AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 26 2014, Vol.345


複雑なネットワークが単純な孔を作る(A complex network makes simple pores)

気孔(植物の表面の葉で見出される孔)は、幹細胞によりここかしこに作られる。気孔の発生は SPEECHLESS 転写制御因子により制御される。Lauたちは、SPEECHLESS自身が制御している遺伝子を調べた。標的としては、ホルモン・シグナル伝達や、細胞増殖の制御、及び非対称性の細胞運命の特殊性に関与する遺伝子を含んでいる。単一の孔の見かけ上の単純さにもかかわらず、その孔を作っている遺伝子のネットワークは非常に複雑である。(KU)
Direct roles of SPEECHLESS in the specification of stomatal self-renewing cells (Science, this issue p. 1605)

水位低下による地殻変動(Crustal rebound from water drawdown)

米国西部で進行している干ばつは、地下水の貯水量を減少させてきた。Borsa たちは、ほとんど感知できないくらいの地殻隆起データを用いて、この地方の干ばつによる地下水の減少量を推定した。干ばつの結果起こる地殻隆起のGPS データに逆変換解析を行って、地殻隆起量から、過去数年にわたる各地域の帯水層に対する干ばつの影響をマップ化した。今のところ、米国西部における貯水量は最大240ギガトン減少しており、これはこの地方全体にわたる厚さ 10-cm の水の層に相当する。カリフォルニアのある地域ではさらに悪化しており、その減少量は全体平均量の最大5倍に及んでいる。(Sk,nk)
Ongoing drought-induced uplift in the western United States (Science, this issue p. 1587)

謎の恐竜は泳げた?(Mysterious dinosaur a swimmer?)

恐竜は、しばしばその大きさや奇妙さで認識されている。この観点から、北アフリカに生息した肉食獣脚類のスピノザウルスは、その巨大な背中のひれ状の突起やティラノザウルスよりも巨大な体によって、長い間注目されてきた。この種はまた、その歴史に関しても注目されてきた。不幸にも第二次世界大戦中に基準標本が失われたため、我々がスピノザウルスに関して知っていることの多くは、推測や復元を通して理解されるべきものとして残された。Ibrahim たちは、今回、この珍しい種の新たな化石について述べている。彼らは、この種が恐竜として初めて、少なくともある程度の水生生活を送っていたと結論付けている。(Sk)
Semiaquatic adaptations in a giant predatory dinosaur (Science, this issue p. 1613)

水と金とで酸化反応を進める(Easier oxidation over gold with added water)

金属酸化物に吸着した金は、一酸化炭素から二酸化炭素への酸化作用を室温で促進する優れた触媒である。しかし、この触媒の基本性質に関しては、いまだに異なる研究の間で一致した結論が出ていない。Saveedaらは、水分子の存在が、吸着した酸素から OOH基を作ることができるように反応活性化の障壁を下げていることを、反応速度と赤外分光法により明らかにしている。OOH基は、次に一酸化炭素と容易に反応する。このように、酸化物担持体およびそれと金との界面の主な役割は水の活性化であるが、一酸化炭素自体の酸化反応は金の表面で起きているようである。(NK,KU,nk)
The critical role of water at the gold-titania interface in catalytic CO oxidation (Science, this issue p. 1599; see also p. 1564)

止め方を知らないT細胞に要注意(Beware of T cells that don't know how to stop)

感染の際に、T細胞は広範に分裂し、組織を激しくダメージさせるタンパク質を分泌する。しかし、T細胞は止めるべき時を知っている---T細胞は CTLA4のようなタンパク質を自らの表面に発現し、これがブレーキをかける。Kuehnたちは、ヒトにおける CTLA4の重要さに関する遺伝子的証拠を報告している( Rieux-Laucat and Casanovaによる展望記事参照)。彼らは、 CTLA4のコピーの一つに変異を有する6人の患者を同定した。患者たちの免疫応答は過剰な症状を示し、免疫細胞が彼らの器官内部にまで入り込んでいた。この発見は、CTLA4が免疫系にこれでもう充分だということを教えているという考えを支持している。(KU,nk)
Immune dysregulation in human subjects with heterozygous germline mutations in CTLA4 (Science, this issue p. 1623; see also p. 1560)

神経補綴の制御ループを閉じる(Closing the loop on neuroprosthetic control)

脊髄損傷で麻痺した患者たちは、近い将来に彼らの脚をもっと自然に動かすことができるようになるだろう。今日の神経調節デバイスは、脊髄に電気的刺激を与えることで足の動きをもたらしているが、そのデバイスは絶えずモニタリングと調節を必要とする。Wengerたちは、デバイスを自動調節する閉ループ系を創った。著者たちは、麻痺したラットの脊髄を刺激し、そして次にラットが歩いたり、階段を上ったりする際の彼らの脚の動きをマップ化し、連続した歩行制御のためのフィードバックとフィードフォワードを統合した制御モデルを創った。(KU,nk)
Closed-loop neuromodulation of spinal sensorimotor circuits controls refined locomotion after complete spinal cord injury (Sci. Transl. Med. 6, 255ra133 (2014))

ホット・エレクトロンプラズマが木星の第1衛星であるイオから移動する(Hot electron plasma moves in from Io)

科学者たちは、太陽放射がイオの火山からのガスをイオン化して、木星の周りのプラズマのトーラス(円環)を生成していることを知っている。そのプラズマがどのように移動しているかは明確ではない。このことを調べるために、吉岡らは久木地球周回衛星を用いて、イオからの距離の関数としてホット・エレクトロンプラズマの温度を監視した。ホット・エレクトロンの割合は、木星からの距離と共に非常にゆっくりとしか減少していかない。これは、イオの軌道の外側からこれらの電子が迅速に再補給されていることを意味している。(hk,KU,nk)
Evidence for global electron transportation into the jovian inner magnetosphere (Science, this issue p. 1581)

手術後の血管の瘢痕化を抑制する(Preventing vascular scarring after surgery)

血管を補強する内皮は,内皮間葉移行 (EndMT)と呼ばれる変化を来たす.EndMTは血管の瘢痕化を引き起こす.例えば心臓移植や冠動脈バイパス手術を含む血管移植を必要とする外科的措置に対し,血管の瘢痕化が障害となっている。Chenたちは,FGFR1が欠損した血管内皮細胞を持つマウスが,血管移植後に EndMTの増加を示すことを見出した.さらに,心臓移植に拒絶反応を示した患者では、動脈中のFGFR1の水準が健常者よりも低かった.このため,FGFR1の活性を高めることで,手術を受ける心臓病患者の血管の瘢痕発生が抑えられるかもしれない.(MY,KU,nk)
【訳注】
・FGFR1(Fibroblast Growth Factor Receptor 1):線維芽細胞増殖因子受容体1のことで,血管内皮細胞の増殖促進と筒状構造への組織化の機能を持つタンパク質であるFGFの受容体
Fibroblast growth factor receptor 1 is a key inhibitor of TGFβ signaling in the endothelium (Sci. Signal. 7, ra90 (2014))

分化の速度がプールの大きさを決める(Differentiation rates regulate pool sizes)

バスケットボールの選手は体操選手より体が大きいかもしれないが,彼らの神経管は同じ方法で組織化されている。Kichevaたちはニワトリとマウスの胚を研究し,細胞分化の速度が鍵となることを示している(Pourquieによる展望記事参照).2段階プロセスでは,シグナル伝達が早い段階でその神経管に広がっていき、細胞運命の幾つかの様相を確立する。しかし,その後遅れて,前駆細胞のプールが自身の制御をするようになる.分化する前駆細胞はもはや前駆細胞ではなくなり,このようにして,分化の速度が前駆細胞プールの大きさを決定するのである.前駆細胞プールの相対的な大きさは発生の進行につれて変わり,体の大きさにかかわらず、誰もがそれぞれの構成要素の正しい比率を持つように脊髄が形成されるのである.(MY,KU)
Coordination of progenitor specification and growth in mouse and chick spinal cord (Science, this issue 10.1126/science.1254927; see also p. 1565)

炭素鎖は宇宙ダストの上で分枝する(Carbon chains branch out on space dust)

地球上で見いだされた隕石は、複雑な成分を持つ広範囲にわたる分子を含んでいる。これには、アミノ酸も含まれている。宇宙化学者たちは、1980年代にこれらの複雑な星間分子の存在を予想していたが、なかなか検出できなかった。Belloche たちはチリにある ALMA 望遠鏡群を用いて、Sgr B2 という大量の星が形成されている領域を観測した。そこでは、膨大なガスがあり、イソプロピルシアン化物のような、非常に低密度で分布している分子種をも検出することが可能であった。検出は困難ではあるが、このような非直線性の有機分子はありふれたものである可能性がある。特に、枝分かれ分子の形成は重要である。それは、よく知られたアミノ酸の構造に類似しているからである。そして、このアミノ酸は、生命の構成要素の一部分である。(Wt,nk)
Detection of a branched alkyl molecule in the interstellar medium: iso-propyl cyanide (Science, this issue p. 1584)

太陽系の氷の氏と育ちは?(Nature or nurture for solar system ices?)

我々は、生命体のお気に入りの分子である水が、太陽系のいたるところに存在することを知っている。わからないことは、現在の水の量は太陽系の元となった星雲の化学的条件を反映したものなのか、その後若い系の中で反応を生じた結果として生まれたものなのかということである。太陽系の氷の中の重水素と水素の濃度は、化学反応の過程のトレーサーの役割を果たす。Cleeves たちはそこに登場するプロセスをモデル化した。解析結果は、初期の惑星系が全て我々地球と同じ種類の水を有していたらしいことを示唆している。(Sk,nk)
The ancient heritage of water ice in the solar system (Science, this issue p. 1590)

免疫細胞発生のブループリント(A BLUEPRINT of immune cell development)

血液細胞を我々の多くの免疫系成分へと発生させるよう指令する、後成的メカニズムを決定するために、BLUEPRINコンソーシアムはDNAとRNAの転写の制御を調べ、血液細胞の分化を支配している分子的特徴を解析した。免疫応答を誘発することで、Saeedたちは、免疫細胞の分化の根底にあるゲノムの後成的変化を報告している。Chengたちは、免疫反応を「訓練」された単球の活動が酸素の存在下で糖の分解に高度に依存しており、これにより細胞が免疫応答を開始するに必要なエネルギーを産生することが可能となることを実証している。Chenたちは RNA転写物を調べ、そして特異的な細胞系譜が異なる長さと組成(アイソフォーム)の RNA転写物を利用して、タンパク質を形成していることを見出している。まとめると、これらの研究は、後成的影響が、どのようにして免疫系に関与する血液細胞の発生を促進するかを明らかにしている。(KU,nk)
【訳注】
・BLUEPRINTコンソーシアム:遺伝子とヒトの病気に関するヨーロッパの大学を中心とした研究プロジェクト
Epigenetic programming of monocyte-to-macrophage differentiation and trained innate immunity (Science, this issue 10.1126/science.1251086)
mTOR- and HIF-1α?mediated aerobic glycolysis as metabolic basis for trained immunity (Science, this issue 10.1126/science.1250684)
Transcriptional diversity during lineage commitment of human blood progenitors (Science, this issue 10.1126/science.1251033)

窒素を生合成に使えるように(Making nitrogen available for biosynthesis)

窒素ガス (N2) は、地球の大気中に大量に存在する。しかし、生体分子に取り込まれるためには、その前に、生物が利用可能な形態に転換されないといけない。2つの金属タンパク質からなる酵素、ニトロゲナーゼは、N2を生物が利用可能なアンモニアに転換している。それら金属タンパク質の1つである MoFe-タンパク質は、錯体の金属中心である FeMo補助因子を含むが、その場所で三重の窒素結合が還元される。ニトロゲナーゼがいかにして N2の還元を実現しているかはを理解することは、長年の目標であった。Spatzalたちは、一酸化炭素に結合した MoFe-タンパク質の構造を提示している(Hogbomによる展望記事参照)。一酸化炭素は、ニトロゲナーゼへの自然な基質ではなく、むしろその酵素反応を阻害する阻害剤であるが、その構造は、FeMo金属クラスターが基質の還元を達成するためにどのように再編成するかについての洞察を与えてくれる。(KF,KU)
Ligand binding to the FeMo-cofactor: Structures of CO-bound and reactivated nitrogenase (Science, this issue p. 1620)

ペロブスカイトのペアの力(The power of a pair of perovskites)

過去数年間に,ペロブスカイト太陽電池が,昔ながらのシリコンデバイスに対する試験的な低コストの代替手段として登場してきた.今回,Luoたちは,直列接続されたペロブスカイト電池ペアが,水を効率的に水素と酸素に電気化学的に分解するパワーを供給できることを報告している(Hamannによる展望記事参照).水からの水素生成は,太陽光の変動による揺らぎをスムーズ化するために太陽光発電の補助方法として.精力的に研究されている.(MY,KU)
Water photolysis at 12.3% efficiency via perovskite photovoltaics and Earth-abundant catalysts (Science, this issue p. 1593; see also p. 1566)

クリーゲー中間体を分解する(Breaking down a Criegee intermediate)

上層大気での分子・ラジカルの破壊作用におけるオゾンの重要性はよく知られているが、オゾンはまた我々が住んでいる対流圏領域近傍でも非常に活性に破壊過程の最後を締めている。 とりわけ、自然源もしくは人為的発生源による大気中に漂う不飽和炭化水素とオゾンとの反応により、より反応性の強い OHラジカルが生成される。Liuたちは振動スペクトル分析を用いて、オゾンが2-ブテンを攻撃する際にできる、いわゆるクリーゲー中間体からどのようにして OHが発生するかを調べた。その結果は、OH生成が今日のの理論予測よりもより容易であることを示唆している。(UC,KU,nk)
Infrared-driven unimolecular reaction of CH3CHOO Criegee intermediates to OH radical products (Science, this issue p. 1596)

黒曜石で作られた初期石器群(An early assemblage of obsidian artifacts)

ルヴァロワ技法(Levallois technology)とは,何千年も前の道具作製に用いられた石工技法につけられた名前である.これは20万年乃至30万年前のユーラシア大陸の考古学上の記録に現れ,アフリカではさらに遡って出現した技法である.Adlerたちは,アフリカからの人類の拡散の結果,ユーラシア大陸中にこの技法が出現したという仮説に挑戦している.33万5千年乃至32万5千年前の南コーカサスのルヴァロワ型の黒曜石石器がユーラシア大陸で最古のものであった.このことは,ルヴァロワ技法が,異なるヒト集団の中で独自に発達したかもしれないことを示唆している.このため,石器技法が、旧石器時代の人類集団の変化と拡散に対する信頼できる指標として用いることができない可能性がある.(MY)
Early Levallois technology and the Lower to Middle Paleolithic transition in the Southern Caucasus (Science, this issue p. 1609)

植物の種の多様性はいかに形成されるか(How plant species diversity is shaped)

植物の種の多様性を制御している因子が、西部オーストラリアの古くからの砂丘の生態系において解き明かされてきた。Laliberteたちは古い砂丘の植物を調査したが、そこでは土壌の性質の変動が植物の多様性の違いに結び付いていた。局所的な植物多様性は、その領域にある植物種のプールからの、環境によるフィルタリングによってほとんど決定されていた。このプロセスは、長期土壌形成の際の酸性化によって駆動されている。この知見は、資源競合が局所的な植物多様性を制御しているとする、従来の支配的な見方に挑戦するものである。(KF)
Environmental filtering explains variation in plant diversity along resource gradients (Science, this issue p. 1602)

動物の行動は報酬に従う(Animal behavior follows rewards)

動物の行動は学習され、報酬によって強化される。分子レベルでは、報酬は、シナプスを調節する神経伝達物質であるドパミンの形でもたらされる。このプロセスの正確なタイミングと機構は、まだよく分かっていない。光学的刺激を用いて、Yagishitaたちは、ドパミン作動性の調節が、極端に狭い時間窓の間のみ樹状突起棘の拡大を含んでいることを発見した。強化の可塑性として知られる、学習のためのこの細胞の原理が、抑うつ、薬物中毒、統合失調症などのドパミン作動性制御を伴う精神障害への洞察をもたらすことになる。(KF)
A critical time window for dopamine actions on the structural plasticity of dendritic spines (Science, this issue p. 1616)

自然の見方、保護の見方(Views of nature, views of conservation)

自然保護を考えるとき、ある人たちは、自然公園において保護されている野生のことを考えるかもしれない。別の人は、たとえば鳥類やチョウが生垣の再導入によって回復するよう助けられるように、種がより身近になることを考えるかもしれない。Maceは、過去50年にわたる保護に関する言説の変化をたどっている。彼女は、強調点が個々の種から生態系に移り、また自然が人間とは別のものだとする見方から、自然から人間が直接こうむる利益を考慮する見方へと変化するにつれて出てきた、4つの異なった見方を同定した。これら異なった見方は、科学者が保護の成功をどのように測定するか、また政策決定者が自然をどう価値づけ、管理するか、を考える際に重要な意味をもつものである。(KF)
Whose conservation? (Science, this issue p. 1558)
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