AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 19 2014, Vol.345


海洋の湧昇流の年輪(Rings of ocean upwelling)

カルフォルニアの海岸に沿った沿岸湧昇流は、過去600年のほとんどすべての期間より最近は変動しやすくなっている。Black たちは、576年間の木の年輪の記録を用いて、カルフォルニア海岸に沿った冬季の気候の履歴を再構築した。冬季の気候は沿岸湧昇流に大きく依存しているため、彼らは、過去600年間の全期間(二期間を除く)よりもこの60年間に渡る湧昇流の変動が増加していると決定することができた。この最近の傾向の直接の原因は他に例を見ないもののようで、結果として、海洋の生産性を減らし、魚や海鳥や哺乳類に負の影響を与えている。(Wt,nk)
Six centuries of variability and extremes in a coupled marine-terrestrial ecosystem (Science, this issue p. 1498)

カルボニル化合物が新たな局面を開いた(A carbonyl compound that tips the scales

最も重い元素群の寿命は短い。これらの元素は高エネルギーの原子核衝突から出現し,より軽い元素へと分裂する前の観測には僅かな時間しか使えない。Evenたちは,炭素が原子番号106の元素であるシーボーギウム(Sg)に結合するのに必要な時間は,数秒で十分であることを報告している(Lovelandによる展望記事参照)。高温の衝突環境で、かつ一酸化炭素とヘリウムの流れの中を通過させて新たな原子を産みだすために、著者らは特別仕様の装置を使った。彼らは,検出された生成物を理論モデルの結果と比較し,ヘキサカルボニル体であるSg(CO)6が最も妥当な構造式であると結論付けた。(MY,ok,nk)
Synthesis and detection of a seaborgium carbonyl complex (Science, this issue p. 1491; see also p. 1451)

癌の免疫療法は T細胞の攻撃の幅を広げる(Cancer immunotherapy expands T cell attack)

進行性のメラノーマ患者は、免疫療法薬剤であるイピリマブ(ipilimumab)で処置するとより長く生きる。Kvistborgたちは、この治療用抗体が、どうしてこのような有益な効果を発揮するのかを示している。この薬剤は免疫阻害因子に対して向けられたたものだが、想定に反して免疫 T細胞の応答性の強さを増すことには失敗した。むしろ、患者の T細胞は以前より多様な抗原を標的とするようになったのである。このような T細胞応答性の幅の拡大は、イピリマブが既存の免疫応答を増強するのではなく、以前なら標的としていなかった腫瘍関連抗原に向かってT細胞を活性化することで作用することを示唆している。もしそうなら、似たような治療法が他の癌との戦いにも良い結果をもたらすと期待できるだろう。(KU,nk)
【訳注】メラノーマ(黒色腫):メラニン色素生産能を持つ細胞である色素細胞が癌化した悪性の腫瘍
Anti?CTLA-4 therapy broadens the melanoma-reactive CD8+ T cell response (Sci. Transl. Med. 6, 254ra128 (2014))

磁性原子ガスを並べる(Aligning a magnetic atomic gas)

複数のフェルミオンが集合した場合、パウリの排他原理(2つのフェルミ粒子は同じ量子状態をとることができない)に従うことが知られている。フェルミオンはエネルギーの低い準位から占有していき、占有準位と非占有準位との境界であるフェルミ面を形成する。低温フェルミ原子ガス実験系においては、フェルミ面は通常球状になっている。Aikawa等は、微小磁石のような挙動を示し、磁場中で配向するエルビウムからなる原子ガスの場合、フェルミ面がつぶれた形になることを見出した。その形状は、エルビウム原子同士の方位依存相互作用を反映しているという。(NK)
Observation of Fermi surface deformation in a dipolar quantum gas (Science, this issue p. 1484)

ファイルの引き出しが一杯。これって問題?(The file drawer is full. Should we worry?)

本来目的としていた結果が得られなかった実験結果は、統計的に有意な違いを示すことができた実験結果と比べて、発表する際にはより高い障壁に直面することになる。これが問題かどうかは、結果自体は差異を検出できなかったが、実験手続きや解析法との点では妥当な実験が、どのくらいファイルの引き出しにしまい込まれてしまっているかによる。Francoたちは、Time-sharing Experiments in the Social Sciences(TESS)の記録を用いて、国全体から抽出されたサンプルに対して行われた社会科学実験に関する、ほぼ250の査読された提案を調べた。明確な差異が検出された91の実験結果のうち56が研究誌で発表されていた一方、差異が検出されなかった48の実験結果のうち発表されたのはたった10であった。(Uc,KU.ok,nk)
Publication bias in the social sciences: Unlocking the file drawer (Science, this issue p. 1502)

ヒト成人の幹細胞の増加(Human adult stem cell expansion)

輸血により、命が救われる。この重要な資源の広範囲な利用にもかかわらず、体外で血液細胞の数を増すことは困難である。数千個の低分子化合物のスクリーニングにより、Faresたちは、臍帯血中でヒト幹細胞の数を増加させる或る分子を同定している。研究者たちは、その分子の数多くの変異体を作り、そしてこのような化合物の一つがヒト血液細胞の増加を更に高めていることを示している。もし研究者たちが幹細胞や前駆細胞の数を増加することができれば、臍帯血はクリニックにおいて更なる用途を見出すであろう。(KU)
【訳注】
・臍帯血(さいたいけつ):母親と赤ん坊をつないでいるへその緒の中に含まれている血液
Pyrimidoindole derivatives are agonists of human hematopoietic stem cell self-renewal (Science, this issue p. 1509)

遺伝子治療で結合を作る(Building connections by gene therapy)

随意運動には,神経と筋肉の間で分子的なやりとりを必要とする。このやりとりは,神経と筋肉が物理的に繋がっている構造である神経筋接合部で生じている。筋力低下が特徴の病気を持つ人たちは,神経筋接合部が異常に小さい。Arimuraたちは遺伝子治療を用いて,神経筋接合部を大きくし,これにより,筋肉が強くなった。彼らは,それぞれ異なる神経筋障害を持つ2つのマウスモデルを研究する際に,アデノウイルスベクターを用いて神経筋接合部の形成に必要な遺伝子であるDOK7を送り込んだ。この治療により,マウスの運動活性が改善され,また,寿命も伸びた。(MY,nk)
DOK7 gene therapy benefits mouse models of diseases characterized by defects in the neuromuscular junction (Science, this issue p. 1505)

タンパク質の一つが、他の命に係わるタンパク質を抑制する(One protein smothers other deadly ones)

敗血症とは、身体が炎症性の感染症に応答し、それが次に手に負えない状況に陥ってしまう病態。敗血症の際に、死細胞は、通常では細胞の核内で見出されるタンパク質であるヒストンを遊離し、それが近傍の健全な細胞を殺す。Daigoたちは、ペントラキシン 3 と呼ばれる循環中で見出されたタンパク質が、ヒストンタンパク質と相互作用することを見出した。ペントラキシン 3 はヒストンをまとめ、もはや健全なタンパク質を殺すことができない塊りにする。研究者たちは、敗血症のマウスにペントラキシン 3を注射すると、そのマウスは炎症が低下し、寿命が延びた。このように、ペントラキシン 3 はヒトにおける敗血症に対して有効な治療となるであろう。(KU,ok,nk)
Protective effect of the long pentraxin PTX3 against histone-mediated endothelial cell cytotoxicity in sepsis (Sci. Signal. 7, ra88 (2014))

遺伝子抑圧の記憶を確立する(Establishing memory of gene repression)

体内の細胞は同じDNA量を含んでいるが、それらの細胞は、組織の中で広範囲の様々な形と機能を示す。このことは、相異なる遺伝子制御と、細胞分裂の際に娘細胞へ受け継がれるあるタイプの遺伝子発現記憶の確立によって起こる。Gaydosらは、線虫では、精子と卵母細胞の両方が、クロマチン(染色質)抑圧の記憶を修飾されたヒストンの形で胚へ伝えることを報告している。DNA複製の際に、修飾されたヒストンは娘染色分体へ伝達され、数回の細胞分裂でクロマチンの記憶を提供する。ヒストン修飾酵素は、ヒストン修飾を補充し、長期のクロマチンの記憶を提供する。(hk,KU)
H3K27me and PRC2 transmit a memory of repression across generations and during development (Science, this issue p. 1515)

DNA構成要素の制御(Regulating DNA building blocks)

DNAの構成要素であるデオキシヌクレオチド三リン酸は、リボヌクレオチド還元酵素(RNR)によって合成される。DNA合成における中心的役割と腫瘍における異常な発現は、制癌作用の重要な狙いにたどりつくが、RNRのヌクレオシド類似抑制物質には有害な副作用がある。ArnaoutovとDassoは、RNA結合タンパク質として、IRBIT (イノシトール1,4,5-三リン酸とともに遊離される IP3受容体結合タンパク質)を同定している。IRBITは、低親和性 A部位においてデオキシアデノシン三リン酸に結合する不活性型を安定させることによって、RNAの活性を制御している。次いで、IRBITのリン酸化によって RNA結合活性が制御される。IRBITは、現在の薬剤の副作用のいくつかを回避できる可能性のある、PNR抑制の新たな標的を提供しているのである。(KF,ok)
IRBIT is a novel regulator of ribonucleotide reductase in higher eukaryotes (Science, this issue p. 1512)

冷たい原子の磁性を研究する(Studying magnetism with cold atoms)

物理学者たちは、我々が普段、固体物質のようなはるかに複雑な系において接している量子現象をシミュレートするのに、冷たい原子のガスを用いてきた。これらのガスの特性は非常に調整しやすいため、それによって自然には存在しない条件を作り出すことも可能である。Zhang たちは、一連のパンケーキ型の87Srの原子の雲における、奇妙な種類の磁性を研究した。彼らは、10種類の量子状態を異なる組み合わせにした原子核を準備した。その後、原子にパルス光を照射し、原子の相互作用の特性を推定した。相互作用は原子核の量子状態に依存しない。これは、異常対称性に顕著な特性であり、理論物理学者の予想では興味深い集団効果を引き起こすかもしれない。(Sk,nk)
Spectroscopic observation of SU(N)-symmetric interactions in Sr orbital magnetism (Science, this issue p. 1467)

有機半導体がスピンを解き明かす(Organic semiconductors go out for a spin)

磁性は巨視的な世界で一般的に観測される現象であるが、その起源はスピンとして知られる、電子やある種の原子核の奇妙な量子力学的な特性にある。最近の研究は、電子デバイスの働きにおけるスピンの役割を活用し、拡大しようとしてきた。Malissaたちは高感度分光技術を用いて、有機発光ダイオード(OLEDs)を流れる電流におけるスピン相互作用のわずかな効果を調べ、最終的にはそれを操作した(Bobbert による展望記事参照)。彼らは、電流のキャリアと、デバイスを作り上げている炭化水素物質中の水素原子核の、スピン間の共役を正確に示した。(Sk)
Room-temperature coupling between electrical current and nuclear spins in OLEDs (Science, this issue p. 1487; see also p. 1450)

ムードを制御する経路(A pathway that controls our mood)

外側手綱核(lateral habenula)と呼ばれる脳領域は、ネガティブな動機づけに関与し、つまるところ、抑うつにおいて役割を果たしている可能性がある。Shabelたちは、失望のシグナルを伝達する、外側手綱核に達する脳経路中のシナプス伝達を研究した。驚いたことに、彼らは個々の神経細胞から、2つの拮抗性物質、グルタミン酸と GABAが同時に遊離されていることを発見した。抑うつ状態の動物モデルでは、この経路での GABAの遊離が減少していた。しかしながら、広く用いられている抗うつ薬は、GABAの共遊離を増加させた。こうした結果は、外側手綱核に影響している異常なシナプスの仕組みを明らかにしている。この仕組みは、失望という情動性衝撃を制御するのに役立つであろう。(KF,nk)
GABA/glutamate co-release controls habenula output and is modified by antidepressant treatment (Science, this issue p. 1494)

外来のDNAを破壊する仕組み(A foreign-DNA-destroying machine)

細菌は、CRISPRと呼ばれる順応性の免疫系をもっていて、これは、ウイルスのDNAまたはRNA配列をもとに侵入してきたウイルスを同定し、それらを切断する(ZhangとSontheimerによる展望記事参照)。JacksonたちとMulepatiたちは、侵入してきた核酸を標的とし、その切断を行う Cascadeと呼ばれる大きなタンパク質複合体の構造を決定した。このタツノオトシゴ型の構造は、Cascadeの11個の構成要素がいかにして最終的なタンパク質複合体へと構築されるかを明らかにしている。この構造は又、Cascadeが外来性のDNAに結合し、それを標的とするように短い CRISPR由来のRNAを提示しているやり方を明らかにするものでもある。(KF)
Crystal structure of the CRISPR RNA?guided surveillance complex from Escherichia coli (Science, this issue p. 1473)
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