AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 16 2015, Vol.347


タイチンが切り詰められると何が起きる?(What happens when titins are trimmed?)

心不全のもっともありふれた形態、拡張型心筋症(dilated cardiomyopathy:DCM)は、しばしば、タイチン(titin)と呼ばれる巨大な心臓タンパク質における変異によって引き起こされる。Robertsたちは、タイチンのどのような変異が病気の原因となるのか、またそれはなぜかを問うた。彼らは、健康な人と心不全の人を含む5200人以上のタイチン遺伝子の配列を決定し、対応するRNAとタンパク質のレベルを測定した。変異の多くはタイチンを切り詰めるものであって、短くて機能しない RNAあるいはタンパク質をもたらした。そうした欠陥が、そのタンパク質のカルボキシル末端のそばや、大量に転写されたエクソンにおいて生じた場合には、心筋症を生み出した。健康な人の場合には、このタイチンを切り詰める変異にそうした特徴は見られず、通常は良性であった。(KF,ok,kh,nk)
Integrated allelic, transcriptional, and phenomic dissection of the cardiac effects of titin truncations in health and disease (Sci. Transl. Med. 7, 270ra6 (2015))

ウイルスの持続性をオンオフする(Turning viral persistence on and off)

ノロウイルスは、世界の胃腸炎の90%以上の原因である。ノロウイルスは、持続感染を確立することがあり、これがその伝播に寄与している可能性がある。ノロウイルスはどのようにして腸に永久的に常在できるのだろうか、またそうした持続感染はいかにして治癒できるのだろうか(WilksとGolovkinaによる展望記事参照)?  Baldridgeたちは、ノロウイルスに持続的感染したマウスを調べ、ウイルスの持続には腸の微生物相、すなわち胃腸管に常在する細菌が必要であることを発見した。抗生物質は、分泌された抗ウイルス性タンパク質インターフェロンλ(IFN-λ)に依存する方法で、マウスのノロウイルス感染を妨げた。 Niceたちは、IFN-λがノロウイルス(適応可能な免疫系から独立している)に感染したマウスを治癒できると報告報告している。(KF,ok,kh)
Commensal microbes and interferon-λ determine persistence of enteric murine norovirus infection (Science, this issue p. 266; see also p. 233)
Interferon-λ cures persistent murine norovirus infection in the absence of adaptive immunity (Science, this issue p. 269; see also p. 233)

世界の屋根に入植する(Colonizing the roof of the world)

人がチベット高地に永続的に住みつくようになったのは、およそ3600年前に過ぎない。Chenたちは、チベット北東部で発掘された考古学的な作物遺物を検討したが、それによって農業の定着した時期が解明された。チベットでのより早い時期の活動の痕跡は2万年前まで遡るが、最高高度地帯に1年を通じて暮らすことは、オオムギなどの適切な作物が出現するまでは不可能であった。驚いたことに、そうした先史の農業コミュニティーは、気候の寒冷化と同じ時期に、高地に広がった。(KF,KU,kh,nk)
Agriculture facilitated permanent human occupation of the Tibetan Plateau after 3600 B.P. (Science, this issue p. 248)

癌の終止へ向けた別の手段(Cancer's alternative means to an end)

生きのび増殖するために、腫瘍細胞は、染色体の末端にあるDNA配列であるテロメアを維持しないといけない。大部分のものは、これを、酵素テロメラーゼを活性化することによって達成している。しかしながら、ある種の腫瘍型はテロメラーゼ非依存テロメア伸長(ALT)と呼ばれる別の仕組みを好んでいて、これはDNA組換えを含む仕組みである。Flynnたちは、そうした腫瘍における変異によって変化したタンパク質の機能を調べることで、ALT作用が活発な腫瘍細胞のテロメアで生じている分子現象を描き出した。この解析によって、ALTにとって必須な特異的なタンパク質キナーゼが明らかにされたが、それは原理的に腫瘍増殖を停止させるための標的になりうるものである。(KF,kh,nk)
Alternative lengthening of telomeres renders cancer cells hypersensitive to ATR inhibitors (Science, this issue p. 273)

高い飛翔を求め、インドガンは大地を抱きしめるように飛ぶ(Geese need to hug the land to fly high)

動物の移動には、無数の驚くべき離れ技の事例がある。それらの中でも印象深い事例は、高度数千メートルに達し、ヒマラヤ山脈を越えていくインドガン(bar-headed geese:Anser indicus)である。Bishopたちは、移動の際のインドガンの心拍数、動き及び体温を遠隔モニターした。インドガンは地形にすり寄るようにして移動し("hug")、空気の流れと風のパターンを利用している。この予想外の戦略は、インドガンが高度を失ってはまた回復するという飛翔を繰り返すことを意味するのだが、それでもエネルギーの保持には有効なのである。(KU,kh,nk)
The roller coaster flight strategy of bar-headed geese conserves energy during Himalayan migrations (Science, this issue p. 250)

これからのENSOの変動を予測する際の新たな勾配(A new tilt on predicting future ENSO variability)

新たな知見により、より温暖な未来におけるエル・ニーニョ/南方振動 (ENSO)の挙動を予測する気候モデルの能力が高まるはずである。Fordたちは、19.000年前、及び3.000年から6.000年前の間の東西の赤道太平洋における表面と表面下の温度分布を調べた。温度は、より古い時代により大きな範囲で揺らいでいた。このように、ENSOは、以前考えられていたような、東西の温度勾配よりも、赤道太平洋の温度躍層(thermocline)の勾配により依存していた。(KU,kh)
【訳注】
・温度躍層:海水中で温度が急に低下するところ
Reduced El Nino-Southern Oscillation during the Last Glacial Maximum (Science, this issue p. 255)

天賦の才に対する態度と女性の参画との関連(Women's participation and attitudes to talent)

科学領域の中には,研究機関の女性の割合が他の領域より低いものがある.Leslieたちは,ある学問領域における女性の進出度は,その分野に関する一般的な意識を反映しているのではないかとの仮説を立てた(Pennerによる展望記事参照).調査により,頭脳の明晰さや才能のような特質が必要であると思われている分野もあるが,他方,思い入れやハードワークがより必要であると思われている分野もあることが判明した.生まれつきの才能が必要と考えられている理論的学科では,純理論的な学科での女性の比率はより低かった.(MY,ok,kh,nk)
Expectations of brilliance underlie gender distributions across academic disciplines (Science, this issue p. 262; see also p. 234)

トンネルをすり抜け、コヒーレントに放射する(Tunnel through and emit coherently)

コヒーレント光(レーザおよびメーザ)の発生は、大きな光学産業の基礎となっている。Liuらは、半導体二重量子ドットにおいて単一電子のトンネル効果によって駆動されるタイプのレーザについて検証を行っている。他の既存の半導体レーザとは異なり、その放射機構は、電気的に調整可能な離散的エネルギー準位間にある単一電荷のトンネル効果によって駆動される。単一電子の帯電によってエネルギー準位を調整できるので、このタイプのレーザ(またはメーザ)はオンとオフを高速で行うことが可能となるであろう。(hk,KU,ok,nk)
Semiconductor double quantum dot micromaser (Science, this issue p. 285)

半金属のトポロジーをつきとめる(Nailing down the topology of a semimetal)

トポロジカル絶縁体は、導電性の表面状態を有するエキゾチック材料であり、幾つかタイプの物質の不完全性に耐えることができる。 理論家たちは、バルク状態ではバンドギャップを示さない関連する三次元トポロジカルカル・ディラック半金属系において異なる種類の表面状態を予言していた。Xuらは光子放射分光法により、Na3Biのバンド構造を調べ、予言されていた表面状態が存在することを明らかにしている。この発見は、トポロジカル物質物理の研究を進める重要な手がかりとなるであろう。(NK,KU)
Observation of Fermi arc surface states in a topological metal (Science, this issue p. 294)

癌における活動的なシグナル伝達を可視化する(Visualizing active signaling in cancer)

レセプター型チロシンキナーゼ上皮増殖因子受容体 (EGFR)は、多様な癌において異常なほど活性化されている。EGFR活性が強化された腫瘍を同定することができれば、個々人に合った治療の改善に役立つであろう。しかしながら、、活性化の増加が EGFRをコードしている遺伝子の変異によるものでなければ、遺伝子解析ではこのような腫瘍を同定できない。Smithたちは、EGFRシグナル伝達に関するマーカーとして、EGFRとそのアダプタータンパク質 GRB2間の相互作用を検出するアッセイを開発した。このアッセイは通常の EGFRを持つ腫瘍における活動的な EGFRシグナル伝達を検出したが、これは遺伝子解析では検出不能であっただろう。更に、このアッセイを用いて、研究者たちは、マウスとヒトの双方において EGFR阻害因子への治療応答を予測することができた。(KU,kh,nk)
Annotation of human cancers with EGFR signaling-associated protein complexes using proximity ligation assays (Sci. Signal. 8, ra4 (2015))

ワクチンに対して、CD4+ T細胞は面倒を引き起こす(For vaccines, CD4+ T cells can spell trouble)

理想的なワクチンとは、抗体であれ、記憶T細胞であれ、免疫記憶を誘発して、その後の感染から宿主を守ることである。T細胞仲介の免疫には、ウイルスに感染した細胞を殺すために、ヘルパーCD4+ T細胞と細胞傷害性の CD8+ T 細胞の両者を必要とする。しかし、ワクチンが、単に CD4+記憶T細胞だけを誘発すると何が起こるのだろう? Penaloza-MacMasterたちは、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス (LCMV)に対して記憶 CD4+ T細胞のみを産生するワクチンをマウスに与えることでこの疑問に取り組んだ。慢性的な LCMVに対してマウスを保護する代わりに、ワクチンを接種されたマウスは、激しい炎症を発生して死んでしまった。ウイルス特異的な CD8+ T 細胞或いは抗体は、その病からマウスを保護した。これらの結果は、HIVのごとき慢性的なウイルスに対するワクチンと密接な関係があることと示している。(KU,ok,nk)
Vaccine-elicited CD4 T cells induce immunopathology after chronic LCMV infection (Science, this issue p. 278)

エキゾチックな超伝導体に秩序を見出す(Finding order in exotic superconductors)

物理学者たちは、正孔や電子のような電荷担体を化学的に余分に加えることで、幾つかの銅酸化物化合物を巧みに超伝導体にしている。正孔のドーピングに話を集中すると、超伝導性の近傍、あるいは、それと共存して、多数の異なる状態相が発見されている。そのような相の一つは、電荷密度の変調[電荷密度波:a charge density wave (CDW)]である。それは、正孔のドープされた族には普遍的であるように思われる。Da Silva Netoたちは、類似の相が、電子のドープされた材料である Nd2-xCexCuO4 に存在することを示している。著者たちがその材料を冷却していくと、彼らはホールがドープされた銅酸化物より顕著に高い温度で CDWをはじめて検出した。(Wt,KU,kh,nk)
Charge ordering in the electron-doped superconductor Nd2-xCexCuO4 (Science, this issue p. 282)

グラフェンのトポロジーを明らかにする(Nailing down graphene's topology)

グラフェン結晶格子の運動量空間で、閉じた経路に沿って移動する電子は、正確にその出発点に戻らないかもしれない。もし、その経路にたまたま運動量空間の特異点が含まれると、位相のずれが生じる。物理学者たちは、グラフェンの電子輸送特性を調べることにより、このプロセスに特有な特徴を検出することができる。Ducaたちは干渉法を用いて、六方晶系の光格子中で、いわゆる Berryの流束を直接測定した。そこでは、交差するレーザー光線が、グラフェン格子中で電子が経験する環境を再現する(Lamacraft による展望記事参照)。この高精度の技術は、他の位相幾何学的な構造を明らかにするのに有用であろう。(Sk,nk)
An Aharonov-Bohm interferometer for determining Bloch band topology (Science, this issue p. 288; see also p. 232)

ナノ粒子近傍の構造化された溶媒(Structured solvents near nanoparticles)

溶液中でのナノ粒子の物理的な性質や反応性は,ナノ粒子表面の終端状態だけでなく,ナノ粒子によって作られた界面の存在に基づく溶媒秩序の変化にも依存する.Zobelたちは X線散乱を用いて,種々の極性溶媒(アルコール)と非極性溶媒(ノルマルヘキサン)中での,色々な金属ナノ粒子および金属酸化物ナノ粒子表面の溶媒秩序について研究した.彼らは,バルク溶媒に比べて,ナノ粒子表面近傍で秩序性が高まった層を観測した.ナノ粒子の表面官能基を水酸基からカルボン酸塩へ変えるような表面化学にはほとんど関係なく,このような構造が形成された.(MY)
Universal solvent restructuring induced by colloidal nanoparticle (Science, this issue p. 292)

最初に作成された地質図の現代への影響(Current impacts of the first geological map made)

18世紀末に,英国人の運河測量技師,ウィリアム・スミス(William Smith)は,隣接した渓谷を流れる分岐した2つの水路が,岩石層の同じ岩石層列を通り,また,各々の岩石地層には弁別的な化石群が含まれることに気付いた.1815年にスミスにより出版された,イングランド,ウェールズ,一部のスコットランドからなる地質図の中心をなすものは,この洞察であった.この地質図は,この種のものの最初となるもので,古い岩石から新しい岩石へと,立体的な形を与える方法で層序を描いている.Sharpeは展望記事で,地質図作成に用いられた法則が今日でも,例えば,化石燃料鉱床や鉱物資源に富む場所の識別に,どのようにいまだ利用されているのかを説明している.(MY,ok,kh)
The birth of the geological map (Science, this issue p. 230)

海洋動物も姿を消している(Marine animals are disappearing, too)

陸上環境における動物種の消失は詳しく記述されてきており、それは現在でも続いている。海洋環境の種の消失は陸上系のそれと比べて緩やかであったが、その早さが増加しつつある。McCauleyたちは、海洋環境における種の減少と消失についての最近のパターンをレビューしている。彼らはたくさんの憂慮すべき減少について記している。けれども陸上で 起きたようなタイプの大規模な絶滅を食い止めることのできるアプローチについて強調している。(Uc,KU,kh)
Marine defaunation: Animal loss in the global ocean (Science, this issue 10.1126/science.1255641)

化石の森が明らかにした変動(Fluctuations revealed in fossil forests)

過去の植生の再構築は、気候変動に伴う生態系の変化を理解する扉を開く。しかし、それはまた困難なことでもある。Dunn たちは、進化の過程で保存されてきた植物組織の表皮細胞の形態に基づいた、植生の上空開放状態(vegetation openness)の変化を評価する方法を開発した。彼らはこの方法をパタゴニアで収集された、たくさんの化石に適用することにより、新世代(4900万年から1100万年前)の間に植生の構造がいかに変化したかを示した。これらの変化は、この期間中の知られている気候変動に重なっており、また、草食動物の進化がいかに植生の構造に対応してきたかを追跡するのに用いることができる。(Sk,KU,ok,kh,nk)
【訳注】
・vegetation openness:著者のabsによると "dense forests opened up by the late Eocene:open forests and shrubland habitats then fluctuated"
Linked canopy, climate, and faunal change in the Cenozoic of Patagonia (Science, this issue p. 258)
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