AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 12 2014, Vol.345


時間とともに進化するエボラウィルス(Evolution of Ebola virus over time)

現在のエボラ出血熱の流行においては,その死亡率の高さのため,研究者たちがウイルスサンプルを採取し,その進化の研究を行うことを困難にしている。Gireたちは,78人の感染者から採取されたサンプルを含む、99の全ゲノム配列決定に基づいたエボラ疫学について記述している。著者たちはウイルス配列の変化を解析し,現在の大発生は,恐らく過去10年間に中央アフリカからウイルスが拡がった結果であると結論付けている。この流行は,まだ特定されていないエボラウイルス保有動物からヒト集団へのウイルス感染がたった一度だけ起きたことから始まった。その後,ギニアからの2つのウイルス系列が,人から人へと感染することでシエラレオネへと拡がったのである。(MY,KU,ok,nk)
Genomic surveillance elucidates Ebola virus origin and transmission during the 2014 outbreak (Science, this issue p. 1369)

軌道は秩序がなかった過去を忘れてはいない(Orbits don't forget their chaotic pasts)

多くの外惑星は、母星の自転軸とは向きがずれた公転面上を、周回している。この現象は、惑星系の力学史の化石的記録と言える。Storchたちはシミュレーションを用いて、星のスピンの進化が、その惑星の軌道が最終的にどのように向くか決める鍵であることを実証している。連星の随伴星がホットジュピター(hot Jupiter)を内側に遊走させようとするが、これが星の自転軸を無秩序に揺らし、徹底したフィードバックをかける。我々が惑星探索で観測された統計を正確に再現できるようになれば、惑星がどのように形成されたかをよりよく理解できるだろう。(KU,ok,nk)
Chaotic dynamics of stellar spin in binaries and the production of misaligned hot Jupiters (Science, this issue p. 1317)

水からの水素遊離を工程に組み込む(Scheduling hydrogen release from water)

光合成は水を分解し,植物成長に必要なプロトンと電子を提供している。酸素は,この副生成物である。化学者が水を分解する場合には,燃料を作り出すこともまた,さらに大きな関心の対象であり,最も単純な生成物は水素(プロトンと電子の結合体)である。この場合,次々と生成される反応性の高い水素と酸素を分離し続けることが課題の1つである。Rauschたちは,シリコンタングステン酸からなる分子クラスター中にプロトンと電子を捕獲するスキームを提示している。捕獲後,クラスターを白金に曝すと,シリコンタングステン酸からの水素遊離が促される。(水素と酸素の)混合の危険を取り除くことで,家庭での利用可能性が大きくなる。(MY,ok)
Decoupled catalytic hydrogen evolution from a molecular metal oxide redox mediator in water splitting (Science, this issue p. 1326)

一酸化窒素の産生を制御する(Regulating nitric oxide production)

血管内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)が,血管を補強している血管内皮細胞中で一酸化窒素(NO)を産出すると,血管が弛緩して,血流が増加する。eNOSの活性は,酵素中の,例えばS-スルフヒドリル化を起こすような特定のサイトの修飾で異なってくる。S-スルフヒドリル化は,気体の硫化水素(H2S)がトリガーとなって引き起こされるプロセスである。Altaanyたちは,eNOSのS-スルフヒドリル化が,eNOSに対する別の修飾に影響することによって,酵素活性を増大させることを見出した。H2Sを産生できないマウスの血管内皮細胞はまた,正常マウスの血管内皮細胞よりNOの産出量が低かった。eNOSのS-スルフヒドリル化を向上させることが,患者の血流を増加させる効果的な方法であるかもしれない。(MY,nk)
【訳注】
・S-スルフヒドリル化:タンパク質のシステイン SH 基を-S-SH 化修飾すること
The coordination of S-sulfhydration, S-nitrosylation, and phosphorylation of endothelial nitric oxide synthase by hydrogen sulfide (Sci. Signal. 7, ra87 (2014))

伸縮性に富んだセラミックナノ格子(Compressive, ductile ceramic nanolattices)

セラミックスは丈夫で硬いが、パテや鋼のようには伸ばせないことから、多くの工学的な応用には不向きになっている。Meza たちは、酸化アルミニウムから、曲がるというよりも伸びるように設計した管状のセラミックナノ格子を作製した。格子設計における重要なパラメータは、管の径に対する壁の厚みの比である。その比が十分に小さいと、管を圧縮しても壊れることは無い。このように、このナノ格子は強く圧縮することが可能で、応力が取り除かれると元の形状に近い状態に復帰する。(Sk,ok,nk)
Strong, lightweight, and recoverable three-dimensional ceramic nanolattices (Science, this issue p. 1322)

実生活とラボでのモラルの恒常性(Moral homeostasis in real life vs.the lab)

モラル的行為を目撃した個人は、目撃しない場合よりも自らモラル的行為を進んで行おうとしたり、また一方では自ら不道徳的行為を行う傾向がある。Hofmannたちは、スマートフォン利用者にモラルとの出会いを報告するよう求めた (Grahamによる展望記事参照)。殆どのモラル判定実験はラボベースであり、人々が日常の生活で経験する事柄に基づいた結論を導くことはできない。このフィールド実験は、人々が日常生活で頻繁にモラル的事象を経験していることを明らかにした。回答者の信条は、何をモラル的と看做し、幾つくらいをモラル的と報告するかに影響したが、それはモラルの基本的理論と一致する。(KU,ok,nk)
Morality in everyday life (Science, this issue p. 1340; see also p. 1242)

海の波における生命のパターン(Patterns of life in the ocean wave)

外洋は決して一様ではない。海洋には種の分布を特有なパターンに進化させた、目には見えない生命で満ちており、これは陸上世界で生物の生息域が様々に分かれているのと同じである。Hellwegerたちはゲノム研究から得られたデータを基に、海洋のバクテリアが、どのようにして世界中の海洋に自然淘汰と独立なプロセスで、様々な地理的領域へと安定な多様化を達成したのかを示すモデルを構築した(GiovannoniとNemergutによる展望記事参照)。このような分布を作るのに必要なことは、変異と海流のみである。(Uc,KU,nk)
Biogeographic patterns in ocean microbes emerge in a neutral agent-based model (Science, this issue p. 1346; see also p. 1246)

習うより慣れよ...なのかな?(ほんとうにそうですか?(Practice makes perfect ---or does it?)

我々は過去の間違いからどうやって学ぶのだろうか? Herzfeldたちは、我々が移動を行う際に、ヒトの脳は間違いに対する或る記憶を持っていて、これがその後に新たな条件でより迅速に学習するのに用いられることを見出した。間違いに対するこの記憶は、行為の記憶と外部的動揺の記憶という運動記憶の二つの伝統的な型と同時に存在する。彼らは、又間違いから学習するための数学的モデルを提唱した。このモデルは以前の実験結果を説明し、そして彼らがその後実験的に検証したもうひとつの主な発見を予測するものであった。(KU,ok,nk)
A memory of errors in sensorimotor learning (Science, this issue p. 1349)

光学のみでの磁化状態切り替え(All-optical magnetic state switching)

ハードドライブのような光磁気記憶媒体では、記憶ビットの磁化を変化させるのに磁場を用いているが、その変化は遅い。光は、しばしば、磁場の方向のような試料の磁化状態に関する情報を明らかにしている。Lambert たちは、適切な環境下では、光によって薄い強磁性フィルムの磁化状態を切り替えることも可能であることを示した。磁場の代わりにパルス光を用いることにより、超高速のメモリーや記憶保持装置が可能となった。(Sk)
All-optical control of ferromagnetic thin films and nanostructures (Science, this issue p. 1337)

ボトムアップの変化よりもトップダウンの変化が(Top-down rather than bottom-up change)

南極におけるラーセン-B棚氷(Larsen-B Ice Shelf)が、表面温度の局所的な上昇により、2002年に崩壊した。Rebescoたちによって報告されたこの発見は、棚氷の崩壊が、おそらく棚氷の薄氷化と、その結果としての棚氷の下の海床による支えを失ったため起こったと思っていた多くの人を驚かせた。著者たちは、棚氷が崩壊して離れる前のその下の海床をマップ化したが、そのマップは、今日の氷床の基準線(ice sheet grounding line)がほぼ1200年前ごろに確立されたこと、そしてそれ以来変化していなかったことを明らかにした。たとえ、棚氷が下からの薄氷化により崩壊しなかったとしても、次には上からの温暖化により引き起こされたに違いない。(KU)
Boundary condition of grounding lines prior to collapse, Larsen-B Ice Shelf, Antarctica (Science, this issue p. 1354)

ダイアモンド中の欠陥を操作する(Manipulating a defect in diamond)

今日の古典的コンピュータの磁気記憶保持装置と同様に、電子および原子核の状態に因む小さな磁石(スピン)は、将来、キュービット(量子ビット)として使用できる見込みがある。窒素空乏(NV) 中心と呼ばれるダイアモンド中の特殊な欠陥での電子スピンが、その一例である。ほとんどの応用例はNV中心の最低エネルギー(基底)状態に集中しているが、Bassett たちは、高エネルギー(励起)状態の特性を調べた(Childress による展望記事参照)。彼らはパルス光を用いて、系を励起状態にし、その状態に留まる時間を変化させた。この方法で、彼らは励起状態の電子構造を推定するとともに、基底状態のスピンを操作することができた。同様な方法は他の量子情報システムにも応用可能であろう。(Sk)
Ultrafast optical control of orbital and spin dynamics in a solid-state defect (Science, this issue p. 1333; see also p. 1247)

縞模様を作る魚の色素細胞の起源(Origin of fish pigment cell for pattern)

ゼブラフィッシュの縞模様は色素細胞の相互作用から生じている:黒い黒色素細胞、真珠光沢色(銀色)の虹色素細胞、及び黄色-オレンジ色の黄色素細胞である。黒色素細胞と虹色素細胞は神経に関係した幹細胞から発生するが、しかし黄色素細胞の起源は不明である。今回二つの研究は、成体の黄色素細胞が胚性と幼生の魚の黄色素細胞に由来し、縞模様の配置において幼生の黄色素細胞が増殖して、黒色と銀色の色素細胞の到着前に皮膚を覆つていることをを明らかにしている。Mahalwarたちは、黄色素細胞がそのの落ち着く場所に依存して最終的な形や色を変えることを示している。黒色細胞中において、黄色素細胞は薄ぼんやりした星状のように見えるが、銀色細胞中では明るく、密につまった形状をしている。正確な重ね合わせにより、青色と金色が生じる。McMenaminたちは、胚性の黄色素細胞における色素の損失と成体におけるその後の再出現を観察している。彼らは、再分化が甲状腺ホルモンに依存し、これが又、黒色細胞集団の増殖を制限していることを示している。(KU)
Local reorganization of xanthophores fine-tunes and colors the striped pattern of zebrafish (Science, this issue p. 1358)
Thyroid hormone?dependent adult pigment cell lineage and pattern in zebrafish (Science, this issue p. 1362)

庇護されたブラックホールの種は早く育つ(13.Sheltered black hole seeds grow faster)

これまで、天体物理学者たちは、宇宙の最初の10億年以内に超大質量のブラックホールに育つ道筋を発見するために格闘してきた。この10億年は、現在の宇宙年齢の初期の6%にあたる。これらのブラックホールは、極めて明るく、遠方にあるクエーサーにエネルギーを与えている。そして、この時代からのクエーサーの光が、ついには我々のところに到達している。ブラックホールをこれほど短時間に大質量に成長させることは、輻射圧と角運動量とが均衡しているという予想に反しているように思われていた。Alexander と Natarajan は、星団の中心がガス雲で覆い隠されることで、これまでの降着率の予測値を越えることができることを示している。そこでは、降着物質からの輻射はブラックホールに戻るため、1000万年という短い間は指数関数を超えるような成長フェーズが存在しうる。(Wt)
Rapid growth of seed black holes in the early universe by supra-exponential accretion (Science, this issue p. 1330)

免疫細胞と微生物とが糖の被膜を作る(Immune cells and bugs make a sugary coat)

上皮細胞は腸管を裏打ちしており、我々の免疫系と我々の腸に棲む何兆個もの微生物との間での平和を保っている。そうした平和維持には、上皮細胞表面上にグリコシル化タンパク質(糖鎖の付いたタンパク質)が存在していることが必要だが、その糖類付加がどのように生じるのかは不明であった。Gotoたちは、マウスの腸の上皮細胞のフコシル化(糖類付加の1つの型)に腸の微生物が必要なことを発見した(Hooperによる展望記事参照)。このプロセスはまた、そこに生得的なリンパ球系細胞を必要としていて、それが、おそらく微生物のシグナルに応答して、サイトカイン・インターロイキン-22とリンホトキシンを産生している。それらサイトカインは上皮細胞にシグナルを送り、腸タンパク質にフコースを加え、それが微生物と免疫細胞の緊張緩和が続くようにしているのである。(KF)
Innate lymphoid cells regulate intestinal epithelial cell glycosylation (Science, this issue 10.1126/science.1254009)

脊椎の起源は環形動物にあった(Origin of the spine lies in a worm)

背骨の発生上の前駆物質である脊索の存在によって、ヒトも属している動物のグループ、脊椎動物が定義される。その脊索の起源は謎のままである。Lauriたちは、体内での位置と発生上の起源、発現プロファイルの点で脊索に著しく類似する、寄生性環形動物の縦走筋を同定したと報告している。axochordと呼ばれる類似した筋が、多様な無脊椎動物門において見出されている。こうしたデータから、左右相称動物の最後の共通な祖先が、すでに収縮性の正中線組織(midline tissue)を持っており、この組織が堅くなって、脊索動物の系統における軟骨性の棒へと発生したことが示唆される。(KF,KU,nk)
Development of the annelid axochord: Insights into notochord evolution (Science, this issue p. 1365)

遺伝子における病原体への応答(Response to pathogens is in the genes)

T細胞は、たくさんの病原体への免疫応答を準備するのに重要な役割を果たすだけでなく、自己免疫疾患にも関与してきた。健康なヒトからなる多民族の一団から得られた、刺激された T細胞における遺伝子発現の時間を追っての可変性を検討することによって、Yeたちは、病原体への個々人の応答の違いを説明できる特異的な遺伝子多型を同定した。さらに、候補遺伝子アプローチによって、自己免疫に付随する IL2RA遺伝子の応答を制御する一塩基多型の同定がもたらされた。この研究は、免疫応答が、環境や個人の生理的要因、あるいは遺伝要因によって、どの程度促進されるかを理解する助けになるものである。(KF,ok)
Intersection of population variation and autoimmunity genetics in human T cell activation (Science, this issue p. 10.1126/science.1254665)

コスタリカの一群のトリがまとめて失われる(Costa Rican birds of a feather lost together)

土地が農場に転換されると進化史は失われることとなり、最近進化してきた種が、土地利用の変化によりうまく対処していく可能性がある。Frishkoffたちは、熱帯性の中央アメリカの、異なった3つの景観における鳥類の多様性を12年にわたって比較した。彼らは、自分たちのデータを鳥類の進化の系統樹上にマップし、混合状態の景観に比べて、農業に集中した景観においては進化の枝分かれがより多く失われていることを発見した。また、混合状態の景観は、森林の保たれている地域よりも、進化の枝分かれが多く失われていた。これは、種の損失という意味ではない。実際、農業地域の混合した景観には、森林の保たれている地域のそれと同じくらいの数の種は含まれていた。進化史が失われるのは、進化的に独特の種--現存する親戚の少ない、長い進化の歴史をもつた--が、農業地帯では絶滅しやすいということなのである。(KF,KU)
Loss of avian phylogenetic diversity in neotropical agricultural systems (Science, this issue p. 1343)

残りものの光を使えるようにする(Making sure leftover light gets in)

光合成を介して太陽光を集める細菌類は到るところにあり、二酸化炭素の吸収にとって大事な存在である。ジャングル中の植物のように、そうした細胞は、光へのアクセスを求めて、競合しなければいけない。Ganたちは、そうしたラン藻の一種、Leptolyngbyaが、他の光合成細胞が使うことのできない余り物の屑の光で生き延びていることを発見した。競合する生物によって光が十分に届かなくなると、Leptolyngbyaは、細胞中の集光性分子を作る経路を変化させて、他の細胞が使わない、より長波長の赤い光を用いることのできる構造へと再構築しているのである。(KF,nk)
Extensive remodeling of a cyanobacterial photosynthetic apparatus in far-red light (Science, this issue p. 1312)
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