AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 29 2014, Vol.345


私有地における対費用効果の高い保存(Cost-effective conservation on private land)

断片化した土地の状況において、どうすれば生物多様性が保存できるのだろうか?Banks-Leiteたちは、ブラジルの大西洋森林地帯の生物多様性ホットスポットにおいてこの疑問を調べた。ブラジルの農業助成金の10%以下の年間投資額で、私有地での効果的な生態学的回復が可能であった。このことは、休耕地での生物多様性を保護領域内で観測されたと同じレベルまで増加させるということになる。この方式での対費用効果の高さは、他の似たような入り組んだ土地景観における保存戦略に向けての道を示唆するものである。(KU,ok,nk)
Using ecological thresholds to evaluate the costs and benefits of set-asides in a biodiversity hotspot (Science, this issue p. 1041)

固有の微生物群があなたとともに家から家に動く(Signature microbes follow you from house to house)

同じ家に住む家族は建物以上のものを共有している。彼らは,そこの棲息者たちをも共有しているのである。米国の家庭から採取した様々な試料から,Laxたちは,同じ家に住む人と動物が,恐らく,皮膚の脱落物や手足の汚染物のために,微生物群落(微生物叢)をもまた,共通に保持していることを見い出した。家族が移動すると,その家の微生物学的な"雰囲気"もそれに従って動いた。ある人が,僅か数日間,家にいなくても,その人の微生物叢への寄与は減少した。これらの発見は,その家の固有性や構成に対して意味があるばかりでなく,家族メンバーの健康や幸福の指標としても意味あるものである。(MY)
Longitudinal analysis of microbial interaction between humans and the indoor environment (Science, this issue p. 1048)

「7人姉妹」までの距離の値の問題が決着した(Distance score settled for Seven Sisters)

我々の多くは、夜空にプレアデス星団を見たことがある。この星団は、物理的に関連しながらも、裸眼で個別の星として見ることのできる、数少ないものの一つである。それは我々に近いにも関わらず、その距離が議論となってきた。Melisたちは、電波干渉計による位置天文学的な測定により、この論争を決着させた。それによると、距離は 136.2 パーセクである(Girardiによる展望記事を参照のこと)。他の方法では似通った値を与えているが、これまで信頼されてきた位置天文学衛星 Hipparcos 衛星の測定結果は、わずかに 120.2 パーセクである。この新しい結果は、天文学者たちがその Hipparcos による距離と整合するため、星の進化モデルを調整する必要があろうという心配を和らげるものである。(Wt)
A VLBI resolution of the Pleiades distance controversy (Science, this issue p. 1029; see also p. 1001)

まだ変位し続ける強大なメガスラスト断層(Strong yet creeping megathrust faults)

「メガスラスト断層(巨大逆断層)」と呼ばれる、沈み込み帯の強大な断層は、地球で最大の地震を発生させる。Gao と Wang は熱流のデータを用いて、断層がギザギザの海底を沈み込ませる場合、なめらかな海底を沈みこませる断層に比べて、小規模な地震となることを示している。でこぼこの海底は断層に不規則さをもたらし、変形はゆっくり時間をかけたものとなる。それにより、断層強度が比較的高くなり、地震の頻度が低下する。この知見は、地域ごとの地震や津波の危険性の評価に、直接的な影響を与える。(Sk,nk,ok)
Strength of stick-slip and creeping subduction megathrusts from heat flow observations (Science, this issue p. 1038)

ウサギたちは穏やかに家畜化へ誘引された(Rabbits softly swept to domestication)

人が動物を家畜化する際に、彼らは人への服従心と忍耐心の観点で選択される。ほかに何を期待しますか?ウサギの家畜化に導いた選択圧を同定するために、Carneiroたちは家畜化ウサギのゲノムの配列を決定し、そしてそれを野生の兄弟ウサギのゲノムと比べた( Lohmuellerによる展望記事参照)。家畜化には、単一遺伝子の変化は関係なく、むしろおとなしいウサギと家畜化ウサギの間での、ソフトな選択的掃引(selective sweep)、即ち自然淘汰により好ましい対立遺伝子が高頻度に増加したゲノム領域、として知られる、多くの対立遺伝子の発生頻度における変化が関与していた。これらの対立遺伝子の多くは、脳発生に影響する可能性のある変化をは有しており、服従心には複数の座位での変化が関与しているという考えを支持している。(KU,ok)
Rabbit genome analysis reveals a polygenic basis for phenotypic change during domestication (Science, this issue p. 1074; see also p. 1000)

T細胞の生存のためにキナーゼを除く(Cutting out a kinase for T cell survival)

病原体と闘うために、十分な数の T細胞が体内に必要とされる。生存のために、T細胞は、T細胞受容体とインターロイキン7受容体の双方を通してのシグナルを受け取る必要がある。しかしながら、定常的なインターロイキン7受容体の活性化は、T細胞を死に至らしめ、それ故に T細胞受容体は間欠的にインターロイキン7受容体の活性化をブロックする。インターロイキン7受容体を通してのシグナル伝達には、キナーゼ Jak1を必要とする。Katzたちは、T細胞がごく少数のJak1タンパク質しか含んでおらず、しかもそれが不安定であることを見出した。研究者たちが T細胞受容体を活性化すると、マイクロRNAの量が増産された。そのマイクロRNAは、T細胞が新たな Jak1タンパク質を作るのを妨げ、そしてインターロイキン7受容体がシグナル伝達する能力を阻害した。(KU,nk)
T cell receptor stimulation impairs IL-7 receptor signaling by inducing expression of the microRNA miR-17 to target Janus kinase 1 (Sci. Signal. 7, ra83 (2014))

押さば引け、これが移動への方法である(Push me, pull you, that's the way to move)

ヒト組織に直接的に由来する一次細胞は、3次元(3D)或いは2D空間内で形状やシグナル伝達において異なる振舞いを示す。細胞内の圧力が増すと、細胞は手足のような突起を示し、細胞はそれを用いて、3D空間を動き回る。Petrieたちは、アクチンとミオシンの複合体が収縮する際に、それが細胞内の圧力を制御し、結果としてそれらの突起構造の形状を制御していることを示している( DeSimone and Horwitzによる展望記事参照)。著者たちは遊走している哺乳類細胞の内圧を測定した。3Dマトリックスにおいて、これらの細胞は細胞の前後で異なるようなより高い圧力を示し、これがピストン効果を作っている。(KU)
Generation of compartmentalized pressure by a nuclear piston governs cell motility in a 3D matrix (Science, this issue p. 1062; see also p. 1002)

ある酵素が、痛みの制御への新たな道を拓く(An enzyme offers a new path to pain control)

多くの人々が制御されない痛みをこうむっており、新たな薬剤が求められている。Zambelliたちは、体内に自然に生じる分子であるアルデヒドが、直接的に疼痛の原因となっているという事実に注目した。特に、アルデヒドを分解する酵素が疼痛の主要な制御因子になっている。その酵素の遺伝的に不活性なバージョンを有するマウスは、有痛性の刺激にとりわけ感受性が強い。逆に、その酵素を薬剤によって活発化させると、その効果は逆転した。アルデヒドのレベルを調節する新たな薬剤は、おそらくは中毒の危険なしに、患者に利益をもたらすことになる。これらの結果は、関連する変異を持っている人の多い東アジア人におけるより大きな疼痛感受性をも説明するものであろう。(KF,KU)
Adult human neural crest?derived cells for articular cartilage repair (Sci. Transl. Med. 6, 251ra119 (2014))

生じて消えた宇宙塵の嵐(A cosmic dust storm that came and went)

直接目には見えない系外惑星たちは、今もなお多くの塵を巻き上げているようである。系外岩石惑星はその成長が終わっているが、惑星同士の破壊的な衝突が赤外領域で明るく輝く細かな岩屑の雲を生み出す。Mengたちはスピッツァー宇宙望遠鏡を用いて ID8と呼ばれる恒星を監視し、わずか2年足らずの間に、熱放射の急激な上昇とそれが元に戻る現象を観測した。この変化の様子は、最近起きたID8を周回する原始惑星の間の衝突現象と一致した。考えられている惑星形成機構におけるそのようなダイナミックな変化は、実時間の変化を利用した更なる研究を促している。(Sk,nk)
Large impacts around a solar-analog star in the era of terrestrial planet formation (Science, this issue p. 1032)

超流動ガス混合物を創る(Making a superfluid lithium mixture)

実験室で実現できる極低温状態では、希釈原子ガスを集団的挙動を示す超流動ガスに変化させることができる。同一量子状態で集合する傾向にあるボゾン原子の場合、超流動ガスになりやすい。一方、互いに反発するフェルミオンの場合、何等かの強制力が必要である。Ferrier-Barbut等は、ボゾンとフェルミオンの2種類のガスからなる超流動ガス混合物を実現している。彼らはリチウム同位体(フェルミオンである6Liと、ボゾンである7Li)を用いている。混合体を振動させたとき、一方の成分が他方にエネルギーを与えることを順次繰り返すことが明らかとなった。(NK,nk)
A mixture of Bose and Fermi superfluids (Science, this issue p. 1035)

変化するホウ素配位を捕える(Catching changing boron coordination)

研究室のガラス製品や台所調理器具はよく似ていて、ホウ素やナトリウム、及びアルミニウム等の異なる陽イオンを含むガラスで作られている。ガラスの特性は、各陽イオンを囲んでいる酸素原子の数と位置に依存する。Edwardsらは核磁気共鳴測定と理論計算を結びつけて、ホウケイ酸塩ガラスの構造変換を調べた(Youngmanによる展望記事を参照)。平面三配位のホウ素原子は加圧によって面外に移動し、三角錐を形成する。この種の転移状態の同定は、アモルファス材料における構造的進化と圧力-誘発性プロセスとを結びつけるものである。ホウケイ酸塩ガラスにおいて、この転移は四面体の四配位ホウ素の形成をもたらし、多くの用途で使えるようにガラス特性が調整できる。(hk,KU)
Observation of the transition state for pressure-induced BO3→ BO4 conversion in glass (Science, this issue p. 1027; see also p. 998)

寒い国から帰ってきた北極遺伝学(Arctic genetics comes in from the cold)

特徴が明瞭な考古学的記録があるにも関わらず、北極に居住する人々の遺伝学は、探求されてこなかった。Raghavanたちは、北米の北極圏に住む人たちの、古代および現代人のゲノムの配列を決定した(Parkによる展望記事参照)。それらゲノムの解析は、ネイティブアメリカンの集団を形成することとなった集団から分離した人たちによって、北極圏に6千年前にコロニーが形成されたことを示している。さらに、北極の、その古い時期の最初の居住者は、およそ700年前に完全に置き換えられて消えてしまったらしい。(KF,nk)
The genetic prehistory of the New World Arctic (Science, this issue 10.1126/science.1255832; see also p. 1004)

ニューロンを興奮させる受容体の活性化(Activating a receptor to excite a neuron)

シナプスと呼ばれる構造において生じる、神経細胞間のシグナル伝達は、学習や記憶等などのプロセスにとって決定的に重要である。グルタミン酸がシナプス前ニューロンから遊離され、シナプス後ニューロンの細胞膜中のイオンチャネル型グルタミン酸受容体(iGluR)に結合するとき、速い伝達が生じる。この iGluR が含むイオンチャネルは、一時的に開いてシナプス後ニューロンを活性化し、すぐに閉じる。Chenたちと Yelshanskayaたちは、一連の高次構造の結晶構造を報告しており、それらは、グルタミン酸結合がどのようにしてチャネルを開けているのか、またこの受容体に結合する他の分子がどのようにしてそれを調節しているかに関する洞察をもたらすものである。この情報は、認知障害や発作性疾患を処置する薬剤をデザインする助けになるかもしれない。(KF,nk)
X-ray structures of AMPA receptor?cone snail toxin complexes illuminate activation mechanism (Science, this issue p. 1021)
Structure of an agonist-bound ionotropic glutamate receptor (Science, this issue p. 1070)

ヒトの記憶が向上する脳の刺激(Brain stimulation to improve human memory)

海馬はある種の記憶に対する,極めて重要な脳の領域である。ヒト被験者との共同作業で,Wangたちは,ある種の非侵襲性の脳刺激が記憶テストの結果を向上させ,海馬とその他の幾つかの脳領域との間での情報の流れを強めることを見出した。この結合性の向上は,被験者ごとに選択された個々の標的領域に対して,非常に特異的に起こった。(MY,ok)
【訳注】
・非侵襲性:身体を傷つけないこと
Targeted enhancement of cortical-hippocampal brain networks and associative memory (Science, this issue p. 1054)

染色質の変異が発生を破壊する(Chromatin mutations disrupt development)

ヒストンタンパク質は、我々のゲノムDNAの核のパッケージング物質を形成し、その構造中のアミノ酸残基への共有結合的修飾は、遺伝子発現の後成的制御において重要な役割を果たしている。Herzたちは、ショウジョウバエにおいて、通常は発現を制御しているこの残基中の特異的変異が、正常発生をひどく破壊する原因となっていることを示している。同様の変異が、攻撃的な小児脳癌のサブタイプに関与していることが知られている。ショウジョウバエにおいて、そうした変異によって破壊された後成的調節経路への洞察は、ヒト癌の可能な治療法を示唆することになるかもしれない。(KF)
Histone H3 lysine-to-methionine mutants as a paradigm to study chromatin signaling (Science, this issue p. 1065)

T細胞とB細胞による複雑な分子性ダンス(T and B cells' intricate molecular dance)

感染と闘う高親和性抗体を産生するのは、たやすいことではない。そうするためには、T細胞がリンパ節中の抗体産生 B細胞と相互作用するなどを含む、複数のステップが必要である。そうした相互作用は、さらなる増殖のために高親和性抗体を発現する B細胞を選択し、免疫応答によって高親和性抗体が大量に産生されるのを確実にしている。Shulmanたちはマウスにおいて蛍光性生細胞イメージングを用いて、そうした相互作用の分子レベルでの詳細を決定した。彼らは、T細胞が、B細胞選択の際にB細胞と短時間の移動性の接触をしていることを発見した。その接触により、T細胞はカルシウムを流動させ、サイトカインと呼ばれるタンパク質を産生し、それによって、おそらくB細胞の増殖と、高親和性抗体の産生を促進している。(KF,KU,nk)
Dynamic signaling by T follicular helper cells during germinal center B cell selection (Science, this issue p. 1058)

亜硝酸塩の代わりに水素を酸化する(Oxidizing hydrogen in place of nitrite)

微生物は,地球の窒素循環の重要な推進者である。ある相から別の相へと窒素が転換する反応の媒介を担う多くの微生物は,生態学の専門家と考えられる。Kochたちは,ゲノム的および実験的解析の組合せを用いて,地球上に広く分布している亜硝酸塩酸化性細菌属の種の1つである Nitrospira moscoviensisが,酸素の存在下ではその増殖を担うため,亜硝酸塩の代わりに水素を酸化する能力のあることを示している。この生態学的な柔軟性は,この生物体が自然環境に広く分布していることを示唆するばかりでなく,人間が改変した環境に対しても同様に重要となるかもしれない。(MY)
Growth of nitrite-oxidizing bacteria by aerobic hydrogen oxidation (Science, this issue p. 1052)

中部と東部の間を移動したエルニーニョ(El Nino shifted between the center and the East)

エルニーニョは、過去10,000年に渡ってかなり変化してきた。ある時期には今より変化が小さく、他の時期には現在の場所から中部太平洋に向かって移動していた。Carreたちはペルーにおける軟体動物の殻を分析し、完新世時代にわたる東太平洋でのエルニーニョ南方振動(ENSO)の履歴を作成した。彼らはこの履歴と太平洋の残りの部分での他の履歴を比較し、エルニーニョの強さと頻度がどの程度変化したのか、そしてその位置がどのように変化したのかを明らかにした。(Sk)
Holocene history of ENSO variance and asymmetry in the eastern tropical Pacific (Science, this issue p. 1045)
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