささやきの回廊の方法を電子の波版にしたものである。空洞の大きさの可変性は、グラフェンや同様な材料において電子を操作するための道筋を提供してくれるであろう。(Sk)
【訳注】
・ガラスディスク:三次元ナノ構造石英ガラス板のハードディスク(研究中)
・ささやきの回廊:人のささやく声が正反対の離れたところで聞こえる円形の建築物
Creating and probing electron whispering-gallery modes in graphene (Science, this issue p. 672)

発現,遺伝子変異,組織(Expression, genetic variation, and tissues)

ヒトゲノムは,個々人を通じての膨大な遺伝子変異の存在を明らかにしているが,我々は、この変異の遺伝子発現の制御に及ぼす効果を記録しはじめたばかりである.さらに,2,3の組織だけが遺伝子変異ごとに調べられただけである.遺伝子発現が個々人の組織内でどのように違っているのかを調べるため,遺伝子型-組織発現(Genotype-Tissue Expression:GTEx) コンソーシアムは,175人から54の身体部位に及ぶ1641の死後標本を収集した.遺伝子発現に影響する遺伝性量的形質【訳注】を特定し,この中のどれが組織特有の発現パターンを示すのかを確定した .Meleたちは,転写が組織間でどのように異なるかを評価し,また,Riavsたちは,短縮されたタンパク質変異体が組織間にわたり,どのように発現に影響しているかを調べた.(MY,kh)
【訳注】
・量的形質:例えばヒトの身長や体重など,数値によって評価できる形質のことで,その頻度分布は連続的に変化し,平均値を中心とした正規分布に近い形をとる.その発現は,多数の同じ作用をもった遺伝子の影響を受けると考えられている
The Genotype-Tissue Expression (GTEx) pilot analysis: Multitissue gene regulation in humans (Science, this issue p. 648; see also p. 640)
The human transcriptome across tissues and individuals (Science, this issue p. 660; see also p. 640)
Effect of predicted protein-truncating genetic variants on the human transcriptome (Science, this issue p. 666; see also p. 640)

静かな地辷りが浅くなってきた(Silent slip events get shallow)

破壊的な地震や津波の発生する可能性をより確かに予測する手掛かりは、より静かなタイプの低い雑音中に隠されている可能性がある。海底の地震計を用いて、Yamashitaたちは、南九州の沈み込み帯の浅い所で移動する微動の珍しい観測を報告している。その微動は非常に低周波の地震と結びついており、そして大きな地震が発生する領域へと移動しているようだ。その微動は、どのように、そして何処に歪みが断層の地震発生領域上に集中するかを、追跡可能とするであろう。(KU,kh,nk)
Migrating tremor off southern Kyushu as evidence for slow slip of a shallow subduction interface (Science, this issue p. 676)

摩擦を製作に応用する(Using friction to guide fabrication)

グラファイトのようなある種の層状の物質に見られる超低摩擦は、ナノ機械装置を製作する上で重要である。Korenたちは、計測とモデル化を併用し、摺動するグラフェン面の相互作用の特性を明らかにした(Liechtiによる展望記事参照)。これは、彼らが、回転軸と複数の固定位置を特徴とする小さなグラファイト装置を作る手助けとなった。(Sk,kh)
Adhesion and friction in mesoscopic graphite contacts (Science, this issue p. 679)

小さな寄生虫を見張る(Keeping tabs on tiny worms)

糸状線虫フィラリア(血液に入り込む小さな寄生虫)は、アフリカの幾つかの国ではありふれたものである。これらの寄生虫の一つであるロア糸状虫(Loa loa)はロア糸状虫症を引き起こすが、現在のイベルメクチンに基づく大量の薬物投与(mass drug administration:MDA)プログラムでは駆除できない。これらのプログラムは、オンコセルカ症やリンパ管フィラリアを引き起こす別の寄生虫の駆除を目的にしている。大量の薬物投与から除外すべきロア糸状虫症に感染した人を正確に知るために、D'Ambrosioたちは、全血中でロア糸状虫ミクロフィラリア定量化のための携帯電話に基づく戦略を考案した。携帯電話のビデオカメラとカスタム・アルゴリズムは、寄生虫の「のらりくらりした:wriggling)」動きを追跡した。その装置は、それ自身のスマホ・アプリを含めて、医療現場用途(point-of-care use)のために一まとめにされ、そしてアフリカ、カメルーンのロア糸状虫に感染した人々の診断に成功した。(KU,ok,kh)
Point-of-care quantification of blood-borne filarial parasites with a mobile phone microscope (Sci. Transl. Med. 7, 286re4 (2015))

ニューロンを沈黙させる光遺伝用ツール(An optogenetic tool to silence neurons)

細胞膜中のカリウムチャネルは、分子シグナルに応答して開閉し、局所的な膜電位を変える。Cosentinoらはカリウムチャネルの孔に光反応モジュールを結合して、BLINK1と呼ばれる遺伝子的に符号化されたチャネルを構築した。このBLINK1は暗中で閉じており、そして低線量の青色光に反応して開く。ニューロンにBLINK1を発現するゼブラフィッシュの胚は、青色光に反応してその動きを変えた。(hk,KU,kh)
Engineering of a light-gated potassium channel (Science, this issue p. 707)

麻疹ワクチンからの追加配当(Extra dividends from measles vaccine)

麻疹の予防接種は,この潜在的に重大なウィルスに対する終生予防に限らず,多くの利点を持っているMinaたちは,高所得国において麻疹が普通であった時代に集団予防接種が始まって以来の集められたデータを解析した.麻疹の予防接種は,麻疹以外の小児期感染症に対する低死亡率と結びついている.麻疹は一過性の免疫抑制を引き起こすことが知られているが,死亡データを詳しく見ると,麻疹が他の病気の免疫記憶【訳注】を低下させる期間はもっと長く2,3年は続くらしい。このため,予防接種は麻疹から子どもたちを守る以上のことをしている;麻疹が引き起こす免疫損傷に乗じた他の感染症の発生も起きなくなる.(MY,KU,kh,nk)
【訳注】
・免疫記憶:特定の抗原に対する免疫応答が保持されていること
Long-term measles-induced immunomodulation increases overall childhood infectious disease mortality (Science, this issue p. 694)

毀れた心臓を直すためにHippoを抑制する(Inhibiting Hippo to mend broken hearts)

Hippoシグナル伝達経路の活性化は臓器肥大を防ぐ。その経路は、発生の際に重要な、転写共役活性化因子である Yapの活性を抑制する。しかしながら、いくつかの器官では、Hippo 経路のこの同じ活性が損傷後の再生能力を抑制する。Morikawaたちは、Yapの標的遺伝子が細胞周期関連遺伝子を含むだけでなく、細胞骨格の再構築タンパク質や、或いは細胞骨格を細胞外基質に結びつけるタンパク質をコードしている遺伝子をも含んでいることを見出した。Hippoシグナル伝達欠損マウス由来の心筋細胞は、遊走細胞によく見られる細胞突起を形成し、そして心臓損傷後の傷跡に向かってより容易に移動した。このように、Hippo経路の抑制は心臓再生を助けるであろう。(KU,ok,nk)
Actin cytoskeletal remodeling with protrusion formation is essential for heart regeneration in Hippo-deficient mice (Sci. Signal. 8, ra41 (2015))

マラリアの秘密を調べる方法(A way to dissect malaria's secrets)

マラリアは、ヒトゲノムに対して強い選別性を示す。しかしながら、宿主の感受性因子を同定する取り組みは、赤血球中の核の欠如により妨げられていた。Eganたちは、血液幹細胞 と関わりを持つ方法を開発して、赤血球の熱帯熱マラリア原虫感染に関する決定的な宿主因子を発見した。著者たちは、寄生虫侵入に対する必須の宿主受容体を同定し、この受容体がマラリア薬物療法の標的を与えるであろう。(KU,ok,kh,nk)
A forward genetic screen identifies erythrocyte CD55 as essential for Plasmodium falciparum invasion (Science, this issue p. 711)

試練のもとにある世界の土壌資源(Global soil resources under stress)

人類の未来は、地球の土壌資源の未来と絡み合っている。土壌は農業を支え、水質を改善し、大気中における温室ガスを和らげる。しかしながら、人間活動は, 農業による土壌浸食を含めて, 自然が補充するよりも速く, 土壌を 急速に劣化させつつある 。この調子では, 21 世紀における人類の安全が持続性のない土壌管理によって厳しく脅やかされるであろう。Amundsonたちは、土壌に蓄えられた炭素が人為的な温暖化にどのように応答するかを含めて、世界的な土壌資源を理解するうえでの最近の進展をレビューしている。この知識を実践に反映させることが残された最大の課題である。(KU,ok,kh,nk)
Soil and human security in the 21st century (Science, this issue 10.1126/science.1261071)

星の金属は私たちの目に向けてのみ輝く(Stellar metals shine toward our eyes only)

よく知られた星を違った目で注意深く見ると、まだ驚きが生まれる可能性がある。Boggsたちは、NuSTAR天文台の X線観測視野をよく知られた超新星 1987Aに向けた。SN 1987Aのようなコア崩壊爆発は、チタンの同位体 44Tiを産出する。その放射性崩壊は、高エネルギーX線の輝線を生み出す。44Tiに付随するすべての輝線は、我々に向かって動いている物質からのもので、離れる方向に動くものではないようである。このことは、爆発は非対称であったことを意味している。これらの発見は、SN 1987Aと、より一般的には、コア崩壊する超新星を支配する機構の説明に役立つ。(Wt,kh)
44Ti gamma-ray emission lines from SN1987A reveal an asymmetric explosion (Science, this issue p. 670)

粒子へと及ばせる(Going toward the grains)

有機-無機ペロブスカイト太陽電池の変換効率向上に、大きな進展がなされてきた.さらなる改良は,電荷担体の動的過程に対する膜の形態の役割を理解することにかかっていそうである.deQuilettesたちは,共焦点蛍光顕微鏡像と走査電子顕微鏡像とを互いに関連づけて,有機-無機ペロブスカイト薄膜の光ルミネセンスと電荷減衰の動的過程を空間的に解明した.電荷寿命は膜中の粒子間でさえも大きくばらついていた.また,化学的な処理により電荷の寿命を長くすることができた.(MY,KU,ok,kh)
Impact of microstructure on local carrier lifetime in perovskite solar cells (Science, this issue p. 683)

無駄なければ不足せず(Waste not, want not)

天然ガスは,市場に運ぶ経済的な方法がないため,遠隔地にある探査基地では、しばしば漏出したり,あるいは意図的に燃やされたりしている.その主成分であるメタンを,より輸送しやすい液体に変換するのに提唱されている方法の1つに,モリブデン(Mo)含有ゼオライトによるベンゼンへの転換がある.しかしながら,この方法は転換効率の低さに悩まされている.Gaoたちは、活性な Moナノ構造だけでなく, この反応の間に発生する失活した炭化モリブデ ン化学種を同定した.彼らは、また酸素処理後にゼオライト触媒の活性を回復させ,さらに高めることさえできた.(MY,KU,kh,nk)
Identification of molybdenum oxide nanostructures on zeolites for natural gas conversion (Science, this issue p. 686)

酸素発生中心を模倣する(Mimicking the oxygen evolution center)

植物光合成を人工的に模倣することは、太陽エネルギーを活用し、化石燃料を置き換えていくための鍵となる目標である。Zhangたちは、光化学系IIの酸素発生中心と似たような形と働きを持つマンガン-カルシウムクラスターを合成した(Sunによる展望記事参照)。この模倣物は当該の生物学的複合体に構造的に似ているが、未結合手を持つマンガン原子にタンパク質リガンドと水結合部位を架橋している点で大きく異なっている。しかし、機能的には、このクラスターの金属中心は4つの酸化還元反応を容易に受け、水を酸素に分解するのに寄与している。これとその他の合成模倣物は、人工的光合成のためのより効率的な触媒を開発する道を拓くことになるだろう。(KF,KU,kh,nk)
A synthetic Mn4Ca-cluster mimicking the oxygen-evolving center of photosynthesis (Science, this issue p. 690; see also p. 635)

安定なセントロメアを作る(Building stable centromeres)

我われの染色体のそれぞれには、細胞分裂の際に狭窄として見える、単一のセントロメアがあって、これは、娘細胞に正確に染色体分配を行うのに必要とされる。Falkたちは、セントロメアでヌクレオソームの一部を形成する、CENP-Aとして知られる特殊なヒストンタンパク質が、そうした狭窄の際に、染色質を非常に安定かつ長命に保っていることを示している。この安定性は、CENP-Aヒストンによってセントロメアに補充されるタンパク質結合パートナーCENP-Cによって与えられる。CENP-Aを含むヌクレオソームへのCENP-Cの結合は、セントロメア複合体の巨大分子の挙動を変えて、その自己同一性を維持するよう助けるのである。(KF)
【訳注】 ・セントロメア:染色体のほぼ中央に位置する染色体の長腕と短腕が交差する部位で、細胞分裂時には狭窄を形成する
CENP-C reshapes and stabilizes CENP-A nucleosomes at the centromere (Science, this issue p. 699)

高分解能での麻疹ウイルスのカプシド(Measles virus capsid at high resolution)

ウイルスは、自身のゲノムを一まとめにして保護するために、自身のカプシドタンパク質に頼っている。麻疹ウイルスと他のモノネガウイルス・ファミリーのメンバーにおいて、複数のカプシドタンパク質が一緒になって、ウイルスの RNAの周りにらせん状の外殻(まとめてヌクレオカプシドと呼ばれている)を形成する。Gutscheたちはこのたび、麻疹ウイルスのヌクレオカプシドの、低温電子顕微法での高分解能の構造を報告している。その構造は、ヌクレオカプシドがいかにして集合し、核タンパク質とウイルス RNAがいかに相互作用するかを明らかにし、このどちらも薬剤設計に役立つ情報となるであろう。(KF,KU)
Near-atomic cryo-EM structure of the helical measles virus nucleocapsid (Science, this issue p. 704)

よりよい結核治療のための肺の画像処理(Lung imaging for better TB treatments)

結核の治療は通常、完了までに6ヵ月を要する。完全に治療した場合にはその成功率は高いが、多くの患者が治療コースを完了しない。短期間で治療が済む薬剤開発の試みは、これまで成功していない。展望記事でBarryは、最近の画像処理の進歩が薬剤候補の治療成功の可否を評価するのに果たす役割に光を当てている。たとえば、連続的コンピュータ断層撮影画像処理は、ミリメートル単位の分解能で肺を可視化したり、肺の特定の領域の治療に応じた変化をモニターしたりするのに使うことができる。あれこれの画像処理手法は、目的とした成果を定量的に明確にすることで、臨床治験の質を改善出来る可能性を持っている。(KF,ok,kh,nk)
More than just bugs in spit (Science, this issue p. 633)

エネルギー変換向けの配向したメソ構造(Oriented mesostructure for energy conversion)

単結晶半導体において、メソポーラスな流路を配向制御しながら成長させることは非常に困難であるが、光学素子において大きな価値がある。Zhaoたちは単純な気化工程を用いて、均一な大きさ(800nm以下)、よく制御されて放射状に配向したメソポーラスな流路、および単結晶のような壁を有する、三次元オープンメソポーラス二酸化チタン微粒子を合成した。そのような微粒子を用いた色素増感太陽電池は、最大12%の良好な電力変換効率を示した。この気化を活用した方法は、他のメソポーラス金属酸化物の配向の調整と自己組織化への道筋を提供し、それらの光電子素子への有望な利用法への扉を開くであろう。(Sk,kh)
【訳注】
・(オープン)メソポーラス:(空孔部分が密閉されていない)直径 2-50 nm の細孔
Radially oriented mesoporous TiO2 microspheres with single-crystal-like anatase walls for high-efficiency optoelectronic devices (Sci. Adv. 10.1126/sciadv.1500166 (2015))
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