AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 6 2015, Vol.347


プラズモンでナノ領域の温度をマッピングする(Plasmons can map temperature on the nanoscale)

微小領域の温度を測定することは困難である。接触式プローブは対象そのものの温度を変えてしまうし、放射式プローブは波長限界が存在するためである。Mecklenberg等はアルミニウムのバルクのプラズモン共鳴を利用して、ナノ領域の温度分布を透過型電子顕微鏡でマッピングする手法を開発した(Colliexの展望記事参照)。その他多くの金属や半導体も同様にプラズモン共鳴を利用して温度分布イメージを獲得できるという。(NK)
Nanoscale temperature mapping in operating microelectronic devices (Science, this issue p. 629; see also p. 611)

熱い側を熱く、冷たい側を冷たくしておくことはできませんか?(Can't keep hot sides hot and cold sides cold?)

地球上で、私たちは昼と夜のサイクルに慣れており、そのサイクルは大地と大気の間の複雑な熱的な関係の駆動力となっている。中心星に非常に近いある太陽系外惑星では、そのような幸運なことはなく、一般的には、 潮汐によって半球が不変の昼と夜とに固定されていると思われている。金星の厚い大気は、金星が同じ運命をたどらないようにしていると考えられているが、Leconte たちは、小質量の恒星ではずっと希薄な大気でも十分であるということを示すモデルを提出している。惑星の非即時的熱応答(一日の最も熱い時間が正午のあとにある場合)により、その惑星の回転速度が上下する可能性がある。このような熱的潮汐は、地球外の居住可能と見込まれる領域(habitable zones)を評価する上で重要であろう。(Wt,kh)
Asynchronous rotation of Earth-mass planets in the habitable zone of lower-mass stars (Science, this issue p. 632)

ポンポンと開いて高分子へ(Popping open one by one into polymers)

私たちが飛行機に乗る場合,一列にきっちりと並んだ列の最後尾につくことはほとんどない.それよりは,搭乗ゲートの近くで行き当たりばったりに合流し,膨れ上がった乗客の幾つかの人だかりのどれかの中で押し合いへし合いする.大雑把に言うと、この過程は、高分子集合体の分子レベルでの連鎖成長や逐次成長の機構に類似している. Kangたちは,十分制御された連鎖成長モデルに一致する, 水素結合を介して単量体分子を結合する方法を示している .単量体分子は内部水素結合により,内側に彎曲した状態からスタートし、開始剤により一個の単量体分子が開いた状態になる:その開いた単量体分子は、次に成長鎖にパートナーを取り込むような立体選択性において一致した構造をしており,それが次々にと他の単量体を取り込んで超高分子を形成する。(MY,KU,kh,nk)
A rational strategy for the realization of chain-growth supramolecular polymerization (Science, this issue p. 6469)

シロアリは熱帯の草原を安定にする(Termites can stabilize tropical grasslands)

熱帯サバンナや草原でのまだらな植生パターンは、砂漠化が迫りつつあることの危険な兆候である。しかしながら、Bonachelaたちは、シロアリもまた、まだらなパターンを作り出していることを見い出している。ケニヤでの実地データによって裏付けられた、彼らの理論的な研究によって、シロアリ塚によってできたパターンは砂漠化の前兆では無いことが示されている。実際に、シロアリの存在は、気候変動に対してこれらの生態系を守っている。(Uc,KU,kh)
Termite mounds can increase the robustness of dryland ecosystems to climatic change (Science, this issue p. 651)

移植T細胞の長期追跡(Long-term tracking of transplanted T cells)

臨床治験は未利用の実験データの宝庫であり、ヒトにおける基礎、および病理学的生物学の双方の研究に影響を与える可能性がある。Biascoたちは、遺伝性の免疫不全に対する二つの異なる遺伝子治療試験を利用して、ヒトにおける T細胞の長期にわたる運命を追跡した。彼らは、遺伝子訂正とその患者への注入後、確認された最長期間では 12年間経ても、ヒト受容者中において、最近記述された記憶 T 幹細胞が前駆細胞の潜在記憶を持続、保存していることを見出している。これらの細胞の安全性と長期生存は、ヒト免疫学に関する我々の知識を強化するだけでなく、養子免疫治療法を勇気づけるものである。(KU,nk)
【訳注】
・養子免疫治療(adoptive immunotherapy):免疫動物のリンパ系細胞を他個体に輸入して免疫性を伝達する操作
In vivo tracking of T cells in humans unveils decade-long survival and activity of genetically modified T memory stem cells (Sci. Transl. Med. 7, 273ra13 (2015))

コカイン誘発のマウスの動作を改善する(Reversing cocaine-evoked behavior in mice)

光遺伝学的治療手法は,動物モデルにおいては,神経精神疾患の症状の改善に大変効果的である.しかしながら,この手法を医療へと移し替えていくことは困難な状況にある.それは,霊長類で効果的な光遺伝学的刺激治療を行うのに必要な技術の飛躍が未だなされていないためである.Creedたちは,難問をすべて避けることで,これらの困難を回避できるのではないかと試験した.彼らは,従来の治療方法である脳深部刺激療法を有効な光遺伝学的な刺激手法に似せて少し変え,マウスモデルでコカイン中毒を治した.(MY,kh)
【訳注】
・光遺伝学:遺伝学的手法で,光活性化イオンチャンネルを特定の神経細胞に発現させ、その神経細胞の興奮や抑制を光で操作する技術を用いる研究分野
Refining deep brain stimulation to emulate optogenetic treatment of synaptic pathology (Science, this issue p. 659)

植物根の幹細胞運命に対する遺伝子制御(Genetic control of stem cell fate in plant roots)

根がなければ、ほとんどの植物は育つことができない.今回,Crawfordたちは,根を作る頑強な制御系を明らかにした.植物ホルモンのオーキシンによるシグナル伝達で,根を作る幹細胞の発生を制御する3つの遺伝子が誘発される.この3つの遺伝子はどれか1つでも機能するが,3つの組となることで,フェイルセーフ(fail-safe:絶対失敗しない)制御により発生を後押しする.研究チームは同じ制御系を用いることで,新芽の代わりに根を作るというように、正常でない位置に根を生やすことができた.(MY,KU,kh,nk)
Genetic control of distal stem cell fate within root and embryonic meristems (Science, this issue p. 655)

細菌感染症はリンパ節障壁を破壊する(Bacterial infection breaks the lymph node barrier)

感染の際に、リンパ節は指揮系統の中枢である。侵入する病原体の断片は、リンパ系を通ってリンパ節に入る。嚢洞 (subcapsular sinus:SCS)マクロファージと呼ばれる特殊化された細胞がこれらの抗原を捕獲し、そしてそれらの抗原を用いて液性免疫を開始する。Gayaaたちは、マウスにおいて、感染症がこれらの組織化された見張り番を混乱させることを報告している(Buzsakiによる展望記事参照)。SCSマクロファージの混乱は重要な結果を持っていた:細菌に感染したマウスは、引き続いてのウイルス感染に効率的に応答することができなかった。(KU)
Inflammation-induced disruption of SCS macrophages impairs B cell responses to secondary infection (Science, this issue p. 667; see also p. 612)

リンパ腫中の Wntシグナル伝達を標的にする(Targeting Wnt signaling in lymphoma)

幾つかのヒト癌は Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の活性化の増加を示すが、腫瘍中にはそのような増加を説明するするような変異が欠如している。Walkerたちは、転写制御因子 FOXP1が β-カテニンへの結合とβ-カテニンのアセチル化を促進することで、Wnt-制御の標的遺伝子の転写を高めていることを見出した。FOXP1を過剰発現する拡散性の大きな B細胞リンパ腫を持った患者は、予後不良であり、高レベルの FOXP1を有する拡散性の大きな B細胞リンパ腫細胞は、Wnt阻害剤に鋭敏であった。マウスに異種移植された腫瘍は、腫瘍がFOXP1に欠如したり、或いは Wntシグナル伝達がブロックされると、より小さくなった。(KU,kh)
FOXP1 potentiates Wnt/β-catenin signaling in diffuse large B cell lymphoma (Sci. Signal. 8, ra12 (2015))

学部生による研究の価値を評価する(Assessing the value of undergraduate research)

学部生による研究の経験は、多くの場合、研究に参加した学生を熱中させるが、学生の学習向上の観点から、それらの経験はどのように役立つのであろうか? Linnらは、学部生による研究プログラムの有効性に焦点を当てている研究をレビューしている。クラス内で集団で行う学部研究経験と、研究プログラムに個々に参加した経験とを区別して調べた。指導教育法が成功体験の重要な要素であるとともに、さらなる改善の目標であることが浮かびあがってきている。(hk,ok,kh,nk)
Undergraduate research experiences: Impacts and opportunities (Science, this issue 10.1126/science.1261757)

H5トリインフルエンザウイルスは次はどこへ(Where will H5 flu viruses travel to next?)

トリインフルエンザウイルスは、家禽類に重篤な病気をもたらすことがある上、その死まで引き起こすことがある。過去20年間、H5ウイルスと呼ばれる異常なウイルス群が、最初に中国に出現して以来、繰り返し集団発生を引き起こしてきた。展望記事において、Verhagenたちは、このウイルス群の、とりわけ、2014年12月に北米で検出された H5N8ウイルスの、最近の伝播状況を追跡している。伝播のパターンに基づき、著者たちは、このウイルスが、野生の鳥類によってロシアから欧州やアメリカ、さらにその先へと飛来するにつれて、伝播している可能性があると論じている。このウイルスは現在、人間の健康には低い脅威にしかなっていないが、インフルエンザウイルスの予測不可能な性質を考慮すると、それらをしっかりとモニターしていかないといけない。(KF,kh)
How a virus travels the world (Science, this issue p. 616)

結合相互作用のDNAによる制御(DNA control of bonding interactions)

コロイド粒子は原子の模倣物のようなものとして用いられ、しばしば、相補 DNA鎖を用いて互いに結合させられている。RogersとManoharanは、一連の競合する鎖置換反応を用いることでコロイド「結合」の強度を制御した。彼らは、違った粒子に結びついている DNA鎖の間の可逆的化学平衡を利用して、平衡状態の温度依存性を制御した。(KF,KU)
Programming colloidal phase transitions with DNA strand displacement (Science, this issue p. 639)

単一細胞発現の大規模分析(Single-cell expression analysis on a large scale)

細胞が互いに違う理由を理解するには、単一細胞レベルでどの遺伝子が転写されているかを理解する必要がある。単一細胞中でのメッセンジャーRNA(mRNA)を測定する方法はいくつかあるが、そのほとんどは、細胞数や遺伝子数が比較的少ない場合にだけ適用が限られている。Fanたちは、細胞中の個々の mRNA分子に、細胞バーコードと分子バーコードの双方の標識を付けた。更なる解析には、単一細胞技術は必要なかった。その代り、すべての細胞からえられた標識付けされた mRNAは、まとめて保存、増幅、配列決定され、各細胞の遺伝子発現プロファイルが、バーコードに基づいて再構築された。この技法は、数千もの血液細胞にわたる不均一性を成功裡に明らかにしたのである。(KF)
Combinatorial labeling of single cells for gene expression cytometry (Science, this issue 10.1126/science.1258367)

転位線に対して平行に結晶面がずれている螺旋転位:壊すのが困難なケース(Screw dislocations: A hard case to crack)

金属中の転位や欠陥の運動は、その強度と靭性に影響を与える。これらの欠陥が、合金元素を添加することで「ピン止め」できれば、より強い合金を作成することが可能なはずである。これについては、らせん転位と任意の合金元素との間の相互作用の寄与は大きくはないと考えられていた。しかしながら、Yuらは、α-Tiに対して、酸素の顕著な硬化作用が転位のコアとの強い相互作用によるものであることを示している。第一原理計算は、転位のコアにおける格子間位置のひずみが、酸素原子に対して近距離でのみ働く非常に強い反発力を生じさせていることを明らかにしている。(hk,KU,ok,kh,nk)
Origin of dramatic oxygen solute strengthening effect in titanium (Science, this issue p. 635)

捕えにくい QOOHの僅かな兆候をとらえる(Catching a glimpse of the elusive QOOH)

燃焼反応の基本を書き下すのは容易である.酸素が炭化水素と反応して,水と二酸化炭素が作られる.結合のすべてがどのようにして継続的に分解,生成するのかを詳細に書き下すのは,ずっと複雑な大変な作業となる.今回,Saveeたちは,長らく仮定されてきたパズルの一片である,いわゆるQOOH中間体の直接検出について報告している.この構造は,結合酸素が炭素から水素原子を引きはがし,炭素中心ラジカルを残すことで生成される.この研究では,QOOHの安定性に対する炭化水素の不飽和性の影響が調べられていて,このことは,燃焼化学と 対流圏の酸化化学の両方に意味を持っている.(MY,nk)
Direct observation and kinetics of a hydroperoxyalkyl radical (QOOH) (Science, this issue p. 643)

タンパク質の配列空間についての制約の探究(Exploring the limits of protein sequence space)

個々の機能タンパク質の可変性の探究は、可能なアミノ酸配列の膨大な数の組合せにより複雑になっている。PodgornaiaとLaubは、この難題に、大腸菌における2つのシグナル伝達タンパク質間の相互作用にとって決定的な4つのアミノ酸を分析することで取り組んだ。彼らは、2つのタンパク質の片方の可能な変異体16万種すべてを作り、うち、1650個以上が機能的であることを発見した。2つのタンパク質の間の界面の組成には非常に高い可変性があるが、それとは別に、いくつかのアミノ酸に関して文脈依存的な強い制約が存在し、このことが自然界においてなぜ機能的変異体がそれほど多くないかを示唆している。(KF,KU,kh)
Pervasive degeneracy and epistasis in a protein-protein interface (Science, this issue p. 673)

遺伝学がどのように表現型多様性に影響を与えているのか?(How genetics affect phenotypic variation)

個々人がどう見えるかは、自身の遺伝子や、遺伝的変異、環境との相互作用に依存している。しかしながら、遺伝子型から表現型への経路は曖昧なままである。Battleたちは、個々人の遺伝的変異がRNAの発現、リボソームの占有及びタンパク質のレベルにどのように作用しているかを調べている。彼らは、RNAの発現とリボソームの占有は通常相関していることを見出している。しかしながら、対照的に、タンパク質のレベルはRNAのレベルやリボソームの占有に依存していない。このように、タンパク質のレベルは、転写後のメカニズムによって制御されている。(KU,nk)
Impact of regulatory variation from RNA to protein (Science, this issue p. 664)
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