AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 5 2014, Vol.346


氷床の融解問題が勃発(Bringing up the problem of ice shelf melting)

深海から湧き上がってくる暖かい水が、南極の大陸棚を覆う海水を加熱している。Schmidtkoたちは、周極底層水(Circumpolar Deep Water)が暖かくなっており、過去40年の間で遥か南極周辺の大陸棚上にまで移動し、その結果氷床の融解速度を上昇させている、と報告している(Gilleによる展望記事参照)。西部南極氷床一部の不可逆的な後退の可能性を考察するときには、このような観察結果を考慮する必要がある。(Uc,ok)
Multidecadal warming of Antarctic waters (Science, this issue p. 1227; see also p. 1180)

電気ウナギは餌食にショックを与えて危険な動きをさせる(Eels shock their prey into risky behavior)

電気ウナギはウマに身動き出来ないほどの強力なショックを与えるが、彼らの真の標的はより小さい魚や無脊椎動物の餌食である。Cataniaは、電気ウナギが彼らの餌食の動きを「遠隔操作」していることを示唆している。電気放電は彼らの餌食に全身の収縮と引きつけをもたらすが、それは筋肉に直接作用するのではなく運動神経に影響を与えることによる。その結果、餌食はまず神経を刺激されて動いて自らの存在を露わにし、そして次に麻痺状態になって捕獲されることになるのである。(KU,ok,nk)
The shocking predatory strike of the electric eel (Science, this issue p. 1231)

炎症に対する2っの細胞の協業(A two-cell collaboration for inflammation)

感染した場合,好中球と呼ばれる免疫細胞が最初に反応する.好中球は血管内や血管を通過して移動し,感染箇所に素早く到達する,Sreeramkumarたちは,マウスの好中球が,感染箇所発見の手助けに血小板を利用していることを見出した.好中球は血管壁へと突出部を伸ばした.突出部が血小板と接触すると,好中球は周囲の組織へと遊走し,炎症作用を行った.この好中球血小板相互作用を防ぐと,マウスの幾つかの傷害モデルで,組織への副次的な炎症傷害が軽減された.(MY)
Neutrophils scan for activated platelets to initiate inflammation (Science, this issue p. 1234)

理論化学は圧力に耐えられる(Theoretical chemistry can withstand the pressure)

理論的な方法により,個別分子の衝突による化学的な結果が,きわめて詳細に予測可能となっている.しかしながら,実際の化学では,火炎中,大気中,あるいは工業用反応容器中であろうと,膨大な数のそのような衝突を伴っている.総反応速度を予測するには,圧力依存性を正確に処理する手立てが必要となる.Jasperたちは,実験での測定と強い一致を示すそのような方法を提供している(Pillingによる展望記事参照).実測データにフィットさせるために導出された経験的なパラメータを必要とする以前のやり方と異なり,新しい手法では厳格にシミュレーションを拠り所としている.(MY)
Predictive a priori pressure-dependent kinetics (Science, this issue p. 1212; see also p. 1183)

ヘルペスウイルス感染時の後成的制御(Epigenetic control during herpes virus infection)

後成的修飾は,メタ遺伝情報の一種であって,基盤をなすDNAはもとのままで,修飾により遺伝子の発現が変化する.Hillたちは,ヘルペスウイルス感染の治療に後成的修飾が利用できるのではないかとの仮説を立てた.ヘルペスウイルスへの感染と潜伏状態からの再活性化には,ヒストン脱メチル化酵素である LSD1および JMJD2に依存しており、これらは染色体への後成的な標識付けを担っている.後成的修飾は,動物モデルにおいて単純ヘルペスウィルス感染の異なる3つの段階、即ち一次感染,症状が出ていない段階でのウイルスの伝播性排出,および病変再発、においてウイルス感染を抑制した。(MY,KU,nk)
Inhibition of LSD1 reduces herpesvirus infection, shedding, and recurrence by promoting epigenetic suppression of viral genomes (Sci. Transl. Med. 6, 265ra169 (2014))

暴力処理の手間に比べれば予防の手間はわずかである(An ounce of prevention is better than violence)

子供や青年は彼らの生活の大部分を学校で過ごしている。成人の行動を改善することに関する多くの議論は、認知スキルの改善に集中している。にもかかわらず、遡及的解析はまた、非認知的スキルの重要性に重点を置いている。Hellerは、シカゴプログラムのポジティブな効果に関して報告しているが、それは貧乏で学歴もない若者に週25時間夏の間仕事を与えた。このプログラムに登録された若者は、夏の仕事が終わった後少なくても1年間の間、暴力的犯罪を犯す人は少なかった。(KU,ok,nk)
Summer jobs reduce violence among disadvantaged youth (Science, this issue p. 1219)

原子の谷を光で操る(Using light to manipulate atomic valleys)

セレン化タングステン(WSe2)のような 遷移金属ジカルコゲナイドの原子層の電子構造は、エネルギーの等しい特徴的な2つの谷が存在していることが知られている。どちらの谷に由来する電子なのかを特定することができれば、情報伝達キャリアとして使うことができる。Kimらは光学的手法を用いて、これら谷を識別することに成功している。セレン化タングステンサンプルに円偏光を照射すると、電子と正孔が緩く束縛された状態であるエキシトンが生成されるが、円偏光に依存して一方の谷に移動するという。この手法は谷の自由度の操作を可能にし、量子情報処理に活用できるであろう。(NK,KU)
Ultrafast generation of pseudo-magnetic field for valley excitons in WSe2 monolayers (Science, this issue p. 1205)

包みを解いて核の内部へ(Unpacking for travel to the nuclear interior)

細胞核内での遺伝子の位置はその活性と相関している。核の周辺に近い場所にある遺伝子は、一般に抑圧されていて、一方、中心にある遺伝子は活動的である(または将来そうなる)。この再局在化が遺伝子制御の原因なのか、結果なのかは、はっきりしていない。Therizolsたちは、転写活性化あるいは単純な染色質脱凝縮のどちらもが、核の内部への遺伝子の再配置を駆動していることを発見した。核の位置は娘細胞においても維持されたが、これは細胞が核内の遺伝子の位置の後成的記憶をもっていることを示唆する。(KF,ok,nk)
Chromatin decondensation is sufficient to alter nuclear organization in embryonic stem cells (Science, this issue p. 1238)

自家不和合性における優性カスケード(Dominance cascades in self-incompatibility)

植物は、結実するために自身の花粉を利用できないことがよくある。これは自家不和合性として知られている。自家不和合性の根底にある遺伝学と機構のいくらかは理解されているが、このシステムの進化と維持については、謎のままである。Durandたちは、ハクサンハタザオ(Arabidopsis halleri)の自家不和合性座位内のある小さな RNAの集団とそれぞれに対応する標的とを同定した。それら対立遺伝子のあるサブセットは優性に機能したが、これによって、自家不和合性がいかにして維持されているかが説明されることになる。(KF)
Dominance hierarchy arising from the evolution of a complex small RNA regulatory network (Science, this issue p. 1200)

結合相手を活性化することによる発癌(Cancer by activating a binding partner)

ある種の癌は、HER1などのような、チロシン受容体キナーゼのEGFR(上皮成長因子受容体)ファミリーのメンバーの活性を増加させる変異を伴っている。HER3にはキナーゼ活性がほとんどないが、癌に付随する変異をもつことがある。HER3は、キナーゼ活性をもっている他のEGFRファミリーメンバーに結合する。Littlefieldたちは、正常なHER3あるいは癌に付随する変異をもつHER3のキナーゼ領域に結合したHER1のキナーゼ領域を結晶化させた。HER3の癌に付随する変異は、HER1への結合とそのアロステリックな活性化を増加させた。(KF)
Structural analysis of the EGFR/HER3 heterodimer reveals the molecular basis for activating HER3 mutations (Sci. Signal. 7, ra114 (2014))

ダイナモによって持続した月の磁気(Lunar magnetism persisted via dynamo)

今日では、月は磁気を有していないが、これはずっとそうだった訳ではない。月の岩石や地殻のサンプルに残された磁気は、数十億年前にはかなりの磁場が存在していたことを示している。Weiss と Tikoo は、現在の磁性の研究によって、いかにして磁気的ダイナモによる磁場強化の説が確立されてきたかをレビューしている。この説によると、月の磁場は、42億年前から35.6億年前まで続いた磁気的なダイナモによって強化されていた。しかしながら、このダイナモの背後にある、マントルの歳差運動やコアの結晶化のようなメカニズムは、なお研究段階にある。ダイナモがどのように、また、いつ発生し、消滅したかを明らかにするには、磁気流体力学的なモデルや、より正確な古代の磁場強度測定を改良する必要がある。おそらくは、磁場の方向を示すものも必要であろう。(Wt)
The lunar dynamo (Science, this issue 10.1126/science.1246753)

細胞競合と免疫の関係(Cell competition and immunity)

均質な組織のように見えるものにおいてさえ、細胞変異性は存在する。変異細胞が存在することによって、組織の機能的完全性や究極的には生物の健康が損なわれることがある。細胞競合とは、内部の細胞のサーベイランス機構(surveillance mechanism)であって、細胞の適合性を監視して、損なわれた細胞を除去し、それが組織に広がらないよう防いでいる。しかしながら、細胞がどのようにして適合性の違いを認識しているかは分からないままであった。Meyerたちは、その認識が自然免疫反応システムのシグナル経路を用いていると報告している。細胞間の適合性の差が弱い方の集団において、アポトーシス促進性をはっきり示す遺伝子の活性化をもたらす独特なNF-κB/Rel因子を活性化させ、これが負けた細胞の細胞死を導くのである。(KF,ok,nk)
An ancient defense system eliminates unfit cells from developing tissues during cell competition (Science, this issue 10.1126/science.1258236)

トポロジー特性を解明する(Teasing out the topological character)

理論物理学者が、トポロジカル絶縁体(TIs)と呼ばれる面白い物質の存在を提唱した時、彼らは、その内部は絶縁体なのに表面は導電性である物質を頭に描いた。しかしながら、実験的に発見された TIs は、まだかなりの内部導電性を有している。当時、理論物理学者は、奇妙な伝導特性をもつ絶縁体として長い間知られてきた SmB6 という物質が、TI かもしれないことに気付いていた。しかし、SmB6 が TIであることを確認するのは、骨の折れる作業だった。Liたちは、強い磁場の下での SmB6の電子構造を明らかにし、それが実際に二次元の表面準位を有することを見出した。(Sk)
Two-dimensional Fermi surfaces in Kondo insulator SmB6 (Science, this issue p. 1208)

マグネタイト表面の安定化(Stabilization of the surfaces of magnetite)

酸化鉄表面の正確な構造は、その触媒としての役割を理解する上で、またマグネタイトのような酸化物にとっては、磁性やスピン物理への応用という面で重要である。一般に認められている低エネルギー電子回折(LEED)によるマグネタイト表面の構造は、物質の最外表面に波状の歪みが生じており、どちらかというと実験とあまり一致しない。Bliemたちは、LEEDによる構造が、表面下での陽イオン空孔と格子間位置の占有を含む構造により、ずっと正確に記述されることを示した(Chambers による展望記事参照)。そのような陽イオンの再分布は多くの酸化金属で生じており、それらの表面構造にある役割を果たしているのかもしれない。(Sk,nk)
Subsurface cation vacancy stabilization of the magnetite (001) surface (Science, this issue p. 1215; see also p. 1186)

温暖化ガスがアフリカの降雨を促進した(Greenhouse gases drove African rainfall)

赤道アフリカのほとんどの領域が、14,700年前頃に急に、より湿潤な状態になり、完新世にまで継続する「アフリカの緑豊かな時代(African Humid Period)」をもたらすに至った。それは何故か? Otto-Bliesnerたちは気候モデルを用いて、最終退氷期の初期の大西洋子午面循環(Atlantic Meridional Overturning Circulation :AMOC)の停滞によって、北部と南東の赤道アフリカの降雨の減少がもたらされたことを示した。このAMOCが再び強度を増した時に、温暖化ガス濃度増加と夏期日照増加が相まった結果としてより湿潤な環境が発達した。大気中の温暖化ガス濃度が増加し続けると、このような結果はアフリカの水門気候(hydroclimate)・水資源そして農業の将来に対する示唆をもたらすものであろう。(Uc,KU,ok)
Coherent changes of southeastern equatorial and northern African rainfall during the last deglaciation (Science, this issue p. 1223)

運動中のタンパク質分子の観測(Watching a protein molecule in motion)

X線結晶構造解析によって、タンパク質がどのように機能しているかの洞察を得るに必要な美しい高解像度の画像が得られた。しかしながら、これらの多くは、動的なプロセスにもかかわらず静的なスナップショットしか得られていない。感光性分子に対して、伝統的なシンクロトロン源での時間分解結晶構造解析は、約100ピコ秒の時間分解能で構造変化を追跡する方法を提供している。X線自由電子レーザ(XFELs)は、フェムト秒ほどの極めて短い時間スケールでの時間分解能の実験ができるような道を開いている。TenboerらはXFELを用いて、光活性黄色タンパク質の光トリガーによるダイナミクスを研究した。高品質の電子密度マップが、反応開始後10ナノ秒と1マイクロ秒で得られた。1マイクロ秒において、2つの中間体が以前には同定されていなかった構造変化を明らかにした。(hk,KU)
Time-resolved serial crystallography captures high-resolution intermediates of photoactive yellow protein (Science, this issue p. 1242)

地球の熱力学的エンジンを駆動しているものは何か?(What drives Earth's thermodynamic engine?)

アセノスフェア(asthenosphere)は,地球のテクトニクプレートのすぐ下に存在する。アセノスフェアは部分的に溶融した岩石の薄い層であり、昔から地球の熱力学的エンジンでは副次的な役割しか果たしていないと考えられていた。展望記事において、Andersonと Kingは、アセノスフェアに対してもっと活動的役割を示す最近の研究にハイライトをあてている。彼らは、この層がその下のマントルより高温であると主張している。そうすると、アセノスフェアが火山性のホットスポットの源となるかもしれない。それはこれまでは下部マントルから上昇するプルームが主な原因と考えられてきたのだが。更に、モデル研究では、アセノスフェアがマントル流のパターンに強い影響を持っていることを示唆している。(KU,ok,nk)
Driving the Earth machine? (Science, this issue p. 1184)
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