AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 1 2015, Vol.348


原子のガス中で単極子を作る(Making a monopole in an atomic gas)

物理学のいくつかの「大統一理論」は、いわゆる磁気単極子の存在を予言している。そのような粒子は発見されていないが、単極子の類似物は量子流体中で観察可能かもしれない。Rayたちは、彼らが自由に操作できる三つのスピン状態を持つ極低温の87Rb原子のガス中に、そのような類似体を作り出した。著者たちは、特定の空間分布を有する外部磁場を含む手順を用いて、ガス中で単極子のようなスピン構造を作り出し、観察した。(Sk,nk,kh)
Observation of isolated monopoles in a quantum field (Science, this issue p. 544)

三角作用で捕えられたヘリウム(Helium caught in the act of triangulating)

ヘリウムは、最も不活性な希ガスであり、ヘリウム自体や他の化学元素とは、ほとんどまったく引き合うことはない。もちろん、量子力学が働く時は、この「ほとんど」という言葉はお決まりの通告である。数十年に渡って、研究者たちは、理論的に予言された、三角形状に緩く結合した三個のヘリウムから構成されている Efimov状態に興味を抱いてきた。Kunitskiたちはその状態を実験的に実現し、それが鋭角三角形であることを報告している(Kornilov による展望記事を参照のこと)。ヘリウム研究の長きに渡る探究を終えたという以上に、この結果は、広く三体の物理に光を投げかけるものである。(Wt,KU,kh)
Observation of the Efimov state of the helium trimer (Science, this issue p. 551; see also p. 498)

疎水性表面に対するイオンの応答(Ions' response to hydrophobic surfaces)

イオン間相互作用の強さは,その溶媒和の状況によって左右される.1950年代に,Schellmanたちは水和したイオンが(タンパク質表面の一部のような)疎水性表面に近づくと,イオン間の相互作用が強まるとの仮説を立てた.Chenたちは,塩架橋で結ばれた有機イオンに対する酸添加後の解離を研究することで,この学説を実験的に調べた.イオン対は,疎水性表面から種々の距離で拘束保持された.イオン対と疎水性表面の距離が近いほど,塩架橋は強固だった.(MY)
Subnanoscale hydrophobic modulation of salt bridges in aqueous media (Science, this issue p. 555)

ポンとはじけて球菌となる(Pop goes the coccus)

黄色ブドウ球菌の娘細胞への分裂は,まるで卵が割れるように進行する,Zhouたちは高速ビデオ顕微鏡により,ミリ秒の精度で分裂中の細胞を観察し,そのように言っている.徐々に進むというよりは,母細胞の壁のとても小さな欠陥部がぱっくりと割れ,蝶番で結ばれた2つの娘細胞を後に残すように見えた.(MY)
Mechanical crack propagation drives millisecond daughter cell separation in Staphylococcus aureus (Science, this issue p. 574)

脳がメッセージを仕分けして送るやり方(How the brain sorts and routes messages)

高次脳領域はどのようにしてお互いに,情報のやりとりをしているのだろうか? 全ての計算結果を等しくすべての標的領域に送り,必要で関係する情報の抽出を受け取り先に委ねるのだろうか? あるいは,内容に応じて,送信元の領域で計算結果を標的領域毎に個別にまとめ.別々に送っているのだろうか? Ciocchiたちは,腹側海馬が不安関連の情報を前頭前野に優先的に送り,目標関連の情報を側坐核に優先的に送っていることを見出した.複数の突起物持つ海馬神経細胞は,さまざまな行動処理作業や記憶の固定に深く関わっていた.(MY,nk,kh)
Selective information routing by ventral hippocampal CA1 projection neurons (Science, this issue p. 560)

生きたマウス中でストレスがシグナル伝達するのを見る(Seeing stress signaling in living mice)

ストレスは eIF2α-ATF4経路を活性化して、全体的にタンパク質産生を減少させ、一方で標的遺伝子発現を増強しており、これにより細胞が適応し生存することを助けている。この経路の活性化は、損傷後の組織線維症のような種々の病態に関連している。Chaverouxらはトランスジェニックマウスを開発し、それによりこの経路の活性化が動物全体のレベルと組織および細胞レベルで追跡することができた。活性化は、発生するストレスに依存して、組織特異的であった。化学的に誘発される肝線維症は、特定のキナーゼによる eIF2α-ATF4経路の活性化と関係していた。(hk,KU,kh)
【訳注】
・トランスジェニックマウス:外部から特定の遺伝子を人為的に導入したマスス
In vivo imaging of the spatiotemporal activity of the eIF2α-ATF4 signaling pathway: Insights into stress and related disorders (Sci. Signal. 8, rs5 (2015))

甲虫の体内スプレー缶(A beetle's internal bomb)

ホソクビゴミムシ(Bombardier beetles)は,潜在的な捕食者や他の攻撃者をめがけて毒の一撃を放つ.この有毒スプレーはゴミムシの体内で起きる化学反応によって作られる.その反応は詳しく分かってはいるが,ゴミムシがどのようにして,適切な時に化学物質を正しく組み合わせ,また,一定の間隔で一撃を放つことができるのかは謎のままだった.Arndtたちは放射光 X線映像を用いて,ゴミムシの生体内でこれが起きている時にその過程を観察した.内部膨張膜の膨張と収縮が,正確な周期での反応物の注入と,捕食者を近づけないようにするその後の有毒スプレーの噴出を促している.(MY,kh)
Mechanistic origins of bombardier beetle (Brachinini) explosion-induced defensive spray pulsation (Science, this issue p. 563)

跳躍遺伝子を安全な場所に置く(Keeping jumping genes out of harm's way)

人を含めて、殆どの真核生物のゲノムは寄生の可動性 DNA因子で一杯にになっている。それらの殆どは非機能的な遺物であるが、少数のものは未だ活動的で、DNA中を跳ね回り, もしかすると我々の遺伝子に深刻な損傷を 引き起こす。それにも拘わらず、これらの因子は翻訳領域に着陸して、その領域を破壊することを避けている。例えば、酵母において、レトロトランスポゾン Ty1は、タンパク質の遺伝子から遠く離れて酵母のRNAポリメラーゼIII遺伝子の上流を標的にしている。Bridier-Nahmiasたちは、Ty1が Ty1-コード化タンパク質(このタンパク質はゲノム跳躍活性と酵母の RNAポリメラーゼIII 複合体のサブユニットを制御している)間の相互作用を通して、これら「安全な避難場所(safe havens)」を標的にしていることを示している。(KU,nk,kh)
【訳注】
・跳躍遺伝子:移動性の遺伝要素で、染色体のある部分から他の部位へと移動するDNA部分
・レトロトランスポゾン:RNA中間体を経て転移する移動性遺伝要素
・上流(upstream)、下流(downstream):ある遺伝子の数十塩基対離れた上、或いは下の配列を活性化、或いは抑制することで遺伝子発現を制御している。
An RNA polymerase III subunit determines sites of retrotransposon integration (Science, this issue p. 585)

共有結合で連結したDNA鎖の交差をほどく(Uncrossing covalently linked DNA strands)

DNA鎖間の交差結合(ICLs)は、二重らせんの二本の鎖を共有結合で連結する。ICLの変異は修復困難であるが、その理由は二本の DNA鎖が分離することができなく、それ故に一方の鎖を鋳型として用いて、もう片方の鎖を修復することができないためである。Raschleたちは質量分析に基づく方法を開発し、ツメガエルの卵の抽出物において、ICLを修復するために補充される時系列的な総てのタンパク質を系統的に解析した。彼らは、ICL修復に必要とされる多くの既知の因子を見出した。彼らは又、多くの新しい因子をも見出したが、そのうちの二つは ICL変異に対する新たな修復経路を明瞭に示すものである。(KU,kh)
Proteomics reveals dynamic assembly of repair complexes during bypass of DNA cross-links (Science, this issue 10.1126/science.1253671)

平衡から外れた磁性をシミュレートする(Simulating magnetism out of equilibrium)

量子シミュレーションの主な目的は、解析的記述あるいは従来型コンピューター計算が困難な問題を我々が理解するのを助けることにある。この目標に実験的に到達することは, 極めて多くの努力, 例えば平衡状態での量 子磁性効果を決定するための極低温など, が必要だが, 興味をそそるものであった。Brownらは、2次元光格子中の極低温87Rb原子の非平衡系について調べた。彼らは、格子パラメーターを急激に変化させた後の原子挙動を観測し、磁性相互作用が原子挙動を支配する状況を作り出すことに成功した。(NK,kh)
Two-dimensional superexchange-mediated magnetization dynamics in an optical lattice (Science, this issue p. 540)

強誘電膜の中で閉じていく(Getting closure in ferroelectric films)

強誘電材料は、応用に適した操作可能な自発的電気分極性を有している。分極状態は通常、材料全体にわたって一様ではなく、ナノサイズの強誘電体に対しては、分極状態は非常に複雑になることがある。Tangたちは、走査透過型電子顕微法を用いて、強誘電性の PbTiO3の薄膜において、分極ベクトルが間隔を置いて回転し、閉ループ、いわゆるフラックス閉鎖を形成することを見出した。フラックス閉鎖構造は薄膜の厚みに依存した周期の配列を形成し、材料の結晶格子中でかなりの歪みの増大を引き起こした。(Sk,kh)
Observation of a periodic array of flux-closure quadrants in strained ferroelectric PbTiO3 films (Science, this issue p. 547)

付加的な危険な脅威を認識する(Recognizing the threat of additive risk)

人類は、陸および海の両環境において、種の絶滅速度を加速させている。しかしながら、種の絶滅は、種々の他の理由により時代を越えて生じた。Finnegan たちは、過去2,300万年にわたる海洋生物種の絶滅速度を考察して、内在的な絶滅速度と、どのような形質や地域がその最高速度に対応しているのかを確定した。本来の絶滅パターンと高い人類由来の脅威のある地域を組み合わせることにより、特に熱帯地方において、その絶滅の危険性が特に高くなる分類群と地域が明らかになった。(Sk,kh)
Paleontological baselines for evaluating extinction risk in the modern oceans (Science, this issue p. 567)

変わりゆく世界で絶滅を予測する(Predicting extinction in a changing world)

我々の世界の気候変動に、種がどのように応答する可能性があるかを理解することは非常に興味深いが、予測は仮定とする条件によって大幅に変化してきた。Urbanは130以上の研究について調査し、気候変動が種に及ぼすリスクのレベル、及びリスクに寄与する特異的な形質と特徴を同定した(Hille Ris Lambersによる展望記事参照)。もし気候変動が予期した通りに進行する場合、1/6の種が絶滅に向かう可能性がある。南米、オーストラリアそしてニュージーランド等のいくつかの地域は、もっとも大きいリスクに直面する。このようなパターンを理解することによって、我々は気候に関連する生物多様性の損失に備えること、願わくば損失を防止することが可能となるであろう。(Uc,KU,kh)
Accelerating extinction risk from climate change (Science, this issue p. 571; see also p. 501)

形状を変えて、RNAを破壊(Changing shape to destroy RNA)

CRISPR付随(Cas)タンパク質と一緒になって、クラスター化された等間隔にスペーサーが入った短い回文型の反復配列(CRISPR)は、適応性免疫系を形成し、侵入してくるウイルスやプラスミドから細菌や古細菌が自身を守るのを助ける。 CRISPR・RNA(crRNA)は、CRISPR-Casタンパク質複合体を侵入者に向かわせ、その破壊をもたらす。Taylorたちは低温電子顕微法を用いて、高度好熱菌からの crRNAと12サブユニットのCRISPR-Casタンパク質複合体の構造を、一本鎖の標的RNAが存在する場合としない場合の双方の条件下で決定した。標的 RNAへの結合は、CRISPR-Cas複合体の形状の変化を引き起こし、標的の認識と破壊をもたらす。(KF,KU,kh)
Structures of the CRISPR-Cmr complex reveal mode of RNA target positioning (Science, this issue p. 581)

タンパク質運動の階層(A hierarchy of protein motions)

機能しているタンパク質は、静的でなく、複雑な立体構造のエネルギー地形(energy landscapes)を実地に動き回っている。Lewandowskiたちは多核性固体核磁気共鳴実験を用いて、広範囲の温度と時間スケールにわたってタンパク質の運動を測定した。160K以上で、溶媒とタンパク質運動の間に強い結合があった。温度が上昇する際のタンパク質運動の段階的変化から、溶媒、タンパク質側鎖、タンパク質主鎖の運動を関連付ける動的モードが存在していることが明らかになった。(KF,nk,kh)
Direct observation of hierarchical protein dynamics (Science, this issue p. 578)

初期のT細胞が自己免疫に対抗する(Early T cells keep autoimmunity at bay)

免疫系が直面する主要な課題の一つは、微生物などの生体異物に反応しつつ、自己を許容することである。このバランスが崩れると、自己免疫がもたらされる。調節性 T細胞(Treg)は、そのバランス維持を助ける免疫細胞のサブセットである。Yangたちは、マウスの生命極初期に産生されるTreg細胞が、より老いたマウスにおいて産生されるものとは違って、自己免疫を抑制するとりわけ重要な役割を果たしていることを発見した(TanakaとSakaguchiによる展望記事参照)。この変化は、Tregが、新生マウスの胸腺において、成体マウスとは違うやり方で発生していることによるものである。(KF,kh)
Regulatory T cells generated early in life play a distinct role in maintaining self-tolerance (Science, this issue p. 589; see also p. 506)

大型草食動物の喪失が生物多様性を脅かす(Large herbivore loss threatens biodiversity)

大型草食動物(100kg以上のもの)は、世界的に劇的な個体数減少と生息範囲の縮小に見舞われている。これらの喪失は、本来の生態系を変化させる。Rippleたちは、大型草食動物全78種についてのデータをレビューしている。個体数の減少は生息範囲の縮小をもたらすが、しばしば土地を他の目的に転換するためである。さらなる生息地の縮小や絶滅を防ぐためには可能な限り、大型草食動物の個体数を増加させ、野生動物の取引を管理するべきである。このアプローチこそ、正常な生態学的機能と生物学的多様性を回復するのを助けることになるだろう。(KF,KU,nk,kh)
Regulatory T cells generated early in life play a distinct role in maintaining self-tolerance (Sci. Adv. 10.1126/sciadv.1400103 (2015))

ダム撤去への河川の応答のしかた(How rivers respond to dam removals)

世界的に、水力発電のためにダム建設が復活しつつある。しかしながら、過去40年にわたって、1000を越えるダムが合衆国から撤去されたが、それはダムが堆積物で一杯になったり、危険になったり、非効率的になったためである。ダムはまた、世界の他の地域でも解体されつつある。展望記事で、O'Connorたちは、これらのダムの撤去に河川がどのように応答したかを調べている。多くのダム撤去は生態系の機能を改善し、そして破局的な結末は回避されてきた。しかしこれらのダムのほとんどは比較的小さなものであった。より大きなダムがさらに撤去される際に、長期的な、系統的監視体制が必要である。(KU,nk,kh)
1000 dams down and counting (Science, this issue p. 496)

大空の空間を争う人と動物たち(Humans and animals vying for space in the air)

人による領空の利用により、渡り鳥や餌を探す鳥たちのような野生動物との争いが増加している。飛行中の航空機は、頻繁に鳥と衝突し、風力タービンや他の人の作る構造物は、毎年数百万の動物の死をもたらしている。展望記事で、Lambertucciたちは、人間活動と野生動物との間のこのような空中での争いに関して概説している。これらの争いを減らすための革新的方法には、レーダーによる動物の動きの検知による風力タービンの速度調節や鳥の窓ガラスへの衝突を阻止するために紫外光を用いること等を含んでいる。渡り種を効率的に守るためには、これ等のまた他の方策が行政区規模で適用される必要がある。大空の賢明なる管理はまた、空の野生生物が高密度に存在する領域内に保護空間の設置を含むべきである。(KU,nk,kh)
Human-wildlife conflicts in a crowded airspace (Science, this issue p. 502)

個人に合わせた体内埋め込み部材が 4D修復を提供する(Personalized implants provide a 4D fix)

三次元(3D)印刷革命は真っ盛りであり、腎臓、自動車、防弾衣も印刷で作製される。今や、3Dは四つ目の次元-時間-に入りつつあり、それは、4D材料を適応性、耐久性のあるものにしている。小児科医療において、4D体内埋め込み部材は特に適切なものである。患者の成長と同じように、その材料も成長すべきである。Morrisonたちは 3D印刷を用いて、通常の呼吸時に気道がつぶれてしまう病気である、気管気管支軟化症の三人の小児科患者のために、個人に合わせた気管支支持部材を作成した。三人の患者全てで、1ヵ月後もその 4D器具は安定して機能し、一つは30ヶ月間その場に留まっていた。この先導的な試行は、再生医療にとって四次元が現実になりつつあることを示している。(Sk,kh)
Mitigation of tracheobronchomalacia with 3D-printed personalized medical devices in pediatric patients (Sci. Transl. Med. 7, 285ra64 (2015))
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